飛行服

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アメリカ空軍のフライトスーツ(サンダーバーズの隊員)
航空会社の制服を着たボーイング757のパイロット(ATA航空、2008年)
フライトスーツを着た曲技飛行士(ナイジェル・ラム

飛行服(ひこうふく。英:Fligh Ssuit)とは、航空機の搭乗員が着用する衣服。保温性、実用性、耐久性、耐火性が重視されている。フライトスーツや航空服(こうくうふく)とも呼ばれる。

パイロットだけでなく、フライトエンジニアなどパイロット以外の搭乗員も着用する。

歴史[編集]

主に軍、沿岸警備隊、警察、消防などに所属するパイロットや航空士が飛行機に搭乗する際に着用する。航空会社ではパイロット用の制服(ジャケット、ワイシャツ、スラックス)を規定しているため旅客機のパイロットは着用しないが、曲技飛行士やメーカー所属のテストパイロットは飛行服を着用することが多い。

色に関しては多くの軍で陸海空問わず濃い緑の単色を採用し、迷彩を施していない。救難機の搭乗員や民間人は墜落時に発見されやすいよう、オレンジや黄色など派手な色の飛行服を着用する。

パラシュートの併用を前提にしており、紐を纏めるベルトやカラビナ用のリングが付いている。近年では耐Gスーツと一体化したものもある。

旧日本軍[編集]

第一種航空衣袴・第二種航空頭巾・航空眼鏡(新型)を着用した陸軍の戦闘機操縦者たる空中勤務者(篠原弘道)。襟を跳ね上げている

日本軍においては制式名称として航空衣袴(こうくういこ)・航空被服(こうくうひふく)などの名称が使用されたが、飛行服・航空服も通称・俗称として多用されている。

第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての列強の空軍陸軍航空部隊海軍航空部隊では、牛革馬革羊革といった動物皮革製の飛行服が主流だったが、日本では衣服に使える革はほぼ輸入に頼らなければならなかった。このため、日本では陸海軍(陸軍航空部隊海軍航空部隊)とも航空部隊草創期には革製の飛行服が制定されたものの、大正期から昭和初期にかけてこれは廃止され、布製の飛行服を夏冬とも使用した)。

また、これら飛行服の属品として、頭部を保護する革製の航空頭巾・航空帽(通称は共に飛行帽)がある。この飛行帽と対をなす存在である航空眼鏡(飛行眼鏡)は、1937年に陸軍の後藤予備陸軍大佐が考案・採用された物であり、これは数少ない陸海軍共通の装備品であった。なお、本品の採用前は戦車眼鏡(戦車兵用の防塵眼鏡)・民間品・輸入品が混用されていた。

この他、専用の航空手袋・航空靴(ブーツ)がセットで「飛行服」を形成している。陸軍の手袋は冬夏用共に形状・丈は民間紳士用と変わらない一般的な物で、手首の甲側には調整用のベルトが付く。夏用の第二種は茶色の表革製で、冬用の第一種は裏地に毛皮が付される茶色の裏革製。海軍の手袋は夏冬用共に丈が長く(陸軍の運転用手袋(戦車兵・自動二輪運転手用)に擬似)、夏用も裏革を主用し色は黒。陸軍の靴は長靴型であり丈は脛の3分の2程度と長く、冬用の第一種は裏地に毛皮が付される以外は夏用の第二種とほぼ同等、共に茶色の表革製。第二次大戦末期には皮革節約のため、丈を十数cm程短くした半長靴型も普及した。海軍の靴は半長靴型であり丈は脛の3分の1程度と短く、共に黒色の表革製。大戦末期には皮革節約のため丈をさらに短くしたものも普及した。陸海軍共に靴底は機体保護のためゴム張りであり、特に陸軍の航空靴は実用性の高い吸盤を配していた。

なお、海軍のみの特徴として官姓名を記入する記名布の存在があり、この長方形の記名布は航空衣袴・航空帽・航空手袋・航空靴等全ての被服類の極めて目立つ場所(航空衣袴の胸部等)に縫合されていた。

陸軍[編集]

  • 大正三年制航空衣袴[1]将校准士官正衣に似たダブルボタンの黒羊革製ハーフコートとズボン。フランス式。昭和初期しばらくまで使用された。
  • 第一種航空衣袴 - 昭和初期採用の冬用。ポケットの変更や電熱線入り等小改良を繰り返しながら第二次大戦終戦まで使用。つなぎ型で、襟部・裏地には兎毛皮を多用したウール製。前身頃・裾・袖にファスナーを多用、腰部にベルトを付した。前身頃はシングル。
    • 第一種航空頭巾 - 航空頭巾(飛行帽)は茶革製で、額部分には帽章として星章(五芒星)、耳宛部分には古くは伝声管、新しくは無線電話無線通信用のレシーバーを嵌め込み可能な孔空きの円形硬革が付く(同乗者用を除く)。顎と後頭部の調整ベルトは微調整が可能なリング型バックルを使用。裏地全体には防寒用として毛皮が付される。小改良を繰り返しながら第二次大戦終戦まで使用。
  • 第二種航空衣袴 - 昭和初期採用の夏用。ポケット形状の変更等小改良を繰り返しながら第二次大戦終戦まで使用。ジャケットとズボンに分かれた上下分離型で、ギャバジンウール製。ジャケットの袖・ポケットおよび、裾部分にファスナーを使用。前身頃はシングルで隠し釦を使用、腰部にはバックル付属のベルト付。
    • 第二種航空頭巾 - 裏地に毛皮が付かない以外は第一種とほぼ同等仕様。小改良を繰り返しながら第二次大戦終戦まで使用。
  • 防暑航空衣袴 - 太平洋戦争開戦後採用の酷暑地域用。小改良を繰り返しながら第二次大戦終戦まで使用。第二種と異なり薄手の綿製でファスナーでなく釦を多用、軽量化を図るとともに通気性を向上させた。航空頭巾は第二種を使用。

海軍[編集]

  • 大正五年式航空被服 - 黒羊革製ハーフコートとズボン。フランス式。
  • 大正十四年式航空被服 - カーキ色の綾織木綿つなぎ型。イギリス式。
  • 昭和四年式航空被服 - 表に防水布地を使用、前身頃はセミダブルでファスナーと釦を使用したつなぎ型でベルト付。以後の基本形となった。
  • 昭和九年式航空衣袴 - 昭和4年式を軽量化。
  • 昭和十七年式航空衣袴 - 基本的には昭和9年式と同じ。冬用の袖はファスナー、夏用は釦を使用。
  • 昭和十九年式航空衣袴 - 上下分離型の夏用のみ。つなぎ型の冬用や陸軍の夏用二種と異なり、ファスナーを使用せずシングルの前身頃・袖・裾は釦のみ。

アメリカ軍[編集]

耐Gスーツを着たアメリカ空軍のF-15パイロット(エルメンドルフ空軍基地第3航空団所属)

自衛隊[編集]

アメリカ空軍(左から1番目と3番目)と航空自衛隊(左から2番目と4番目)の比較

航空自衛隊と海上自衛隊では特殊服装として、航空帽、航空マフラ一、航空服、航空服上衣、航空手袋、航空靴、航空眼鏡、略章など航空機に搭乗する際に着用する被服類が規定されており、これらを纏めて『航空服装』と呼称している[2]

航空自衛隊では通常の航空服の他、ブルーインパルスの操縦士と整備小隊には『展示服』と呼ばれる専用デザインの制服が規定されている。

海上自衛隊では通常の航空服の他、寒冷海域での墜落に備え、耐寒耐水服や耐水手袋などが規定され[3]ている。固定翼哨戒機にはこれらをセットにした『航空保護服装』が搭載されており、緊急時には機上武器整備員が準備する(個人装備ではなく航空機の装備扱い)。

陸上自衛隊では『戦闘服装航空用』が規定されており、操縦士だけでなく誘導や整備に関わる者も着用する。

自衛隊の航空服の形状はアメリカ軍のフライトスーツと類似しているが、色はより濃い緑色である。

詳細は制服 (自衛隊)を参照。

脚注[編集]

  1. ^ 大正三年八月二十八日陸達第二十六号『航空勤務用被服制式』
  2. ^ 海上自衛隊の航空服装 - Welfare Magazine ウェルフェアマガジン
  3. ^ 海上自衛隊 第23航空隊 公式ウェブサイト

参考文献[編集]

  • C. G. スウィーティング『アメリカ陸軍航空隊衣料史』(邦訳、グリーンアロー出版社、1991年)
  • 『日本海軍航空隊 軍装と装備』(『モデルアート』2004年4月号臨時増刊)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]