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顕示選好

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

顕示選好(けんじせんこう、: Revealed preference)は、経済学において個人の選択を分析する際に、消費者の選好がその購買行動によって「顕示」されると仮定する考え方[1][2]ポール・サミュエルソンが1938年に提案した選好に関する考え方[1][2]

顕示選好理論は、それ以前の消費者需要理論が限界代替率(MRS)の逓減に基づいていたことから生じた。この逓減するMRSは、消費者が効用を最大化するように消費選択を行うという仮定に依存していた。効用最大化自体は一般的に受け入れられていたものの、その背景にある効用関数は確実に測定することができなかった。顕示選好理論は、行動を観察することで効用関数を定義し、需要理論を整合的に説明する手段であった。

したがって、顕示選好とは利用可能な選択肢間の選好を推論する方法であり、例えば表明選好によって選好や効用を直接測定しようとする試みとは対照的である。

定義と理論

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もしバンドル a が予算集合Bにおいてバンドル b よりも顕示選好されているなら、WARPはB'においてバンドル ba より顕示選好されることはないと述べる。これは、b が青い線上またはその下にどこに位置していても同様に成り立つ。バンドル c はB'において選択されても、Bにおいて観察されたaの選択時に利用可能な青線の下に存在しないため、WARPに違反しない。

2つの財バンドル ab予算集合 に存在するとしよう。もし観察された選択において ab より選ばれたなら、a は(直接的に)b よりも「顕示選好されている」とみなされる。

二次元の例

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予算集合 が2財 に対して定義され、価格 と所得 によって決まるとする。このとき、バンドル a、バンドル b とする。この状況は算術的には という不等式で表され、図示すると予算制約線となる。選好が強い単調性を満たすと仮定すると、考慮すべきは予算線上のバンドル、すなわち および を満たす点である。このとき、 より選択されたなら、 よりも顕示選好されていると結論づけられる。これは二項関係 、または同等に と表せる[3]

顕示選好の弱公理 (WARP)

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顕示選好の弱公理(Weak Axiom of Revealed Preference, WARP)は、消費者の選好が一貫していることを保証するために満たされるべき基準の一つである。もしバンドル a が他のバンドル b と同時に選択可能なときに a が選ばれたなら、消費者は ab より好むことを示している。WARPは、選好が変わらない限り、消費者が ba より好むような状況(予算集合)は存在しないと述べる。すなわち、ab より選ばれたときには、価格が変動しても両者が同時に選択可能であれば、消費者は二度と ba より選ぶことはない。形式的には次のように表される。

ここで は任意のバンドル、 は選好関係 の下で予算集合 において選ばれるバンドルの集合を表す。

言い換えれば、もしバンドル a が予算集合 においてバンドル b より選ばれたが、別の予算集合 では b が選ばれたとすれば、そのとき において選択可能ではなかったことを意味する。

完全性:顕示選好の強公理(SARP)

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顕示選好の強公理(Strong Axiom of Revealed Preferences, SARP)はWARPと同値であるが、選択AとBが直接的または間接的に同時に互いに顕示選好されることを禁止する点で異なる。ここで、もしAがCに直接的に顕示選好され、かつCがBに直接的に顕示選好される場合、AはBに「間接的に」顕示選好されるとみなされる。数学的に言えば、これは推移律が保持されることを意味する。推移律は、異なる予算制約に基づく2つの消費バンドルを比較することで追加的な情報を得られるため有用である。

経済モデルにおいて、このような「ループ」が生じないようにすることが望ましい。例えば、効用関数を用いて選択をモデル化する場合(効用関数は実数値を持ち推移的であるため)、ループは避ける必要がある。これを防ぐ方法の一つは、価格や購入可能性の制約を考慮せず、選択肢全体に関して顕示選好関係に完全性を課すことである。この場合、{A,B,C} の選択肢を単独で評価するとき、どれが他のどれよりも好ましいか、または無差別であるかが直接的に明らかになる。そして弱公理(WARP)を用いれば、二つの選択肢が互いに同時に選好されることを防ぐため、「ループ」が形成されることは不可能になる。

もう一つの方法はSARPを課すことであり、これにより推移律が保証される。これは直接的な顕示選好の推移閉包を取り、それが反対称性を持つことを要求する。すなわち、AがBに顕示選好される(直接または間接的に)ならば、BはAに(直接または間接的に)顕示選好されないということである。

これらは問題を解決する二つの異なるアプローチである。完全性は選択関数の入力(定義域)に関係し、強公理は出力に条件を課す。

一般化顕示選好公理(GARP)

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このデータセットは予算制約を示しており、消費バンドル ab の両方が効用最大化を達成する。この場合SARPには違反するが、GARPは満たされる。

一般化顕示選好公理(Generalised Axiom of Revealed Preference, GARP)はSARPの一般化であり、消費者の選好が変化しないことを保証するための最終的な基準である。

この公理は、価格水準が一定の下で二つ以上の消費バンドルが同じ効用水準を達成する場合を考慮する。すなわち、効用最大化が複数の消費バンドルによって達成される状況を許容する[4]

データ集合は、 が成り立つなら は成り立たないときにGARPを満たす[5]。これは、もし消費バンドル に顕示選好されるなら、価格が一定の下で を取得するための支出が を取得するための支出を上回ることはないことを意味する[6]

また、GARPを満たすためには選好の循環が存在してはならない。したがって、{A,B,C} を考えるとき、顕示選好関係は非循環順序対でなければならない。すなわち、 かつ ならば、 かつ でなければならない[4]

GARPはSARPと密接に関連しているため、SARPの各条件はGARPを含意するが、その逆は成り立たない。これは、GARPが多値需要関数に適合する一方、SARPは単一値需要関数にしか適合しないためである。そのため、GARPは無差別曲線に平坦部分を許容する[5]

アフリアトの定理

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経済学者シドニー・アフリアトが1967年に提唱したアフリアトの定理は、有限の観察データ集合が効用関数によって説明可能であることを示すことでGARPを拡張する[7]。具体的には、価格ベクトル pi と数量ベクトル xii = 1, 2, ..., n)がGARPを満たすのは、連続的で増加的かつな効用関数 u(x) が存在し、各 xi が予算制約 pi · xpi · xi の下で u(x) を最大化するとき、かつそのときに限る[8]

この定理は実用的な検証手段を与える。すなわち、もしGARPが成り立つなら、効用水準 ui と正の重み λi が存在し、すべての i, j に対して uiujλj (pj · (xixj)) を満たす[7]。これらの「アフリアトの不等式」により、データから直接効用関数を構築できる。これは、無限のデータ集合に対してのみ効用関数の存在を示したSARPなどの公理とは異なる[9]。例えば、二つのバンドルが同じ予算で効用を最大化する場合(GARPの図のように)、SARPが成り立たなくてもアフリアトの定理により効用関数の存在が保証される[8]。この結果は計量経済学で合理性を検証し、経験データから選好を構築する際に広く利用されている[10]

批判

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複数の経済学者が、顕示選好理論をさまざまな理由で批判している。スタンリー・ウォンは、顕示選好理論は失敗した研究プログラムであると主張した[11]。1938年にサミュエルソンは顕示選好理論を効用理論の代替として提示したが[1]、1950年には、両者が同等であることを示したことを、自らの立場の反証ではなく正当化とみなした[2]

もしリンゴとオレンジしか存在せず、オレンジが選ばれた場合、その人がオレンジをリンゴよりも顕示選好したと言える。しかし現実の世界では、消費者がオレンジを購入したからといって、どの財や行動選択肢を放棄してオレンジを購入したのかを特定することはできない。この意味で、選好は順序効用の意味では全く「顕示」されていない[12]

顕示選好理論は、選好尺度が時間を通じて一定であることを前提としている。しかしこれが成り立たない場合、ある時点での行動がその時点の選好の一部を明らかにするにすぎず、別の時点でも同じ尺度が維持されると仮定する根拠はない。「顕示選好」理論家は、一貫性(「合理性」)に加えて尺度の不変性を仮定する。一貫性とは、ある人が推移的な順序(AがBより好まれ、BがCより好まれるなら、AはCより好まれる)を維持することである。しかし顕示選好手続きは、この推移性の仮定に依存するというよりは、むしろ尺度が時間を通じて不変であるという仮定に依拠している。価値尺度が時間とともに変化することには何ら不合理な点はないため、不変性の仮定に基づいて有効な理論を構築することはできないと批判される[13]

「顕示選好」に依拠せずに選好を独立に定義・測定できないことは、この概念をトートロジー的誤謬とみなす論者もいる。代表的なのがアマルティア・センによる一連の批判である。たとえば “Behaviour and the concept of preference”(1973年)、 “Rational Fools: A Critique of the Behavioural Foundations of Economic Theory”(1977年)、 “Internal Consistency of Choice”(1993年)、 “Maximization and the Act of Choice”(1997年)、そして著書『Rationality and Freedom』(2002年)などである。

関連項目

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出典

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  1. ^ a b c Samuelson, Paul A. (February 1938). “A note on the pure theory of consumers' behaviour”. Economica. New Series 5 (17): 61–71. doi:10.2307/2548836. JSTOR 2548836. 
  2. ^ a b c Samuelson, Paul A. (November 1948). “Consumption theory in terms of revealed preference”. Economica. New Series 15 (60): 243–253. doi:10.2307/2549561. JSTOR 2549561. 
  3. ^ Varian, Hal R. (2006). Intermediate microeconomics: a modern approach (7th ed.). New Delhi: Affiliated East-West Press. ISBN 978-81-7671-058-9 
  4. ^ a b Chambers, Echenique, Christopher, Federico (2016). Revealed Preference theory. San Diego: Cambridge University press. pp. 30–40. ISBN 9781316104293 
  5. ^ a b Varian, Hal R (1982). “The Nonparametric Approach to Demand Analysis”. Econometrica 50 (4): 945–973. doi:10.2307/1912771. JSTOR 1912771. 
  6. ^ Goodwin, John Ashley (2010). Consumer preference change and the generalized axiom of revealed preference (Thesis). University of Arkansas, Fayetteville. pp. 4–8.
  7. ^ a b Afriat, Sydney (February 1967). “The Construction of Utility Functions from Expenditure Data”. International Economic Review 8 (1): 67–77. doi:10.2307/2525382. JSTOR 2525382. 
  8. ^ a b Varian, Hal R (1982). “The Nonparametric Approach to Demand Analysis”. Econometrica 50 (4): 945–973. doi:10.2307/1912771. JSTOR 1912771. 
  9. ^ Chambers, Christopher; Echenique, Federico (2016). Revealed Preference Theory. San Diego: Cambridge University Press. pp. 30–40. ISBN 9781316104293 
  10. ^ Diewert, W. Erwin (2012). “Afriat’s Theorem and Some Extensions to Choice under Uncertainty”. The Economic Journal 122 (560): 305–331. doi:10.1111/j.1468-0297.2012.02504.x. 
  11. ^ Wong, Stanley (1978). Foundations of Paul Samuelson's Revealed Preference Theory: A Study by the Method of Rational Reconstruction. Routledge. ISBN 978-0-7100-8643-3. https://archive.org/details/foundationsofpau0000wong 
  12. ^ Koszegi, Botond; Rabin, Matthew (2007). “Mistakes in Choice-Based Welfare Analysis”. American Economic Review 97 (2): 477–481. doi:10.1257/aer.97.2.477. JSTOR 30034498. 
  13. ^ Toward a Reconstruction of Utility and Welfare Economics, article by Murray N. Rothbard, 2006. Citing Mises at Human Action.

文献

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外部リンク

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