革砥

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剃刀と革砥
最初に革砥とペーストによる剃刀の研磨方法を考案したジョージ・パックウッド

革砥(かわと、: strop)とは、剃刀ナイフなどの刃物の研磨やその仕上げに使われる、表面を滑らかにした細長い帯状の革あるいは革を細長い長方形の板に貼り付けたものである。なお、英語での"strop"は革を使ったものに限定されず、布砥やペーストを塗って刃物の研磨に使うバルサ材なども包括している。[1]

歴史[編集]

元々イギリスにおいて剃刀を研磨する道具として、ジョージ・パックウッド(George Packwood)が1794年に研磨用のペーストと一緒に発表したものが広く使われるようになったものとしては最初である [2][注 1]大英博物館に残されているパックウッドの肖像画[3]を見る限りでは、それは皮革をおそらく板状のものに張り付けたもので、研磨用のぺーストも確認できる[注 2]。いわゆるストレートレザー(西洋剃刀)が最初に大量に生産されたのは、18世紀の英国のシェフィールド(Sheffield)社によってであるが[4]、パックウッドの革砥とペーストの発明がその普及を促進した可能性が高い[注 3][注 4]

種類と用途、材料[編集]

木材に貼り付けた革砥(牛革)と研磨用のペースト類の例
様々な種類の材料による金具固定型革砥の例、上からコードバン、ブライドルレザー、ラティーゴ、赤カンガルー革、牛革、水牛革、人工皮革(2種)

現在使用されている革砥は、パックウッドが考案したような木材等に革を張り付けたものと、革だけを使い一方の端に固定用の金具を付けて、どこかに引っ掛けて引っ張ってテンションをかけながら使用するもの[注 5]の2種類のものが主である。現在では革砥は剃刀用の使用よりもむしろナイフの研磨に使用する例が多く見受けられる[注 6]。日本の理髪店では1970年代まではストレートレザーが使われていたため、革砥も多く使われていたが、現在では大半の理髪店が研ぎの手間を減らすのと衛生上の問題[注 7]から替刃式で使い捨ての剃刀(shavette)に移行しているため、革砥の使用はほとんど見られなくなっている。)現在販売されている革砥の革については、高級品としてはコードバン(農耕馬の尻の革)、ブライドルレザー(馬具に使われる牛革)、普及品についてはその他の牛革等が使われている[注 8][注 9]

効果[編集]

モース硬度計で硬度1の滑石で表面に傷が付いたコードバン製の革砥。

革砥を使った刃物の研磨には、パックウッドが最初に考案したように、研磨剤を革砥の上に付けて研磨するラッピング(lapping、ラップ仕上げ[9])と、革砥だけを使用するストロッピング(stropping)の2つの方法がある。前者の場合、様々な研磨力を持つ研磨剤[注 10]が市販されており、仕上げ砥石で研ぐ場合と同様の研磨を行うことが可能である。後者の場合、革の硬度は旧モース硬度で1の滑石よりも低く、旧モース硬度で5から7程度の刃物の本体を削って薄くする効果はまったく期待出来ない[注 11]。その場合の効果としては、

  1. 剃刀他の刃物を砥石で研磨した際に残留する微細なカエリやバリを除去し髭剃り等の際の安全性を高める。
  2. 剃刀等の側面に出来たささくれ状の剥がれ等を滑らかにする。
  3. 剃刀等の側面に付着した上皮や皮脂、または微細な刃こぼれによる金属粉、その他の微小な異物などを除去する。

などが期待出来る[10]

なお、安全剃刀メーカーでも同様の目的でその生産工程で革砥を使用しており[11]、ユーザー用の安全剃刀用の革砥も市販されている[12]

また、革砥で研ぐ前と後の剃刀の刃の表面の変化を2万倍の電子顕微鏡で観察したサイト(英語)[13]があり、革砥の効果を確認することが出来る。

ベルト形の革砥については、革以外に、リネンや綿布製の布砥が一緒に付属する場合が多い。布砥では表面が革砥よりも粗く、革砥よりもバリやカエリを除去する効果が強いと考えられ、また刃物を革砥にかける前に刃先に残った水分等を除去する効果が期待出来る[注 12]

使用方法[編集]

1905年にアメリカで出版された作者不明のシェービングの教科書に出てくるストロッピングの説明の絵

革砥の使用方法としては、剃刀の例では、刃の側面を革砥に密着させ、刃の峰方向に押していく形で使用し、端まで達したら刃を反転させて反対側を磨く。(峰側ではなく刃側に押した場合は、剃刀と革砥の双方を痛めるのでやってはならない。)力を強く入れる必要はなく、また回数も研磨剤を使わない革砥だけの使用の場合は片道20回程度で十分効果(上記の1から3)が得られる。一部の市販の革砥では横幅が剃刀の刃渡りよりも短いものがあるが、その場合は刃を斜めに動かすことによって刃渡り全体を磨くようにする。なお、ミクロトーム用の剃刀など、精密な研ぎが必要な場合は、ベルト式の革砥では平面性を確保するのが困難であるので、木に革を貼ったタイプを用いる[15]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ OEDの用例では更に古い1704年の"Post Man"という新聞で"Strops for setting Razors, Pen-knives, &c. upon."というのが挙げられているので、厳密に言えばパックウッド以前にも既にstropと呼ばれる剃刀の研磨用の道具は存在している。https://www.oed.com/ Oxford English Dictionary (on-line版)]の"strop"の項の用例参照。
  2. ^ James Maidment, The Court of Session Garland, Thomas G. Stevenson (1839)のP.85に”The Barber's Song. Packwood's paste, Sir, and Strop,"とあることからペーストが一緒に売られていたことは明らか。また同書のP.88に"Who can trust his mucilage, Trust his leather never crack would,"とあることから、革を使用していることも明らか。
  3. ^ パックウッドは自分の発明した革砥とペーストを新聞などで盛んに広告し、コマーシャルソングまで作っている。イギリスにおいて最初に日用品の広告を行った人として知られている[5]。またSheffield社のストレートレザーがPackwoodブランドで販売されたものが、現在でも残っており{eBay等のオークションサイトで出品されている。例えば、”Rare Packwood Sheffield Straight Razor Unique Ornate Scales Hamon Antique Blade" https://www.ebay.ie/itm/Rare-Packwood-Sheffield-Straight-Razor-Unique-Ornate-Scales-Hamon-Antique-Blade-/161837351882 2019年8月20日閲覧。)、両者がストレートレザーの普及において協力関係にあったことは明らかである。
  4. ^ 欧米では日本のように刃物全般を砥石を使って研ぐということは21世紀の現在でも一般的ではない。[6]
  5. ^ このタイプの革砥はズボン用ベルトによく似ており、原型は革のベルトが木材に革を貼った革砥の代用品として使われた所から広まった可能性がある[要出典]。尚、1911年のUSパテント986,398にこの形の革砥が登場しているが、これが最初のものかどうかは不明[7]
  6. ^ いわゆるブッシュクラフトにおいて、ナイフが必須の道具として扱われているためと思われる[8]
  7. ^ 特に、エイズ(AIDS・後天性免疫不全症候群)が血液を通じて感染するということで、剃刀の使い回しが問題視されるようになった。現行の理容師法の施行規則では、血液が付着する可能性が高いかみそりについては、次の3つの方法のどれかで消毒を行わなければならないよう定められている。 イ 沸騰後二分間以上煮沸する方法 ロ エタノール水溶液(エタノールが七十六・九パーセント以上八十一・四パーセント以下である水溶液をいう。次号ニにおいて同じ。)中に十分間以上浸す方法 ハ 次亜塩素酸ナトリウムが〇・一パーセント以上である水溶液中に十分間以上浸す方法
  8. ^ 個人サイト(The Straight Razor Strop Guide - Sharpologist[信頼性要検証])によれば、革砥の材料として、主要なものとして(1)牛革(2)人工皮革(3)水牛革(4)カンガルー革(5)コードバン(6)ラティーゴ(牛革をタンニンなめしし、オイルやグリースを加えたオイルレザー)(7)ブライドルレザー が挙げられ、副次的なものとして(1)リネン(2)綿布(3)帆布(4)フェルト(5)ナイロン(6)その他 が挙げられている。この他、革砥の代用品としては新聞紙も用いられる。また、Napoleon Le Blanc編の"Essay on Barber's Razors, Razor Hones, Razor Strops and Razor Honing .."(1893年出版)という理髪店用品の広告を集めた本では、かつては鮫皮の革砥も広く使われていたことが確認できる。鮫皮と呼ばれて市販されているものは実際はエイの革であり、主成分はエナメル質で旧モース硬度は7ぐらいあるため、刃物を研ぐことは十分可能と思われる[要出典]
  9. ^ 以上の文書で「現在」は特に注記しない限り2019年4月時点を指す。
  10. ^ ペースト状のもの、または固形のもの(青棒、白棒、赤棒という名称で、油脂材料に酸化クロム(III)アルミナ人造ダイヤモンドなどの研磨成分を練りこんで棒状に加工したもの)。
  11. ^ 人造砥石の砥粒に使われるカーボランダムアルミナの旧モース硬度は8で刃物より硬い。
  12. ^ メーカーによっては、コードバンの革砥、牛革の革砥、布砥をセットで提供している場合もある[14]

出典[編集]

  1. ^ Oxford English Dictionary (on-line版)の"strop"の項の説明による。
  2. ^ George Packwood: An Exclusive Look at the Razor Strop King”. Eighteenth-Century England. ミシガン大学 (2001年8月10日). 2019年8月13日閲覧。
  3. ^ Mr Geo. Packwood”. 大英博物館. 2019年8月13日閲覧。
  4. ^ en:Razor[出典無効]
  5. ^ The CCE Advertiser #1 in advertising news (ミシガン大学の学生による初期の英語での広告の研究ページ)http://umich.edu/~ece/student_projects/advertising/packwoodmiddle.htm 2019年8月20日閲覧。
  6. ^ 欧米の刃物と日本の刃物の根本的な違い”. 日本橋木屋 (2013年6月9日). 2019年8月13日閲覧。
  7. ^ https://patentimages.storage.googleapis.com/de/d7/ab/ce0eb210ca3b7d/US986398.pdf
  8. ^ 山秀ブログ(ナイフ店山秀のブログ)ブッシュクラフト ナイフ http://knife.yamahide.info/221 2019年8月21日閲覧。
  9. ^ ラップ仕上『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 - コトバンク. 2019年8月15日閲覧。
  10. ^ 以下に記載の貝印のサイトや電子顕微鏡での観察のサイトを参照。
  11. ^ 04 研磨 カミソリの製造工程”. KAI FACTORY. 貝印. 2019年8月13日閲覧。
  12. ^ [1]
  13. ^ What does stropping do?”. scienceofsharp (2014年8月13日). 2019年8月13日閲覧。[信頼性要検証]
  14. ^ 叶山革砥 So-netブログ”. 髭剃りの友 (2015年6月19日). 2019年8月13日閲覧。[信頼性要検証]
  15. ^ de:Streichriemen[出典無効]