ジェノサイド条約

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ジェノサイド条約
Genocide Convention
集団殺害罪の防止および処罰
に関する条約
Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide
署名1948年12月9日
署名場所フランスの旗 フランスパリ
Palais de Chaillot
発効1951年1月12日
署名国39
締約国152 (一覧)
寄託者国際連合事務総長
:en:Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide - Wikisource

集団殺害罪の防止および処罰に関する条約(しゅうだんさつがいざいのぼうしおよびしょばつにかんするじょうやく、フランス語: Convention pour la prévention et la répression du crime de génocide英語: Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide)は、集団殺害を国際法上の犯罪とし、防止と処罰を定めるための条約。「ジェノサイド」(「種族」(genos)と「殺害」(cide)の合成語)を定義し、前文および19カ条から構成される。通称は、ジェノサイド条約(ジェノサイドじょうやく、Genocide Convention)。

概要[編集]

ユダヤ系ポーランド人の法律家ラファエル・レムキンによって新しく造られた「ジェノサイド」は、レムキンの活動でもあって、ニュルンベルク裁判ナチス・ドイツが行ったユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)に対して公式に使用された。さらにレムキンは、これを法的な規制とすることを望み、新設された国際連合に国際的な条約とすることを積極的に働きかけた。

ジェノサイド条約では「国民的、人種的、民族的または宗教的集団」への破壊行為と定義されたが、初期草案には「社会・政治集団」の字句も盛り込まれていた[1]。しかし、ソビエト連邦をはじめ、アルゼンチンブラジルドミニカ共和国イラン南アフリカ共和国などは、国内の政治反乱を鎮圧すればジェノサイドとして弾劾される可能性を恐れ、これを削除させた[1]

その後、ジェノサイド再発防止のためのジェノサイド条約が、1948年12月9日第3回国際連合総会決議260A(III)にて全会一致で採択され、1951年1月12日に発効された。締約国は、152カ国(2023年4月現在)である。

日本の未批准[編集]

本条約に日本は、国内法の未整備(例えば条約では「集団殺害の扇動」も対象であるが、日本の国内法では扇動だけでは処罰できない点)の問題があり、未批准となっている[2][3]。なお、政府が国会答弁や質問書への回答で理由としているのは国内法の未整備であって、日本国憲法第9条の問題は理由としていない。

また、ジェノサイド条約第6条では、国際刑事裁判所や違反行為が実行された国だけでなく締約国の国内裁判所などにも処罰の権利や義務がある旨規定されており、海賊行為と同様に万民の敵(人類共通の敵とも)(hostis humani generis)の扱いである。そのためジェノサイド条約加入時をはじめとして、締約国同士で他国の現在、及び本条約以前の歴史上のジェノサイドを疑われる行為の指摘合戦をする禊(みそぎ)行為が発生する可能性や、そこに旧日本軍による中国の南京事件が影を落としている懸念も指摘されている[4]

この件については、2023年4月27日の参議院 外交防衛委員会において、榛葉賀津也議員から「この南京大虐殺を含めてやましいことあるんじゃないかといううがった見方が、批准しない理由として実際ささやかれているわけでございます。これ、批准しないことによってそういう根も葉もないことを言われるということはよろしくないと思いますが、それは全く関係ないんですね。」と質問があり。石月英雄政府参考人(外務省大臣官房審議官(総合外交政策局))は「御指摘の点については当たらないと」と否定している[5]

6条の留保[編集]

第6条は多数の国が留保しているため機能不全に陥っている。

条文抜粋[編集]

第一条

 締約国は、集団殺害が平時に行われるか戦時に行われるかを問わず、国際法上の犯罪であることを確認し、これを、防止し処罰することを約束する。

第二条

 この条約では、集団殺害とは、国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもつて行われた次の行為のいずれをも意味する。

(a) 集団構成員を殺すこと。

(b) 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。

(c) 全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。

(d) 集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。

(e) 集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。

第三条

 次の行為は、処罰する。

(a) 集団殺害

(b) 集団殺害を犯すための共同謀議

(c) 集団殺害を犯すことの直接且つ公然の教唆

(d) 集団殺害の未遂

(e) 集団殺害の共犯

第四条

 集団殺害又は第三条に列挙された他の行為のいずれかを犯す者は、憲法上の責任のある統治者であるか、公務員であるか又は私人であるかを問わず、処罰する。

第五条

 締約国は、各の憲法に従つて、この条約の規定を実施するために、特に集団殺害又は第三条に列挙された他の行為のいずれかの犯罪者に対する有効な処罰を規定するために、必要な立法を行うことを約束する。

第六条

 集団殺害又は第三条に列挙された他の行為のいずれかについて告発された者は、行為がなされた地域の属する国の権限のある裁判所により、又は国際刑事裁判所の管轄権を受理する締約国に関しては管轄権を有する国際刑事裁判所により審理される。

第七条

 集団殺害及び第三条に列挙された他の行為は、犯罪人引渡しについては政治的犯罪と認めない。

 締約国は、この場合、自国の実施中の法理及び条約に従つて、犯罪人引渡しを許すことを誓約する。

第八条

 締約国は、国際連合の権限のある機関が集団殺害又は第三条に列挙された他の行為のいずれかを防止し又は抑圧するために適当と認める国際連合憲章に基く措置を執るように、これらの機関に要求することができる。

第九条

 この条約の解釈、適用又は履行に関する締約国間の紛争は、集団殺害又は第三条に列挙された他の行為のいずれかに対する国の責任に関するものを含め、紛争当事国のいずれかの要求により国際司法裁判所に付託する。

締約国[編集]

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b ノーマン・Ⅿ・ネイマーク『スターリンのジェノサイド』根岸隆夫訳 みすず書房 2012年,p.10,25-27.
  2. ^ 大量虐殺(ジェノサイド)の語源学-あるいは「命名の政治学」 - ウェイバックマシン(2014年2月22日アーカイブ分)添谷育志、明治学院大学法学研究90号、2011年1月,25頁
  3. ^ 衆議院法務委員会. 第185回国会. 5 November 2013. 裁判所司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安人権擁護に関する件
  4. ^ ロシア軍の残虐行為に「ジェノサイド条約批准を」の声、日本未批准の背景に何がある?”. SAKISIRU(サキシル)| 先を知る、新しい大人のメディア (2022年4月4日). 2022年11月15日閲覧。
  5. ^ 参議院外交防衛委員会. 第211回国会. 27 April 2023.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]