限界効用
![]() |
限界効用(げんかいこうよう、英: marginal utility)とは、財(モノ、およびサービス)を1単位追加して消費することによる効用(財から得られる満足度)の増加分のこと[1]。ミクロ経済学の消費者理論で用いられる概念である。
「限界」の意味については限界 (経済学)を参照のこと。
数学的定義[編集]
を消費集合とし(は自然数)、を効用関数とする。財の限界効用とは、財の消費量についての効用関数の偏微分のことを言う。ある財について、その消費量を少し増やしたときの、消費量の増加に対する効用の増加の比を表している。
効用に関する標準的考え方である序数的効用の立場からは、限界効用自体には意味はない。
限界代替率との関係[編集]
財で測った財の限界代替率は、財の限界効用と財の限界効用の比と等しくなる。すなわち、 である。
序数的効用の立場からも、限界代替率は意味のある概念であり、限界効用自体は意味はないが、限界効用の比は意味を持つことになる。
効用最大化との関係[編集]
内点における効用最大化の条件は、1円当たりの限界効用がすべての財で等しいということである。すなわち、すべてのについて、が成り立つということである。ここで、、はそれぞれ、財、の価格である。
ゴッセンの法則[編集]
財の消費量が増えるにつれて、その財の限界効用が小さくなることを限界効用逓減の法則、または、ゴッセンの第1法則という。標準的な考え方である序数的効用の立場からは、この法則は意味を持たない。
消費者が効用を最大化するとき、1円当たりの限界効用がすべての財で等しくなるように選択することを限界効用均等の法則、または、ゴッセンの第2法則とも呼ばれる。序数的効用の立場からも意味を持つ法則である。#効用最大化との関係で述べた内容である。
歴史[編集]
限界効用理論には18世紀頃からの長い歴史があるが、限界効用理論の確立は1871年から1874年にかけてカール・メンガー、ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ、レオン・ワルラスの3名により、相次いで独立に出版された著作による。 限界効用(および限界生産力など)の概念は、「marginal 限界」という新しい手法によって経済学と数学(微分)とを結びつけるとともに、それまでの労働価値説に代わる価値の根源に対する新しい考え方を提示して、経済学を発展させることになった。これらの経済学史上の変革を限界革命と呼ぶ。
しかしながら、効用関数が実在するのか、特に効用の大きさが数値(あるいは金額)として測定できるのか、ということ(可測性の問題)は、当初から議論の対象であり、効用理論のアキレス腱であった。
それに対して、ジョン・ヒックスの「価値の理論」によって、需要の決定で意味をもつのは複数の財の組合せにおけるそれぞれの効用の数値ではなく、複数の財の組合せのあいだの効用の大小関係(選好)であることが周知のこととなった。いいかえれば、同じ無差別曲線が描ける別の効用関数は同一の選好をあらわす。したがって、財の組合せに対して、同一の選好をあらわす効用関数は複数ある。たとえば、効用関数に対して、単調増加関数によって変換された効用関数は変換前の効用関数と同じ選好を表わす。 この点でいえば、たとえ限界効用が逓減しなくても、原点に凸な無差別曲線が描ければ、消費者理論においては問題はない。このことは消費者理論において、限界効用逓減と効用の数値が、つまり、効用の可測性の問題が無意味であることとして受け取られた。
しかしながら、ヒックスの業績がひろまる一方で、フォン・ノイマンとオスカル・モルゲンシュテルンが期待効用仮説をとなえ、経済学にふたたび基数的議論を復活させた。世界の事象が不確実なものであるとき、人々はある種の効用の期待値を最大化するように行動することが公理として提案された。すなわち、確率変数(くじ)が選択肢であるとするとき、確率変数上で定義される選好関係を表現する効用関数は、ある種の関数が存在して、という形をとる。この関数は、確率変数の各実現値の効用を表わすある種の効用関数と見ることができる。この期待効用仮説に従うとき、人々の不確実性への態度はの曲率に依存する。期待効用仮説では選好に中立的な変換は、増加関数一般ではなく、線形の増加関数についてしか成り立たない。この場合、限界効用が逓減すると同一の選好は、同じく限界効用が逓減する関数でしか表せない。要するに、は基数的である。ただし、確率変数上の選好を表現する効用関数は序数的である。
出典[編集]
- ^ 奥野正寛 編著、『ミクロ経済学』、東京大学出版会、2008。