鉄道車両の検査

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鉄道車両の検査(てつどうしゃりょうのけんさ)

本項では、鉄道事業者が運行する鉄道車両の運行中の事故・故障等を未然に防ぐために実施する検査(点検・整備)について述べる。

国土交通省の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」第90条に定められている。 さしづめ、自動車でいう「車検」に相当するものといえる。

検査の種類[編集]

2005年現在の規定では、以下のようになっている。特に電車電気機関車では技術の進歩などにより、点検時期のサイクルは何度か延長されてきた。

重要部検査や全般検査が行われる際には、更新修繕などと呼ばれる車体と内装(アコモデーション)の大規模なリフレッシュや改良、座席の撤去(車椅子スペースの捻出)などの改装工事なども併せて行われることがあり、過去には冷房化改造が同時に行われた例もある。

経年の長い車両の場合、車体や機器の老朽化や補給部品の調達難に伴い、検査切れとなる時期に廃車されることがある。

仕業検査[編集]

事業者によっても異なるが、48時間以内に運転に必要不可欠な項目(パンタグラフ・走行装置・ブレーキ等)を外部から目視で確認する検査。省令では「列車検査」(列車については、その種類および運行状況に応じ、車両の主要部分の検査を行わなければならない)に相当するもの。

交番検査[編集]

列車検査と呼ばれる検査(東京地下鉄)

同じく事業者によっても異なるが、30日以内、3万キロ以内等の時に仕業検査より詳細に検査を行うもの。機械を取り外さず行う検査では一番大掛かりなものとなる。一般的に、外側から在姿確認を行った後、「室内検査」、「床下(部品)検査」、「車輪削り」を行う。消耗品(座席モケットや案内表示機のLEDなど)の交換、機能試験、機器性能測定を行ったあと、出場検査を行い出場する。蒸気機関車の場合は、ボイラの火を消して、火室内部に留まった水垢や、煙管に溜まった煤の掃除を実施する作業が行われる。

月検査[編集]

省令では3か月を超えない期間ごとに、状態および機能について定期検査を行わなければならないと規定される。一部機器のカバーを取り外して、外部から点検する。このレベルの検査までは、車両の日常の運用・管理を行う車両基地で行うことが多い。

東日本旅客鉄道(JR東日本)の場合、交番検査の周期を90日以内・3万キロ以内と、月検査と同義としているため、この検査名での検査は行われていない(後述)。

重要部検査[編集]

重要部検査の例、車体と台車を切り離してある。画像は、釧路運輸車両所で検査されている、旭川運転所所属のキハ40形の様子。
全般検査又は重要部検査中の台車、モーターとブレーキ装置と車輪が取り外されている。

運転に必要不可欠な主な部品(ブレーキ・モーターなど)を取り外し、細部まで調べる検査。略して「重検」、「要検」とも言われる。この際、内外の再塗装など、車両のリフレッシュ等も同時に行われることも多い。このレベルの検査になると車体と台車を切り離すため、通常の運用を離脱して、設備の整った整備工場(社によっては車両所、検車センターなどの呼称もある)へ回送されて点検・整備が行われることになる。

期間は、東京周辺の通勤電車E231E233系)の場合、およそ1~2週間程度を要する。(これら車両の検査は後述)特急型電車は走行kmが大きくなる傾向にあるので検査サイクルが短い。

検査サイクル[編集]

台車検査[編集]

新幹線車両における、重要部検査と同等のもの。前回の検査(全般検査もしくは台車検査)から12か月以内もしくは走行距離60万キロメートル以内に行わなければならない。通常は台車のみを交換し、およそ1日で運用に復帰することが多い。

全般検査[編集]

全般検査中の車両、仮台車を履きジャッキアップされている。

すべての機器を取り外し、詳細に調べる検査のこと。略して「全検」とも呼ばれる。定期検査としては最も大掛かりなもので、内外の再塗装など、車両のリフレッシュ等も同時に行う。期間は、東京周辺の通勤電車の場合でおよそ10日~2週間程度要する。蒸気機関車の場合、現在は半年近くの時間を要することがほとんどである[1]

検査サイクル[編集]

  • 8年……電車・電気機関車(ただし旧型の電気機関車は6年)・客車・気動車(ディーゼルカー)・ディーゼル機関車
  • 6年……モノレール・新交通システム
    • ただし、新製した車両に対する使用開始後最初の検査については使用を開始してから7年
  • 5年……貨車
  • 4年……蒸気機関車
  • 3年……トロリーバス
  • 36か月または120万km……新幹線
    • ただし、0系は90万km

検査のサイクルは、設計の古い車両や新幹線など高速運転を行う車両では短縮されることがある。逆に、イベント用など使用頻度の少ない(走行距離が極端に短い)車両の場合、一時的に休止扱いにして検査時期の期間を引き延ばすことも行われている。

東日本旅客鉄道の蒸気機関車C57形180号機は、1999年3月に動態復元された後、2006年11月の初の全般検査実施のための入場までの間は一度も全般検査を実施していない。これは、国鉄分割民営化の際、既に営業用の蒸気機関車が存在していないために蒸気機関車に対する検査サイクル規定が設けられておらず、このため電気機関車などと同じ8年周期扱いでの全般検査実施サイクルを行っているためである(蒸気機関車の復元・営業が開始されたのは民営化後のため、以降に車両登録が行われた蒸気機関車は民営化後の規定が適用される形となる)。ただし、蒸気機関車の状態や使用頻度によっては検査サイクルを適宣に早める場合があり、D51形498号機がこれに当たる。一方、西日本旅客鉄道C57形1号機及びC56形160号機は、民営化以前より車籍を有しかつ現在も営業運転中であることから、この2両のみ当時の規定通り4年に一度の周期で全般検査を実施している。

国鉄でも無煙化計画の末期に、廃車が進んで残り少なくなった状態の良い蒸気機関車で所要両数を確保し、かつ広域に転属配置するため、一時休車にして検査期間を伸ばす(継続検査を受けずに延命する)ことが行われていた。

臨時検査[編集]

新車や中古車を購入した場合、車両を改造した場合、故障や事故などによる損傷を修理した場合に、その都度必要に応じて検査するもの。

JR東日本の新保全体系[編集]

東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)では近年の車両の技術向上を反映した「メンテナンスフリー」を図れる車両が開発されたことで、新しい検査体系の構築について検討を進めてきており、国土交通省に対して新しい検査体系の運用について制定できるよう技術基準の改定について提案をしてきた[2]

これを受け、2002年(平成14年)3月に施行された「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」において、新しい技術の導入による耐磨耗性や耐久性に優れ、これが定められた機能以上に確保される車両の部位は、鉄道事業者自身が客観的に安全性を証明することができれば独自の検査体系を導入することが可能となった[2]。これを受け、JR東日本では2002年4月1日から209系以降の新系列電車を対象に新保全体系(しんほぜんたいけい)を導入した[2]

従来からの「要部検査・全般検査」といった検査体系は、車両や機器の性能が向上したにも関わらず、一定の検査周期を定めたものである[2]。そのため、信頼性・耐久性が向上した機器を採用して検査の省略や検査周期が延長可能な場合であっても、一定の期間ごとに決められた検査を実施することになり、言い方を変えれば過剰な検査を実施することにもなっていた[2][3]

これに対して新保全体系では、各機器ごとに耐摩耗性や耐久性を十分に検証した上で、各機器ごとに最適な検査周期で検査を行うものであり、安全性を確保した上での効率的な検査体系となっている[2][3]

下記に2002年4月時点におけるJR東日本の新保全体系実施開始時点の対象車両を記載する[2]

通勤形電車近郊形電車一般形電車
特急形電車

現在はその後に落成したE531系E233系なども新保全体系対象車両である[4]

導入にあたって[編集]

JR東日本では1993年(平成5年)初頭より、従来の車両の概念を大幅に変える「新系列車両」として209系の量産新製を開始した[3]。同系列はトータルライフサイクルコスト[5]の低減と車両の大幅な軽量化による省エネルギー化、さらには部品毎に寿命を考慮して最適なメンテナンスができる設計を採用した[2]

同系列の走行機器には三相誘導電動機を使用したVVVFインバータ制御、補助電源にはSIVの採用など電子機器を導入することで有接点機器と磨耗部品の減少を図り、台車には構造の簡素化や磨耗部品を減少させたボルスタレス台車を採用している[2]。特に車両の状態監視には多機能型モニタ装置を導入することでメンテナンス作業量の大幅な削減を可能としている[3]。これらの技術は、将来的に従来の検査体系を大幅に簡略化した「新保全体系」を導入することを考慮して設計したものである[3]

その後、実際に新保全体系を実施にあたっては、このような検査体系の実施に前例がないため、事前に209系2編成(走行距離約120万km・新製から約7.5年)に対して精密な分解検査を実施して経年による機器の状態や寿命の予測等の検証を行った[2]

検証の結果、各機器の適正な検査周期を割り出す事ができたが、各機器に必要な検査周期は下記の通りバラバラであり、各検査時に全ての検査をすることは手間がかかり無駄である[2]。そのため、検査を迎える各機器ごとにグループ化(検査の必要な機器だけ検査をする)することで検査効率を向上させる方式とした[2]

各機器の検査を必要とする寿命[2]
  • 車輪 120万km (120万km毎に検査を実施)
  • 車軸軸受 180万km(120万km毎に検査を実施)
  • 主電動機(軸受) 180万km以上(120万km毎に検査を実施)
  • VVVF制御装置 240万km(120万km毎に検査を実施)
  • 空制弁類 120万km以上(120万km毎に検査を実施)
  • 車体屋根 240万km(240万km毎に検査を実施)
  • 冷房装置 60万km以上(60万km毎に検査を実施)

60万kmの寿命の機器は指定保全で検査を、120万kmの寿命の機器は装置保全で、240万kmの寿命の機器は車体保全で検査を実施する[2]。これは従来の検査体系(要部検査・走行距離60万kmまたは4年以内、全般検査・走行距離240万km以内または8年以内)からの移行も考慮して走行距離60万km毎に各検査周期を定めたものである[6]

以降に述べる保全内容はJR東日本を基本として記載したものであり、同様の保全体系を実施している他社では一部異なる場合もある。なお、各保全は走行距離毎に検査を指定するが、下記に記載する年数はおおむねであり、走行距離が満たない場合にはこの周期以上の車両もある。このうち、機能保全は各車両センター(電車区)にて実施するが、指定保全より上の保全は各総合車両センターで実施する。

機能保全[編集]

従来の交番検査(90日以内に実施する、月検査とも称する)に相当するもので、検査内容の違いで90日以内に実施する「機能保全(月)」と360日以内に実施する「機能保全(年)」がある[6]

「機能保全(月)」の場合には車両のモニタ装置の自己診断機能を使用した機能確認が中心となり、「機能保全(年)」の場合には従来の交番検査とほぼ同じ検査となる(より上位の検査)[6]。ただし、台車やドア関係の機器など重要なものは各機能保全毎に実施をしている[6]

指定保全[編集]

走行距離60万km毎または2.5 - 4.5年程度毎に実施する保全で、パンタグラフ冷房装置など指定した装置の解体検査と在姿状態で機能確認検査を行う[6]。JR東日本の場合、入場から出場までは最短で5日程度となる。主な内容は

  • パンタグラフの取り替え
  • 冷房装置の取り替え
  • 主電動機の軸受に中間給油
  • 空気圧縮機のオイル交換
  • 安全弁、速発ピン取替えなど

※特急車両では外板塗装、またトイレ付き車両では汚物処理装置の分解検査を実施

装置保全[編集]

走行距離120万km毎または5 - 9年程度毎に実施する。指定保全の内容に加え、台車を含めた車両全体の解体検査を行う[6]。なお、従来は台車の解体検査について要部検査(走行距離60万km)毎に実施していたが、台車枠や車軸軸受などの走行装置類は120万km以上の機器寿命が確認されているため、車輪取り替え時期に合わせた装置保全時に実施する[6]。主な内容は

  • 台車枠の分解検査
  • 車輪取り替え
  • 車軸の探傷検査
  • 主電動機の軸受グリース交換
  • 基礎ブレーキの磨耗部品取り替え
  • 一部電子機器の部品交換
  • 空気圧縮機の空制弁類の分解検査

車体保全[編集]

走行距離240万km毎または10 - 18年程度毎に実施する。指定保全・装置保全の内容に加え、機器寿命を迎える電子機器の取り替えや車体全体の大規模修繕などを施工して、車両としての機能を回復させる検査である[6]。主な内容は

  • 車体アコモ修繕
  • 車軸軸受の交換
  • 駆動装置軸受、CFRPたわみ板交換
  • 主電動機軸受の交換、絶縁更新
  • 電子機器の分解検査
  • VVVF、SIV等の電子基板の交換
  • 屋根の塗り直し

上述した車体保全の内容は2002年4月の新保全体系開始時に考慮されたものであり、実際に施工する時期を迎えた車両(209系転用改造やE217系など)への施工にあたっては変更が生じている[3]

これは前述した機器内の電子基板単位の細かな更新ではなく、機器更新工事と称するVVVFインバータ装置やSIV装置などの主要機器一式を取り換える工事に変化しており、この方が効率がよいことやコストを抑えられるためである[3]

今後の新保全体系[編集]

今後、JR東日本ではE233系をはじめとした新系列車両が増加したことや電子機器の寿命期間を従来よりも正確に判別できるようになったこと、また運用路線によっては車体保全の実施時期に10年程度で迎えてしまう車両が出てきてしまうことを受け、保全周期の見直しを計画している[7]

現行における装置保全は走行距離120万km毎に実施しているが、検証の結果、走行距離160万kmまで保全周期を延長することが可能と判明している。また、元々車体保全は13 - 15年程度経年した車両に対して実施することを想定したものであり、10年程度での実施は早すぎてしまう。今後の保全周期のモデルは

  • 走行距離80万kmで指定保全を実施
  • 走行距離160万kmで装置保全を実施
  • 走行距離240万kmで指定保全を実施
  • 走行距離320万kmで装置保全および15年を超えない期間に車体保全を実施

上記の保全体系の最適化を目指した周期は、一般形車両でE231系以降、特急形車両ではE653系以降の車両を対象に実施する計画であり、2011年現在JR東日本では実施に向けて検証・準備を進めている[7]

新保全体系についての参考文献等[編集]

  • 「車両メンテナンス」 (PDF) (財団法人 鉄道総合技術研究所 車両構造技術研究部 部長 石塚 弘道)
  • 山海堂刊行「詳解 鉄道用語辞典」(高橋政士 著)
  • 日本鉄道車両機械技術協会「ROLLINGSTOCK&MACHINERY」2002年10月号「JR東日本の新しい車両保全体系(新保全体系)の概要」(JR東日本 運輸車両部 車両課 一木 剛 著)
  • レールアンドテック出版「鉄道車両と技術」No.132「JR東日本 車両保全・検修における現状と課題」(星 靖夫 東日本旅客鉄道株式会社 運輸車両部 車両保全計画グループ)
  • 日本鉄道技術協会「JREA」2011年10月号「JR東日本の車両保全体系の更なる最適化の取り組み」

脚注[編集]

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  1. ^ 台枠やボイラの本格的な整備・修繕が必要な場合は半年程見積もられる他、修繕に多大な時間を要する場合はそれ以上が見込まれる
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n 日本鉄道車両機械技術協会「ROLLINGSTOCK&MACHINERY」2002年10月号メンテナンス「JR東日本の新しい車両保全体系(新保全体系)の概要」17-18頁記事。
  3. ^ a b c d e f g レールアンドテック出版「鉄道車両と技術」No.132「JR東日本 車両保全・検修における現状と課題」記事を参照。
  4. ^ イカロス出版「首都圏新系列車両PROFILE」記事。
  5. ^ 製造費用からメンテナンス費用、電力消費量、動力費など製造から廃車になるまでに車両に掛かる費用のこと。
  6. ^ a b c d e f g h 日本鉄道車両機械技術協会「ROLLINGSTOCK&MACHINERY」2002年10月号メンテナンス「JR東日本の新しい車両保全体系(新保全体系)の概要」19-20頁記事。
  7. ^ a b 日本鉄道技術協会「JREA」2011年10月号「JR東日本の車両保全体系の更なる最適化の取り組み」参照。

関連項目[編集]