量子テレポーテーション

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量子テレポーテーション(りょうしテレポーテーション、:Quantum teleportation)とは、古典的な情報伝達手段と量子もつれ (Quantum entanglement) の効果を利用して離れた場所に量子状態を転送することである。

テレポーテーションという名前であるものの、粒子が空間の別の場所に瞬間移動するわけではない。量子もつれの関係にある2つの粒子のうち一方の状態を観測すると瞬時にもう一方の状態が確定することからこのような名前がついた。このテレポーテーションによって状態量(量子)が瞬時に送られる。ただし、通信自体が超光速になるわけではない。量子テレポーテーションでは、「いつ転送されたか」が受信側には分からないため、別経路の従来の(光などの)通信が必要になるからである。

古典的な情報転送の経路を俗に古典チャンネルなどと言うことに対し、量子もつれによる転送をアインシュタイン=ポドルスキー=ローゼン (Einstein-Podolsky-Rosen; EPR) チャンネルと呼ぶ。EPR相関から来ている。古典チャンネルでは任意の量子状態を送ることはできず、量子状態を送るには系自体を送信するか、量子テレポーテーションを用いる必要がある。

原理[編集]

量子テレポーテーションはEPRペアという量子もつれの関係にある2つの粒子の間に起こる。例として最も簡単な光子偏光の場合(1量子ビットの転送)について説明する。ここで、 は光子0の垂直偏光状態、 は光子0の水平偏光状態を表すものとする。 を光子0の初期の偏光状態とすると、

となる。 α および β重ね合わせの係数である。あるEPRペアの光子1と光子2の量子もつれの関係は のように表される。この式は、光子1 の偏光の観測結果が垂直ならば 光子2 は観測の有無にかかわらず必ず水平偏光になっているということを意味する。

量子テレポーテーションの例としてAさんからBさんに1量子ビットを転送するとする。AさんはEPRペアの光子2つ(光子1、光子2)を生成し光子2をBさんに送る。次に、Aさんは光子1を送信したい量子状態とあわせて観測(ベル測定)する。その結果を古典的な情報転送によってBさんに知らせれば、Bさんは送信したい量子状態を再現することができるのである。

ベル測定とは、ベル基底への射影測定を指す。2準位系のベル基底は次の4つとなる。

,
,
,
.

以下では簡単のため、 と表記する。

初期の3つの光子の状態は次の状態ベクトルで表される。

ベル基底を使って01を表すと、

となるので、これらを代入すると次のようになる。

この状態の光子0,1に対しベル測定を行うと、測定結果によって光子2の状態は次の4つのいずれかになる。

測定結果に応じて、光子2に対し次にようなパウリ演算子をそれぞれ行う。

  • の場合は何も行わない。
  • の場合
  • の場合
  • の場合

すると、測定結果によらず最終的な光子2の状態は と転送したかった光子0の状態を復元できていることになる。

光子0はベル測定を行った結果、状態は消滅してしまったが、光子2に突如として現れたように見える。

このように、あたかも"突如として遠隔地にふっと湧いてでる"ように感じられるのが、量子"テレポーテーション"というネーミングの由来である。

実験[編集]

量子テレポーテーション技術の詳細な論文は、チャールズ・ベネットらによって1993年に発表された[1]

長い間、実験は困難であるとされてきたが、1997年アントン・ツァイリンガー率いるインスブルック大学(およびローマ大学)のグループのD. Bouwmeesterが初めて(離散変数の)量子テレポーテーション実験を成功させた[2]。しかしながら、彼らの実験はある条件を満たすときだけテレポーテーションが起こるものであった。このため、ベネットが示した本当の意味でのテレポーテーションには成功していないと批判する論文もあり、彼らもその欠点について認めている[3]。翌1998年、インスブルック大学と量子テレポーテーション実験で競争をしていたカリフォルニア工科大学H. Jeff Kimble率いるグループの古澤明は、無条件の量子テレポーテーション(連続変数の量子テレポーテーション)に成功した[4]

2004年には、古澤明らが3者間での量子テレポーテーション実験を成功させた。さらに2009年には9者間での量子テレポーテーション実験を成功させた。これらの実験の成功により、量子を用いた情報通信ネットワークを構成できることが実証された。

2013年8月、古澤明東大工学部教授を中心とするグループが、完全な量子テレポーテーションに成功したと発表した。波の性質の転送技術を改良し、従来の100倍となる61%の成功率であった[5]

脚注[編集]

  1. ^ Bennett et al. 1993.
  2. ^ Bouwmeester et al. 1997.
  3. ^ Braunstein & Kimble 1998.
  4. ^ Furusawa et al. 1998.
  5. ^ Takeda et al. 2013.

参考文献[編集]

関連項目[編集]