工業
工業(こうぎょう、英語: industry)は、原材料を加工して製品を造る(つくる)こと、および、製品を造ることにかかわる諸事項のことである。工業の語には、製品を造る働き、製品を造る事業などについても含まれる。工業は、第二次産業のうち(鉱業を除く)建設業および製造業の大部分に該当し、加工組立業といったりもする。
世界の工業と日本の工業[編集]
日本の工業技術はアメリカやドイツともならび、世界でも有数の高度な工業技術を持った工業国である。しかし、近年では大韓民国や中華人民共和国、東南アジア諸国でも工業化が進んでいる。中国など、これら新興の工業国は、賃金の安さを利用して、多くの仕事を取って、工業製品を生産をしている。そのため、いくつかの業種では、日本から工場がほとんどなくなる「産業の空洞化」が進んだ。新興工業国の賃金の安い国の工業に対抗するため、ヨーロッパやアメリカ、日本など前々から工業国だった国は、技術力の高い製品を開発して新興工業国では作れない製品を生産し、差別化を図っている。また、先進工業国同士でも工業の競争がある。中国や東南アジアなどの賃金の安い国に、日本やアメリカやドイツなど工業先進国が工場を進出させるのも、より安い価格で製品をつくることで先進工業国どうしの経済競争に勝つためである。このため、中国や東南アジアの工場は、新興の工業国と言っても、ヨーロッパ企業や日本企業、アメリカ企業など先進工業国の企業の支援を受けており、新興工業国の工場の技術力は高い場合もある。
日本で工業が盛んな地域は、主に太平洋側の平野部に多い。関東地方の太平洋側から、瀬戸内海、北九州にかけての地帯で工業がさかんであり、これらの地帯をまとめて「太平洋ベルト」と呼ばれている[1]。日本では、1970年ごろから、工業の国際競争が厳しさを増し、そのため、単純な技術で作られる製品の工場は、賃金の安い海外に移っていった。日本の製造業では、石油危機の反省から、省エネルギー化の研究開発が進み、省エネ製品が増えた。
日本の工業地帯・工業地域[編集]
太平洋ベルトとよばれる日本列島の太平洋側の臨海部に多い工業地帯を中心に、明治時代の工業は発展してきた。太平洋ベルトの中にある、「中京工業地帯」と「阪神工業地帯」「京浜工業地帯」を現在では「三大工業地帯」という。中京工業地帯は愛知県名古屋市を中心とした工業地帯である。阪神工業地帯は大阪や兵庫を中心とした工業地帯である。京浜工業地帯は、東京や神奈川を中心とした工業地帯である。生産額は中京工業地帯が最も多く、ついで阪神が2番目の生産額で、京浜は3番目の生産額である (2019年)。工業地域まで含めると、京浜工業地帯は瀬戸内工業地域・北関東工業地域に次ぐ、第5位となっている。
かつては北九州工業地帯をふくめて中京・阪神・京浜・北九州を「四大工業地帯」と呼ばれていた。しかし近年、北九州の生産量が落ちてきたため、北九州をはずして、中京・阪神・京浜を三大工業地帯と呼んでいる。四大工業地帯以外では、北関東工業地域、鹿島臨海工業地帯、京葉工業地域、東海工業地域、瀬戸内工業地域などで工業が発達しており、何れも太平洋ベルトに位置している。
太平洋ベルト以外の地域では、全体として工業が低調である。北海道ではパルプ、製鉄、化学、鉄鋼などの工業が発達していたが、国際競争が激化するなかで停滞している。東北地方では半導体などの機械工業が発達していたが、機械メーカーの多くが低賃金を求めて、中国などに生産拠点を移していく中、低迷が続いている。長野県では岡谷市を中心に製糸業がまず発達し、戦時中に東京から工場が疎開したことをきっかけに、諏訪盆地では湖周3市町(岡谷市・諏訪市・下諏訪町)においてカメラ、オルゴール、時計など、千曲川沿いの地域では通信・電子部品、自動車部品などが発達した。日本でもっとも工業化が遅れているのは中国地方の山陰、四国(愛媛県南予地方や高知県など)、南九州、沖縄などの地域である。
順位 | 都道府県 | 生産額 |
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1 | 愛知県 | 約40兆2千億円 |
2 | 神奈川県 | 約17兆5千億円 |
3 | 大阪府 | 約16兆2千億円 |
4 | 静岡県 | 約15兆8千億円 |
5 | 兵庫県 | 約14兆4千億円 |
6 | 千葉県 | 約12兆4千億円 |
7 | 埼玉県 | 約12兆3千億円 |
8 | 茨城県 | 約11兆1千億円 |
9 | 三重県 | 約10兆2千億円 |
10 | 東京都 | 約8兆4千億円 |
日本には、2012年時点でおよそ42万の工場がある。そのうち、従業員が1〜299人の工場を「中小工場」、300人の工場以上を「大工場」と呼ぶ。日本の工場のほとんどは中小工場である[3]。
工業の変化の歴史[編集]
日本では、第二次世界大戦前までは、天然繊維の製品の輸出などの繊維工業が日本の主要な工業であった。しかし戦後は、賃金の安い中華人民共和国や東南アジアなどの外国に工場が移ったことや、ナイロンなどの化学繊維の発明によって、繊維工業の割合は低下した。1960年代の高度経済成長の頃から、機械工業がさかんになった(電子機械含む)。2014年時点でも軽工業のなかでは機械工業がさかんである。自動車などの輸送用機械の生産が、機械工業の中では最多である(2014年)。
加工貿易[編集]
日本には、資源が乏しく、外国から原料などを多く輸入している。このように外国から原料を輸入し、日本国内で加工して工業製品にして、その工業製品を外国に輸出することで外貨をかせぐ貿易の方法を「加工貿易」という。日本にとって、加工貿易は外貨を獲得したり、工業力を発展させるたりするためにも必要な方法である。なお、現在では、日本国内で製品を作るだけでなく、アメリカなど外国にも日本企業の工場が進出しており、現地の国の人などを雇って生産して、その地域の消費者に販売している。ヨーロッパでも同様に、日本企業の工場などが進出しており、現地生産している。
産業の空洞化[編集]
日本からも、人件費の安い外国(東南アジアなど)に生産工場を移す動きがあるが、その結果、国内の工場の仕事が減り、国内の生産力が下がるという「産業の空洞化」が起きている。また、外国に工場を作ると、日本国内の工場でつちかわれた生産ノウハウも外国の労働者に教えることになるので、外国に技術ノウハウが流出するという「技術流失」も問題になっている。
工業の分野[編集]
重化学工業[編集]
工業のうち、自動車工業、鉄鋼業、機械工業、造船業などの比較的重量のあるものを製造する工業を「重工業」という。自動車産業や精密機械、電子機械も、重工業に含める。 石油の精製などを通じて、プラスチックや薬品などを作る工業を「化学工業」という。また、産業統計上の用語で、軽工業に相対する、金属工業と機械製造業からなる重工業と化学工業を合一した産業分野を「重化学工業」という。
軽工業[編集]
重(化学)工業に対して軽いもの、特に消費財を製造する工業(繊維工業・食品工業・印刷業など)を「軽工業」という[4]。主に日用品を作る工業の事である。
金属工業[編集]
機械工業[編集]
繊維工業[編集]
窯業[編集]
電気機械工業[編集]
発電機や洗濯機、電子レンジ、扇風機やエアコン、蛍光灯、ビデオなど、電気の発生・輸送・利用に関する機器を製造する工業を総称して「電気機械工業」と呼ぶ。
日本の工業の内訳[編集]
日本の工業の内訳は、重化学工業が約70% である(2008年)。軽工業は約30%である。1960年代の高度経済成長の頃から重化学工業が盛んになり、2014年の時点でも重化学工業が大きな割合を占めている。
工業の立地条件[編集]
工業の立地に関しては、例えば次のようなものが重視される。
- 水・空気など自然的条件
- 資源、市場、交通、労働力
- アルフレッド・ウェーバーの工業立地論
工業労働者[編集]
仕事で流す汗が染みにならないように、仕事の時の服装は青などを基調としたものが多く、これに由来して工場などの現場で働く工業労働者のことをブルーカラー(blue-collar 青い襟)といったりもする。なお、事務作業に従事する労働者については、ワイシャツを着用することからホワイトカラー(white-collar 白い襟)と呼ぶ。
脚注[編集]
- ^ NHK. “日本の工業地帯~太平洋ベルト~” (日本語). NHK for School. 2021年3月23日閲覧。
- ^ “「統計から見る日本の工業」都道府県別の工業| 経済産業省”. www.meti.go.jp. 2021年3月23日閲覧。
- ^ “「統計から見る日本の工業」大工場と中小工場| 経済産業省”. www.meti.go.jp. 2021年3月23日閲覧。
- ^ “社会 地理 日本の工業”. www.hello-school.net. 2021年3月23日閲覧。
関連項目[編集]
- 工業化
- 製造業
- 生産
- マニュファクチュア
- 家内制手工業
- 産業革命
- 情報革命
- 製鉄業
- 機械工業
- アルミニウム工業
- 自動車工業
- 造船業
- 電気機械工業
- 精密機械工業
- IC
- 石油化学工業
- デジタル家電
- 白物家電
- ロボット
- 工作機械
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