遛鳥
| 遛鳥 | |
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写真 香港仔海浜公園での遛鳥風景 | |
| 各種表記 | |
| 繁体字: | 遛鳥 |
| 簡体字: | 遛鸟 |
| 拼音: | liùniǎo |
| 発音: | リウニャオ |
| 日本語漢音読み: | りゅうちょう |
| 英文: | bird walking |
遛鳥(りゅうちょう、簡体字:遛鸟、拼音:liùniǎo)は、中華圏に見られる、飼い鳥を鳥かごに入れたまま屋外に持ち出し、公園などで鳴き声や姿を楽しみ、愛好家同士が交流する行為・習俗である[1][2][3][4]。中国北方では「提籠架鳥」(簡体字:提笼架鸟)とも呼ばれる[5]。日本語や英語では「鳥の散歩」や「bird walking」として紹介されることがある[6][7]。
名称
[編集]「遛鳥」は、国語辞典で「鳥かごを提げて静かな場所へ散歩に行く」と説明される[8]。北京など北方都市では、籠を手に提げて歩く「提籠」と、目的地で籠を木やフックに吊るす「架鳥」を合わせて「提籠架鳥」と呼び、遛鳥とほぼ同義の語として使われている[9][10][11]。
なお、台湾では、公衆の場で男性器を露出する行為を指す俗語として「遛鳥」が用いられる用例も見られるが[12][13]、本項では飼い鳥を連れて歩く伝統的な余暇活動としての「遛鳥」について述べる。
歴史
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中国では古くから小鳥を飼育して鑑賞する文化があり、明・清期には昆虫や金魚などと並んで「花鳥魚虫」の一つとして都市の文人や富裕層に親しまれた[14]。この中で、籠に入れた鳴鳥を外へ連れ出す遊びとしての遛鳥も形成されていったとされる[5][10]。
清朝期には八旗子弟や宮廷関係者のあいだで籠鳥を愛玩する風習が発展し[10][11][7]、徐々にこうした遊びは一般市民へと広がり、都市部では通りや公園、茶館などで鳥かごを提げた男性たちが見られるようになった[10][11][15]。
香港では、「バード・ストリート」と呼ばれる鳥店街が形成され、1920 - 30年代には飼い鳥文化が一般市民の日常的なレジャー・娯楽として深く根付いた[1]。
目的
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遛鳥は、次のような目的や意味を持つとされる。
- 鳥の健康維持:室内から出して日光や新鮮な空気に触れさせることで、鳥の体調や羽毛の状態、さえずりの調子を保てると考えられている[5][7]。また、散歩の途中に鳥かごを振り子のように軽く揺らし、止まり木につかまらせることで、筋肉を使わせて羽毛の状態を整える効果があるとされる[5][7][16]。
- 鳴き声の訓練:他の鳥(「先生」と呼ばれる熟練した鳥)の声を聞かせることで、より多彩で美しいさえずりや鳴き真似を学習させる[10][7]。
- 社交と余暇:飼い主同士が集まり、飼育法や世間話をする社交の場となる。早朝に公園へ出かける習慣が高齢者の運動・外出機会になっているほか[5][7]、貴州省で行われた調査では、籠鳥の飼育が高齢者の外出や人付き合いのきっかけになっていること、若年層にとっても飲酒や賭博を避ける動機付けや地域経済への貢献として肯定的に捉えられていることが報告されている[17]。
実践
[編集]屋外での遛鳥
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現代の中国の都市では、早朝の公園や広場に鳥かごを提げた愛好家が集まり、木の枝や専用のフックに鳥かごを吊るしてさえずりを楽しむ光景が見られる[10][7]。移動中は鳥が驚かないよう籠を布で覆い、目的地に着いてから覆いを外して日光浴と鳴き声を楽しむ[10][7]。飼い主たちは鳥かごをそばに置き、新聞を読んだり、将棋やトランプをしたり、友人と談笑したりして過ごす[7][17]。
鳥を連れて歩く際には、布で覆った鳥かごを手に提げ、振り子のように軽く揺らしながら散歩する姿も見られる[7][5][16]。愛好家によれば、このように籠を軽く揺らして止まり木にしっかりつかまらせることが、鳥に適度な運動をさせ、羽毛を滑らかに保つうえで役立つとされる[5][7][16]。
茶館・鳥市での交流
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ヒバリやガビチョウなどの愛好家が集う茶館が存在し、客が鳥かごを持ち寄って茶を飲みながら鳴き方や調教法を語り合う習慣がある[10][18]。香港文化博物館は、かつては飼い鳥とその評論が中国の茶文化と切り離せない関係にあり、朝の時間帯に鳥かごでいっぱいになった伝統的な茶屋も見られたものの、そうした茶屋は近年減少し、友人同士が茶を飲みながら籠鳥のさえずりを楽しむ光景は一般的ではなくなっていると指摘している[1]。
都市部の鳥市や「バードガーデン」も、飼い主同士が情報交換や品評を行う場となっている。香港の旺角にある園圃街雀鳥花園は、伝統的な中国庭園の様式で作られ、飼い主が鳥を見せ合い、鳥かごの中の鳥を評し合う交流の場であるとともに、香港における籠鳥文化の継承の場と位置づけられている[1][19]。
道具と飼育鳥
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鳥かご
[編集]軽量な竹製のものが多く、上部に吊り下げ用のハンガーが付いている[5]。かごの形状(円形・四角形など)や大きさは飼育する鳥の種類や用途によって選ばれ、紫檀などの高級木材を使用したものや、陶磁器製の餌入れ(ボウル)は工芸品としても評価されている[16][1][20]。
主な飼育鳥
[編集]主に「鳴鳥」であり、ガビチョウ(画眉)、ヒバリ、ハッカチョウ(八哥)、ツグミ、メジロなどが好まれてきた[5][21][7]。これらはいずれもさえずりが美しい、あるいは人語や他の鳥の声の模倣能力が高いことから人気がある[5][7]。
鳥の品評・競技
[編集]遛鳥の場では、飼い主同士が鳥の体格や羽色、鳴き声の豊かさや安定性などについて語り合い、事実上の品評会のような役割を果たす[10][1]。香港文化博物館は、伝統的な茶館文化において飼い鳥とその「評論(commenting on caged birds)」が中国の茶文化と密接に結び付いていたと指摘している[1]。
一部地域では、ガビチョウなどを用いた闘鳥の慣習も存在する[10][22][17]。
評価と動物福祉
[編集]遛鳥や籠鳥文化は、中国や香港の都市文化を象徴する伝統的な余暇活動として紹介されることが多く、高齢者の健康維持や社会参加、地域の経済活動に資する面があると評価されている[17]。
一方で、伝統的な飼育が野生由来の個体に依存してきた経緯や、狭い籠での長時間飼育、市場における過密な展示などについては、動物福祉や野生生物保全の観点から懸念が示されている[17][1]。こうした状況を受けて、中華人民共和国は2021年に新版『国家重点保護野生動物名録』を施行し、従来人気の高かった鳴鳥の一部を含む多くの小鳥を保護対象に加え、無許可での捕獲・飼育・販売を禁じている[21][5]。
H7N9亜型などの鳥インフルエンザ流行期には、公園や花鳥市場への鳥の持ち込みが一時的に禁止されるなど、公衆衛生上の理由から遛鳥に制限が加えられることもある[23][24]。伝統文化としての価値を保ちつつ、野生鳥類の保全と動物福祉、公衆衛生とのバランスをどのように取るかが課題となっている[17]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h “Culture of Keeping Birds as Pets and Birdcage Craftsmanship in Hong Kong”. Hong Kong Heritage Museum. Leisure and Cultural Services Department. 2025年11月26日閲覧。
- ^ “【民風民俗】老北京人習俗二三事”. 新唐人電視台 (2013年12月27日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ “Hong Kong's master birdcage maker keeps tradition flying high”. China Daily (2023年8月8日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ “上海(中国)アクティブシニアレポート” (PDF). 日本貿易振興機構(JETRO) (2022年3月). 2025年11月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k “GOING FOR A WALK IN A CAGE? 10 FACTS ABOUT BIRD KEEPING IN CHINA”. Culture Shock Shanghai (2018年5月1日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ “小さな鳥かごに込められた職人の技 中国の愛鳥文化のパートナー”. AFPBB News (2023年1月26日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m “Birds of a feather”. China Daily. (2011年4月28日) 2025年11月26日閲覧。
- ^ “遛鸟”. 漢典. 2025年11月26日閲覧。
- ^ “老北京當初什麼都不富裕,但唯獨不缺養寵物兒的”. EK生活網 (2018年1月5日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j “老北京的养鸟文化”. 搜狐 (2017年12月2日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ a b c “旧京“玩物””. 北京市人民政府 (2021年3月9日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ “台中驚見「男扮女裝遛鳥俠」趴趴走!議員一看影片嚇壞:太狂無法PO上網”. 民間全民電視公司. (2025年3月24日) 2025年11月28日閲覧。
- ^ “騎車「遛鳥」嚇到人 男稱:就是想裸露”. 自由時報. (2015年4月13日) 2025年11月26日閲覧。
- ^ “花鳥魚蟲- 古人養「寵物」最為悠然自得的是「養鳥」「遛鳥」”. kknews. 2025年11月26日閲覧。
- ^ “Birdmen of Beijing”. China.org.cn (2004年2月18日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ a b c d “Object of the Week: Birdcage”. Seattle Art Museum (2020年5月4日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ a b c d e f “Incorporating local stakeholders’ voices and knowledge into conservation decisions: a case study on the Chinese Hwamei (Garrulax canorus Linnaeus, 1758) in Taijiang, Guizhou, China”. Journal of Ethnobiology and Ethnomedicine (Springer Nature) 18 (1). (2022) 2025年11月26日閲覧。.
- ^ “画眉鸟成了斗鸟赌博工具?”. 検察日報 (最高人民検察院《検察日報》社). (2023年8月29日) 2025年11月28日閲覧。
- ^ “Yuen Po Bird Garden at Mong Kok Hong Kong”. Trip.com Moments (2023年8月9日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ “Analysis of Traditional Chinese Bird Cage”. Information is Beautiful Awards (2024年10月31日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ a b “市民们注意了,鹩哥、画眉等野生动物将不能随意笼养了!”. 潮州市人民政府 (2021年3月1日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ “新晃"画眉经济"期待一鸣惊人”. 湖南日報. (2018年5月25日) 2025年11月26日閲覧。
- ^ “禁止街坊进园遛鸟”. 新浪新聞中心. 羊城晚报 (2013年4月17日). 2025年11月26日閲覧。
- ^ “新型禽流感检测取得突破 病毒关键合成基因送京”. 中国新聞網 (2013年4月9日). 2025年11月26日閲覧。