道摩法師

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芦屋道満大内鑑」の芦屋道満

蘆屋道満/芦屋道満(あしや どうまん)は、平安時代の非官人法師陰陽師[1]。同一人物として道摩法師が挙げられるが道満と道摩法師とは別人であるという説も存在するなど実像については不明な点が多い。一般的には生没年不詳とされているが兵庫県加古川市の正岸寺という寺の位牌に天徳二年(958年)生誕との記述がある。平安時代に道満という名の陰陽師がいて、高階光子という貴族の女性に召し使われていたという記録はある[2][3]

江戸時代の地誌『播磨鑑』によると播磨国岸村(現兵庫県加古川市西神吉町岸)の出身とある。また播磨国の民間陰陽師集団出身とも伝えられている。

登場作品[編集]

江戸時代までの文献では、ほとんどにおいて安倍晴明のライバルとして登場し、「正義の晴明」に対して「悪の道満」という扱いをされる。安倍晴明が伝説化されるのと軌を一にして、道満の伝説も拡散し、日本各地に「蘆屋塚」「道満塚」「道満井」の類が数多く残っている。

中世文学[編集]

宇治拾遺物語[編集]

御堂関白の御犬晴明等奇特の事(巻14の10
藤原道長が可愛がっていた犬が、あるとき道長が法成寺に入るのを止めようとした。道長が晴明に占わせると、晴明は呪いがかけられそうになっていたのを犬が察知したのだと告げ、ほかにこんな呪術を知っているのは道摩法師以外いないと考え、道摩法師は囚われの身となる。その後、道摩法師は生国播磨に流罪となる。『古事談』(6の64)、『十訓抄』(7の21)にも同様の説話が収録されている。

『峯相記』[編集]

『峯相記』(ほうそうき。ぶしょうき、みねあいき、とも)[4]
藤原伊周が道満に依頼して、道に呪物を埋める呪詛を藤原道長に対して行い、それを安倍晴明が看破。道満は播磨国に流され、その地で没したとする説話が紹介されている。

近世[編集]

『簠簋抄』[編集]

三国相伝簠簋金烏玉兎集之由来
道満が上京し安部清明[5]内裏で争い負けた方が弟子になるという呪術勝負を持ちかけたことにより、帝は大柑子(みかん)を16個入れた長持を占術当事者である両名には見せずに持ち出させ「中に何が入っているかを占え」とのお題を与えた。早速、道満は長持の中身を予測し「大柑子が16」と答えたが、清明は加持の上冷静に「鼠が16匹」と答えた。観客であった大臣・公卿らは安部清明が当てられなかったと落胆したが、長持を開けてみると、中からは鼠が16匹出てきて四方八方に走り回った。この後、約束通り道満は清明の弟子となった、と言われているという。
遣唐使として派遣され伯道上人のもとで修行をしていた清明の留守中に清明の妻とねんごろになり不義密通を始めていた道満が、清明の唐からの帰国後に清明との命を賭けた対決に勝利して清明を殺害し、秘法で清明の死を悟った伯道上人が来日して呪術で清明を蘇生させ道満を斬首、その後に清明は書を発展させた。

浄瑠璃・歌舞伎[編集]

一般的に、葛の葉伝説に登場する道満も悪人として描かれる。

芦屋道満大内鑑[編集]

竹田出雲作の浄瑠璃(およびそこから派生した歌舞伎作品)「芦屋道満大内鑑」は、先行作との差別化を図りあえて道満を善人として描いたとされる。

「芦屋道満大内鑑」では、天文博士・加茂保憲[6]が急死したことで安倍晴明の父である安倍保名と芦屋道満による後継者争いが発生する。この後継者争いのモデルは『続古事談』に記載のある出来事だが、それによれば、争いの当事者は賀茂光栄暦道を継承)と安倍晴明天文道を継承)となっている。

明治以降は道満がメインとなる第3段の上演が稀になったため、なぜこの作品の題名が「芦屋道満大内鑑」なのか理解しにくくなった。歌舞伎で本作を上演する場合は第4段のみのケースが多く、『葛の葉』と通称されることがある(第4段に道満の出番は僅かにしかない)。

脚注[編集]

  1. ^ 上田正昭、津田秀夫、永原慶二、藤井松一、藤原彰、『コンサイス日本人名辞典 第5版』、株式会社三省堂、2009年 36頁。
  2. ^ 蔵田敏明『京都魔界探訪』扶桑社、015ページ
  3. ^ 高階光子が首謀者とされた寛弘6年(1009年)の敦成親王(後一条天皇)呪詛事件(藤原伊周#翻弄と失意の晩年参照)の政務記録(『政事要略』)では、呪詛を行ったのは僧侶である円能の所業であり、道満の名前はない。
  4. ^ 1348年に播磨国の峯相山(ほうそうざん)鶏足(けいそく)寺を参詣した僧が聞き書きしたとされる播磨国の地誌。
  5. ^ 史実では「安倍晴明」という表記だが、『簠簋抄』では「安部清明」と表記されている。
  6. ^ 史実では「賀茂保憲」という表記だが、「芦屋道満大内鑑」の台本(正本・台帳)では「加茂保憲」と表記されている。

関連項目[編集]

セーマンドーマン