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農民の昼食 (ベラスケス)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『農民の昼食』
スペイン語: Almuerzo de campesinos
英語: The Farmers' Lunch
作者ディエゴ・ベラスケス
製作年1618-1619年ごろ
種類キャンバス上に油彩
寸法96 cm × 112 cm (38 in × 44 in)
所蔵ブダペスト国立西洋美術館ブダペスト

 

農民の昼食』(のうみんのちゅうしょく、西: Almuerzo de campesinos: The Farmers' Lunch)、または『二人の男と少女のいる居酒屋の場面』(ふたりのおとことしょうじょのいるいざかやのばめん、: Tavern Scene with Two men and a Girl)は、バロック期のスペインの画家ディエゴ・ベラスケスが制作したキャンバス上の油彩画で、1618 - 1619年ごろ[1]の画家最初期の作品の1つである。飲食物の静物画を画家が綿密に観察した3人の農民の顔貌と組み合わせている。作品は現在、ハンガリーブダペスト国立西洋美術館に所蔵されている[1][2]

背景

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本作はボデゴンとして分類される絵画である。ボデゴンとは、人物と静物を厨房や台所の場で描いた写実主義的な風俗画 (純粋な静物画を指すこともある) である[3]。17世紀初頭のスペインに新たに登場したジャンルの絵画で、16世紀後半のフランドル絵画にその先例を見出すことができる。イタリア出身の画家で、スペインで制作したビセンテ・カルドゥーチョは、自身の著作『絵画問答』において、16世紀のイタリアの理想主義的で観念的な絵画と比較して、ボデゴンの卑俗な同時代性と理想化を拒む現実主義は「低俗で破廉恥極まりないもの」で、高潔な芸術を卑しい概念にまで堕落」させたと厳しく批判している[4]

ベラスケスは1617年、18歳の時にセビリアで師事していたフランシスコ・パチェーコから独立したが、ボデゴンの創始者の1人としてこの新しいジャンルを流行させたようである。しかし、それだけに上記のような批判にもさらされたのである[5]。一方、ベラスケスの師であっただけでなく岳父でもあったパチェーコは、自身の著作『絵画芸術』において「この分野 (ボデゴン) において彼に並ぶものはいないまでに傑出した私の娘婿 (ベラスケス) のように描けば」、それは「自然の真なる模倣」として「最大の称賛に価する」と絶賛している[4]

作品

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ディエゴ・ベラスケス『昼食』(1617-1618年ごろ)、エルミタージュ美術館

本作は、ベラスケスの最初期の作品と見なされるものである。最初期の作品としては、他にサンクトペテルブルクエルミタージュ美術館にある『昼食』とベルリン絵画館にある『3人の音楽家』が挙げられる。これらの作品については、ベラスケスの作品ではないと考える研究者もいる。資料的な裏付けがないこれらの作品は、ベラスケスのセビリア時代 (1618 - 1623年) に制作されたと思われる20点あまりの作品の中で様式的にも雰囲気的にも特異なものだからである[5]

ディエゴ・ベラスケス『3人の音楽家』(1617-1618年ごろ)、絵画館 (ベルリン)

本作の場面は居酒屋に設定されている[1]。画面では、右側の若い男が語っている話を補助するべく右手でジェスチャーをしている。左側の老人は注意深く聞きながら、中央の女がワインを注ぎ足せるようグラスを差し出している。卓上には、魚、パン、ニンジン、レモン、そして銅の器の静物が表されている[2]

人物の描写は完璧な解剖学的知識を表しており、人物の性格とお互いの関係を示唆する細部もよく選択されている。右側の若い男の半開きの唇、彼の話に耳を傾ける老人の目とグラスの方への微かな動き、そして一滴もこぼさないようグラスにワインを注ぐ女の顔の表情には、素晴らしい技巧が示されている[2]。この驚愕すべき自然主義により、しばしばカラヴァッジョの影響が指摘されてきた。しかし、当時、ベラスケスはカラヴァッジョの絵画を見たこともなかった。さらに、いかに主題が通俗的であれ、この絵画にはカラヴァッジョの激しい荒々しさはなく、穏やかな厳粛さが漂っている[1]

画面で最も印象的な部分は、白いテーブルクロスの上に並べられた静物であるといえるかもしれない。ここに見られる静物を表現するのには、静物を表すために多くの言語で用いられる「ナチュール・モルト (nature morte)」、すなわち「死んだ自然」という言葉ほど不似合いなものはない。画中の静物は動かないが、真に絵画的な特質、生そのものに近い生気を持っているのである[2]

脚注

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  1. ^ a b c d Tavern Scene with Two men and a Girl”. ブダペスト国立西洋美術館公式サイト (英語). 2025年9月7日閲覧。
  2. ^ a b c d Peasants at the Table”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2025年9月7日閲覧。
  3. ^ カンヴァス世界の大画家 15 ベラスケス 1983年、78頁。
  4. ^ a b 大高保二郎・川瀬祐介 2018年、8-9頁。
  5. ^ a b カンヴァス世界の大画家 15 ベラスケス 1983年、77頁。

参考文献

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外部リンク

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