ツツジ

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ツツジ
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : キク類 asterids
: ツツジ目 Ericales
: ツツジ科 Ericaceae
: ツツジ属 Rhododendron
学名
Rhododendron L.
タイプ種
Rhododendron ferrugineum L. [1]
和名
ツツジ(躑躅) - ツツジ属(躑躅属)
英名
Azalea
亜属

本文参照

ツツジ(躑躅、映山紅)は、ツツジ科植物であり、学術的にはツツジ属ツツジ属参照)の植物の総称である。ただしドウダンツツジのようにツツジ属に属さないツツジ科の植物にもツツジと呼ばれるものがあるので注意が必要である。

主にアジアに広く分布し、ネパールでは国花となっている。また、練馬区など一部の市区町村でもシンボルにされている場所もある。日本ではツツジ属の中に含まれるツツジやサツキシャクナゲを分けて呼ぶ慣習があるが、学術的な分類とは異なる。最も樹齢の古い古木は、800年を超え1,000年に及ぶと推定される。季語は春。サツキは夏。

特徴[編集]

ネパールのツツジの森
米国ワシントン州のツツジ
米国ブルーリッジ山脈のツツジ
ミヤマキリシマ

ツツジ属の植物は低木から高木で、常緑または落葉性互生、果実は蒴果である。4月の春先から6月の初夏にかけて漏斗型の特徴的な形の花(先端が五裂している)を数個、枝先につける。また合弁花類である。

ツツジは「躑躅」と書くが、「見る人が足を止めるほど美しい」という言われに由来する。[要検証]「躑」と「躅」はいずれも、たちどまる、たたずむ、の意である。

ツツジ属の花の花弁には斑点状の模様が多く見られる。これは蜜標(ガイドマークとも)で蜜を求める昆虫に蜜のありかを示している模様であることがよく知られている。蜜標によって花に潜り込む昆虫による受粉ができるように雄蕊がついており、雌蕊の柱頭は蜜標のある方に曲がっている。

人間でも花を上手に採ると花片の下から蜜を吸うことができるが、多くの種に致死性になりうる毒成分のグラヤノトキシンなどが含まれ、特に多く含むレンゲツツジは庭木として利用されることもあるので注意しなければならない。中毒症状としては、嘔吐、痙攣、下痢などを起こす[2]
園芸用として交雑種が多く安全な種との見分けは、専門家でもないかぎり不可能で、児童などが中毒を起こす報告がされている。交雑種が多く毒の含有量も様々であるが、ネジキの場合、牛は体重の1%の摂取で死ぬ[3]

ツツジ属 Rhododendron[編集]

白色のツツジ
ピンクのツツジ
赤色のツツジ
野生のツツジ(コバノミツバツツジ)

ツツジ属Rhododendron)は大きくヒカゲツツジ亜属(有鱗片シャクナゲ亜属)とツツジ亜属、無鱗片シャクナゲ亜属、セイシカ亜属、エゾツツジ亜属に分類されるが、便宜上常緑性のものの一部がシャクナゲと呼ばれている。すなわち、日本で「シャクナゲ」と呼ばれるものはシホンシャクナゲの仲間(無鱗片シャクナゲ節)に限られ、常緑であってもそれ以外の殆どは「シャクナゲ」とは呼ばない。

ツツジは日本では古くから園芸品種として交配され美しい品種がたくさん生まれた。中でもサタツツジヤマツツジミヤマキリシマなどをかけ合わせて生まれたクルメツツジはその代表で種類も多く色とりどりの花が咲き、満開の時期はまさに圧巻である。ヒラドツツジも日本全国でよく見られる大型のツツジで、花も大きく街路樹としてもたくさん植栽されていて、ケラマツツジモチツツジキシツツジなどを親としている。 サツキマルバサツキおよびその交配種は特にサツキと呼ばれているが、クルメツツジなどと同じく常緑ツツジの仲間である。

西洋ではアジアからヨーロッパに常緑のツツジが持ち込まれて園芸化され、ベルジアン・アザレアと呼ばれ現在鉢花として大量に生産されている。トウヤマツツジを主に、ケラマツツジやサツキの品種などもその育種に用いられている。また日本のレンゲツツジや北アメリカの落葉性の原種が園芸化されてエクスバリー・アザレアあるいは匂いツツジなどと呼ばれている。北アメリカ大陸には、その地域に古くから自生する北米ツツジ(アザレア)も生息している。

以下にツツジ属の日本産の種を挙げる。種名の横に併記した斜体文字は学名を示す。属名「Rhododendron」とは、rhodon(バラ)+dendron(樹木)の意である。複数の種が環境省と都道府県によりレッドリストの指定を受けている[4]

ヒカゲツツジ亜属 subg. Rhododendron[編集]

ヒカゲツツジ節 sect. Rhododendron[編集]

ゲンカイツツジ

イソツツジ節 sect. Pogonanthum[編集]

ビレア節 sect. Vireya[編集]

東南アジアやニューギニアなどの熱帯地方に産するもので、マレーシア・シャクナゲとも言われる。日本産のものは知られていない。

ビレア節、ディスコビレア節 sect. Discovireya、シュードビレア節 sect. Pseudovireya を分けることもある。

シャクナゲ亜属 subg. Hymenanthes[編集]

シャクナゲ節 sect. Pontica[編集]

レンゲツツジ亜属 subg. Pentanthera[編集]

レンゲツツジ節 sect. Pentanthera[編集]

シロヤシオ節 sect. Sciadorhodion[編集]

アカヤシオ

オオバツツジ節 sect. Viscidula[編集]

ヨウラクツツジ節 sect. Menziesia[編集]

ツツジ亜属 subg. Tsutsusi[編集]

ヤマツツジ節 sect. Tsutsusi[編集]

コメツツジ列[編集]
ハコネコメツツジ列[編集]
モチツツジ列[編集]
サツキ列[編集]
ウンゼンツツジ列[編集]
ヤマツツジ列[編集]
ヤマツツジ
フジツツジ

ミツバツツジ節 sect. Brachycalyx[編集]

サクラツツジ列[編集]
サクラツツジ
オンツツジ列[編集]
オンツツジ
ミツバツツジ列[編集]
タカクマミツバツツジ列[編集]
ヒュウガミツバツツジ
サイゴクミツバツツジ列[編集]
サイゴクミツバツツジ
トウゴクツバツツジ列[編集]
トウゴクミツバツツジ
コバノミツバツツジ列[編集]
コバノミツバツツジ
(兵庫県篠山盆地雲海、盃ヶ岳)
キヨスミミツバツツジ列[編集]
キヨスミミツバツツジ

交雑種[編集]

トキワバイカツツジ亜属 subg. Azaleastrum[編集]

トキワバイカツツジ節 sect. Azaleastrum[編集]

セイシカ節 sect. Choniastrum[編集]

バイカツツジ亜属 subg. Mumeazalea[編集]

エゾツツジ亜属 subg. Therorhodion[編集]

独立したエゾツツジ属 Therorhodion に分類される場合が多い。

自治体指定の木と花[編集]

日本では県、市町村で自治体の木や花の指定を受けている。以下に一覧を示す。

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市(市の木)[編集]

市町村(花)[編集]

矢祭山
相楽園
笠間つつじ公園(茨城県笠間市
大和葛城山

関連文化[編集]

尾形光琳『躑躅図』、18世紀。

ツツジ類の材はとても緻密であり、細工物などにも利用される。

日本で言うところのツツジやサツキは、公園や道路の分離帯などの植え込みにしばしば見られる。日本では長い栽培の歴史を持ち、早くから育種も進んだ。例えば林昌寺泉南市)や塩船観音寺青梅市)の庭園は、美しいツツジで有名である。

この他には根津神社旧古河庭園神代植物公園(以上東京都)安養院等覚院三河屋蓬莱園小田急山のホテル花の木公園 (以上神奈川県) 姫の沢公園小室山公園(以上静岡県)つつじが岡公園赤城山新坂平湯の丸高原(以上群馬県)美し森(長野県) 八方ヶ原那須高原(以上栃木県)など、各地に名所がある。

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「ツツジ色」(アザレア)という色もある。これはツツジの花のような鮮やかな赤紫色(「躑躅燃ゆ」と形容される)をさす。赤紫は次に挙げるような色である。

名前 漢字・英語 同色・混同色
#CD4187 アザレア azalea 躑躅色
#FF3399 アザレアピンク azalea pink 躑躅色

俳句・短歌(和歌)[編集]

「ツツジ」は俳句における春の季語でもある。また「躑躅花」(つつじばな)は、短歌(和歌)における枕詞としても使用される。この場合は「花のように美しい君」という意味から「にほふ」や「にほえをとめ」にかかる。

  • 躑躅いけて 其陰に干鱈(ひだら) さく女 - 松尾芭蕉[7]
  • …つつじ花 にほえ娘子(をとめご) 桜花 栄え娘子… - 柿本人麻呂[8]

書物[編集]

音楽[編集]

  • 『躑躅(つつじ)』 地歌箏曲) - 佐山検校(上記の伊藤伊兵衛と同時代に江戸で活躍した音楽家)作曲による長歌もの地歌曲。歌詞中にツツジが22品種詠み込まれている。

脚注[編集]

  1. ^ Rhododendron Tropicos
  2. ^ 自然毒のリスクプロファイル:高等植物:シャクナゲ類厚生労働省
  3. ^ 雑草・鳥獣害防止対策農林水産省
  4. ^ 日本のレッドデータ検索システム「Rhododendron」”. (エンビジョン環境保全事務局). 2013年4月21日閲覧。
  5. ^ 静岡県の花「ツツジ」制定経緯”. 静岡県 (1965年9月21日). 2013年4月21日閲覧。
  6. ^ 福岡県のシンボル”. 福岡県 (1966年9月5日). 2013年4月21日閲覧。
  7. ^ 泊船集』より
  8. ^ 万葉集』より

参考文献[編集]

  • 渡辺洋一、高橋修『ツツジ・シャクナゲ ハンドブック』文一総合出版、2018年。ISBN 978-4-8299-8138-2 
  • 大橋広好、門田裕一、木原浩、邑田仁、米倉浩司『改訂新版 日本の野生植物』平凡社〈4〉、2017年、232-250頁。ISBN 978-4582535341 
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]