財政民主主義

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財政民主主義(ざいせいみんしゅしゅぎ)とは、国家が財政を動かす際には国民の代表から構成される議会の議決が必要であるとする考え方。日本においては日本国憲法第83条がその根拠とされる。

財政民主主義の概要[編集]

近代市民革命によって国民の代表からなる議会が生まれ、財政民主主義はそれとともに発展した。[1]国や地方公共団体はその存続や活動のために資金を得て、それを使用する。そのために国や地方公共団体がとる財政政策(例えば租税政策や財政投融資など)は、主たる納税者である市民の生活に大きく影響を与えるので、行われようとしている財政政策を国会及び市民はチェックする必要がある。[2]

現日本国憲法における財政民主主義[編集]

財政については現日本国憲法第7章(第83条から第91条)に規定されている。 これらの条文から財政民主主義の原則として挙げられるのは、

  • 国家が行う財政活動は国会で審議、議決されること(国会議決主義、国会中心主義)[3]
  • 国家が課する税は法律によらねばならない(租税法律主義[4][5]
  • 財政面における政教分離[6]
  • 国家の財政活動を国会や国民が監視すること[7]

であるといえる。

例外 [編集]

財政民主主義の例外となる制度として、予備費(第87条第一項・第二項)と、参議院の緊急集会(第54条第二項・第三項)による財政議決が挙げられる。[8]第87条第一項は予見しがたい予算の不足を補うため国会の議決に基づき設けた予備費を内閣の責任において支出することを定めた条文であり、第54条第二項は衆議院解散中に緊急の必要があるときは内閣は参議院の緊急集会を求めることができると定めた条文である。ただし第87条は第二項で事後に国会の承諾を得ることを規定し、第54条も第三項で次の国会開会のあと十日以内に衆議院の同意が得られなければ緊急集会でとられた措置は効力を失うことを定めている。

財政民主主義の歴史的発展[編集]

財政民主主義と関連がある歴史的事項は多々ある。1215年イギリスで制定された大憲章(マグナ=カルタ)は新たな課税には高位聖職者と大貴族の会議の承認が必要だとし、王の勝手な課税を防ごうとした。1628年に同国の議会で可決された権利の請願は議会の承認なしに課税しないことを明記しており、その後ピューリタン革命名誉革命を経て制定された権利の章典[9]にも同様の記述がある。また、1765年にイギリスが植民地(北アメリカに対し印紙法を出して課税を強化した際には、植民地側で植民地代表を含まないイギリス本国の議会には植民地に課税する資格はないという「代表なくして課税なし」の主張がとなえられた。さらに、1789年にフランスで制定されたフランス人権宣言第14条でも市民は租税に関与する権利をもつとされている。[10]

明治憲法大日本帝国憲法)下と日本国憲法下の財政民主主義[編集]

日本国憲法における「財政」は明治憲法における「会計」にあたり、その規定内容において財政民主主義の観点からいくつかの違いがある。 まず、明治憲法は第62条第一項[11]で租税法律主義を定めると同時に、そのあとの第二項[12]でその例外をつくっていた。[13]それに対し日本国憲法は租税法律主義を第84条で定め、その例外は規定していない。次に、皇室費用について、明治憲法は第66条[14]で増額する場合以外は基本的に皇室費用については議会の協賛を得なくてもよいと定めていたが、日本国憲法は第88条で[15]皇室費用も予算に計上され、毎年国会の議決が必要であることを規定している。他にも明治憲法では第70条第一項[16]に議会での議決なしに政府が行うことができるいわゆる財政上の緊急処分の規定が存在したり、第67条[17]で歳出額の調整における議会の機能が制限されていたりした。対して日本国憲法は前述したとおり財政の国会議決主義を規定している。つまり、日本国憲法は明治憲法に比べ財政民主主義をより強く反映しているといえる。

日本の財政民主主義の課題[編集]

日本国憲法のもとで財政民主主義はより強化されたものの、課題も指摘されている。まず、国会が財政活動にどれだけ関われているのかという点である。例えば、国家の予算の編成[18]を行うのは内閣(主に財務省)であり、また、日本国憲法第60条第二項に「予算について、参議院衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」と規定されているため、予算は通常の法律よりも成立しやすくなっている。さらに、財政民主主義がうまく機能するためにはそもそも議会が国民の意見を代表している必要があるが、選挙における投票率が低い現状で、選挙結果が民意をどれだけ反映できているかは不明である。

脚注[編集]

  1. ^ 渡瀬義男『アメリカの財政民主主義』(日本経済評論社、2012年)7頁
  2. ^ 斉藤寿『財政法制の憲法学的研究』(評論社、1999年)43頁
  3. ^ 日本国憲法第83条、第84条、第85条、第86条、第88条より
  4. ^ 租税法律主義の例外については斉藤寿(1999年)67、68頁を参照
  5. ^ 日本国憲法第84条より
  6. ^ 日本国憲法第89条より。また、第20条第一項後段に「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」と規定されている。
  7. ^ 日本国憲法第90条第一項、第91条より
  8. ^ 斉藤寿(1999年)62頁
  9. ^ ウィリアム3世とメアリ2世が権利の宣言として受け入れたものを議会が権利の章典として制定した。
  10. ^ 渡瀬義男(2012年)7頁
  11. ^ 「新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ」
  12. ^ 「但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス」
  13. ^ たとえば実質上の消費税である専売料金等の決定も議会の協賛を必要としなかった。北野弘久(1983年)3頁より
  14. ^ 「皇室経費ハ現在ノ定額ニ依リ毎年国庫ヨリ之ヲ支出シ将来増額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝国議会ノ協賛ヲ要セス」
  15. ^ 「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。」
  16. ^ 「公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得」
  17. ^ 「憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出及法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ廃除シ又ハ削減スルコトヲ得ス」
  18. ^ 予算の編成の詳しい過程については河野一之『予算制度 第二版』(学陽書房、2001年)第4章参照

関連項目[編集]