謎本

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
この項目に含まれる文字は、オペレーティングシステムブラウザなどの環境により表示が異なります。

謎本[1][2](なぞぼん)は、漫画アニメテレビドラマ小説といったフィクション作品を中心とした様々なジャンルの謎や伏線、疑問などに対する非公式な考察を行うのジャンル(俗語)。

他にもおたく[2]検証本[2]架空本[2]秘密本(ひみつぼん)・研究本(けんきゅうぼん)などの通称で呼ばれることもある。

概要[編集]

「フィクション作品に関する非公式な考察」のルーツとしては、欧米における推理小説シャーロック・ホームズシリーズ』を考察するシャーロキアンの活動が挙げられる。小説中の登場人物であるシャーロック・ホームズを実在の人物のように扱い、その事跡について考察した彼らの研究の数々は、単なるパロディの域を超えた思考ゲームとして楽しまれている。

日本では、1972年寺山修司が発表した『サザエさんの性生活』をさきがけとする見方がある[2]。本格的な謎本として最初とされるのは『ウルトラマン研究序説』(1991年、SUPER STRINGSサーフライダー21、中経出版)である。これは特撮番組『ウルトラマン』をテーマとし、ウルトラマンと怪獣、対怪獣組織「科学特捜隊」に関する科学的・法律的な面を、経済学者法学者物理学者らが専門的・現実的に考察し、35万部(単行本のみ)[3]を売り上げた。

その後、『ウルトラマン研究序説』のヒットに刺激されて企画された[1][4]漫画サザエさん』の研究本『磯野家の謎』(1992年、東京サザエさん学会編、飛鳥新社)が180万部(単行本のみ)[1]または200万部を超える[5]爆発的ヒットとなり、後追いのかたちで発売された『サザエさんの秘密』(1993年、世田谷サザエさん研究会、データハウス)や『磯野家の謎・おかわり』(1993年、東京サザエさん学会編、飛鳥新社)、『ドラえもんの秘密』(1993年、世田谷ドラえもん研究会、データハウス)もそれぞれ50〜60万部(単行本のみ)[1]、『野比家の真実』(1993年、日本ドラえもん党、ワニブックス)は22万部(単行本のみ)[2]のヒットになった。これをきっかけとして、中小の出版社より漫画・テレビ番組芸能人映画野球相撲皇室政治など様々なジャンルをテーマとした類似の本が多数発売されるブームとなった[1]トーハンによると1993年6月〜8月には同種の本が30種類以上出版されている[1]映画男はつらいよ』のように約半月間に各社から5冊もの研究本が出版されるケースも現れた[1]。「謎本」という呼び名が生まれたのもこの時期である。

『サザエさん』を扱った『磯野家の謎』『サザエさんの秘密』は原作の版権元である姉妹社より版権許諾が取れなかったため、原作の絵柄(図版)は一切使用していない。それでも両書がヒットしたことから、「謎本では(版元の許諾が得られない限り)原作の図版を一切使わない」という慣例が定着した。本来は漫画についても、その内容や画風の分析などの目的で文章側に対して主従関係が成り立つのであれば図版を引用できるが、謎本ブームの当時は業界の慣習として「漫画の引用は一切不可」という認識が広がっていたことも影響した(脱ゴーマニズム宣言事件も参照のこと)。

書名はブームのきっかけとなった『磯野家の謎』『サザエさんの秘密』を踏襲した『○○の謎』『○○の秘密』や『○○の研究』『○○考察』などが多く、推理作品では『○○の推理ミス』として推理小説の問題点(悪く言えばあら捜し)などを論じる場合が多い。著者名も「○○学会」「○○研究会」など、その本だけで用いられる実体の不明な名義となっている場合が多く、正確な執筆者が何人いるのかも明らかでない。同様に著者名義が不明確な通俗雑学本と同様、社会的知名度の低いフリーランスライターが単独または少数グループで、請負仕事として執筆しているのが大多数の謎本の実態とみられ、概して実証的なアカデミズムとは無縁な興味本位の筆致傾向に偏りがちである。

当初はフィクション作品の考察本としてスタートした謎本であるが、ブームと共にその対象は大きく広げられ、データハウスでは『大相撲の秘密』(1993年、平成すもう研究会、データハウス)『小沢一郎の秘密』(1993年、佐藤淳一、データハウス)といった書籍まで出版するようになった[1]

また、謎本ブーム以降は原作の内容や主題をよく知らない著作家がいい加減な知識を元に執筆した謎本が多くみられるようになった。その例として、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第6部『ストーンオーシャン』の謎本である『ストーンオーシャン超常心理分析書』(2002年、大沼孝次、フットワーク出版社)は、著者が第5部『黄金の風』以前を読まずに考察している。それゆえ「ディオ・ブランドーとジョースター家の因縁」やスタンドなどの基本設定を理解せず、「空条承太郎とDIOは同一人物」などの勘違いを書き綴っており、同書は第11回日本トンデモ本大賞にノミネートされた[6]

2010年には漫画『ONE PIECE』の謎本である『ワンピース最強考察』(2010年、ワンピ漫研団、晋遊舎)が発行され、続編を含めると公称60万部を超えるベストセラーになるが[7]、題名にスクウェア・エニックス登録商標である「ULTIMANIA」が記載されていたことが問題になり、続編を含め2014年に販売停止となったが[8]続編が刊行している。2011年には同じく『ONE PIECE』の謎本である『ワンピース最終研究』(2011年、ワンピ考古学研究会、笠倉出版社)が発行され、続編を含めると公称60万部を超えるベストセラーになった[9]。また、漫画『進撃の巨人』の謎本である『「進撃の巨人」最終研究』(2013年、「進撃の巨人」調査兵団、笠倉出版社)も公称10万部以上を記録している[10]

主な出版会社[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h 「いつまで続く『謎本』ブーム 種類増えたがヒット減る」『朝日新聞』1993年9月11日付夕刊、15頁。
  2. ^ a b c d e f 朝日新聞社(編)「謎本ブーム」『朝日キーワード 1994〜1995』朝日新聞社、1994年、200頁。ISBN 4-02-227595-2
  3. ^ 「受け手は:7(実像と虚像 テレビ放送開始40年」『朝日新聞』1993年3月17日付夕刊、13頁。
  4. ^ 「先達に学ぶ、ヒットの発想法」『朝日新聞』1998年4月11日付夕刊、5頁。
  5. ^ 2005年に出版された日本文芸社パンドラ新書版(2005年)の解説より。
  6. ^ 山本弘による解説、『と学会年間BLUE』(2003年、太田出版)、『トンデモ本の世界S』(2004年、太田出版)を参照。
  7. ^ ワンピース最強考察ZAmazon.co.jp。(2015/4/7閲覧)
  8. ^ 登録商標「ULTIMANIA」記載の書籍販売停止に関し、スクウェア・エニックスと晋遊舎がコメントを発表、インサイド、2014年3月26日 12:22。
  9. ^ 新刊書籍_ワンピース最終研究総集編改、笠倉出版社。(2015/4/7閲覧)
  10. ^ 謎本補充注文書、笠倉出版社。(2015/4/7閲覧)