読書指導
読書指導(どくしょしどう)とは、読書の方法を教授すること。日本においては、学校図書館の活動や国語教育の中で用いられることが多い用語であり、読み聞かせなどの読書への関心を高めるものから書籍の選定方法の教授まで含まれる。
概念
[編集]読み聞かせなどの読書に対する興味を抱かせる段階から、文書を読み解く読解力の習得、読書の習慣化、読書対象とする書籍の選定方法の教授までを含む幅広い概念であり、日本おいては学校図書館の活動や国語教育の中で用いられることが多い用語である[1][2]。公共図書館では、これに対応するものとして読書相談の用語を用いることが多い[1]。
読書指導の在り方は、その時代・地域で主流となっている読書論や教育理論の影響を受けており、ヨーロッパにおいて宗教改革以降の17世紀から18世紀にかけて教養の獲得手段としての読書と読書指導の概念が芽生え、図書館の蔵書構成の在り方なども含め図書館情報学も確立していく[3]。19世紀に入り、各地域で公教育制度が整備されていくと、識字教育・国語教育との関係も深くなり、メルヴィル・デューイが考案した「適書を適者に適時に(The right book for the right person at the right time)」がアメリカ図書館協会の標語となり、1896年にジョン・デューイが自発的教育理論を提唱するなど、年齢・読解力に応じた適書の概念も確立していく[4][5]。
日本においても1872年に学制が公布されて以降、児童向け読み物の創作が盛んになるとともに、1910年代には新教育運動が本格化し、国定教科書の不足を埋める副読本として読み物教材が出版されていく[6][7]。また、同時期に新教育運動の中心だった成城小学校が発行していた研究誌『教育問題研究』によって読書指導・学校図書館の必要性が教育現場に広まっていく[8]。1947年に公表された学習指導要領試案では読書指導が国語教育の中心に置かれるとともに、1948年には『学校図書館の手引』が刊行され、国語教育・学校図書館活動の中に正式に位置づけられていくことになる[9]。
内容
[編集]読書習慣が身についていない者に対して読書習慣をつけさせる指導と、読書習慣が身についた者に対して高い読書力を習得させる指導に大別され、前者に対しては読書意欲の開発や読書の基礎となる文書読解力をはじめとする読書方法の教授が中心となり、後者に対しては読書対象となる書籍の選定方法・探索方法などが教授される[2][10]。
個別指導か集団指導かによって具体的な指導方法や効果も異なり、個人指導は個々の対象者の年齢や特性に応じたアプローチが可能である一方、集団指導には読書会などを通じて読書習慣を根付かせるための雰囲気が醸成されるという効果がある[11]。集団指導の中では、ブックトークや読書感想文・ブックガイドの作成などの読書体験の共有・発表を行ったり、児童同士の競争意識を利用した読書マラソンのような手法をとることもある[12][13][14]。
また、童話や小説などの文芸作品の鑑賞のほか、百科事典や図鑑の読み方といった調べ読み、図書館の利用方法の教授も読書指導の範疇に含まれる[15][16]。
問題
[編集]前述の通り、読書指導においては対象となる書籍が特定の種別に偏らないようにすることが多くの場合求められるが、そのために個々の対象者の読書履歴(もしくは図書館の貸出履歴)を指導者が把握する行為が、対象者のプライバシー保護の観点から問題となることがある。
図書館の自由に関する宣言では「第3 図書館は利用者の秘密を守る」において、「図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない」ことを定めているが、読書指導が行われる場(主に学校図書館)がそもそも同宣言の対象なのか、また教員が読書指導の目的で対象者の読書履歴を知ることが許されるか否かについては図書館関係者や教員の間でも争いがある[17]。学校図書館問題研究会では、2018年に定めた「学校図書館のためのプライバシー・ガイドライン」において「図書館は、管理している情報や記録はもちろん、たとえ図書館担当者の記憶の範囲であっても、利用者の生命や安全にかかわる場合及び図書館の財産管理上やむを得ない事情がある場合を除いて、学習指導・読書指導・生活指導などの目的で提供すべきでない。」と謳っているが[18]、必ずしもこの方針は現場に浸透していない。
出典
[編集]- ^ a b 図書館問題研究会図書館用語委員会 編『図書館用語辞典』角川書店、1982年、411頁。doi:10.11501/12274712。
- ^ a b 野地潤家 編『国語科重要用語300の基礎知識』明治図書出版、1981年、59頁。doi:10.11501/12247535。
- ^ 亀井勝一郎 編『読書指導講座 第1巻 (読書指導の原理)』牧書店、1955年、93-105頁。doi:10.11501/2996696。
- ^ 竹林熊彦『図書の選択:理論と実際』蘭書房、1955年、40-54頁。doi:10.11501/2932035。
- ^ 河井弘志『アメリカにおける図書選択論の学説史的研究』日本図書館協会、122-137頁。ISBN 978-4-8204-8707-4。
- ^ 飛田多喜雄 著「言語教育の歴史的研究」、国語教育研究所 編『新国語科の解明11』明治図書出版、1980年、33-56頁。doi:10.11501/12162528。
- ^ 滑川道夫『解説国語教育研究:国語教育史の残響』東洋館出版社、1993年、98-107頁。doi:10.11501/13293590。
- ^ 増田信一『国語学習学入門』学芸図書、1993年、87-95頁。doi:10.11501/13290231。
- ^ 全国大学国語教育学会 編『講座国語科教育の探究3』明治図書出版、1981年、188-201頁。doi:10.11501/12162808。
- ^ 原田種雄、赤堀侃司 編『国際理解教育のキーワード:基本概念・用語の解説 240ポイント』有斐閣、1992年、182頁。doi:10.11501/13280365。
- ^ 図書館教育研究会 編『テキスト読書指導』学芸図書、1967年、70-78頁。doi:10.11501/2933378。
- ^ 北嶋武彦、今村秀夫『読書指導の基本:初歩指導から図書館利用指導まで』第一法規出版、1982年、76-102頁。doi:10.11501/12132101。
- ^ 岡本博幸 編『授業を拓く国語単元学習:教科書教材の単元化』東洋館出版社、1994年、145-156頁。doi:10.11501/13294333。
- ^ 『小学校学級指導双書 第2 (児童理解とその方法)』教育出版、1969年、370-371頁。doi:10.11501/12126930。
- ^ 細谷俊夫 編『新教育学大事典 第5巻』第一法規出版、1990年、339-340頁。doi:10.11501/13145882。
- ^ 藤原宏、井沢純 編『小学校・読書指導講座 第3 (社会科・理科等の学習と読書活動)』明治図書出版、1968年、11-18頁。doi:10.11501/3042461。
- ^ 「自由宣言」にみる読書指導とプライバシー保護の関係/山口真也 - 文化情報学研究 第 9 号(2008年度)
- ^ 学校図書館のためのプライバシー・ガイドライン - 学校図書館問題研究会 2018年8月4日