西村寿行

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西村 寿行
ペンネーム 西村 寿行(にしむら じゅこう)
誕生 西村 寿行(にしむら としゆき)
1930年11月3日
香川県香川郡雌雄島村大字男木
死没 (2007-08-23) 2007年8月23日(満76歳没)
東京都
国籍 日本の旗 日本
活動期間 1969年-2001年
ジャンル 動物小説、社会派推理小説アクション小説、パニック小説
代表作 『瀬戸内殺人海流』『君よ憤怒の河を渉れ』『犬笛』『滅びの笛』
デビュー作 『犬鷲』
親族 西村望(実兄)
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西村 寿行(にしむら じゅこう、1930年(昭和5年)11月3日 - 2007年(平成19年)8月23日)は日本の小説家香川県出身。ハードロマンと呼ばれる作風で人気を得た。本名読みはとしゆき[1]。作家西村望は実兄。

1969年にデビュー後、動物小説、社会派ミステリアクション小説(バイオレンス小説)、パニック小説など幅広い作品でベストセラー作家となった。1979年には長者番付の作家部門1位となり、1980年代もベスト10上位に名を連ねた。また同時代の人気作家である半村良森村誠一とともに「三村」とも呼ばれた。冒険小説ハードボイルドに分類されることもある。代表作に、映画化もされて大ヒットした『君よ憤怒の河を渉れ』『犬笛』など。

人物[編集]

香川県香川郡雌雄島村大字男木(男木島、現・香川県高松市男木町)で、網元の家の7人兄弟に生れ、満州馬賊でもあった父を持つ。少年時代は南洋一郎の小説やターザン映画を愛好し、漢詩も読んでいた。作品の題名が漢詩調なのはその影響とされている。旧制中学を卒業後、新聞記者、タクシー運転手、小料理屋など20近い職種を経験。

1969年に動物小説「犬鷲」で第35回オール讀物新人賞佳作となり作家デビューする。その後1971年ノンフィクション『世界新動物記』を挟んでの沈黙を経て、1973年に書き下し処女長編『瀬戸内殺人海流』、続いて『安楽死』などで社会派ミステリ作家として注目されるが、その後長編冒険小説『君よ憤怒の河を渉れ』を『問題小説』75年1-2月号に一挙掲載して、同誌や『野性時代』などの中間小説娯楽小説誌の看板作家として活躍した。『君よ憤怒の河を渉れ』は映画化され、中国でも公開されて数億人が観たと言われる大ヒットとなり、中国独自のパート2も製作された。趣味としていた狩猟では南アルプスで猟師同然の生活をしていた時期もあるほどで、野生動物の知識のほか、「人間より犬が好きだ」と公言するほどの猟犬に対する格別の愛情を持ち,これらが元となって多くの動物小説を書き、また他の作品でもそれが生かされている。

狩猟は1967年に止めて狩猟禁止論者に転じ、その思想は現金39億5000万円強奪事件に端を発して国家規模の狩猟全面禁止運動に発展して行く『濫觴の宴』にも表されている。自然愛護の姿勢とともに、故郷のある瀬戸内海などの海に対する思いも強く、スキューバ・ダイビングを趣味としていたこともある。飼っていた猟犬についてのエッセイ「我が猟犬ちー子」は、短編集『妖魔』に収められている。

菜食主義者であるとともに極度の酒好きであり、バーボン・ウイスキーのアーリータイムスを毎晩ボトル半本分飲む生活を続けていた。そのため、毎日の執筆は二日酔いで始まっていたという。全盛期は毎晩バーボン1本を飲み切り、毎月原稿800枚を書き、週末ごとに「寿行番」編集者たちによる「雑木の会」の大宴会で大騒ぎをしても、締め切りには決して遅れなかった。酒癖が悪く、編集者たちに「オマエは人間のクズ」と言い捨てるのは日常茶飯事で、自宅玄関に立たせたり、プレジャーボートから突き落としたりということもあった。非常に子煩悩でもあり、一人娘が幼い頃に交通事故で骨折してパニック状態に陥ったことがヒントになって、代表作『犬笛』誕生となった。

1993年春から下咽頭癌で加療、退院後の12月に転倒して右手首粉砕骨折して翌3月まで入院し、この1年間は執筆が中断した。執筆再開後、飲酒を家族にたしなめられても、「アルコールと妄想と幻覚で生きていたんだ」と聞き入れなかった。

執筆のためには徹底した調査を行い、1本の小説を書くのに最低1メートルにはなる資料を読み尽くして赤ペンでチェックし、京大式カードに分類整理していた。ブラジルボリビアを舞台にした『炎の大地』には、ブラジル在住20年の日本人が「どうしてこんなことまで知っているんだ」と唸ったという。また医療業界の内情に詳しく、ミステリやサスペンス小説での業界の腐敗の描写に説得力を与えている。兵器にも詳しく、ヘリコプターヘリコと略すのも独特。

2007年(平成19年)8月23日肝不全のため東京都内の病院で死去。

文体は断定調の短いセンテンスの多用に特徴があり、格調高く、重厚、叙事詩的と評されながら[2]、人物の決断力を際立たせる効果とともに、ストーリー展開のスピード感をもたらしている。初期の夢枕獏など多くの作家に影響を与えた。

賞・候補[編集]

  • 1972年、朝日新聞社募集の動物愛育記に入選
  • 『安楽死』が、1974年第27回日本推理作家協会賞候補
  • 短編「咆哮は消えた」が、1976年第75回直木賞候補
  • 『滅びの笛』が、1976年第76回直木賞候補
  • 『魔笛が聴こえる』が、1977年第77回直木賞候補
  • 『安楽死』が、1978年「幻影城」誌日本長編推理小説ベスト99
  • 幻想文学」誌の、怪奇幻想ミステリー50選(9号)に『オロロンの呪縛』、幻想SF50選(11号)に『蒼茫の大地、滅ぶ』が選出

作品[編集]

動物小説[編集]

野生動物の生態や人間との交流を題材にした作品を多く書いている。デビュー作「犬鷲」は、巨大なイヌワシに猟犬を殺された猟師を描いたもので、他にも自然の驚異を描いたものが多い。猟犬を飼っていた経験から、犬と人間の交流を描く作品も多く、長編『犬笛』は映画化されて大ヒットした代表作の一つ。『風は悽愴』は明治期に絶滅したと思われているニホンオオカミをテーマにした作品で、短編「咆哮は消えた」の長編化。短編集の中にも動物小説が含まれている。海や山岳を舞台としたサスペンス小説などでも、などの野生動物が重要な鍵となる作品は多い。が活躍する『黒猫の眸のほめき』、狐憑きをテーマにした『蘭菊の狐』などもある。『風と雲の街』『頽れた神々』では、超能力を持った犬の存在がストーリーの大きな鍵を握る。

『呪医』や短篇「庭師」(『賞金犬』)は植物と会話する能力が扱われ、「海の角」(『賞金犬』)ではアオザメカジキと交流する人間が描かれる。

『老人と狩りをしない猟犬物語』は作家活動を始める前に書いた長編で、作者自身も執筆時期を覚えていないが、単行本化の14、5年前としていることから(まえがき)、1960年代後半と推定される。その後の作品の題材が、笹の開花にともなう鼠の大量発生、巨熊、犬鷲、巨猪、山犬との戦い、狐憑き、猟犬との交流など多く内包されている。

作品リスト
  • 『娘よ、涯なき地に我を誘え』徳間書店 1976年(「別冊問題小説」春期特別号(1976年4月)、1978年『犬笛』と改題)
  • 『咆哮は消えた』講談社 1977年(短編集、「犬鷲」収録)
  • 黄金の犬』徳間書店 1978年
  • 『荒らぶる魂』文藝春秋 1978年(『オール讀物』1978年5-8月号)
  • 『黄金の犬 第二部』徳間書店 1979年
  • 『風は悽愴』光文社 1980年
  • 『捜神鬼』講談社 1980年(短編集)
  • 『老人と狩りをしない猟犬物語』角川書店 1981年
  • 『妖魔』徳間書店 1982年(短編集)
  • 『まぼろしの獣』徳間書店 1986年
  • 旅券のない犬』講談社 1987年
  • 「狂馬・春岳」(『小説宝石』1993年6月号、『深い眸』所収)
  • 『賞金犬』徳間書店 1988年(短編集)

社会派ミステリ[編集]

処女長篇は『瀬戸内殺人海流』であり、作家活動の初期には、公害や医療業界の暗部を抉るような作品により、社会派ミステリの書き手としてのイメージが先行した。『安楽死』『蒼き海の伝説』では、追い詰められた境遇の男を主人公にして、死地をくぐり抜けるなどの展開のある、続く『君よ憤怒の河を渉れ』に連なる冒険小説的な要素を備えるようになる。後にハードロマン的作品に比重が移っていき、ミステリ的作品は主に短編で書かれた。

『屍海峡』に登場する瀬戸内海での漁のシーンは、短編「海の宴」(『咆哮は消えた』)でもテーマとして描かれている。

作品リスト
  • 『瀬戸内殺人海流』サンケイ新聞社出版局 1973年
  • 『安楽死』サンケイ新聞社出版局 1974年
  • 『屍海峡』サンケイ新聞社出版局 1974年
  • 『蒼き海の伝説』徳間書店 1975年
  • 『幻の白い犬をみた』ベストブック 1976年(短編集)
  • 『妄執果つるとき』光文社 1977年(『カッパまがじん』1976年初秋号、「妄執の果つるとき」改題)
  • 『憑神』徳間書店 1984年(中編集)
  • 『衄られた寒月』光文社 1988年(中編集、『小説宝石』1984、85年)
  • 『世にも不幸な男の物語』徳間書店 1995年(短編集)
  • 『幽鬼犬』徳間書店 1996年(『世にも不幸な男の物語』改題)

パニック小説[編集]

生物の異常増殖などによる人間社会のパニックを描く作品で、SF的な設定とも言える。『滅びの笛』は笹の開花によって大量に増殖した鼠に山梨県が襲われ、社会が崩壊していく過程が描かれる。その続編『滅びの宴』では、再度大発生した鼠が東京になだれ込む。『蒼茫の大地、滅ぶ』は中国大陸で発生した飛蝗の大群により日本の東北地方が壊滅する。『悪霊刑事』は人間に卵を産みつける蠅が鹿児島で大発生する。鼠大発生のモチーフは短編「憑神」(『憑神』)にも用いられている。短編「廃虚」(『妖魔』)では、清潔なニュータウンヤスデの大発生で崩壊する。『時の旅』は森林伐採による土石流災害と、それを引き起した森林行政の腐敗を描き、『濫觴の宴』と同様の自然保護を謳っている。「癌病船」シリーズは世界中の難病の研究と治療のための最新鋭設備とスタッフを備えた癌病船の、政治的抗争や、謎のウイルスとの戦いを描いている。これらの作品は危機に際しての人間の行動を描くとともに、社会全体への根源的な疑問にまで迫る、西村作品ではもっとも迫力を持つ部類となっている。

作品リスト
  • 滅びの笛』光文社 1976年(「宝石」1976年)
  • 蒼茫の大地、滅ぶ』(上・下)講談社 1978年
  • 『滅びの宴』光文社 1980年
  • 『時の旅』徳間書店 1986年
  • 『悪霊刑事』徳間書店 1988年
  • 癌病船シリーズ
    • 『癌病船』講談社 1981年(「小説現代」1980年10月-81年2月号)
    • 『癌病船応答セズ』講談社 1986年

ハードロマン[編集]

アクション、冒険の要素の強い、西村作品のもっとも一般的なイメージと言ってもいい作品群。「冒険ミステリー」「ハードサスペンス」「バイオレンスアクション」「ハードバイオレンス」「バイオレンスロマン」といった呼び方をされることもある。奈落に落とされた男の復讐劇を柱にして、謎の影に国家レベルの陰謀が隠されているといった設定が多い。このスタイルの作品は、1974年生島治郎から冒険小説を書いたらどうかと勧められたことがきっかけで『君よ憤怒の河を渉れ』を書いたことに始まる。この作品では殺人事件のトリックがストーリーの中心にあるが、次作『化石の荒野』からは冒険や復讐が主となり、あとがきではこれを「処女作」とまで述べた。その後は暴力や陵辱がストレートな筆致で描写される作品も多くなる。初期を除くほとんどの作品がこれらの要素を含み、寿行作品全体が「ハードロマン」と呼ばれることもある。主人公が拷問や陵辱を受ける展開も多く、後年には暴力や拷問が復讐や尋問の手段という枠を超え、男性が多数の女性を飼育したり、また主従逆転など倒錯心理が生まれるといった展開がなされた。

また、毒ガスによる無差別大量殺人を扱った『去りなんいざ狂人の国を』などのクライムノベルのスタイルの作品、死神シリーズ、鯱シリーズなど超人的な能力を持つ主人公が活躍する作品も多い。『鬼女哀し』は連合赤軍によるあさま山荘事件に題材を得た(平岡正明)、女闘士の革命闘争の顛末。『鬼狂い』はバイオレンス描写の中に夫婦愛と死の尊厳を叙情的に謳った異色作。1979年頃から、『昏き日輪』『わらの街』などの、女好きで自分勝手、こ狡くて喧嘩っ早く無鉄砲といった男を主人公にしたコミカルな味の作品も書くようになる[3]。『黒猫の眸のほめき』は寿行や実在の編集者達が実名で登場するユーモアアクション小説。無頼船シリーズや癌病船シリーズには海洋冒険小説的要素も濃い。

『蘭菊の狐』で神秘的で気高い美少女として描かれ、陵辱と暴力の嵐が吹き荒れる中で一人超然と不可触の存在だった主人公阿紫は、続編『襤褸の詩』では一転して悲惨な虜囚、奴隷の境涯に陥る。

最後の長編小説となった『月を撃つ男』も、月を撃ち落とそうと戦闘機で翔け立った男を発端に、謎の陰謀戦に放り込まれた男の彷徨を経て、テロリズムに席巻される世界の予兆を示している。

作品リスト
  • 『君よ憤怒の河を渉れ』徳間書店 1975年(「問題小説」1975年3月号)
  • 化石の荒野』角川書店 1976年(「野性時代」1975年12月号)
  • 『牙城を撃て』(上・下)スポニチ出版 1976年
  • 『帰らざる復讐者』角川書店 1977年
  • 『悪霊の棲む日々』徳間書店 1977年
  • 『白骨樹林』徳間書店 1977年
  • 『双頭の蛇』徳間書店 1977年(短編集)
  • 去りなんいざ狂人の国を』祥伝社 1978年(「GORO」1977年10月-78年7月号)
  • 『われは幻に棲む』徳間書店 1978年(「日刊ゲンダイ」1978年1月24日-9月10日)
  • 『闇に潜みしは誰ぞ』集英社 1978年
  • 『鬼が哭く谷』実業之日本社 1978年(短編集)
  • 『炎の大地』徳間書店 1979年
  • 『修羅の峠』徳間書店 1979年
  • 『わらの街』実業之日本社 1979年
  • 『鬼女哀し』徳間書店 1980年(『アサヒ芸能』1970年8月-1980年5月)
  • 『蘭菊の狐』光文社 1981年
  • 『鬼狂い』講談社 1982年
  • 『襤褸の詩』光文社 1983年(『蘭菊の狐』の続編)
  • 『黒猫の眸のほめき』双葉社 1984年
  • 『コロポックルの河』徳間書店 1987年
  • 『聖者の島』双葉社 1988年
  • 『風と雲の街』光文社 1989年
  • 『蟹の目』徳間書店 1990年(短編集)
  • 『矛盾の壁を超えた男』徳間書店 1990年
  • 『月を撃つ男』光文社 2000年(「小説宝石」1999年4-9月号)

シリーズ作品[編集]

  • 死神シリーズ(鷲シリーズ、中郷・伊能コンビ)
テロ対策として創設された公安特科隊の中郷広秋と伊能紀之は、狂気のテロリスト僧都保行と死闘を演じるが、捜査のあまりの酸鼻さゆえに閑職に追いやられる。2人は世界各地でテロリスト掃討の戦果を挙げ、死神の渾名をたてまつられる。
  • 『往きてまた還らず』徳間書店 1977年
  • 『鷲の啼く北回帰線』徳間書店 1981年
  • 『頻闇にいのち惑ひぬ』光文社 1983年
  • 『鷲の巣』徳間書店 1985年
  • 『母なる鷲』徳間書店 1987年
  • 『涯の鷲』徳間書店 1990年
  • 『鷲』徳間書店 1997年
  • 鯱シリーズ(国際冒険アクション小説)
幻術を操る仙石文蔵、科学技術のスペシャリスト関根十郎、物資調達能力に傑出する十樹吾一、諜報担当の天星清八の4人が、世界各国からの極秘の依頼を受けて活躍する。
  • 『赤い鯱』講談社 1979年(「週刊現代」1977年10月13日-78年6月29日号)
  • 『黒い鯱』講談社 1979年(「週刊現代」1978年8月17日-79年5月10日号)
  • 『白い鯱』講談社 1981年(「週刊現代」1980年3月6日-11月13日号)
  • 『碧い鯱』講談社 1982年(「週刊現代」1981年8月20日-82年6月12日号)
  • 『緋の鯱』講談社 1984年(「週刊現代」1983年8月27日-84年5月5日号)
  • 『遺恨の鯱』講談社 1986年
  • 『幽鬼の鯱』講談社 1987年
  • 『神聖の鯱』講談社 1989年
  • 『呪いの鯱』講談社 1991年
  • 『幻覚の鯱 神軍の章』講談社 1995年(「メフィスト」1994年8月-1995年4月号)
  • 『幻覚の鯱 天翔の章』講談社 1998年
  • 渚シリーズ
海上保安庁特別警備監の関守充介が海を舞台とする事件に立ち向かう。
  • 『遠い渚』光文社 1979年(「小説宝石」1978年7-12月号)
  • 『ふたたび渚に』光文社 1981年(「日刊ゲンダイ」1981年1月6日-7月19日)
  • 『沈黙の渚』光文社 1984年(「小説宝石」1984年1-4月号)
  • 『風の渚』光文社 1987年(「小説宝石」1987年1-4月号)
  • 幻戯シリーズ(宮田雷四郎シリーズ)
一匹狼のヤクザ雷四郎が、精力と仙術で世界中を大暴れする。
  • 『昏き日輪』文藝春秋 1979年(「オール讀物」1979年4-8月号)
  • 『汝は日輪に背く』文藝春秋 1980年(「オール讀物」1980年3-6月号)
  • 『幻戯』光文社 1983年
  • 『夢想幻戯』光文社 1984年
  • 『幻想都市』光文社 1988年
  • 垰(たわ)シリーズ
亡き娘の辿った道筋をジープ、ゴールデン・イーグルで訪ね歩く秋葉文七は、各地の民俗を通して、修験者朝廷の戦いの歴史を暴いていく。伝奇的要素に加え、『垰よ永遠に』では毒蛾の大発生というパニックも登場する。
  • 『垰』角川書店 1979年(「野性時代」1978年6-1979年10月号)
  • 『垰 大魔縁』角川書店 1984年
  • 『垰よ永遠に』角川書店 1984年
  • 無頼船シリーズ
    • 『無頼船』角川書店 1981年
    • 『攻旗だ、無頼船よ』角川書店 1982年
    • 『魔境へ、無頼船』角川書店 1983年
    • 『無頼船、極北光に消ゆ』角川書店 1985年
    • 『無頼船 ブーメランの日』角川書店 1986年
    • 『無頼船、緑地獄からのSOS』角川書店 1988年
  • 逢魔シリーズ
明鏡流杖術の奥義を会得した美人女性武術家「逢魔麻紀子」「紀魅」母娘がそれぞれ主人公のハード・ヴァイオレンスノベル。いずれの作品においても、二人は巨大組織の陰謀に巻き込まれ、拉致監禁の上、奴隷として飼われるが、最後には仲間の協力も得て復讐を果たす。
「花に三春の約あり」と「妖しの花乱れにぞ」は、紀魅の母である麻紀子はほとんど登場せず、人間関係も正確な継続性がないため、逢魔シリーズ三部作と言うより「峠に棲む鬼」のスピンオフ的物語として存在している。
「花に三春の約あり」と「妖しの花乱れにぞ」は紀魅が主人公の二部作。
  • 『峠に棲む鬼』(上・下)徳間書店 1978年
  • 『花に三春の約あり』徳間書店 1983年
  • 『妖しの花乱れにぞ』徳間書店 1984年
  • 街シリーズ
松浦水軍の末裔である本家・鉈割瓢、分家・斧割糺の、落ちぶれて破れかぶれになった冒険。
  • 『風紋の街』光文社 1984年
  • 『陽炎の街』実業之日本社 1987年

ポリティカルフィクション[編集]

政治体制の変革をテーマに据えた作品。『闇の法廷』『鉛の法廷』『人類法廷』は、司法で裁けない犯罪者を私設裁判所が裁くという設定で、『鉛の法廷』では権力を握ろうとする宗教団体を巡り内戦にまで及ぼうとする戦いを描く。『ガラスの壁』はソ連北海道侵攻の策謀。『頽れた神々』『ここ過ぎて滅びぬ』は、近未来の道州制下の日本で、それぞれ四国州と連邦政府の抗争、北海道政府転覆を狙う謎の機関との戦い。『蒼茫の大地、滅ぶ』においても、パニックの延長上に東北地方の独立という政治的ドラマがある。

作品リスト
  • 『闇の法廷』文藝春秋 1981年
  • 『濫觴の宴』光文社 1983年
  • 『鉛の法廷』双葉社 1984年
  • 『人類法廷』徳間書店 1985年
  • 『ガラスの壁』徳間書店 1985年
  • 『頽れた神々』(上・下)徳間書店 1989年
  • 『ここ過ぎて滅びぬ』講談社 1992年

時代小説[編集]

『怨霊孕む』は南北朝戦乱期の武将の、時代の流れや内面の狂気に向き合う凄絶な生き様を描いている。『秋霖』は尼子一族の遺児の奔放な姿と、尼子再興に賭ける山中鹿之介らの戦いが対比されて描かれる。『虚空の影落つ』『牛馬解き放ち』は、いずれも幕末から明治初期にかけての混乱期に権力に翻弄される人間の反抗を描いたもので、岩倉具視と対立する謎の虚無僧「虚空」が両作品で活躍する。『曠野の狼』『狼のユーコン河』は明治開拓期の北海道、第二次大戦中のアラスカでの日系人強制収容を題材に、戒能兵馬という人物を軸にした物語。『血の翳り』では、江戸時代から明治にかけての血の繋がりの物語と現在が交錯する。

作品リスト
  • 『怨霊孕む』講談社 1980年
  • 『秋霖』(上・下)実業之日本社 1981年
  • 『虚空の影落つ』徳間書店 1981年
  • 『牛馬解き放ち;太政官布告第二九五号』双葉社 1982年(「小説推理」1981年8月-1982年1月号)
  • 『狼のユーコン河』光文社 1983年
  • 『曠野の狼』光文社 1986年

伝奇・幻想[編集]

ハードサスペンス的な作品の中でも、伝奇的、あるいは幻想的な設定の作品もある。『呪医』では植物と交感する少年が登場し、植物と人類の対立構造、植物の地球外生物説なども提示される。『呑舟の魚』は、巨魚の伝説から妄執に取り憑かれた兄弟の壮絶な確執の物語。『裸の冬』は古代にシルクロードを渡って日本に辿り着いた、持ち主に繁栄をもたらすという織物作りの一族の末裔を巡る物語。『石塊の衢』では縄文時代に地軸の逆転とそれにともなう気候変動があったのではないかという仮説から出発した、津軽地方の歴史の謎に翻弄される人間を描く。

鬼をモチーフにした作品は多く、『鬼』は「今昔物語集」に登場する平安時代の伝説を現代に甦らせた連作中編集で、「日本幻想作家名鑑」(東雅夫石堂藍、幻想文学出版局、1991年)で寿行幻想文学の最高傑作と称せられている。この鬼の造形は『呪医』にも現れる。また東北地方の歴史と鬼の関わりを「東日流外三郡誌」を引いて述べており、これは『石塊の衢』の設定にも用いられている。『鬼の都』は「雨月物語」で屍を啖う鬼と化した阿闍梨のイメージが首都を覆う様を描き、『われは幻に棲む』の鬼女は「日本書紀」で日本武尊の前に現われて白犬に封じられた悪霊に例えられている。「情鬼の邑にとらわれし女の物語」(『人間の十字路』)は、女に取り憑いて次々に人間を喰らう情鬼(おに)との戦いのスペクタル。

後期作品では、幻想的な設定がメインのテーマであるか単なる背景であるかの区別は曖昧となっていく。『魔物』では主人公を付け狙う「物の怪」自体よりも、戦いに向かう精神に描写が多く割かれ、『魔性の岩鷹』では時間を繰り返し体験する男が主人公だが、テロリストとの戦いの中で設定の意義は人物の内面に収斂していく。「深い眸」(『深い眸』)でも、山村の岳女伝説を現代に甦らせる超能力者集団の汚辱と怨念が、ハードロマン的な闘争と混交する。

他にも幻術、仙術の登場する鯱シリーズ、幻戯シリーズ、『ガラスの壁』に登場する超能力者、『悪霊の棲む日々』の合成生物など、空想的な設定が登場する作品は多い。短編「始祖鶏物語」(『幽鬼犬』)では、の祖先の黒鶏が現代に甦ったことで生じる混乱と幻想を描いている。

作品リスト
  • 『呑舟の魚』新潮社 1979年
  • 『血の翳り』祥伝社 1980年(『微笑』1979年197-1980年228号)
  • 『地獄』(上・下)徳間書店 1982年(「SFアドベンチャー」1981年2-12月号)
  • 『裸の冬』徳間書店 1982年
  • 『石塊の衢』双葉社 1983年
  • 『鬼』角川書店 1983年(中編集)
  • 『人間の十字路』徳間書店 1987年(短編集)
  • 『呪医 ウィッチ・ドクター』徳間書店 1990年
  • 『魔物』光文社 1990年(「小説宝石」2-7月号)
  • 『鬼の都』光文社 1992年
  • 『魔性の岩鷹』徳間書店 1993年
  • 『深い眸』光文社 1994年(中編集)

上記以外の作品[編集]

1970年代
  • 『世界新動物記』勝利出版 1971年
  • 『原色の蛾』ベストブック 1976年(短編集)
  • 『汝!怒りもて報いよ』スポニチ出版 1977年
  • 『魔の牙』徳間書店 1977年
  • 『魔笛が聴こえる』文藝春秋 1977年
  • 『荒涼山河風ありて』実業之日本社 1977年
  • 『わが魂、久遠の闇に』講談社 1978年
  • 『回帰線に吼ゆ』角川書店 1978年
  • 『魔界』徳間書店 1978年(短編集)
  • 『神の岬』文藝春秋 1978年
  • 『怒りの白き都』徳間書店 1978年
  • 『遥かなる海嘯』徳間書店 1979年
  • 『二万時間の男』光文社 1979年
  • 『妖獣の村』光文社 1979年
  • 『梓弓執りて』光文社 1979年
1980年代
  • 『滅びざる大河』双葉社 1980年
  • 『虎落笛』徳間書店 1980年
  • 『陽は陰翳してぞゆく』双葉社 1980年
  • 『扉のない闇』新潮社 1981年(短編集)
  • 『虚空の舞』徳間書店 1981年
  • 『症候群』光文社 1982年(短編集)
  • 『オロロンの呪縛』光文社 1982年
  • 『晩秋の陽の炎ゆ』双葉社 1982年
  • 『霖雨の時計台』徳間書店 1983年
  • 『宴は終わりぬ』徳間書店 1983年(エッセイ集)
  • 『空蝉の街』実業之日本社 1984年
  • 『監置零号』光文社 1984年
  • 『雲の城』徳間書店 1985年(中編集、エッセイ「サロン・クルーザー」収録)
  • 『牙』徳間書店 1985年(短編集)
  • 『異常者』講談社 1985年
  • 『鬼の跫』講談社 1985年
  • 『珍らしや蟾蜍、吐息す』双葉社 1986年
  • 『死神 ザ・デス』光文社 1986年
  • 『山姥が哭く』徳間書店 1986年(短編集)
  • 『凩の蝶』角川書店 1987年
  • 『魔の山』徳間書店 1987年(短編集)
  • 『残像』徳間書店 1988年(短編集)
  • 『執鬼』徳間書店 1988年(短編集)
  • 『道』光文社 1988年
  • 『無法者の独立峠』徳間書店 1988年
  • 『学歴のない犬(上)(下)』角川書店 1989年
1990年代
  • 『凩の犬』角川書店 1991年
  • 『消えた島』角川書店 1992年
  • 『魔獣』徳間書店 1992年(短編集)
  • 『幻獣の森』徳間書店 1993年
  • 『デビルズ・アイランド』角川書店 1996年(角川書店創立50周年特別作品、『小説王』1994年9月-1995年1月号、『野性時代』1995年4-7月号)
  • 『大厄病神』角川書店 1996年
  • 『凌虐の町』徳間文庫 1997年(短編集、『魔獣』改題)
  • 『牡牛の渓』光文社 1998年(短編集)
  • 『禁呪』勁文社 1999年(中編集、『憑神』改題)
  • 『濁流は逝く者の如し』勁文社 1999年(短編集、既刊本からの再録)
  • 『幻獣』勁文社 2000年(中編集、『憑神』改題)
  • 『碇の男』徳間書店 2001年(短編集)

その他のシリーズ的作品[編集]

多くの作品に共通して登場する人物に、警察庁刑事局捜査第一課特別処理係長である徳田左近がいる。迷宮入りとなりそうな事件の捜査を請け負って、全国各地を飛び回る役どころで、ミステリ、サスペンスの中短編に登場することが多い。長編では『コロポックルの河』に登場。各作品のストーリーのつながりは無い。「ケイブンシャノベルス 刑事徳田左近シリーズ」と題した単行本として『濁流は逝く者の如し』『禁呪』『幻獣』、他に『原色の蛾』『幻の白い犬を見た』『妖魔』『憑神』『雲の城』『衄られた寒月』『蟹の目』、短編で「幽鬼犬」(『幽鬼犬』)など。祖父に習った九鬼神流の杖術の使い手で、動物の生態に詳しく、しばしば事件解決の思わぬヒントとなる。囲碁も趣味の一つ。

『われは幻に棲む』の退職刑事浜村千秋も、同じく九鬼神流杖術の使い手。『峠に棲む鬼』などの逢魔麻紀子、その娘紀魅は、平家落人部落に代々伝わった明鏡流杖術を使う。

海を舞台とする作品は多く、スキューバ・ダイビングを題材にした『安楽死』、瀬戸内海の海洋汚染を背景とする『屍海峡』、海流をトリックに使う『蒼き海の伝説』など初期の推理小説や、海上保安庁職員を主人公にする『遠い渚』シリーズ、荒くれ者達の乗り組む貨物船を舞台にした『無頼船』シリーズ、世界を巡る病院船『癌病船』、最新鋭原子力潜水艦をめぐる深海における戦い『赤い鯱』などがある。海への思いは『遠い渚』(カッパノベルズ版、1980年)の「著者のことば」では「わたしは海で生まれた。小さな島であった。まわりは海だらけであった。海しかなかった。磯で遊んだり、潜ったりして育った。文字どおり、海は母であった」と述べている。また『瀬戸内殺人海流』では登場人物の海上保安庁職員に「海は生命を育んで陸に渡した。それを暗冥二に引き取るのも海の仕事です。(略)潮汐が生命を左右するのです。(略)海をあばこうとしても、無理だと思いますがね。」と語らせており、郷原宏は「これは日本語で語られた最も美しい海の文学である」と述べている。[4]

作品集[編集]

  • 『西村寿行選集(NISHIMURA HARD-ROMAN SERIES)』トクマ・ノベルスより、1975年に第4巻『君よ憤怒の河を渉れ』を皮切りに刊行された。
  • 『西村寿行ノベルス・シリーズ』ワンツーマガジン社より、2010年に「君よ憤怒の河を渉れ」「鬼」「風は悽愴」を刊行。

原作作品[編集]

映画[編集]

ビデオ[編集]

テレビドラマ[編集]

漫画[編集]

[編集]

  1. ^ 国立国会図書館では「にしむらとしゆき」で登録
  2. ^ 佐々木知彦「解説」(『幻想都市』光文社文庫 1992年)
  3. ^ 北上次郎「解説」(『幻戯』光文社文庫 1987年)
  4. ^ 郷原宏「解説」(『ふたたび渚に』光文社文庫 1985年)

参考文献[編集]