西巷説百物語

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西巷説百物語
著者 京極夏彦
発行日 2010年7月23日
発行元 角川書店
ジャンル 妖怪時代小説
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 四六判
ページ数 612
前作 前巷説百物語
次作 遠巷説百物語
コード ISBN 4-04-874054-7
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巷説百物語シリーズ > 西巷説百物語

西巷説百物語』(にしのこうせつひゃくものがたり)は、角川書店から刊行されている京極夏彦の妖怪時代小説集。「巷説百物語シリーズ」の第5作。妖怪マガジン『』にvol.0023からvol.0028まで連載された。第24回柴田錬三郎賞受賞作。

概要[編集]

前4作から趣を変え、又市の悪友・靄船の林蔵へ主役を交代し、作品の舞台も上方へと移る。人が生きて行くには痛みが伴う。人の数だけ痛みがあり、傷むところも傷み方もそれぞれちがう……大坂を舞台に、明確な悪意ではなくそれと知れず病んだ心が引き起こしてしまうが故に恐ろしい事件を描く。様々に生きづらさを背負う人間たちの業を、又市の悪友・林蔵があざやかな仕掛けで解き放つ。

あらすじ[編集]

大坂屈指の版元にして、実は上方の裏仕事の元締である一文字屋仁蔵の許には、数々の因縁話が持ち込まれる。いずれも一筋縄ではいかぬ彼らの業を、あざやかな仕掛けで解き放つのは、御行の又市の悪友、靄船の林蔵。亡者船さながらの口先三寸の嘘船で、靄に紛れ霞に乗せて、気づかぬうちに彼らを彼岸へと連れて行く。「これで終いの金比羅さんや―」。

登場人物[編集]

主要登場人物は巷説百物語シリーズを参照。

林蔵(帳屋の林蔵、靄船の林蔵)
天王寺で書き物全般を扱う帳屋を営む。店先にが括られているので樒屋とも呼ばれている。切れ長の吊眼がどこか高貴な印象を与える佳い男だが、女にはどうもつれない。口先三寸口八丁の嘘船に乗せ、気づかぬうちに相手を彼岸に連れて行く遣り口から、比叡七不思議の一つ「靄船」の二つ名がある。
柳次(六道屋の柳次、浮かれ亡者の柳次)
大名家から払い下げて貰った献上品を売り捌く献残屋を渡世とする。紀州の生まれで江戸から上方へと東へ西へ流れて暮らしているという。死人を恰も生きているように見せかける死人芝居を得意としており、浮かれ亡者の二つ名がある。
お龍(横川のお龍)
柳次と組んでの幽霊芝居を得意とし、小娘から老婆まで、どんな女にも見事に化ける。

桂男[編集]

大阪の杵乃字屋の一人娘に縁談話が舞い込む。尾張の城島屋からの縁談だったが、城島屋の手口で店を潰されるかもしれないと、大番頭が主人に進言するがーーー(『怪』vol.0023 掲載)

登場人物[編集]

剛右衛門
紀州から流れてきた崩れ馬喰だったが、廻船問屋の杵乃字屋を裸一貫で築き上げた。上方での暮らしも今年で25年になる。
お峰
剛右衛門の一人娘。尾張の回船問屋である城島屋の籐右衛門から縁談の話が来ている。
儀助
杵乃字屋の大番頭。剛右衛門の許で働いて十年になる。今回の縁談話を慎重に考えるよう主人の剛右衛門に進言する。
籐右衛門
城島屋の次男坊。お峰を見初めたとして恋文を送る。
里江
松野屋の一人娘。城島屋に店を乗っ取られて親子ともども受けた非道を語る。

遺言幽霊 水乞幽霊[編集]

春。頭痛で目覚めた貫蔵は、自分が3ヶ月前に倒れたきりずっと寝たままだった事を知る。しかも記憶は1年前の春以降の事が思い出せないらしい。父である貫兵衛から勘当されたのは、昨日の事ではなかったのかーーー(『怪』vol.0024 掲載)

登場人物[編集]

貫蔵
両替商小津屋の次男。堂島で倒れたところを林蔵に助けられた。3ヶ月後に目覚めたが、ここ1年の事が思い出せない。強欲な父貫兵衛と、言うがままで世渡り上手な兄貫助を憎んでいる。
文作
小柄な男。3ヶ月前から小津屋の番頭をしているという。
貫兵衛
小津屋の主人。貫蔵に身代を譲った後、昨年の長月に亡くなったという。
貫助
小津屋の長男。一昨年の時雨月、小津屋に押し込みが入った際に殺されたという。我が儘を言わず駄々を捏ねることもない良い子だった。言い換えると大人の顔色を窺い、場を読んで取り繕うのが上手な子供だったという。
喜助
小津屋の番頭だった。大旦那の貫兵衛が亡くなった跡を追ったという。

鍛冶が嬶[編集]

土佐で刀鍛冶をしている助四郎は悩んでいた。何よりも大切な、親よりも国よりも大事に思っており、出来ることは何でもして望むものは何でも与えてきた女房が、何かと入れ替わったかのように笑わなくなってしまったのだ。御行の又市の紹介で大阪の一文字屋へ相談に行くがーーー(『怪』vol.0025 掲載)

登場人物[編集]

助四郎
土佐は佐喜浜刀鍛冶。名匠名工の類ではないが、その能く切れる乱れ刃は高く売れている。女房の八重が笑わなくなって困っていたところを、船幽霊騒動で動いていた又市より案内を受け、一文字屋に相談する。
一文字屋 仁蔵
大阪でも指折りの版元である一文字屋の主人。その裏の顔は何とも為難き困りごとの相談に相応の金額で請ける渡世の元締。屋号の暖簾は臙脂に白く染め抜かれた、丸に一の字。柔和な顔で貫禄もあるが明らかに只者ではない雰囲気を纏っている。意外なことに上方の言葉は話さない。
佐助
一文字屋の番頭。能く肥えている。助四郎の話を受け仁蔵の元へ案内する。
八重
助四郎の女房。当たり前の事に喜び、微笑んで、時に声を出して笑う優しい女性。10年前、父親が亡くなって独り身だった助四郎の許に通い、あれこれと面倒をみていた。八重のおかげで助四郎はそれまで置き去りにしてきた人としての色色なことを学ぶ。だが助四郎も分からない何かの理由で、2年前から笑うことを止め口も利かなくなってしまう。

夜楽屋[編集]

人形浄瑠璃の楽屋で塩谷判官の首(かしら)が割れた。高師直との人形争いだと一同が騒ぐ。8年前にも同様の人形争いが起こり、人死にまで出たのだ。その真相はーーー(『怪』vol.0026 掲載)

登場人物[編集]

藤本 豊二郎
人形遣い。豊二郎の2代目。此度の芝居で塩谷判官の主遣い。元の名は末吉といい摂津の貧農に生を受ける。6人兄姉の末で本来は間引かれる筈の子であった。10歳の頃に行き倒れたところを先代の藤本豊二郎に拾われ人形遣いの下働きとなる。17歳で黒衣の格好に、18歳で足遣いになり、20歳で一人遣いの人形を任される。28歳で左遣いに昇るがそこからが長く、首をなかなか持たせて貰えなかったという。
米倉 巳之吉
人形遣い。巳之吉の二代目。此度の芝居で高師直の主遣い。元の名は由蔵で先代の息子にあたる。また先代の巳之吉は8年前に先代豊二郎殺しの下手人として疑われたまま、自害して果てている。
坂町の小右衛門
江戸の人形師。気難しそうな偉丈夫。豊二郎の使う塩谷半官の割れた首級を元に戻すと引き受ける。生き人形を拵える大層な名人で、10年前に江戸で打った無惨修羅場の芝居の見事さにお上が怖れ、手鎖に掛かかっている。江戸を出て行方知らずとなっていたが北林藩に隠遁ののち、ここ大阪にいた。元は四国の出という。

溝出[編集]

三曾我五箇村を疫鬼が襲う。領主により封鎖され孤立した5つの小さな村は、疫病で果てた骸の山と飢餓で動けなくなった村人がいる阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。そこに戻った寛三郎だけが鬼となって腐る死骸を集め、火にくべて燃やし尽くすが、10年後、死骸が燃やされた荼毘ケ原で幽霊が出る。なぜ幽霊が今になって出るのかーーー(『怪』vol.0027 掲載)

登場人物[編集]

寛三郎
侠客。三曾我五箇村の一つ花里村の組頭の息子。若い時分に家を捨て、泉州の侠客・蓑借一家の子分となっていたが跡目争いに負け、村へと逃げ帰る。だが村は疫病で封鎖されており、家の中も外もゴロゴロ屍が転がっている酷い有様を目の当たりにし、死骸を集め大八車で何度も何度も山の方へ運び出し、生き残ったものには山野の喰えるものを調達する。村は救われるが、その時の姿が鬼にも地獄の獄卒にも例えられ、今では村の庄屋以上に畏れ、顔役として敬われている。
作造
三曾我五箇村のひとつ、竹森村の組頭。荼毘ヶ原の幽霊騒ぎは、10年前の疫病の際きちんと弔えなかったからと、供養をするよう寛三郎に陳情に上がる。
又右衛門
五箇村の庄屋。疫病が流行った時はまだ12歳だった。荼毘ヶ原の幽霊騒ぎを極度に怯え、屋敷に籠って一歩も出てこない。寄り合いにも来ないという。
又兵衛
先代の庄屋で又右衛門の父親。村に疫病が流行り寛三郎が戻った時にはすでに姿が無かったという。
和尚
五箇村唯一の檀那寺である庵徳寺の和尚。10年前の疫病で亡くなった村人の供養をする訳を、寛三郎に説く。

豆狸[編集]

酒屋の売り上げの勘定が少しずつ減っている事に気づく与兵衛。笠を被った5つか6つくらいの可愛い男の子が2月頃より毎日通いだしてからという。その子供とはいったい誰なのかーーー(『怪』vol.0028 掲載)

登場人物[編集]

与兵衛
酒蔵新竹の主人。親は煮売り屋。14歳の時に江戸を出て20余年、上方に腰を落ち着けて8年になる。だが何年経っても江戸弁が抜けない。
善吉
蔵の泡番。己達の仕込んだ酒は本当は全部己で飲み干したいと豪語する程の酒好き。店の怪事は、伊丹や灘の酒蔵で祀られているマメダのせいだと与兵衛に話をする。
多左衛門
酒蔵新竹の先代。売る側の敷居は高く、買う側の敷居は低くという信条が口癖。新竹を襲った悲しい出来事ののち、見込んだ入り婿である与兵衛に酒蔵を譲る。
さだ
多左衛門の娘。のちに与兵衛の妻となる。
喜左衛門
さだの兄。当時新竹の番頭であった。
与吉
与兵衛とさだの子。元気な男の子だった。
徳松
喜左衛門夫婦の子。碁盤縞の着物を着ていた。

野狐[編集]

摂津で代官所が燃える大騒ぎの後。行者姿に姿が変わった又市に再開したお栄は、16年前に自分の妹を死なせた林蔵が再び大阪に戻り、一文字屋仁蔵の手下として動いていることに気づく。ここ最近の巷説に見え隠れする林蔵とは果たしてあの林蔵なのかーーー(書き下ろし)

登場人物[編集]

お栄
船宿「き津袮」の雇われ女将。縁起物を売り歩く削掛屋だった頃の林蔵を知る。5つの時に父親を、10の時にに母親を亡くし、妹と二人で生きてきた。妹の死後は生き抜くために様々なことに手を染めた挙句、野干のお栄との二つ名がつく。
お妙
栄の3つ齢下の妹。かつて林蔵にのぼせ上がっていた。林蔵が辰造一家を追い込んでいる時に巻き込まれて命を落とす。
辰造(放亀の辰造)
四天王寺界隈で香具師の元締めをしている。金さえ出せば何でもする辰造一家の主という裏の顔を持つ。
又市
林蔵の兄弟分。かつて一文字狸の手下として林蔵と一緒に辰造一家を追い込むが失敗し、大阪から姿を消した過去を持つ。摂津での仕事が終わった後、お栄と再会する。
山岡百介
江戸の京橋に住まう若者。諸国を歩いて怪談奇談珍談巷談を聴き集めて書き記している。先日までは京にいて帷子辻に忽然と現れては消える腐乱死体を見たという。閑寂野の荒野に点点と燈った狐火の噂を聞きつけて、き津袮を訪れる。帳屋の林蔵と一緒にいたという。

書誌情報[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]