般若心経秘鍵

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般若心経

般若心経秘鍵』(はんにゃしんぎょう ひけん)は空海によって書かれた『般若心経』の注釈書で、『般若心経』を密教の立場で解釈した論書である。

内容[編集]

『般若心経』を鳩摩羅什訳と大遍覚三蔵(玄奘)訳などとの異同点を指摘し、『般若心経』を『大般若経』の要約ととらえるのではなく、 『陀羅尼集経』巻3「般若波羅蜜神呪経」などから、般若菩薩の大心真言(ギャテイ ギャテイ ハラギャテイ ハラソウギャテイ ボウジ ソワカ)による内証三昧を説いた経典と説く。

なお「心」とは、サンスクリット語「フリダヤ」の漢訳であり、これは肉団心(心臓)を意味し、同事に真言(神呪)を指す。 そもそも般若心経の歴史的成立を見れば、「ギャテイ、ギャテイ…」の般若般若波羅蜜神呪への信仰から生まれており、そこから読誦経典として重視されてきた。 般若心経に対して空観を説くという解釈では巻末に真言を説く理由として弱く、般若心経信仰成立の流れから見ても真言念誦による三昧地を説くという『般若心経秘鍵』の解釈は必ずしも特異なものではないといえよう。[独自研究?]

※現存最古の梵本般若心経である法隆寺貝葉本においても、真言の後に「以上が般若波羅蜜の心(フリダヤ)である」と締めくくられており、経を意味する「スートラム」は記されていない


本文内容は『般若心経』を「人法総通分」、「分別諸乗分」、「行人得益分」、「総帰持明分」、「秘蔵真言分」の五段に分けて解説する。

 ・「人法総通分」…人と法とを全体を通じて解き明かす部分(「観自在…」から「度一切苦厄」まで)

 ・「分別諸乗分」…諸仏の内証を諸宗に配当し解き明かした部分(「色不異空…」から「無所得故」まで)

   ●普賢菩薩(華厳宗)「色不異空」~「亦復如是」

   ●文殊菩薩(三論宗)「是諸法空相」~「不増不減」

   ●弥勒菩薩(法相宗)「是故空中無色」~「無意識界」

   ●縁覚・声聞(小乗)「無無明」~「無苦集滅道」

   ●観自在菩薩(天台宗)「無智」~「以無所得故」

 ・「行人得益分」…修行した人が得る利益を説く部分(「菩提薩埵…」から「三藐三菩提」まで)

 ・「総帰持明分」…すべてが真言(明咒)に帰することを説く部分(「故知般若…」から「真実不虚」まで)

 ・「秘蔵真言分」…秘密の真言を説く部分(「ギャテイギャテイ…」より「ソワカ」まで ※本文での真言は梵字表記)

本論の解釈の立場は「顕密は人にあり、声字はすなわち非なり」に表されるように、顕密の相違は経典それ自体ではなく、それを聞き学ぶ側によるとし、仏教を主体的にいかに受けとめるかという点を、個々に投げ掛けている。

成立[編集]

成立年代ははっきりとは分かっていないが、上表文を根拠とした弘仁9年(818)説や、承和元年(834)に東大寺南院で作成されたという説が古来伝承されるが共に確証はない。

なお伝統的に『般若心経秘鍵』の巻末には「上表文」と称するものが付けられていて空海作として信仰されてはいるが、文献学的見地では本文と矛盾した記述、意味不明な内容、空海作とは思えない稚拙な文体等や、上表文に言及する文献が鎌倉後期以降であって、平安期には見られないことから、上表文は後世の偽作と見られている。

脚注[編集]

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注釈[編集]

出典[編集]

解説文献[編集]

  • 『密教大辞典』法蔵館
  • 『般若心経の歴史的研究』福井文雅
  • 勝又俊教『秘蔵宝鑰・般若心経秘鍵』〈佛典講座32〉大蔵出版、1977年。
  • 金岡秀友『空海 般若心経秘鍵』太陽出版、1986年。
  • 福田亮成『般若心経秘鍵』ノンブル 1988年、新版2001年。
  • 加藤精一『弘法大師・空海を読む 即身成仏義・弁顕密二教論・般若心経秘鍵・三昧耶戒序』大法輪閣、2002年
  • 村岡空『般若心経秘鍵入門』大覚寺出版部、2004年。