航空気象

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上空を飛ぶ飛行機の機内から見た

航空気象(こうくうきしょう)とは、航空機における安全な飛行・運航などに関係する気象のことである。すなわち、「安全を確保するため」の気象である[1]。20世紀に生まれた航空の分野において、気象は非常に重要視されている。航空機は常に安全に空を飛行し、無事に目的地に到着しなけらばならないが、大気中を飛行する限り、あらゆる気象の影響を受けざるを得ない[1]。特に悪天候などによる影響で、離着陸や飛行など、運航に様々な悪影響が生じる。そのため、航空機が安全な運航を行う上で必要とする様々な情報の中で、最も重要な情報の1つが気象である[1][2]。航空気象は、航路や離着陸地の安全のための情報などに特化されている。

航空機の運航に欠かせない気象情報[編集]

航空機の安全な運航には、乱気流などが大敵である。特に積乱雲の周辺には、このような危険な現象が発生しやすく、航空機はこれらを避けて飛行しなければならない。また、、低い雲などにより滑走路がよく見えないと、航空機は安全な離着陸を行うことができない[3]。低空を飛行する小型機は、飛行経路の悪指定に注意しなければならない。このほか、着氷火山噴火により噴出される火山灰など、航空機の飛行に影響を与える現象はたくさんある。このため、気象情報は航空機の運航にとって不可欠の要素である[3]。更に近年、航空技術の進歩や経済活動の進展により、航空輸送は飛躍的に増加しているため、航空機の安全で効率的な運航を支援する気象情報の役割は、一層重要になりつつある[3]

航空機が安全に運航するには一定のルールが必要であるため、世界各国は、国際民間航空機関(ICAO)に加盟し、航空に関係する機関や航空会社は、国際的に統一された基準に従ってサービスを行っている[3]。気象庁も、ICAOと世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて、航空気象サービスを行うとともに、国内航空のための独自のサービスも行っている[3]

航空気象情報の役割[編集]

航空気象情報は、航空機の運航における様々な場面で、目的に応じて利用される[3]

まず、飛行計画を立てる際に、出発空港、目的空港、代替空港、途中経路近辺の空港の気象実況および到着時刻までの予報、そして航空路の風、気温、雲の状況などの情報が利用される[3]

飛行中の航空機には、飛行空域の悪天情報、目的空港の気象実況、予報などが、また着陸直前の航空機には、その空港の風や視程などの気象実況が利用される[3]

その他、空港に駐機している航空機や空港施設の安全確保のためにも航空気象情報が利用される[3]

出発前の飛行計画として、パイロット運航管理者は、航空路や目的空港の気象状態や予報をもとに、安全で快適な飛行コース、搭載燃料などを決める[3]。また、出発空港や目的空港の気象として、航空機の離発着には空港の風や雲、視程などの気象情報が必要である。さらに、駐機中の航空機や空港施設の安全確保として、空港内の航空機や施設を気象災害から守るため、適時的確な気象情報が必要となる[3]

気象庁の取り組み[編集]

日本における気象庁では、航空機の安全で効率的な運航を支援するため、航空局航空会社などに気象情報を提供している[3]

ほぼ全国の空港には、その空港の規模に応じて、航空気象情報を提供する気象台測候所出張所などの気象庁の施設がある。空港の気象を観測し、数時間先の空港の気象を予報し、これらの情報を航空機の安全な運航のために提供している[1][4]

航空気象観測業務[編集]

空港における気象観測[編集]

全国の航空気象官署などでは、航空機の安全な離着陸を確保するため、航空気象観測を行っている。航空気象観測で観測する気象要素は、風、視程、滑走路視距離(観測装置設置空港のみ)、大気現象、雲、気温、露点温度、気圧、降水量、積雪又は降雪の深さの10種類である[5]

空港気象観測システム[編集]

航空気象観測には、気温、露点温度、滑走路視距離、風(風向・風速)、気圧、降水量、積雪・降雪の深さなどの、器械で測定する要素と、雲(量・形・高さ)、視程(空港周辺の見通せる距離)、雷・雨・霧などの、人間が目や耳で観測する要素の大気現象などがある。空港で気象観測を行い、通報するシステムに空港気象観測システムがある。観測したデータは、空港内の管制官や航空会社の運航担当者などに提供しているほか、全国の空港をはじめ国外の航空機の運航に関わる機関や航空会社にも配信している[6]

空港気象ドップラーレーダー・空港気象ドップラーライダー[編集]

マイクロバースト

空港気象ドップラーレーダー空港気象ドップラーライダーは、積乱雲などからのダウンバーストに伴う「マイクロバースト」や「シアーライン」と呼ばれる風の急変域を検出する装置である。空港気象ドップラーレーダーで検出した風の急変域の情報は、管制官や航空会社の運航担当者などに速やかに提供され、航空機の安全な運航に活用されている[7]。空港気象ドップラーライダーは現在、成田国際空港東京国際空港関西国際空港に設置されている[8]

雷監視システム[編集]

雷監視システムは、雷により発生する電波を受信し、その位置、発生時刻等の情報を作成するシステムである。この情報を航空会社などに直ちに提供することにより、空港における地上作業の安全確保や航空機の安全運航に有効に利用されている[9]

航空気象観測所における観測[編集]

航空気象観測所は、空港の気象観測の一部を、その空港の管理者など(地方公共団体など)に委託して行うための施設である。基地気象官署は、航空気象観測所への気象観測指導のほか、リアルタイムでモニタできる自動観測データのチェックや観測データの品質管理を行っている[10]

航空気象観測所では、風向・風速、雨の量・強さ、気温、湿度、大気現象、視程、雲の量・高さの観測を行っている。視程、大気現象、雲の量・高さは観測者が目視によって観測し、その他は観測装置により自動的に観測して、観測データを基地気象官署へ報告する。基地気象官署では、報告された観測データのチェックを行い、航空局や航空会社、気象庁へ通報する[10]

航空気象観測の完全自動化[編集]

航空気象情報には、航空機の運航に必要不可欠なものとして、よりきめ細かく高精度な情報の提供が求められている一方、昨今の航空事業を取り巻く情勢は厳しく、以前にも増して効率的な実施が求められている。こうした情勢は世界各国でも同様であり、すでに欧米諸国では空港における航空気象観測通報の完全自動化が導入され、事業としての効率化だけでなく、観測通報の一定性や定時性等、利用上の観点からも評価されていまる。気象庁では、このような状況を踏まえ、日本における完全自動化の導入に向けた検討及び技術開発を進め、2017年3月8日に導入を開始した[11]

2020年10月8日現在、以下の8空港において航空気象観測の完全自動化を実施している[11]

航空気象予報業務[編集]

飛行場に関する気象情報[編集]

航空地方気象台や航空測候所では、航空機の運航や空港の施設などに影響を及ぼす風向風速や視程・天気などの要素について、飛行場予報飛行場警報飛行場気象情報を発表している。これらの情報は、航空管制機関、航空会社の運航管理者やパイロットに提供される。なお、飛行場予報については、国外の航空管制機関や航空会社などにも配信される[12]

空域に関する気象情報[編集]

航行中の航空機にとって、乱気流や火山灰、機体への落雷・着氷の発生は、運航の安全性と快適性に大きな影響を及ぼす。気象庁は、日本付近や太平洋上の気象監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷、火山の噴煙等に対する注意を喚起するために、シグメット情報国内悪天予想図などを発表している。パイロットや運航管理者などはこれらの情報などを利用し、最適な飛行ルートを決めている[13]

航空交通管理のための気象情報[編集]

空港で雷雨が発生すると、着陸ができなくなって航空機が空中で待機したり、長引くと他の空港へ着陸したりすることがある。また、航空路上に雷雲があると、回避するために飛行ルートを変更することがある。このため、航空機の流れを円滑に保ち、空の交通を計画的に管理する国土交通省航空局の航空交通管理(ATM)センターが福岡県福岡市に設置されている。気象庁もATMセンター内に航空交通気象センター(ATMetC)を設置し、航空交通を管理する担当官(以下ATM担当官)と同じ運用室において、航空交通に影響を与える気象情報の提供を24時間体制で行っている。ATM担当官はこれらの気象情報を、安全で円滑な航空交通の流れを確保するために、航空機の出発時刻や飛行ルートの調整などに活用している。ATMetCの業務内容は、大きく分けて、「ブリーフィング(口頭による気象解説)」「予測情報の作成・提供」の2つである[14]

航空気象情報の提供[編集]

空港の気象台などでは、パイロットや運航管理者に対して、出発空港や目的空港、飛行経路上の気象状況について、口頭による気象解説を行っており、これを「ブリーフィング」と呼ぶ。また、空港にいる管制官などに対しては、使用滑走路を決定する際の風の予報など様々な要求に応じて、幅広くブリーフィングを行っている。ブリーフィング以外の航空気象情報の提供としては、国際定期便に対する航空予報図の交付や天気図類の展示などがある[15]

航空のための地震・火山業務[編集]

火山灰の監視・予測[編集]

航空路上における危険な現象の1つに、噴火に伴う噴煙がある。火山の噴煙は航空路の視程を悪化させるだけでなく、火山灰に含まれる硬い粒子によってコックピットの窓が傷ついて見えづらくなったり、飛行機の機体が損傷したりすることがある。また、火山灰はジェットエンジンの燃焼温度より融点の低いガラス質を多く含んでいるため、エンジンに入り込んでしまうと、熱で溶かされて付着してしまい、最悪の場合エンジン停止になることもある。1982年6月24日には、クアラルンプールからパースへ向かっていたブリティッシュ・エアウェイズボーイング747が、スマトラ島の南の高度11,470mでガルングン山の火山灰により、エンジンが4基とも停止するという事態に見舞われた。奇跡的に乗員・乗客は全員無事であったが、エンジン損傷の被害総額は85億円に達した[16]

気象庁では、こうした火山灰により引き起こされる航空機の被害を防止・軽減するため、国際民間航空機関(ICAO)の下、東京航空路火山灰情報センター(東京VAAC)を運営している。

空港における緊急地震速報の利用[編集]

国内の主要な13空港には、多機能型地震計を設置し、その震度情報は航空局などが行う滑走路や空港施設の点検などに利用されている。また、これらの空港では、大きな揺れが予想される緊急地震速報が発表された場合、ただちに管制官からパイロットへその情報が提供され、パイロットが着陸を見合わせて空中待機するなど、航空機の安全な運航に役立っている[17]

航空気象情報の流れ[編集]

航空気象情報は、各空港の航空気象官署で見ることができるほか、航空気象情報提供システムなどを通じて空港内の航空局の管制塔や各航空会社の運航管理者・パイロットなどに提供している[18]

飛行中の航空機に対しては、無線通信を使った東京ボルメット放送や航空局の対空通信により必要な航空気象情報が提供されている。一方、パイロットからは遭遇した乱気流や火山現象などに関する情報が管制官などとの交信を通じて報告され、これらの情報は気象庁から航空関係者へ還元し、安全な運航に役立てられている[18]

国内外の航空気象情報は、外国の航空局や気象機関を結ぶ専用通信網により迅速に国際交換されている[18]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 航空気象とは”. 成田航空地方気象台. 2020年10月16日閲覧。
  2. ^ 航空実用事典” (日本語). 日本航空. 2020年10月19日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 気象庁 | 航空気象サービスへの貢献”. www.jma.go.jp. 2020年10月16日閲覧。
  4. ^ 航空気象情報の種類”. 那覇航空測候所. 2020年10月19日閲覧。
  5. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  6. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  7. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  8. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  9. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  10. ^ a b 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  11. ^ a b 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  12. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  13. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  14. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  15. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  16. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  17. ^ 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。
  18. ^ a b c 気象庁 | 航空気象”. www.jma.go.jp. 2020年10月19日閲覧。

外部リンク[編集]