自閉症スペクトラム

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Autism spectrum
Autism Awareness Ribbon.png
The puzzle ribbon is an often used symbol for the autism spectrum, as it represents the diversity of conditions and people within it.
分類及び外部参照情報
診療科 精神医学
ICD-9 299.00
MedlinePlus 001526
MeSH D000067877
GeneReviews
自閉症スペクトラム(ASD)[1]






正常な集団
PDD-NOS
非定型自閉症
アスペルガー症候群(AS)
自閉症

自閉症スペクトラム(じへいしょうスペクトラム、英語Autistic Spectrum Disorder(s)、略称:ASD)とは、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)上における、様々な神経発達症(Neurodevelopmental disorder)の分類である。自閉症連続体(じへいしょうれんぞくたい)、自閉症スペクトル(じへいしょうスペクトル)などともいう。かつてのDSM-IV-TRにおける自閉症(Autism)、アスペルガー症候群(Asperger Syndrome)、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)、小児期崩壊性障害(CDD)などの各疾患は、DSM-5ではASDを用いて再定義された[2]

自閉症スペクトラムの診断基準としてローナ・ウィングらは以下の三つを上げている

  1. 対人関係の形成が難しい「社会性の障害」
  2. ことばの発達に遅れがある「言語コミュニケーションの障害」
  3. 想像力や柔軟性が乏しく、変化を嫌う「想像力の障害」

これを「三つ組の障害」と呼ぶ[3]

分類[編集]

自閉度と知能指数の2つの要素をもとに自閉症スペクトラムを分類すると以下のような図になる。現在、概念の整理が行われている最中であるため、暫定的な分類である。DSM-5を受けて、新たな分類図も公表されている。

自閉症.PNG

自閉症と[[アスペルガー症候群 ]]の比較[4]

自閉症スペクトラムの場合は、三角形型[5]で表記する場合もある(頂点に従来型の自閉症があり、底辺から見て左に行くごとにIQが下がり、右に行くごとにIQが上がるというもの。例えば、アスペルガー症候群は底辺の右寄りの部分に配置され、頂点の「従来型自閉症」との間に「高機能自閉症」が来る。底辺の左寄りにはレット症候群が配置され、レット症候群と「従来型自閉症」の間に「小児崩壊性障害」が配置され、それらが不可分の状態になっている。頂点に近いほど障害としての度合いが重く、底辺に近いほど軽いとされるが、レット症候群やアスペルガー症候群自体が「軽度」ではない点に注意が必要)。 低機能自閉症はIQ低下などの理由で重い病気にかかりやすく、莫大な医療費用がかかることが多い。

一般的に良く知られてるのは高機能自閉症(1000人のうちに9~10人程度)であるが、男性の割合が非常に多いとされる。平均的知能指数を達している場合が多い。自閉症全体の割合でも半数以上を占めているという。1歳時前後からはっきりと特徴は現れるものの、健康状態には問題はないという。

カナー症候群は高齢出産や汚染区域で起こりやすく、特に未熟児の割合に多い。重い自閉症(1000人のうちに2~3人程度)と呼ばれる場合がある。生活年齢にはっきりと遅れがある。状態の変化を嫌ってパニック起こすことが絶え間ないこともある。こだわりの要因が非常に強く、様々な病気を引き起こすことがよく知られる。また言語障害や肢体不自由を伴うケースがとても多い。

最近は折れ線型自閉症も注目化されている。

原因[編集]

抗うつ薬、特にSSRIを妊娠中に使用することは、母体のうつ病を考慮しても、子供が自閉症スペクトラムになるリスクを増大させる[6]

バルプロ酸ナトリウムを妊娠中に使用することは、母体のてんかんを考慮しても、子孫が自閉症や自閉症スペクトラムになるリスクを増加させる[7][8][9][10][11][12]

ニキビ治療薬イソトレチノインを子宮内で曝露した子供の 30-60% が神経認知障害を有することが報告されている[13]

東京大学大学院の研究では、自閉症スペクトラム者に特徴的な幼少期の一過性の脳体積増加がニューロン以外のグリア細胞などの組織増加であることが間接的に示された。脳体積が正常化する成人期にかけては定型発達者と変わらないレベルになることも示された。幼少期にグリア細胞の一過性増加を引き起こす炎症の様な反応が自閉症の原因に関わることを支持している[14]

他に遺伝的要因などが考えられているが、現在研究が進められている。

ミクログリア仮説[編集]

ニキビ治療における経口イソトレチノインの使用前に、強力なミクログリア増殖抑制作用[15]を有するミノサイクリンを内服することが多い。胎児期にグリア細胞が増殖せず[14]、定型発達者より脳が小さい状態で出生し[14]、その後1歳頃までにグリア細胞が増殖する[14]ことによって一過性の脳体積増加[14]が起こっていると考えることもできる。SSRIのパロキセチンがミクログリアの活性化を抑制することも示されている[16]

疫学[編集]

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のAutism and Developmental Disabilities Monitoring (ADDM) Network によれば、およそ68人に1人がASDであると確認されている[17]。男児では42人に1人、女児では189人に1人と、男性に5倍多い[17]。とはいえ、自閉症の女性には男性とは違う特徴があり、心身症統合失調症誤診される場合も多い[18][19] 。ASDは、人種、民族、社会集団によらず確認されている[17]。アジア、欧州、北米の調査によれば有病率は1%ほどで、韓国では2.6%と報告されている[17]。多くの要因となる遺伝子Y染色体上にある可能性が指摘されている。

ASDの子供を持つ両親は、次の子供もASDがある確率が2-18%である[17]。高齢の両親の出産は、子供がASDとなるリスクが高い[17]。但し、他の病気や障害を抱えて生まれる確率も高まるため、自閉症スペクトラムだけ高まるという誤解をしてはいけない。

歴史[編集]

「自閉症スペクトラム」の概念は、1990年代に、主に自閉症やアスペルガー症候群の研究者ら、特にイギリスの児童精神科医ローナ・ウィング[20]によって提案された[1]

高機能自閉症とアスペルガー症候群に違いがあるのかどうか、知能指数の高低をどのように捉えるべきかなどの諸課題について、臨床医学医統計学における体系化・均質化を目指したものともいわれている。(いわゆる従来型)自閉性障害、高機能自閉症、アスペルガー障害、レット症候群小児崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害のことをいう。

DSM-5では、知的障害の有無を問わず、知的障害のないとされる高機能PDDを包括して、「自閉症スペクトラム」としてまとめられる方向で検討されている(このため、従来の高機能PDDは、「知的障害のない自閉症スペクトラム」のくくりとして捉えられる形となる)。

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b サイモン・バロン・コーエン 2011, Chapt.2.
  2. ^ Facts About ASD - Autism Spectrum Disorder (ASD)”. アメリカ疾病予防管理センター. 2015年6月1日閲覧。
  3. ^ 市川(2010) p.18
  4. ^ サイモン・バロン・コーエン 2011, pp. 21-22.
  5. ^ 障害の基礎的理解の「広汎性発達障害の解説図2」を参照。
  6. ^ Boukhris T, Sheehy O, Mottron L, Bérard A. (2016-2-1). “Antidepressant Use During Pregnancy and the Risk of Autism Spectrum Disorder in Children.”. en:JAMA Pediatrics. 170 (2): 117-24. doi:10.1001/jamapediatrics.2015.3356. PMID 26660917. https://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2476187. 
  7. ^ Christensen J, Grønborg TK, Sørensen MJ, Schendel D, Parner ET, Pedersen LH, Vestergaard M. (2013-4-24). “Prenatal valproate exposure and risk of autism spectrum disorders and childhood autism.”. JAMA. 309 (16): 1696-1703. doi:10.1001/jama.2013.2270. PMC 4511955. PMID 23613074. https://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1681408. 
  8. ^ Meador KJ, Loring DW. (2013-4-24). “Risks of in utero exposure to valproate.”. JAMA. 17 (3): 84. doi:10.1001/jama.2013.4001. PMC 3685023. PMID 23613078. https://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1681385. 
  9. ^ Meador KJ, Loring DW. (2013-9). “Prenatal valproate exposure is associated with autism spectrum disorder and childhood autism.”. en:The Journal of Pediatrics. 163 (3): 924. doi:10.1016/j.jpeds.2013.06.050. PMID 23973243. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0022-3476(13)00809-3. 
  10. ^ Wood A. (2014-7). “Prenatal exposure to sodium valproate is associated with increased risk of childhood autism and autistic spectrum disorder.”. en:Evidence-based nursing. 17 (3): 84. doi:10.1136/eb-2013-101422. PMID 23999195. http://ebn.bmj.com/content/17/3/84. 
  11. ^ Singh S. (2013-8-20). “Valproate use during pregnancy was linked to autism spectrum disorder and childhood autism in offspring.”. Annals of internal medicine. 159 (4): JC13. doi:10.7326/0003-4819-159-4-201308200-02013. PMID 24026277. https://annals.org/article.aspx?articleid=1726872. 
  12. ^ Smith V, Brown N. (2014-10). “Prenatal valproate exposure and risk of autism spectrum disorders and childhood autism.”. en:Archives of Disease in Childhood#Education_and_Practice. 99 (5): 198. doi:10.1136/archdischild-2013-305636. PMID 24692263. http://ep.bmj.com/content/99/5/198. 
  13. ^ Choi JS, Koren G, Nulman I. (2013-3-19). “Pregnancy and isotretinoin therapy.”. Canadian Medical Association Journal. 185 (5): 411-3. doi:10.1503/cmaj.120729. PMC 3602257. PMID 23296582. http://www.cmaj.ca/content/185/5/411.full. 
  14. ^ a b c d e 自閉症の病態解明につながる成果 —世界初 自閉症に特徴的な脳体積変化と同時期に起こる化学的変化を同定— (pdf)”. www.sss.jst.go.jp. 科学技術振興機構 (2012年). 2016年5月19日閲覧。
  15. ^ Tikka TM, Koistinaho JE. (2001-6-15). “Minocycline provides neuroprotection against N-methyl-D-aspartate neurotoxicity by inhibiting microglia.”. en:Journal of Immunology. 166 (12): 7527-33. doi:10.4049/​jimmunol.166.12.7527. PMID 11390507. http://www.jimmunol.org/content/166/12/7527.full. 
  16. ^ 脊髄においてグルタミン酸作動性神経伝達の異常を惹起する因子の探索 (pdf)”. kaken.nii.ac.jp. 国立情報学研究所 (2011-2013). 2016年5月19日閲覧。
  17. ^ a b c d e f Data & Statistics - Autism Spectrum Disorder (ASD)”. アメリカ疾病予防管理センター. 2015年6月1日閲覧。
  18. ^ 宮尾益知:監修『女性のアスペルガー症候群 : イラスト版』(講談社、2015年3月)ISBN 978-4-06-259790-6
  19. ^ Autism--It's Different in Girls - Scientific American
  20. ^ 中山(2010) p.12

参考文献[編集]

外部リンク[編集]