自転車歩行者道

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「自転車及び歩行者専用(325の3)」の道路標識

自転車歩行者道(じてんしゃほこうしゃどう)は、日本の道路法令道路構造令の用語で、「専ら自転車及び歩行者の通行の用に供するために、縁石線又はさくその他これに類する工作物により区画して設けられる道路の部分」(令第2条第1項第3号)を指す。端的に「自転車の交通を前提とした幅の広い歩道」とも説明される[1]。自転車と歩行者が道路空間をこのように共有する形態は、日本独自のものである[2]。厳密には別の概念だが、自転車通行可の歩道などとして知られる。関係官庁や地方自治体、専門家、関係者などの間では、自歩道と略称することが多い。本項では自転車通行可の歩道についても扱い、自転車歩行者道と自転車通行可の歩道を区別しない場合「自歩道」と呼ぶ。

道路法の自転車歩行者専用道路は、自転車通行可の歩道と同じく「自転車及び歩行者専用(325の3)」の道路標識が設置されるが、独立した専用道路であり、道路の部分として車道に併設される自転車歩行者道・自転車通行可の歩道とは別のものである。

概要[編集]

自転車歩行者道は、「及び歩行者」という文言が加えられていることを除いて、定義が道路構造令の自転車道と同じである。また「自転車道の整備等に関する法律」における自転車道の定義に含められている。しかし道路交通法とその関係法令では、この用語は使われず、歩道として扱われ、実態としても一般の歩道と顕著な違いがない場合が多い。

一般に道路管理者が設置・改築した自転車歩行者道について、交通管理者(公安委員会)が道路交通法第63条の4第1項第1号の道路標識[3]により「普通自転車が歩道を通行することができることとする」指定(交通規制)を行う形をとる。「普通自転車歩道通行可」の指定は、自転車歩行者道として設計されたことを要件とはしないため、自転車歩行者道ではない既存の歩道に「普通自転車歩道通行可」の指定が行われることがある。逆に自転車歩行者道が「自転車通行可」とならない場合もあり得る[2]

しかし利用者にとって「自転車及び歩行者専用」の道路標識等の設置された歩道が自転車歩行者道として設計されたものか否かを判別することは困難であり、その違いが利用実態になんら影響を与えないことから、自転車歩行者道と自転車通行可の歩道は特に区別されない場合が多い。

設置、指定基準[編集]

自転車歩行者道の幅員は、「歩行者の交通量が多い道路にあつては四メートル以上、その他の道路にあつては三メートル以上」(道路構造令第10条の2第2項)とされている。1970年から1993年までは「二メートル以上」とされていた。

自転車通行可の歩道は、以下の条件により指定される[4]

  1. 歩行者の通行及び沿道の状況から、歩行者の通行に支障がないと認められること。
  2. 縦断勾配がおおむね10パーセント未満で、自転車の通行に危険がないこと。
  3. 原則として歩道幅員が2メートル以上(ただし橋梁・高架道路・トンネル内等で特に必要がある場合は1.5メートル以上)あること。

歩道通行部分の指定は「歩道幅員がおおむね 4.0メートル以上の道路で、かつ、歩行者の通行に特に支障が認められない」ことを要件としている[4]

2011年には普通自転車歩道通行可とする歩道の幅員を原則3メートル以上とし、幅員が3メートル未満の幅員の歩道について歩道通行可の指定を見直すよう警察庁より都道府県警察に通達が出された[5]

歴史[編集]

1960年代、急激なモータリゼーションの進展に伴い交通事故が急増したことにより、道路法令や交通法令が改正されることとなった。また自転車関連団体や利用者側から自転車専用道路自転車道の設置・法制化を求める運動が起こったこともあり、自転車に関わる規定の新設や改定も行われた。その一環として1970年に道路構造令が改正され、自転車道とともに自転車歩行者道の規定が盛り込まれた。一連の法令改正・制度変更は、自転車を自動車交通から分離する考え方が基調となっている。これは自転車の安全を図るためとされ、当時は事故防止対策として自明の理と考えられていた。このほかに混合交通下における自動車交通の処理能力の低下を防ぐことも意図された。当時、歩道の設置すら十分でないとされた状況にあって、自転車道など自転車専用の通行空間よりも歩道の設置が優先された。

自転車の歩道通行の緩和[編集]

一方で、自転車の歩道通行に関しては、同じ1970年の道路交通法改正によって緊急措置として正式に法的根拠が与えられ、1978年改正により“歩道に上げる”自転車の要件を定め普通自転車という概念を導入した上、通行方法などの規定が具体化され、なし崩し的に定着していく。1982年には、自転車歩行者道の設置要件から歩行者の交通量に関する規定が消え、実質的に緩和される。これまで自転車歩行者道の設置と普通自転車歩道通行可の規制対象区間は増え続けている。

2007年の道路交通法改正により、道路標識等により通行可とされている場合のほか、普通自転車の運転者が12歳以下の子供、高齢者・障害者である場合と、「車道等の状況に照らして自転車の通行の安全を確保するため、歩道を通行することがやむを得ないと認められる」場合にも普通自転車の歩道通行が認められた。この法改正に合わせて定められた「自転車安全利用五則」などで、「自転車は、車道が原則、歩道は例外」であることを確認したものの、歩道通行の要件は事実上緩和された。

この一方で、2011年10月には普通自転車歩道通行可とする歩道の幅員を原則、従前の2メートル以上から3メートル以上とし、幅員が3メートル未満の歩道について歩道通行可の指定を見直すよう警察庁から都道府県警察に通達が出された[5]

延長[編集]

2006年4月現在、自転車歩行者道の総延長は7万2119キロメートルに及び、自動車交通から分離された自転車走行空間(=自転車道の整備等に関する法律にいう自転車道)の総延長7万8638キロメートルのうち、91.7%を占めるまでになった[6]。また、自転車通行可の歩道の延長は6万8992.6キロメートルであり、歩道の総延長15万5786キロメートルの44.2%を占める[7]

自転車の通行方法[編集]

自歩道における自転車の通行方法は道路交通法第63条の4に規定される。以下本項では特記のない条文番号は道路交通法のものを指す。

普通自転車は原則として、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならない。歩行者の通行を妨げる場合は自転車が一時停止しなければならない(第63条の4第2項)。なお法令上、歩道での双方向通行を制限する規定はない。

道路交通法の「自転車道(狭義)」がある場合には、普通自転車はその他の車道の部分を通行できない。しかし自転車通行可の歩道があることにより、その道路の車道など他の部分の通行を禁止する規定は一切ない。つまり自転車通行可の歩道の指定は、「自転車は原則車道」のルールに影響しない。ただしこれとは別に「自転車通行止め (309)」などの道路標識により、自転車の通行自体が禁止される場合がある。

普通自転車通行指定部分[編集]

「普通自転車の歩道通行部分」は歩道の車道寄りの位置に設置される。この写真と異なる配色や、塗色のないのものもある。

歩道に白線と自転車の記号からなる道路標示普通自転車の歩道通行部分(114の3)」、第63条の4第2項にいう「普通自転車通行指定部分」がある場合、行政当局が「視覚的分離」などと称していることがある。この部分は、あくまで歩道の一部分であり、普通自転車の「通行すべき部分」を示しているに過ぎないが、この指定部分がある場合は、いかなる普通自転車もこの指定部分を外れて通行してはならない[8]

歩行者にはこの部分をできるだけ避けて通行するよう努力義務を課している(第10条第2項)ものの、歩行者がこの部分を通行[9]することは禁じられていない。この部分を通行しまたは通行しようとする歩行者がいない場合に限って、「安全な速度と方法で」通行できる(第63条の4第2項)。歩行者がいる場合に徐行・一時停止の義務を負う点に変わりはない。

2007年の道路交通法改正以前は、普通自転車通行指定部分においても一律に徐行する義務があったが、改正で上記のように「安全な速度と方法で」通行できるとされた。また歩行者の普通自転車通行指定部分からの避譲努力義務も同改正で盛り込まれたが、どちらも歩行者の歩道での絶対的優先に影響を及ぼすものではない。

普通自転車通行指定部分はこのような性格のものであるにもかかわらず、警察庁「自転車対策検討懇談会」[7]や国土交通省道路局と警察庁交通局が共同で設置した「新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会」[6]の資料では、これらを自転車専用道路や自転車道同様「自転車のみの通行路が確保されている」としている。

問題[編集]

自歩道は、本来歩行者のために設置される歩道を自転車交通にも供する(自転車を“歩道に上げる”)ものである。このことについては、歩行者の権利を侵害し、安全を脅かすものとして、早くから問題が指摘されてきた。自転車の歩道通行が認められる1970年以前にも、自転車の安全通行をはかるためには「歩道に分離線を引いただけでも目的はほぼ達せられる(もっともこれは暫定的措置であって、自転車にとっても歩行者によっても最終的に好ましい姿とはいえない)。」[10]との指摘があった。

その後、都市の限りある道路空間に自転車専用の通行空間(自転車道自転車専用通行帯)を設置することは極めて困難であるとの認識から、自転車道設置推進運動の中心的役割を担った自転車道路協会も現実的にはその存在が不可欠であるとした[2]。しかし自転車専用の通行空間をつくる余地はないとされてきた一方で、自動車等のための車道と、歩行者と自転車が混在する歩道は、多くの場所で新設あるいは拡幅されてきた。

自転車にとって自歩道は、段差が頻繁に現れ、舗装が必ずしも適していないというハード的な問題がある上、歩行者を優先するために徐行や一時停止が求められるため、自転車本来の走行はできず快適性を大いに損なう。このことは「安全性」とトレードオフの関係として捉えられた。また日本の一般用自転車シティサイクル(いわゆる“ママチャリ”)は、歩道通行のこれらの条件に特化する形で欧米の一般用自転車とは異なる独自の進化を遂げたとする見方もある[11][12]

自転車が自歩道を通行することは、車道走行よりも安全性が高いと一般に思われることが多い。しかし2006年に警察庁の設置した自転車対策検討懇談会は「自転車の歩道通行は自転車とクルマの衝突事故の重要な原因」となると指摘している[13]

また2007年に国土交通省と警察庁が共同で設置した「新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会」は、その最終報告で「自転車の安全を確保するために、幅員の広い歩道である自転車歩行者道を中心とした歩行者・自転車が混在することを前提とする空間の整備が全国的に行われてきた。そのことが、歩道上での歩行者対自転車の事故増加の一因となっているものと考えられる」と指摘している[14]

自歩道での普通自転車は、双方向通行が禁じられていないため、道路右側の自歩道を通行することも可能である。通常、普通自転車歩道通行可を示す標識は1本の支柱の両面に設置されている。道路右側の自歩道が途切れた場合、そのまま路側帯または車道に降り走行を続けると、路側帯または車道の逆走という危険な違反行為になる。

自転車の右側通行は出合い頭事故の原因であり、高齢者や乳幼児連れ、視覚障害者といった歩行者にとって、どちらから来るか分からない自転車は大きな脅威となる。これらのことから自歩道上であっても道路全体から見た右側通行は好ましくないとする主張[15]もある。

脚注[編集]

  1. ^ 道路行政研究会編集『道路行政』平成18年版、全国道路利用者会議、2007年、555ページ
  2. ^ a b c 自転車道路協会編『自転車歩行者道等調査研究報告書』自転車道路協会、1985年
  3. ^ 道路標識以外に道路標示「普通自転車歩道通行可(114の2)」がある。
  4. ^ a b 普通自転車歩道通行可の規制を実施する道路及び普通自転車の歩道通行部分を指定する道路に関する現状の基準』(新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会 第3回 参考資料4)、2007年6月28日
  5. ^ a b 警察庁交通局長通達『良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について』2011年10月25日
  6. ^ a b 国土交通省道路局地方道・環境課道路交通安全対策室、警察庁交通局交通規制課 『自転車利用環境をとりまく話題』(新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会 第1回 資料3)2007年5月18日
  7. ^ a b 警察庁 自転車対策検討懇談会『自転車の安全利用の促進に関する提言』2006年11月30日
  8. ^ 歩道の横断方向に指定部分を外れて通行してはならないと言う意味である(手押し歩行は可)。なお、歩道延長方向の一部区間が途切れている場合は、単に当該区間で一律に「歩道の中央から車道寄りの部分を徐行」の扱いとなるだけである。
  9. ^ 横断を含む、以下この段落において同じ。
  10. ^ 『自転車道路の概要』、自転車道路建設中央グループ、1966年
  11. ^ 疋田智『大人の自転車ライフ : 今だからこそ楽しめる快適スタイル』光文社(知恵の森文庫)、2005年、ISBN 4334783619 34ページ
  12. ^ 松浦晋也「松浦晋也の「モビリティ・ビジョン」 日本でママチャリが発達した理由」、WIRED VISION アーカイブサイト、2008年12月5日
  13. ^ 警察庁 自転車対策検討懇談会『自転車の安全利用の促進に関する提言』、資料8:「自転車マニュアル等における歩道通行の危険性の指摘」
  14. ^ 新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会『これからの自転車配慮型道路における道路空間の再構築に向けて : 歩行者と自転車の安心と安全を守るために』2007年7月5日
  15. ^ 疋田智『自転車の安全鉄則』朝日新聞出版(朝日新書 147)、2008年、ISBN 9784022732477 89ページ〜「第3章 自転車は「左側通行を厳守する」ということ」

関連項目[編集]