膵癌

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膵癌(すいがん、: Pancreatic cancer)は、膵臓から発生した癌腫膵臓癌(すいぞうがん)とも呼ぶ。早期発見が非常に困難な上に進行が早く、極めて予後は悪い。

膵臓の位置。膵頭部に総胆管が走行しており、これが癌に巻き込まれると黄疸が出現する。

臨床像[編集]

自覚症状としては腹痛や体重減少等があるが、特異的な症状はなく、早期の場合はほとんどは無症状で、多くは進行してから発見されることが多い。人間ドックや、たまたまCT超音波検査等の画像検査によって偶然発見される以外では、膵鉤部・膵頭部癌では、腫瘍が総胆管を閉塞して黄疸を生じたり、酸素欠乏によるランゲルハンス島の活動低下により糖尿病が悪化したり、心当たりが無いのに血糖値アミラーゼ値が上昇する等という形を呈することがある。

疫学[編集]

2004年における10万人毎の膵癌による死亡者数(年齢標準化済み)[1]
  データなし
  1以下
  1
  2
  3
  4
  5
  6
  7
  8
  9
  10
  10以上

厚生労働省の統計でも日本において膵癌死亡者数は毎年約22,000人以上であり、癌死亡順位で男性で5位,女性で6位で年々増加傾向にある。

日本のがん統計[2]
死亡数 (2017年) 罹患数 (2014年)
男女 男女
1位 大腸 乳房 大腸
2位 大腸 大腸
3位 大腸 膵臓 大腸
4位 肝臓 膵臓 前立腺 乳房
5位 膵臓 乳房 肝臓 肝臓 子宮 前立腺

リスクファクター[編集]

発症の危険因子としては以下がある。[3]

遺伝的症候群とその関連した遺伝子

遺伝性膵炎、家族性大腸線種ポリポーシス、FAMMM、ポイツ・ジェガーズ症候群 Peutz-Jegher's Syndromeなどの遺伝性疾患では膵癌発生率が高く、遺伝性膵癌症候群とも呼ばれる

分類[編集]

発生する部位によって以下の通りに分類される。

  • 膵鉤部癌
  • 膵頭部癌
  • 膵体部癌
  • 膵尾部癌

病理[編集]

膵癌の組織像 (HE染色)。膵管由来と思われる癌細胞が増殖している。

膵臓は、膵液を産生する腺房、膵液を運ぶ膵管、および内分泌腺であるランゲルハンス島などからなる。癌はいずれの組織からも発生しうるが、それぞれ全く異なる性質を示す腫瘍となる。

  • 浸潤性膵管癌 (Invasive ductal carcinoma) - 膵癌の約90%を占める代表的な組織型で、通常型膵癌とも呼ばれる。膵管に由来する。
  • 膵内分泌腫瘍 - 内分泌腺(ランゲルハンス島)に由来し、約8割が何らかのホルモンを産生する。通常型膵癌に比べ抗がん剤が効きにくいが進行も緩やかである。
  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN) - 膵管上皮から発生する腫瘍で、膵管内発育と粘液産生を特徴とする。一般に悪性度が低く経過観察が可能であるが、悪性化の所見があるものは手術治療の対象となる。
  • 粘液性嚢胞腫瘍 (MCT) - 粘液を有する大型・多房性の嚢胞性病変で、中年女性に好発する。悪性度が高く、通常型膵癌に準じた治療が行われる。
  • 腺房細胞癌 - 腺房に由来する比較的稀な腫瘍である。
  • そのほか稀な組織型 - Solid-pseudopapillary carcinoma、未分化癌、漿液性嚢胞腺癌(きわめて稀)、転移性膵癌など。

検査[編集]

血液検査[編集]

画像検査[編集]

以下の画像検査を行うことで評価を行う。

超音波検査
一般に検診にて用いられる。典型的な膵管癌は境界不明瞭で不整形の低エコー域として描出される。膵頭部の癌では主膵管や胆管の拡張も認められる。
CT
非造影検査では臨床的に有用な情報が乏しく、造影(Dynamic)が必須。膵管癌は血流に乏しいため、造影早期(動脈相)には膵実質よりも造影不良域として描出されるが、造影後期(平衡相)では膵実質と同程度の造影効果を示すため、評価が困難になる。いっぽう膵内分泌腫瘍は血流に富むため造影CTで強く造影される。遠隔転移・周囲への浸潤像の評価も行える。
MRI
胆管・膵管を描出するMRCP画像では膵管の不整や狭窄、途絶を評価できる。造影MRIでも造影CTと同様の評価が可能である。
FDG-PET
癌に一致して異常集積が見られるが、炎症との鑑別はしばしば困難。
ERCP (Endoscopic retrograde cholangio-pancreatography)
内視鏡で胆管と膵管を直接造影する方法。膵管癌では膵管の不規則な狭窄や途絶が見られ細胞診が施行できる。
超音波内視鏡(EUS:Endoscopic ultrasonography)
先端に超音波探触子がついた内視鏡を使用し、内や十二指腸内から観察する超音波検査。腫瘍の穿刺細胞診も行える。xfk

病期分類[編集]

膵がんの病期分類には、日本膵臓学会の膵癌取扱い規約と国際的なUICC分類の2つがあり、日本では主に日本膵臓学会の進行度が用いられている。いずれもTNM分類をもとに、4段階の進行度(ステージ)に分けられる。

膵癌取扱い規約(第5版)
I期 - 大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局している。
II期 - がんは膵臓の内部にとどまるが、大きさが2cm以上であるか、第1群のリンパ節に転移がある。
III期 - がんは膵臓の外へ少しでるが、リンパ節転移はないか、第1群までに限られている。または、がんは膵臓の内部にとどまるが、リンパ節転移は第2群まである。
IV期 - がんが膵臓の周囲の臓器・器官を巻き込んでいるか、離れた臓器まで転移がある。
UICC分類(第6版)
I期 - がんが膵臓の内部にとどまり、転移はない。
II期 - がんは膵臓の内部にとどまるが、周囲のリンパ節に転移がある。または、がんは膵臓外へ少し出るが主要動脈まで及んでいない。
III期 - 膵臓の腫瘍が周囲の主要動脈まで及んでいる。
IV期 - 膵臓から離れた臓器に転移がある。

進行度により、手術、全身化学療法放射線療法、あるいはこれらの組み合わせが行われる。進行度は治療の観点から以下の3段階に分けられる。

  • 切除可能 - 癌が膵臓周囲に限局しており、重要な血管への浸潤や遠隔転移がない段階。膵癌取扱い規約によるStageIVa以下の膵癌で、腹腔動脈(膵頭部癌)や上腸間膜動脈に浸潤がないものが該当する。手術による切除が第一選択の治療法である。
  • 局所進行 - 癌が膵臓周囲に限局しているものの、重要な血管への浸潤や後腹膜への広範囲な進展によって根治切除不能とみなされる段階。化学放射線療法もしくは全身化学療法が行われている。
  • 遠隔転移あり - 癌が膵臓周囲を超えて全身へ広がっている段階。肝臓への転移もしくは腹膜播種によるものが多い。この段階ではたとえ目に見える癌をすべて切除したとしても早期に再発するため、膵切除による治療上の利点はないと考えられている。全身化学療法が第一選択の治療法である。

治療[編集]

外科的切除が根治的治療であるが、発見時には進行していることが多く、手術不能の場合が多い。

  • 臨床病期分類Stage 0~IIIのうち手術可能:手術加療にての根治的切除+術後補助化学療法
  • 臨床病期分類Stage II~IIIのうち手術不能:化学放射線療法
  • 臨床病期分類Stage IV:化学療法

外科手術[編集]

腫瘍を含めての膵切除術が行われる。最も侵襲が大きい手術の一つでもあるため、適応術は患者の年齢や全身状態を考慮して検討される。高難度手術であるので、高度専門医療機関やハイボリュームセンター(手術件数の多い病院)での手術が望まれる。

また、膵全摘術は予後・QOLを考慮しあまり行われなくなってきている。また腹部大動脈周囲や上腸間膜動脈周囲のリンパ節郭清は手術侵襲が大きい上に生存率に改善があまりないとのことで施行されなくなってきている。

ほか、不可逆電気穿孔法(通称:ナノナイフ)があり、こちらの場合、開腹と穿刺の2通りが考えられ、後者の場合侵襲度が低い。

血管に浸潤した切除不能膵癌等も治療できることが特徴。

化学療法[編集]

外科的切除後に行われる化学療法としては以下がある。

  • GEM(ゲムシタビン)単独療法:世界的には標準治療。CONKO-001試験で対照群のプラセボとの比較で優れていた。
  • S-1単独療法:日本での標準治療。JASPAC-01試験で対照群のGEM単独療法との比較で優れていた。
  • GEM+カペシタビン併用療法:ESPAC-4試験でGEM単独療法と比較して有意に生存期間を延長した。
  • modified FOLFIRINOX療法:対照群のGEM単独療法との比較で優れた成績であった。

Stage IV症例に対する全身化学療法としては以下がある。

  • 5-FU単独療法
  • GEM単独療法:5-FU単独療法との比較で優越性を示した。
  • S-1単独療法(GEST試験):GEM単独療法との比較で非劣性を示した。同じ試験でGEM+S-1併用療法はGEM単独療法との比較で優越性を示せなかったため、標準治療とは見なされていない。

 以下の3つはGEM単独療法と比較して優越性を示しており、後2レジメンが現在の標準的な一次治療である。

放射線療法[編集]

他臓器への転移はないが動脈浸潤などのため切除不能な局所進行膵癌に対しては、化学療法(5-FUまたはS-1またはGEM)と放射線照射を同時に行う化学放射線療法が行われる。

また、開腹手術を行い病巣付近に集中的に放射線を照射する方法(術中照射)も行われることがある。

その他[編集]

  • 免疫療法
免疫療法は種々の方法で免疫系を賦活化させ、癌の進行を抑える治療法である。腫瘍特異的な抗原に対する細胞傷害性T細胞を誘導する方法などが試みられている。副作用が比較的軽微であるのが特徴で、他の抗癌療法との併用も行われている。未だ開発途中の治療法であり、一部の施設で臨床試験として行われている程度である。また民間において独自に活性化自己リンパ球移入療法を行っている施設もあるが、治療効果におけるエビデンスが乏しいため一般には推奨されていない。
  • 支持療法
支持療法とは癌による諸症状を緩和するために行われる治療法である。痛みの緩和、消化器症状の緩和、栄養状態の改善、腹水のコントロール、精神的苦痛のケアなど、その範囲は多岐にわたる。症状コントロールにより抗癌治療の継続を可能にし、有効な抗癌治療がなくなった後でもQOLを保ち命を全うすることを可能とする。膵癌においてはほぼすべての患者が癌により死亡するため、特に重要と考えられている。

予後[編集]

膵癌の予後は非常に悪い。5年生存率は部位別がんのなかで最下位(5%)であり、治療がきわめて困難な癌の一つである。罹患者の2割(UICC TNM分類ステージ1/2)が外科切除の対象となるが、リンパ節転移が早い段階でみられ、切除が行われた場合でも約7割が再発する。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ WHO Disease and injury country estimates”. World Health Organization (2009年). 2009年11月11日閲覧。
  2. ^ がん情報サービス「がん登録・統計」 (Report). 国立がん研究センター. https://ganjoho.jp/. 
  3. ^ http://blogs.nejm.org/now/index.php/pancreatic-adenocarcinoma/2014/09/12/
  4. ^ “Clinical and genetic characteristics of hereditary pancreatitis in Europe”. Clin. Gastroenterol. Hepatol. 2 (3): 252–61. (March 2004). PMID 15017610. 
  5. ^ http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK7030/

参考文献[編集]

外部リンク[編集]