脱法ハーブ

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スパイスというブランドのお香とそのパッケージ

脱法ハーブ(だっぽうハーブ)とは、合法ハーブ(ごうほうハーブ)とも呼ばれ[1][2][3]脱法ドラッグの一種で、合成カンナビノイドを含有する化合品である[4][5][1][6][7]。有名な製品は「スパイス[8]」で[4][1]英語圏では単に、合成大麻[9]、偽大麻[10][11]K2ケーツー[10]とも呼ばれる[4][5][6][12]。合成カンナビノイドは、大麻の薬理成分であるテトラヒドロカンナビノール (THC) の効果を模倣し、カンナビノイド受容体に対するアゴニストとして作用する[4][5]

欧州では2004年頃から流通し始め[13]、日本では2010年以降流通が多くなったとされる[1]。こうした薬物全般は規制されるたびに、規制を逃れるため異なった化学構造の薬物が登場する「いたちごっこ」と呼ばれる状態が続いている[2]。大麻よりも過剰摂取しやすい可能性があり[5]、過剰摂取した場合多くは8時間までの一過性の状態を示し[14]、多くは頻脈、興奮、嘔吐、錯乱などを示す[15]。一部はより重篤となる。日本では使用による酩酊状態で車を運転したことによって起きた交通事故の報道が繰り返されている。

流通[編集]

2004年には、ドイツ、イギリス、スイスで「スパイス」という製品が流通し、合法の大麻とされ以来ヨーロッパで流通した[13]。2008年末までにハーブ製品に配合されていた合成カンナビノイドのCP-47,497、JWH-018が、法的管理下に置かれると、こういった化合物のファミリーである似たような化合物が配合された製品が流通した[13]。最初ヨーロッパで発見された「スパイス」は、生産者が迅速に法律の変化に対応し、先進国における問題とされている[16]

ドイツではじめてスパイス製品が違法化される以前は、好奇心で試す人が多かったが、以降は、大麻の代用品とする層が増え、軍人や患者、以前に薬物による運転事故によって受刑した人といった薬物検査が定期的に行われる人に需要がある[17]。使用がドーピングテストでは検出できないので、カナダではアスリートと軍人に需要があるという[18]

日本[編集]

日本において脱法ドラッグから合成カンナビノイドが検出されたのは2009年の調査からである[19]。日本では2010年から流通が多くなった[1]

2000年代中後期の第一世代~第三世代と呼ばれる時期に販売されていたものは、大麻LSD等のナチュラルドラッグと非常に良く似た効果があり、マリファナの代用品や薬物中毒者が自らの更生の為に使用したりと、インターネットを中心としたアンダーグラウンドで徐々に広がりを見せていった。一般に広まっていくにつれて行政と業者のいたちごっこが続いたが、近年の事件事故の多発により大手販売店や大手メーカーが次々と閉鎖して現在に至る。

日本でハーブを店頭やインターネットで販売している業者の数は、2012年3月末で389と厚生労働省がまとめている[20]。神奈川県[21]、愛知県[22]、宮城県[23]、岐阜県[24]では自動販売機も確認されている。愛知県では、地元警察が自販機を押収したケースがあるが、これはタバコの形状で陳列され医薬品にみなされ薬事法の違反が原因である[25]薬事法違反・医薬品の節を参照)。テレビなどを見て興味を持ったとコメントした例もある[26][27]

摂取を目的とすれば薬事法違反となるが、お香やバスソルトという場合は摘発が難しいため、販売の自粛も求められている[28]

日本では「海外でバスソルト(入浴剤)として販売される脱法ハーブ」のように[14]、脱法ハーブの用語はもはやハーブという枠を外れて、脱法ドラッグを指す用語として用いている場合もある。

2014年平成26年)7月には、厚生労働省による脱法ドラッグという用語に代わる用語を公募し、危険ドラッグという用語が選定された[29]。それに伴って、危険ハーブの用語でも報道されている[30]

アメリカ合衆国[編集]

背景[編集]

合成カンナビノイドを含む植物片。

脱法ハーブと称して、合成カンナビノイドを人工的に添加したハーブの破片が流通している[7][6]。こうした合成カンナビノイドは、大麻の薬理成分に模擬した新薬の開発の過程で報告されたものである[31][7]

大麻に関しては、1961年に制定された国際条約である麻薬に関する単一条約にの第28条[32]において規制されており[33]、大麻は身体および精神や社会に対して危険であり医療への使用に正当性がないという合意が規制の理由となっている[34]

現在9種類のテトラヒドロカンナビノール (THC) が麻薬及び向精神薬取締法によって規制対象である。そのうち大麻に天然に含有されるΔ9-THCおよびΔ8-THCは大麻取締法で規制され、天然の植物に含有されたものではない化学合成されたものは麻薬及び向精神薬取締法で規制されている[7]

一方で、諸外国での医療大麻の研究と法律上の認可が続いている[35]化学療法副作用の治療に対して、THCとまったく同じ化学構造のドロナビノールが、欧米では医薬品として発売されている。

合成カンナビノイドの合成が盛んである背景は新薬が理由である[1]。脱法ハーブだけにおよばず、この種の法をすり抜けて売られている脱法ドラッグのおおよそは、のちに医薬品になったか、ならなかったかに限らず、その正統な製薬開発の過程で生まれたもので、これに目を付けた製造者が合成するため流通している[36]

THCの医療効果としてはほかに、鎮痛作用、抗炎症作用、抗不安作用、抗けいれん作用、エイズ患者に対する食欲増進作用、多発性硬化症に対する筋緊縮、緑内障患者への眼圧低下作用、薬物依存症の治療が知られ、合成カンナビノイドもTHCに対する治療効果の比較がなされている[35]JWH-133英語版はマウスでコカインの投与量を減らしている[37]

接頭辞がCPのものはファイザー製薬、HUのものはヘブライ大学が合成したものである[7]。接頭辞がJWHのものは、クレムゾン大学ジョン・W・ハフマンが開発したもので、アメリカ国立薬物乱用研究所英語版 (NIDA) の資金提供によって、カンナビノイド受容体に作用する薬を発見しようとし463種類合成されている[38]。AMであるものは、Makriyannis Alexandrosが合成したものである[1]

法的な対策[編集]

指定薬物制度[編集]

指定薬物のうち合成カンナビノイドに該当するもの一覧
2009年(平成21年)11月20日施行
2010年(平成22年)9月24日施行
2011年(平成23年)5月14日施行
2011年(平成23年)10月20日施行
2012年(平成24年)7月1日施行

日本においては、脱法ハーブ、脱法ドラッグは医薬品に承認されているわけでもなく、食品食品添加物に承認されているわけでもない。したがって無承認無許可の医薬品として対策されている[39]。乱用を意図して販売されていれば、薬事法が適用され、無承認無許可医薬品として取り締まりがなされる。しかし、脱法ハーブの販売者は人体適用を標榜していないため、医薬品としての相当性を立証することが困難である[39]。また、依存性などの有害性が立証されていおらず、麻薬及び向精神薬取締法の規制対象にもならない[39]

2007年4月1日施行の改正薬事法で、治療や研究目的以外での指定薬物の製造、販売、輸入は罰則付きで禁ずるという指定薬物制度が脱法ドラッグの流通を防ぐ意図で施行された。指定薬物制度は流通に規制を加えているが所持や使用には規制がない。

厚生労働省は、2001年より、脱法ハーブだけでなく脱法ドラッグの疑いがある製品を、その他の無承認無許可医薬品とともに買い上げ調査を行い、医薬品成分や指定薬物が検出された製品を公表している[40][39]

日本で合成カンナビノイドの検出が報告されたのは2009年であり、順次指定薬物に指定されている。2009年7月16日には、乾燥植物からカンナビシクロヘキサノール、JWH-018を検出[41]、2011年5月30日には、サルビノリンA、JWH-018、JWH-073、JWH-250、JWH-015、JWH-081、JWH-122、JWH-200を検出している[40]

合成カンナビノイドに分類されていないサルビノリンAは、2007年(平成19年)4月1日に指定薬物に指定されている。JWH-018とカンナビシクロヘキサノールは2012年7月1日より麻薬に指定されている[42]

知事指定薬物[編集]

薬事法(政府)による指定薬物とは別に、一部の都道府県では、薬物乱用防止条例による知事指定薬物がある(東京都大阪府鳥取県など)。乱用の恐れのある薬物に対して、知事指定薬物に指定し、学術研究、試験調査などの正当な目的で行う場合を除き、製造、栽培、販売、授与、広告、使用、使用目的の所持、多数の人が集まって知事指定薬物を使用することを知っての場所の提供やあっせんを禁止し、刑事罰を規定している。

警察は販売している業者に対し、取り締まりを強化している[43]。指定薬物へ指定された物質が指定後も買い取り調査で検出されている[44][45][46]

包括指定制度[編集]

2013年2月20日厚生労働省は「合成カンナビノイド類」を指定薬物として包括指定(772物質)する省令を公布し、3月22日から施行された[47][48][49][50]

アメリカでは、1986年に制定された連邦類似体法英語版が、化学構造に若干の変更を加えた物質に規制をかけている[51]

しかし、類似物質を含めた包括規制を行っても、化学式に改変を加えた合法な新物質を使った脱法ハーブが販売されるようになり、包括規制によっても規制出来ない事実が明るみになってきている[52]

世界中で大麻の医療用途研究に合成カンナビノイドを使った実験がなされているため、無闇な包括規制は将来の医薬品の研究開発に支障が出る可能性があることも指摘されている[1][53]。 それに加えて、薬理学者がこうした化合物に対して医学的な再評価をし始めている[54]

過剰摂取[編集]

毒性に関するデータは不明で、大麻よりも中毒性が高い可能性や、深刻な毒性がある可能性がある[55]。合成カンナビノイドは、THCよりもカンナビノイド受容体に結合しやすいために、大麻よりも過剰摂取しやすい可能性がある[5]。わかりやすい部分では製剤化されたもののように成分は一定せず、厳密なルールによる臨床治験を通していない。

2013年に出版された『精神障害の診断と統計マニュアル』の第5版(DSM-5)においては、スパイス、K2、JWH-018による機能障害などは大麻関連障害に分類されている。

JWH‐018では報告されなかったが、病院への搬送後の報告ではJWH-122では意識喪失や筋肉けいれんが報告されており、分子構造のわずかな変化がこのような毒性の増加に結びつくのではないかとされている[55]

2010年アメリカでの中毒症状の例1,353名中
症状 割合
頻脈 40%
興奮・易刺激性 23.4%
嘔吐 15.3%
精神錯乱 12%
悪心 10%
幻覚・妄想 9.4%
高血圧 8.1%
めまい 7.3%
胸痛 4.7%

2010年の1 - 10月の間のアメリカでの合成カンナビノイドによる中毒情報の表を示す[15]

日本で2011年から2012年に救急搬送された20例では、興奮、幻覚・妄想・不安といった症状を呈し、意識障害の評価尺度であるJapan Coma Scale(JCS)においても多くは(軽度であることを示す)一桁の点数であり、多くは8時間以内で解消し24時間以上は続かなかった[14]

東京都内でのハーブの吸引が原因とみられる救急搬送は2012年1 - 5月で91人と、2011年(推定4.5人)の20倍のペースとされている[56]

事故[編集]

脱法ハーブによる交通事故が報道されている。

日本国内においては、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律により、薬効成分の種類を問わず薬物の影響下で、正常な運転が困難な状態、または正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を走行する行為により人を死傷させた場合、危険運転致死傷に問われる。さらに薬物の影響下にあったことを隠蔽したり発覚を恐れて逃亡した場合には、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱にも問われる。

2014年6月24日に池袋駅西口で、SUV車が歩行者の列に突っ込み1人が死亡、6人が重軽傷を負う交通事故が発生した(池袋危険ドラッグ吸引RV暴走死亡事故を参照)。運転手は脱法ハーブを吸引しており意識がもうろうとした状態だった。7月4日には、豊島区定例議会で「違法ドラッグ・脱法ドラッグ撲滅都市宣言」が全会一致で可決された。その後脱法ハーブを危険ドラッグへと改称した。

適法、合法のハーブ・薬草[編集]

食品に分類され薬効のあるハーブには、THCに化学構造が類似している物として、ニガヨモギに含まれる食品添加物であるツジョン[57]がある。

2012年6月に、大阪府では脱法ハーブの事件を受け、脱法ハーブを巻くことにも使われる『手巻きたばこ用の巻紙』販売を自粛した[58]

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e f g h 厚生労働省 2011.
  2. ^ a b 黒木由美子、飯田薫、竹内明子「日本中毒情報センターで受信したいわゆる「合法ハーブ」による急性中毒に関する実態調査 (PDF) 」 、『中毒研究』第24巻第4号、2011年、 323-327頁。
  3. ^ “指定薬物販売疑い 名古屋の雑貨店経営者逮捕”. 中日新聞. (2014年7月22日). オリジナル2014年8月8日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20140808052222/http://www.chunichi.co.jp/s/article/2014072290133435.html 2014年7月25日閲覧。 
  4. ^ a b c d United Nations Office on Drugs and Crime (UNODC) 2011, p. 1.
  5. ^ a b c d e European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction (EMCDDA) 2011.
  6. ^ a b c David Nutt et al 2009.
  7. ^ a b c d e 渡辺和人、山折大、山本郁男 2010.
  8. ^ : spice
  9. ^ : synthetic cannabis
  10. ^ a b Mary Carmichael (2010年3月3日). “Fake-Pot Panic:K2: Scary Drug or Another Drug Scare?”. Newsweek. 2012年6月9日閲覧。
  11. ^ : fake pot
  12. ^ Abel Pharmboy (2010年2月9日). “What's the buzz?: Synthetic marijuana, K2, Spice, JWH-018 : Terra Sigillata”. Scienceblogs.com. 2010年2月13日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2012年6月9日閲覧。
  13. ^ a b c United Nations Office on Drugs and Crime (UNODC) 2011, p. 3.
  14. ^ a b c 井出文子「脱法ハーブ誘発性の精神神経症状とその急性期治療」、『精神科治療学』第28巻増刊号(通号328号)、2013年10月、 245-249頁。
  15. ^ a b Hoyte CO, Jacob J, Monte AA, Al-Jumaan M, Bronstein AC, Heard KJ (2012年5月). “A Characterization of Synthetic Cannabinoid Exposures Reported to the National Poison Data System in 2010” (PDF). Ann Emerg Med xx (x): 1-4. doi:10.1016/j.annemergmed.2012.03.007. PMID 22575211. オリジナルの2014-03-07時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20140307051849/http://www.annemergmed.com/webfiles/images/journals/ymem/FA-cohoyte.pdf. 
  16. ^ United Nations Office on Drugs and Crime (UNODC) 2011, p. 12.
  17. ^ United Nations Office on Drugs and Crime (UNODC) 2011, p. 13-14.
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  19. ^ 健康被害情報・無承認無許可医薬品情報”. 厚生労働省. 2012年6月9日閲覧。
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参考文献[編集]

専門家報告書[編集]

ほか[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]