胎脂

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皮膚の一部に胎脂が付着した出生直後の子ども

胎脂(たいし、: Vernix caseosa あるいは vernix)はヒトの新生児皮膚を覆うロウ様あるいはチーズ様の白色の物質である。胎脂は妊娠18週齢あたりに子宮の中の胎児上に発達し始める。

ラテン語vernixワニスcaseosa は「チーズ様の」の意。

特徴[編集]

組成[編集]

胎脂の組成は非常に多様であるが、主に皮脂、胎児の皮膚から剥がれ落ちた細胞、抜け落ちた産毛から成る[1][2]。胎脂の乾燥重量の12%は分岐鎖脂肪酸含有脂質[3]コレステロールセラミドである。満期産児の胎脂は早期産児のものと比べて、スクアレンが多く、ワックスエステル/ステロールエステル (en) 比が高い[1]

胎脂、角質層、(脂質を分泌する)皮膚表面の脂質成分の比較[4][5]
脂質 胎脂 角質層 皮膚表面の脂質
コレステリルエステル英語版 30.6 - 3.0
セラミド 17.9 40.0 -
トリグリセリド 15.1 - 41.8
コレステロール 7.5 25.0 -
遊離脂肪酸 6.5 25.0 18.4
リン脂質 6.1 - 1.5
ワックスエステル 6.0 - 20.3
スクアレン 4.0 - 12.2
ワックスジエステル 3.7 - -
セレブロシド 2.4 - -
コレステロール硫酸 0.3 10.0 -
アルカン - - 2.8


胎脂のアミノ酸組成[5][6]
アミノ酸 %
アスパラギン 34.7
グルタミン 22.7
プロリン 14.9
システイン 7.9
アラニン 7.4
ロイシン 5.3
バリン 3.7
メチオニン 3.4

形態[編集]

胎脂の細胞は通常多形性あるいは卵形で核を持たない。核のかすかな痕跡が頻繁に観測される。胎脂の角質細胞は接着斑を欠き、これによって成熟した角質中の角質細胞と区別される[7]。角質細胞の厚さは1-2 μmである。これらの細胞は成熟角質層中に存在する典型的なラメラ構造を持たないアモルファス脂質の層で覆われている[5]

物理学的性質[編集]

胎脂は一様に分布しておらず、むしろ細胞スポンジの形で存在している。胎脂の臨界表面張力は39 dyne/cmである[8]。その水分(82%)にもかかわらず、胎脂は非極性である。これらの特徴は、胎脂の「防水」機能を示しており、これによって出生直後の体温の低下が防がれる[5]

生物学的性質[編集]

胎脂は胎児に電気的な遮蔽を提供する[9][10]。これは成長中の胎児の体のおそらく重要な側面である[5]。初期の科学的研究では、出生直後に胎脂が除かれると新生児における蒸発による放熱が増加することが示されている[11]。しかし、より新しい報告では、胎脂がそのまま残された新生児の表面と比べて、出産直後の皮膚表面の洗浄が蒸発性放熱を減らすことが確かめられている[12]

分泌[編集]

胎脂中の皮脂は妊娠20週あたりに皮脂腺によってin utero(子宮内で)産生される。胎脂は主に満期新生児で見られるが、未熟および過熟出生は一般的に胎脂を欠く[1]。過期落屑 (らくたい) [注 1]は胎脂の損失によるものであると考えられている[14][15]

機能[編集]

胎脂は、乳児の皮膚の保湿や産道の通過を容易にするなどの複数の役割を果たしていると考えられる。胎脂は熱を逃さないようにしたり、繊細な新生児の皮膚を環境ストレスから防御する役割を果たす[5][16]。乳児の感染からの防御における胎脂の化学的役割を支持する証拠はほとんどないが、胎脂は細菌の移動への物理的障壁を形成しているかもしれない[1][17]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

[編集]

  1. ^ 過期落屑とは42週を超えた過期産児[13]における皮膚の剥落のこと。

出典[編集]

  1. ^ a b c d Schachner, Lawrence A.; Hansen, Ronald C. (2003). Pediatric dermatology. St. Louis: Mosby. pp. 206–7. ISBN 978-0-323-02611-6 
  2. ^ 隅田 達男 他「胎脂の脂肪構成脂酸のガスクロマトグラフィー分析」『医学と生物学』第69巻第3号、緒方医学化学研究所医学生物学速報会、東京、1964年9月、 ??-??、2020年2月1日閲覧。
  3. ^ Ran-Ressler, Rinat R; Devapatla, Srisatish; Lawrence, Peter; Brenna, J Thomas (2008). “Branched Chain Fatty Acids Are Constituents of the Normal Healthy Newborn Gastrointestinal Tract”. Pediatric Research 64 (6): 605–9. doi:10.1203/PDR.0b013e318184d2e6. PMC: 2662770. PMID 18614964. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2662770/. 
  4. ^ Sumida, Y.; Yakumaru, M.; Tokitsu, Y. et al. (1998). “Studies on the function of Vernix caseosa: The secrecy of Baby's skin”. International Federation of the Societies of Cosmetic Chemists 20th International Conference (Cannes, France): 1-7. 
  5. ^ a b c d e f Hoath, Steven (2003). Neonatal skin : structure and function (2. ed., rev. and expanded. ed.). New York [u.a.]: Dekker. pp. 193–208. ISBN 0-8247-0887-3 
  6. ^ Baker, SM; Balo, NN; Abdel Aziz, FT (Mar–Apr 1995). “Is vernix caseosa a protective material to the newborn? A biochemical approach.”. Indian journal of pediatrics 62 (2): 237–9. doi:10.1007/bf02752334. PMID 10829874. 
  7. ^ Pickens, WL; Warner, RR; Boissy, YL; Boissy, RE; Hoath, SB (Nov 2000). “Characterization of vernix caseosa: water content, morphology, and elemental analysis.”. The Journal of investigative dermatology 115 (5): 875–81. doi:10.1046/j.1523-1747.2000.00134.x. PMID 11069626. 
  8. ^ Youssef, W; Wickett, RR; Hoath, SB (Feb 2001). “Surface free energy characterization of vernix caseosa. Potential role in waterproofing the newborn infant.”. Skin research and technology : official journal of International Society for Bioengineering and the Skin (ISBS) [and] International Society for Digital Imaging of Skin (ISDIS) [and] International Society for Skin Imaging (ISSI) 7 (1): 10–7. doi:10.1034/j.1600-0846.2001.007001010.x. PMID 11301635. 
  9. ^ Wakai, RT; Lengle, JM; Leuthold, AC (Jul 2000). “Transmission of electric and magnetic foetal cardiac signals in a case of ectopia cordis: the dominant role of the vernix. caseosa.”. Physics in medicine and biology 45 (7): 1989–95. doi:10.1088/0031-9155/45/7/320. PMID 10943933. 
  10. ^ TAURA, Tadashi (1969). “Clinical Studies on Hydrogen Ion Concentration on the Surface of Normal Human Skin”. Nishi Nihon Hifuka 31 (3): 296–314. doi:10.2336/nishinihonhifu.31.296. ISSN 1880-4047. https://ci.nii.ac.jp/naid/130004830217/%0910.2336/nishinihonhifu.31.296. 
  11. ^ Saunders, Colman (1 August 1948). “The vernix caseosa and subnormal temperature in premature infants.”. The Journal of obstetrics and gynaecology of the British Empire 55 (4): 442–444. doi:10.1111/j.1471-0528.1948.tb07409.x. PMID 18878967. 
  12. ^ Riesenfeld B, Stromberg B, Sedin G. The influence of vernix caseosa on water transport through semipermeable membranes and the skin of full-term infants. Neonatal Physiological Measurements: Proceedings of the Second International Conference on Fetal and Neonatal Physiological Measurements, 1984:3–6.
  13. ^ 家庭医学館. “過期産児(かきさんじ)とは” (日本語). コトバンク. 2020年2月1日閲覧。
  14. ^ 小林, 里実「新生児期の生理的皮膚変化 (特集 見てわかる小児の皮膚疾患) – (新生児期・乳児期の皮膚疾患)」『小児科診療』第78巻第11号、2015年11月、 1441–1445、 ISSN 0386-9806
  15. ^ 吉田, 和恵「皮膚の落屑 (特集 ちょっと気になる新生児 : お母さんの不安に答える) – (皮膚の異常)」『周産期医学』第47巻第9号、2017年9月、 1226–1229、 ISSN 0386-9881
  16. ^ 三石, 知左子、三橋, ひとみ「新生児のドライテクニックは有効ですか? (特集 アレルギー疾患FAQ) – (アトピー性皮膚炎)」『小児科診療』第80巻第12号、2017年12月、 1669–1672、 ISSN 0386-9806
  17. ^ 西島, 浩二、高橋, 仁、吉田, 好雄「MW1-4 肺サーファクタントと胎脂は早産児の腸管を保護する : 胎児期における肺-皮膚-消化器間相互作用の解明を目指して(ミニワークショップ1 早産管理と児の予後,一般演題,公益社団法人日本産科婦人科学会第68回学術講演会)」『日本産科婦人科學會雜誌』第68巻第2号、2016年、 595頁。

関連文献[編集]

外部リンク[編集]

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