考古資料

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二足歩行の足跡が見つかったエチオピアの「ルーシー」(レプリカ)

考古資料(こうこしりょう)とは歴史を考察する一次資料(実物又は現象に関する資料)[注釈 1]のうち、遺構遺物など考古学的発見によって得られた資料、また考古学が対象として取り扱う資料の総称で、物質のうえにとどめられた人間活動の痕跡のすべてをさす。

概略[編集]

ツタンカーメン王の「黄金のマスク」

考古資料の代表例としては、土器石器金属器などの遺物竪穴住居跡土坑墓などの遺構など、人間の積極的な製作活動により残されたものが掲げられるが、これらのほかに、廃棄された獣骨や魚骨、石器製作に伴う石屑、無意識のうちに残された足跡なども含み、これらの総体である遺跡全体が考古資料として扱われる。考古学における考古資料は、文献史学における文献資料に対応する。

考古資料は、時間的な位置づけとともに空間的な位置づけが研究においてきわめて重要視される点で美術品とは大きく異なり、むしろ古生物学における化石資料との共通点が多い。ともに層序や出土地点、出土状況が重視されるだけでなく、ともに発掘調査によって得られ、当該学問において根底となる基本資料であり、また、その資料には遺存しやすいものとしにくいものがあり、遺存状況としてもさまざまなレベルや様態があること、さらに、資料に依拠した復元的思考によって検討ないし追究されることなど、資料の入手方法や資料特性、分析方法などの諸点で、考古学・考古資料と古生物学・地質学・化石資料では共通点が少なくない。このことを利用し、たとえば、地質学における「地層累重の法則」などは、考古学にも応用されて多大な成果をあげている。

歴史資料としての考古資料[編集]

歴史資料の分類方法にはさまざまなものがあり、また、吟味し考察する人間の姿勢しだいでどのようなものでも歴史資料となりうるから、いくらでも細分が可能であるが、ごく大まかには以下の5つに大別することができる。

  1. 新聞雑誌文学などもふくめ、文字によって記録された文献資料
  2. 絵画写真漫画地図などの図像資料
  3. 映画ビデオ録音などの映像資料音声資料
  4. 考古資料
  5. 風俗習慣伝説民話歌謡など伝承された民俗資料

これはあくまでも分類の一例である。このなかで、考古資料は人間活動の営為の痕跡を示す実物資料といえるが、そのいっぽうで資料としては、特に層位学的研究においては、堆積物としての性格を併せもっている。

なお、それぞれの歴史資料の詳細については、各項目を参照されたい。

考古資料の種類[編集]

考古学では、過去の人が、主として土の中に残した活動のあとを資料として彼らの活動を追究する。これが考古資料である。考古資料には、以下のものがある。

  1. 遺跡…過去の人の活動の場。人が住んでいたところ(集落遺跡・都市遺跡・貝塚)、祈り祭ったところ(祭祀遺跡)、寺や神社、神殿のあと(宗教遺跡)、ものをつくったあと(製塩遺跡・製鉄遺跡・水田遺跡など。生産遺跡と総称)、道や港あと(交通遺跡)、死者を葬ったあと(墓地遺跡・古墳)、墓以外で意図的に何かを埋めた遺跡(経塚銅鐸埋納遺跡など)などがある。
  2. 遺構…遺跡を構成する不動産的要素。の跡や集落を囲むの跡など。
  3. 遺物…遺跡を構成する動産的要素。各種の道具、道具をつくるための道具、燃料、さらに、食用や道具を作る材料としてもちこんだ動植物の遺体、廃棄された貝殻・魚骨・獣骨、糞石(人のフン)なども遺物にふくめる。
  4. 遺跡に堆積した層整地などにより人が築いた層、遺物の堆積した層(遺物包含層)など。
  5. 人の遺体人骨)…化石化したものは化石人骨と称する。

文化財保護法における位置づけ[編集]

文化財保護法第2条(文化財の定義)の第1項に、建造物絵画彫刻工芸品書跡典籍古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料(以下「有形文化財」という。)とあり、法的には有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群を「文化財」としたうちの「有形文化財」にあたる。また、同法27条によれば、有形文化財のうち重要なものを「重要文化財」、重要文化財のうち「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」を国宝に指定することができる、としている。考古資料(考古遺物)で国宝に指定されているものは国宝一覧#考古資料の部にリストアップされている。

遺跡(および遺構)に関しては、「記念物」の扱いであり、第109条から第133条の(第7章)史跡名勝天然記念物で扱われる。特に重要な遺跡は「史跡」さらには「特別史跡」に指定され、保存の対象となる。しかしながら、考古学研究においては、本来的には、遺構・遺跡と遺物とを切り離すことはできないはずである。したがって、ここではもっぱら文化財の保護と活用に際しての便宜に供した区分になっているともいえる。

なお、同法の第92条から第108条まで(第6章)は、埋蔵文化財(土地に埋蔵されている文化財)の取り扱いに関する規定であるが、これは、発掘調査の対象となる遺跡ないしは考古学研究における考古資料とほぼ同義である。

認定規準を満たし、あるいは、法的手続きを経た考古資料が埋蔵文化財である。

考古資料の特質[編集]

京都市内の発掘調査風景(江戸時代の層の下に秀吉時代の盛土整地層、室町平安古墳弥生など各時代の遺物包含層がつづく)

佐原眞によれば、考古資料をとくに文献資料と比較した際の特質として、以下の諸点を掲げている[1]

  1. 文献資料には作意を含む非事実が書いてあることもあり、誤字や誤りもおこりえる。それに対して考古資料は「無口」だが基本的に「ウソをつかない」。どんな破片であっても基本的には「ホンモノである」[注釈 2]
  2. 古い文献ほど中央側、体制側、有力者側、男性に偏る傾向がある。それに対して考古資料には片寄りがなく、「平等である」。
  3. 発見や発掘調査によって考古資料そのものがどんどん「増している」。
  4. 自然科学の発達とその提携とによって、花粉化石、細胞化石、寄生虫卵、脂肪酸DNA放射性同位体の割合など「目に見えない考古資料も増加している」。
  5. 道路建設などの開発行為によって遺跡がどんどん「減少している」。
  6. 「考古資料の洪水」のなかで、考古資料全体を把握している人がいない。
  7. くさってしまう有機質遺物や何度も鋳なおされる青銅器・鉄器など、考古資料は全体からみれば「残らないものの方が多い」。

考古資料の取り扱い[編集]

博物館美術館などで展示されている考古資料は、完全な形をしているものが多く、見た目も美しく、さほど弱いものに見えないが、実は長い年月を経てきたものであって、資料は時間の経過とともに劣化していく。また、実際に出土する遺物の多くは破片の状態で出土するのであり、これらをつなぎ合わせたり、欠損部を石膏合成樹脂で補いながら復元される。そのため、取り扱いの任にあたる者は、見た目とは違う資料の脆弱性をしっかり認識せねばならない。

土器埴輪については、突起・把手・装飾部分をもたないこと、両手で持つことが基本である。石器も刃部はきわめて鋭利に仕上げられているため、その部分に強い力がかかると簡単に折れたり、割れたりする可能性があり、しかも、こうした打製石器の刃部には貴重な情報がのこっているのでなるべくふれないよう心がけるべきである。

金属器を取り扱う場合は、事前にX線撮影をおこない、その状態を把握しておくことが望ましい。腐食やひびが著しい場合には脱塩処理が必要なケースもある。木器の場合は樹脂含浸処理や凍結乾燥処理などの化学的保存処理が施された資料であれば、他の考古資料と同様に扱うことができる。

なお、土層貝層の剥ぎ取り標本配石立石竪穴住居などの遺構も、貴重な展示資料となる。

日本のおもな考古資料館[編集]

考古資料は都道府県市町村設立の各博物館・資料館に数多く収蔵されている。ここでは、考古資料を専門的に展示する施設のみを掲げる。なお、大学附属の資料館としては國學院大學明治大学国際基督教大学などのものが著名である。(凡例は、所在地、関連遺跡・関連団体の順)

世界のおもな考古博物館[編集]

イスタンブール考古博物館の展示

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 文部省告示第164号「公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準」第3条(資料)の定義による。
  2. ^ 旧石器捏造事件が起こってしまったこんにちでは、「ただし、捏造がない場合」というただし書きが必要になってしまった。ある意味では、誰もが「基本的には『ホンモノ』のはず」と見なしていたことが、この事件における事態の悪化を招く要因になったとも言える。その意味で、この特質は単に考古資料のすぐれた点のみを示すだけでなく、その扱いの盲点、留意点をも端的に示している。

参照[編集]

  1. ^ 佐原(1999)

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 石井進「歴史研究と考古学」国立歴史民俗博物館編、『歴博大学院セミナー考古資料と歴史学』吉川弘文館、1-18頁、1999.2、ISBN 4642077545
  • 佐原眞「文献資料と考古資料」国立歴史民俗博物館編、『歴博大学院セミナー考古資料と歴史学』吉川弘文館、245-274頁、1999.2、ISBN 4642077545
  • 井上洋一・佐々木利和「博物館資料取扱論6 考古資料の取り扱い」佐々木利和・松原茂・原田一敏『新訂 博物館概論』放送大学教育振興会、103-112頁、2007.4

外部リンク[編集]