縁故採用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search

縁故採用(えんこさいよう)とは、企業が求職者を雇用する際、その企業となんらかの関わりがあることを採用の条件とすること。

南欧のクリエンテリズモ[編集]

文化人類学の研究によると、イタリア(特に中南部)などでは被保護者(クライエント)が労働や選挙での支持などを保護者(パトロン)に提供し、保護者は経済的援助や就職の援助などを行うという人間関係のあり方がみられる[1]。このような関係はクリエンテリズモと呼ばれ、文化人類学だけでなく社会学政治学でも研究対象なっている[1]。イタリアでは、従業員を採用するときはコネや姻戚関係が重要な役割になる[2]。また、ギリシャでは、政権交代のたびに支持者を公務員にした[3]猟官制)。イタリアなどにみられるクリエンテリズモと呼ばれる人間関係は北欧や北米からは奇妙な文化と捉えられている[1]

クリエンテリズモにおける被保護者(クライエント)と保護者(パトロン)の関係は、個々の対面的な関係を基盤としており、互恵的関係ではあるが、上下のある不平等な関係でもある[1]

日本における縁故採用[編集]

概要[編集]

求職者を雇用するのは、企業側にとっても大きな問題である。採用した人物が直ぐに辞めてしまったり、問題を起こしたりするとその企業も大きな損失を蒙ることになる。そのような中、「縁故」=「コネ」のある人物は「コネ」(取り持ってくれた人物)への配慮から就職後すぐに辞めることが少なく、機密漏洩などの問題を起こすことが少ない点で、また、地方の地元企業では若者の大都市流出を回避できる点で重視している企業もある。 その他、広く宣伝する必要がないため、企業が社員募集に必要な人的・金的コストを削減出来るという側面もある。

職種[編集]

一方で「コネ」は公平性に欠け、優秀な人材を集められるとは限らないため、前時代的なものとして既に廃止されているか、または縮小されている。

地方自治法第169条・第198条の2の規定により、地方自治体の会計管理者(旧出納長・旧収入役)に首長、副首長、監査委員と親子、夫婦又は兄弟姉妹の関係にある者を起用すること、地方自治体の監査委員に首長、副首長、会計管理者(旧出納長・旧収入役)と親子、夫婦又は兄弟姉妹の関係にある者を起用することをそれぞれ禁止している。また国会議員秘書給与法第20条の2の規定により、国会議員公設秘書に当該国会議員の配偶者を起用することはできない。

他の公務員では現職公務員の親族の採用そのものを禁止しているわけではないが、国家公務員法第27条・第33条、地方公務員法第13条・第15条、外務公務員法第3条、裁判所職員臨時措置法の規定により、一般職公務員・外務職員・裁判所職員の採用について「社会的身分や門地」による差別を禁じて「能力の実証」等に基づいて行う旨の規定があるため、「社会的身分や門地」による差別によって「能力の実証」等に反して縁故採用することを禁止している。また自衛隊法第35条により、自衛隊員の採用について「能力の実証」等に基づいて行う旨の規定があるため、「能力の実証」等に反して縁故採用することを禁止している。過去にはこの趣旨に反して公務員の子弟を縁故採用した例として和歌山市職員採用汚職事件や大分県教員汚職事件があり、刑事事件に発展した。

地方自治法第117条により、地方議会議員は「父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件」について議事に参与することができない規定があるため、地方議会同意人事の議決に投票することができない。地方自治法第189条により、投票管理者、投票立会人、開票管理者、開票立会人、選挙長、選挙立会人、審査分会長、国民投票分会長の選任権限がある選挙管理委員会の委員に対し「父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件」について議事に参与することができない規定があるため、選挙管理委員会委員は規制対象親族に関する投票管理者等の人事の議決に投票することができない。地方教育行政法第13条により、「学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること」を権限として規定されている教育委員会の委員に対し「配偶者若しくは三親等以内の親族の一身上に関する事件」について議事に参与することができない規定があるため、教育委員は規制対象親族に関する教育機関職員の人事について投票することができない。ただし、これらの人事は議員や委員の親族が起用されること自体を禁止したものではなく、議会又は委員会の同意があれば対象の議員や委員は議会や委員会に出席して発言することは可能である。

公務員の縁故採用について上記の規制がある一方で、2007年に郵政民営化される前の特定郵便局長については任用試験は殆ど公募されることがなく、事実上一部の関係者(主に局長の親族)しか知りえない構図だったため、縁故採用という指摘がなされてきた。

民間企業の場合は、発展・成長の著しい分野の企業では現職社員の子弟の採用を禁止しているケースが存在するが、多くの企業では必ずしも禁止されておらず、地方の地元企業では先述のとおり若者の大都市流出を回避できるという点で、むしろ積極的に行なわれているケースもある。

種類[編集]

縁故には、次のような種類がある。

  • 地元有力者(政治家、事業家、地主など)の紹介がある
  • 既に親戚・親兄弟などの親族が勤務・経営している場合
  • 同郷出身者、同じ学校の卒業など
  • 業界有力者や同じタレント事務所の紹介など
  • 学者枠-企業・業界とつながりの深い学者(大学教授など)の紹介や、その学者のゼミ

事例[編集]

  • 岩波書店の公式ホームページで、2013年度採用の条件として「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」と記載された。縁故採用を公然と宣言する記述と見なされて物議を醸し、厚生労働大臣もこの表明を問題視して東京労働局が聞き取り調査を行った。なお、岩波書店の側は「選考のバリエーションのひとつ。『どうしても入りたい』という方は、(岩波書店から著書を出版している)ゼミの先生や、さらにその知人の先生にお願いするなど、方法はある。具体的な行動を起こしてもらえれば」とコメントしている[4]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 伊藤公雄『光の帝国/迷宮の革命 鏡のなかのイタリア』青弓社、1993年、166頁
  2. ^ “イタリアの問題が解決したと思うのは早計”. (2011年11月15日). http://markethack.net/archives/51784078.html 2011年11月15日閲覧。 
  3. ^ “日本はギリシャになるのか”. http://www.jc.u-aizu.ac.jp/11/141/thesis/msy2010/10.pdf 
  4. ^ 岩波書店の「縁故採用」宣言 そんなに悪いことなのか

関連項目[編集]