経路依存性

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経路依存性(けいろいぞんせい、: path dependence)は人々が任意の状況で直面する決定の集合が、過去の状況がもう関係なくなっているとしても、人々が過去にした決定や経験した出来事にどのように制限されているかについての説明である。[1]

経済学社会科学において、経路依存は時間内の単発の結果またはプロセスの長期均衡のどちらかを指す。通常の使われ方では、経路依存性は以下のどちらかを指す。

  1. 広義では「歴史は重要である」、[2]または
  2. 小さな違いの予測できる増幅は将来の状況の不釣り合いな原因であり、「強く」言えば、歴史的遺物は非効率である。 [3]

最初のAの用法では、「歴史は重要である」というのは多くの文脈で自明に真である。すべてのものには原因があり、そして時に違う原因は違う結果を生む。この文脈では、ファイナンスにおける経路依存性のオプションのように歴史の影響が標準的でない英語版とみなされているところとは違って、過去の状態の直接の影響は注目に値しないかもしれない。[4]

狭い概念であるBが、最も高い説明力を持ち、この記事で解説される。

実例[編集]

ビデオ戦争は一例である。「製品の質から独立した」3つのメカニズムが、VHSがどのようにしてわずかな初期の普及におけるリードからベータマックスとの競争に勝ったかを説明できる。

  1. ネットワーク効果:レンタルビデオ店はVHSのほうがレンタルが多かったので、VHSの在庫を多くし、その結果レンタル店利用者はVHS規格のビデオプレーヤーを購入し、より多くのVHSをレンタルし、そして完全なベンダーロックインが成立した。
  2. ビデオプレーヤー生産者がVHSが「標準戦争」に勝つと予想したことによる、生産者のVHS生産転換へのバンドワゴン効果
  3. ベータマックスの元の開発者であるソニーは、ボルノビデオ産業を支援することに興味がなく、その結果ほとんどすべてのアダルト映画はVHS規格で発売された。

他の分析はVHSは市場の需要によりよく適応したとする(具体例:録画時間が長かった)。この解釈では、経路依存性はVHSの成功にほとんど関係がなく、もしベータマックスが初期のリードを確立していたとしてもVHSは成功していたとする。[5]

ポジティブフィードバックメカニズムは、バンドワゴン効果やネットワーク効果などと同じく、経路依存性の起源である。[要出典]。それらは強化パターンを導き、産業はあるデザインや他のデザインに「傾く」。(意図的に)調整されていない標準化は他の多くの状況でも観察される。

経済学[編集]

経路依存性理論はもともと経済学者が技術適応プロセスと産業進化を説明するために開発された。理論的アイデアは進化経済学に強い影響を与えた。[6]

経済プロセスが一定の事前決定されたユニークな均衡に向かって着実に進まない多くのモデルや経験的ケースがあるが、達成される均衡の性質は部分的にそこに到達するプロセスに依存する。したがって、経路依存プロセスの結果は、しばしば固有の平衡に向かって収束することはないが、代わりにいくつかの平衡(時には吸収状態として知られる)の1つに到達する。

この経済発展に対するダイナミックな視点は新古典派経済学の伝統とは大きく異なり、新古典派の最もシンプルな見方では初期の条件や一時的な出来事にかかわらず一つの結果だけが可能性としてもたらされるとした。経路依存性があると、スタート地点と「偶然」の出来事(ノイズ)が最終的な結果に対して大きな影響を持つ。次の例のそれぞれにおいて、不可逆的な結果を伴って進行中のコースを邪魔したいくつかのランダムなイベントを特定することができる。

QWERTYキーボード
Dvorakキーボード
キーボードレイアウト
  • 経済発展の分野では(1985年にポール・デイビッド英語版により)[7]最初に市場に現れた「標準」は(コンピュータ時代でもなお使われているタイプライター時代のQWERTYキーボードレイアウトのように)定着することができると言った。彼はこれを経路依存性と呼んだ、[8]そして、劣った標準が自身の作り上げたレガシーシステムによって持続することがあると言った。QWERTY対Dvorakはその現象の例であるという説は、何度も主張され、[9]疑問視され、[10]議論され続けている。[11]標準がどのように作られるかについての経路依存性の重要性についての経済論争は続いている。[12]
  • アダム・スミスからポール・クルーグマンまで、経済学者は似たビジネスは地理的にかたまりとなって集まる傾向があると言ってきた。近くと似たビジネスを起こすことはそのビジネスのスキルをもった労働者を惹きつけ、熟練労働者を求めるビジネスをもっと惹き付ける。産業が発展する前に、特定の場所を他の場所よりも選好する理由は何もないかもしれないが、地理的に集中してくるにつれて、他の場所にいるビジネスの参加者は不利になり、ハブに移るようになり、その場所の相対的な効率性を増加させる。このネットワーク効果は理想化されたケースでは統計学的な冪乗則に従うが、[13](地域のコストの上昇に伴い)ネガティブ・フィードバックが起きることもある。[14]
  • 売り手は買い手の周りに集まることが多く、そして関連したビジネスはビジネスクラスター英語版を形成することが多い。よって、(初期においては偶然と集まりによって)生産者が集まることは、同じ地域において相互依存したビジネスの出現の引き金を引くことになることがある。[15]
  • 1980年代、米ドル為替相場が上昇し、輸出入可能な商品の世界価格が多くの(以前は成功していた)米国の製造業者の生産コストを下回った。結果として閉鎖した工場の一部は、ドル相場の下落のあとにキャシュフロー利益で運営できたかもしれないが、再稼働はコストが高すぎた。これはヒステリシススイッチング・コスト、そして不可逆性の例である。
  • もし経済が適応的期待英語版に従うなら、将来のインフレーションは過去のインフレを伴う経験に部分的に決定される。経験が予想インフレを決め、そして予想インフレが実現したインフレの主な決定要因だからである。
  • 不況期の一時的な高い失業率は、失業者のスキルの損失(やスキルの陳腐化)やそれに伴う勤務態度の劣化により、永久に高い失業率をもたらすことがある。言い換えると、周期的失業は構造的失業を生むかもしれない。この労働市場構造的履歴現象モデルは自然失業率(NAIRU)の予測とは違い、「周期的」失業は「自然」率自体には影響せずに動くと言われている。

LiebowitzとMargolisは経路依存性をいくつかのタイプに区別する。[3]非効率性を示唆しないタイプもあれば、新古典派経済学の政策的含意に挑戦しないタイプもある。「三度」の経路依存性ーつまりスイッチングの利益が大きく、移行は実用的ではないーだけが新古典派に挑戦する。彼らは、理論的な理由からそのような状況はまれであり、実際の世界において、私的ロックインの非効率性は存在しないとする。[16]VergneとDurandは、経路依存性の理論を経験的にテストできる条件を特定することによりこの批判を適切であるとした。[17]

技術的には、経路依存性の確率過程はそれ自身の歴史過程の(関数としての)結果として進化する漸近分布英語版を持つ。[18]これは非エルゴード英語版確率過程とも呼ばれる。

エディス・ペンローズは、『会社成長の理論』(The Theory of the Growth of the Firm)(1959)の中で、有機的そして買収を通じた会社の成長がその会社の経営者の経験とその会社の発展の歴史に強く影響されていることを分析した。

歴史[編集]

比較政治および社会学における最近の方法論的研究は、経路依存性の概念を政治的および社会的現象の分析に適用した。経路依存性は、社会的だろうと、政治的だろうと、文化的だろうと、制度の発展と持続性の比較歴史的分析にまず用いられてきた。おそらく2つのタイプの経路依存性プロセスがある。

決定的合流点フレームワークは、国々の間でとりわけ、福祉国家の発展と持続、ラテンアメリカにおける労働法人、そして経済発展の変動を説明するために使用されてきた。キャスリーン・セレンなどの学者は経路依存性フレームワークに含まれる歴史的決定論は、制度的進化からの絶え間ない破壊の対象になると警告する。

社会科学[編集]

ポール・ピアソンの政治科学において経路依存性を厳密に定式化しようとする影響力を持った試みは、経済学からアイデアを部分的に持ってきている。ハーマン・シュワルツはこの努力に疑問を呈しており、経済学の文献で特定された力は、権力の戦略的な行使によって制度を作りそして変えることができる政治的領域には広まっていないとする。

緊急戦略の経路依存性は、個人およびグループに対する行動実験で観察されている。[20]

社会学組織論などの社会学において、経路依存とは区別されるが密接に関連する概念として、「刷り込み」がある。刷り込みは初期の環境条件がどのように永続的な印を組織や組織の集合(産業やコミュニティー)に押すかを扱う。刷り込みは、外部環境条件が変わったとしても長期的に組織行動や結果を形作り続ける。[21]

他の例[編集]

  • 経路依存性の一般的なタイプは形式学的痕跡である。
    • 例えば、タイポグラフィにおいて、習慣が存在するための理由がなくなったとしても、その習慣が継続することがある。例えば、アメリカのスペリングにおいて引用符(quotation)の中にピリオドを書くことなどである。活字において、コンマやピリオドなどの文の終わりの句読点は、比較的小さくて繊細だった(適切なカーニングで(小文字の)xの高さ英語版である必要があった)。単語が行の中または行間を移動する必要がある場合、完全な高さの引用符を外に置くと、より小さな金属の活字が損害から保護される。ピリオドが引用されるテキストに属していなくても、これは実行される。
  • 進化は経路依存性だと考える人がいる。過去に起きた突然変異は、現在の状況では非適応かもしれなくても、現在の生命の形態に長期的に影響している。例えば、パンダの親指が進化上残った形質かどうかについての論争がある。
  • コンピュータソフトウェアの市場では、レガシーシステムが経路依存性を示す。現在の市場の顧客のニーズは、過去の世代の製品のデータを読み込んだりプログラムを走らせることを含むことが多い。よって、例えば、顧客は単にベストのワードプロセッサーを必要とするのではなく、むしろ、Microsoft Wordのファイルを読み込める中でベストのワードプロセッサーを必要とするかもしれない。そのような互換性に関する制限はロックインに繋がり、あるいはもっと微妙に、互換性を保つために、独立して開発されたプロダクトに対して妥協することがある。3E戦略を参照。

関連用語[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Definition from "Our Love Of Sewers: A Lesson in Path Dependence", Dave Praeger, 15 June 2008.
  2. ^ Liebowitz, S.; Margolis, Stephen (2000). Encyclopedia of Law and Economics. p. 981. ISBN 978-1-85898-984-6. "Most generally, path dependence means that where we go next depends not only on where we are now, but also upon where we have been." 
  3. ^ a b Liebowitz, S.; Margolis, S. (September 2000). Bouckaert, Boudewijn; De Geest, Gerrit. eds. Encyclopedia of Law and Economics, Volume I. The History and Methodology of Law and Economics. Cheltenham: Edward Elgar. p. 985. ISBN 978-1-85898-984-6. http://encyclo.findlaw.com/0770book.pdf 2010年5月20日閲覧. "path dependence can be weak (the efficiency of the chosen path is tied with some alternatives), semi-strong, (the chosen path is not the best but not worth fixing, or strong (the chosen path is highly inefficient, but we are unable to correct it)." 
  4. ^ Bellaïche, Joël (2009). “On the path-dependence of economic growth” (PDF). Journal of Mathematical Economics 46 (2): 178. doi:10.1016/j.jmateco.2009.11.002. オリジナルの2010-06-24時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100624073123/http://www.math.columbia.edu/~jbellaic/growth.pdf.  The standard economic growth rate measurements are path-dependent, and "the phenomenon of dependence of history might be ignored for short period of time (10 years, 20 years), but is not negligible for secular comparisons."
  5. ^ Liebowitz, Stan (2002). Re-thinking the Network Economy. p. 41. ISBN 978-0-8144-0649-6. http://www.utdallas.edu/~liebowit/book/chapter1.html#_Toc536617. "It was the inferior playing time that led to the demise of the Betamax, not the fact that it was first or second or third." 
  6. ^ Nelson, R; Winter, S (1982). An evolutionary theory of economic change. Harvard University Press. 
  7. ^ Stack, Martin; Gartland, Myles (2003). “Path Creation, Path Dependency, and Alternative Theories of the Firm”. Journal of Economic Issues 37 (2): 487. "Paul David and Brian Arthur published several papers that are now regarded as the foundation of path dependency (David 1985; Arthur 1989, 1990)." 
  8. ^ Paul David (May 1985). “Clio and the Economics of QWERTY”. American Economic Review 75 (2): 332–337. JSTOR 1805621. "In such circumstances "historical accidents" can neither be ignored, nor neatly quarantined for the purpose of economic analysis"  Direct PDF link
  9. ^ Diamond, Jared (April 1997). “The Curse of QWERTY”. Discover Magazine. http://discovermagazine.com/1997/apr/thecurseofqwerty1099. 
  10. ^ Liebowitz, S. J.; Margolis, S. E. (April 1990). “The Fable of the Keys”. Journal of Law and Economics (Blackwell Publishers) 30: 1–26. doi:10.1086/467198. SSRN 1069950. "we conclude that QWERTY is about as good a design as any alternative" 
  11. ^ David, Paul A. (5–12 September 1999). “At Last, a Remedy for Chronic QWERTY-skepticism!”. European Summer School in Industrial Dynamics (ESSID). l'Institute d'Etudes Scientifique de Cargèse (Corse), France. http://EconPapers.repec.org/RePEc:wpa:wuwpeh:0502004 
  12. ^ Puffert, Douglas (2008年2月10日). “Path Dependence”. 2010年5月20日閲覧。
  13. ^ D'Souza, Raissa M. (2007). “Emergence of Tempered Preferential Attachment from Optimization”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104 (15): 6112–6117. doi:10.1073/pnas.0606779104. PMC: 1839059. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1839059/. 
  14. ^ Jennen, M.; Verwijmeren, P. (2009). “Agglomeration Effects and Financial Performance”. Urban Studies 47 (12): 2683–2703. doi:10.1177/0042098010363495. ssrn 1009226. 
  15. ^ Jen Nelles, Allison Bramwell and David Wolfe (2005). Global Networks and Local Linkages: The Paradox of Cluster Development in an Open Economy. Montreal and Kingston: McGill-Queens University Press for Queen's School of Policy Studies. p. 230. ISBN 978-1-55339-047-3. http://www.druid.dk/uploads/tx_picturedb/dw2005-1650.pdf 2010年5月20日閲覧。. 
  16. ^ Stephen E. Margolis. “Path Dependence 4. Evidence for Third-Degree Path Dependence”. 2010年5月20日閲覧。 “Our reading of the evidence is that there are as yet no proven examples of third degree path dependence in markets.”
  17. ^ Vergne, J. P.; Durand, R. (2010). “The Missing Link Between the Theory and Empirics of Path Dependence: Conceptual Clarification, Testability Issue, and Methodological Implications”. Journal of Management Studies 47 (4): 736. doi:10.1111/j.1467-6486.2009.00913.x. "In particular, we suggest moving away from historical case studies of supposedly path-dependent processes to focus on more controlled research designs[,] such as simulations, experiments, and counterfactual investigation."" 
  18. ^ David, Paul (2005). Evolution and path dependence in economic ideas: past and present. Edward Elgar. p. 19. ISBN 978-1-84064-081-6. "as generally is the case for branching processes [in Path dependence, its critics and the quest for 'historical economics']" 
  19. ^ Page, Scott E. (January 2006). “Path dependence”. Quarterly Journal of Political Science (Now Publishing Inc.) 1 (1): 88. doi:10.1561/100.00000006. https://doi.org/10.1561/100.00000006.  Pdf.
  20. ^ Egidi, Massimo; Narduzzo, Alessandro (October 1997). “The emergence of path-dependent behaviors in cooperative contexts”. International Journal of Industrial Organization 15 (6): 677–709. doi:10.1016/S0167-7187(97)00007-6. http://www-ceel.economia.unitn.it/papers/lyon.html. ""[Some test subjects] adopted a strategy once and for all[,] and insisted on using it[,] even when the configurations could not be efficiently played with the strategy adopted."" 
  21. ^ Marquis, Christopher; Tilcsik, András (2013). “Imprinting: Toward A Multilevel Theory”. Academy of Management Annals: 193–243. SSRN 2198954. 

参考文献[編集]