米国産牛肉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

米国産牛肉(べいこくさんぎゅうにく)とは、アメリカ合衆国を原産地とするか、またはアメリカ合衆国で加工された牛肉。約1億頭のが飼育され、年間約3500万頭の牛が牛肉として加工される。トウモロコシなどの穀物飼料が使われ、赤身で脂分が多いとされるグレインフェッド(穀物飼育)牛が80%を占める(一方オージー・ビーフなどは赤身の割合が多いグラスフェッド(牧草飼育)牛が多い)。

米国農務省(USDA)による品質格付があり、プライム・チョイス・セレクト・スタンダード・コマーシャル・ユーティリティー・カッター・キャナーの8等級に格付けされる。

アメリカのCostcoで販売しているUSDA Prime Beef

日本においては1991年に輸入が自由化された。主に、牛丼牛タンの原材料用に多用され、スーパーマーケットでは、カタロース、サーロインなどの部位が販売されている。また、焼肉レストランで牛タン、ハラミ、カルビ等が多く使われている。

飼育[編集]

生後約1年ほど放牧場で飼育された後、フィードロットと呼ばれる集中肥育施設に移され飼育される。飼育には6種類の成長ホルモン剤の使用が認められている。通常肥育施設に搬入された段階で耳の後ろに1センチほどの小さな円筒形のホルモン剤を注入する。しかし、それぞれに決められた休薬期間に基づいて獣医師の管理のもとで投与は実施される。万が一を考慮して、屠畜の際に耳は切除され廃棄される。一部に出生管理やトレーサビリティの不備を指摘する向きもあるが、これは安全性とは全く関連しないものであり、日本向けには月齢証明、または枝肉による成熟度により月齢が判定される。

米国FDAは動物に非反芻動物のタンパク質を牛の餌に与えることを許容している。例えば、鶏糞や畜粉を牛に与えることは許容されており(鶏糞飼育)、牛や豚の肉骨粉は鶏の餌として与えられている。しかし、現実的に牛の肥育、飼育施設は中西部に、養鶏場は南部中心に立地していることから、鶏糞を与えるのは現実的ではない。 また、大豆トウモロコシなどの植物性たんぱくを給仕するほうがコスト安であり、畜糞給仕は極めて稀なケースといえる。2010年には現在の家畜生産体制を考慮した飼料規制の第二弾が実行されており、これまで言われてきた懸念はないといえる。

加工[編集]

食肉処理加工企業は「パッカー」と呼ばれ、タイソンフーズ、エクセル、JBS、ナショナルビーフパッキングの4社(四大パッカー)がシェアの8割を占める。

BSE問題[編集]

韓国のファーストフード店の看板。アメリカ産牛肉ではなく、オーストラリア産を使用していると書かれている。
アメリカ産牛肉の輸入に抗議する韓国の若者

1986年にイギリスでBSEが確認されたことをうけ、1990年に歩行困難な牛などを対象としたBSEサーベイランス(狂牛病監視・検査システム)を採用。アメリカでは1997年には肉骨粉飼料への使用が禁止された。 2001年に日本で、2003年にはアメリカで牛海綿状脳症(BSE)の発生が確認された。これにより日本からの牛肉は輸出禁止となり、米国産牛肉の輸入日本韓国台湾などが禁止した。その後2005年には日米で定めた新たな輸入条件のもとで20か月以下の牛に由来する骨なし牛肉のみ再開された。

BSE問題の日本への影響[編集]

日本では1990年代後半から、伝達性海綿状脳症に汚染された輸入ヒト乾燥硬膜の使用によりクロイツフェルト・ヤコブ病を発症した患者遺族らが損害賠償を求める「薬害ヤコブ病」訴訟や、イギリスでのBSE牛の発生から、ヤコブ病・狂牛病(いずれも伝達性海綿状脳症)に対する一定の情報が報じられていた。日本ではBSEに原因する変種ヤコブ病の発生はなく、一部マスコミや活動家が風評被害の原因になっていると指摘するところもある。現在食品安全委員会で国産、アメリカ、カナダ、フランス、オランダの牛肉に関する月齢、危険部位のリスク再評価を実施中である。

BSE牛の発生[編集]

日本では2001年9月10日千葉県の牧場で飼育されていた牛が『BSEの疑いがある』と農林水産省から発表され、その後の精密検査でBSEを発症していることが発表された。疑い牛の処分やスーパーマーケットでの国産牛肉(和牛)の一時的な販売休止など「狂牛病パニック」と言われる事態が生じた。しかしテレビでは9月11日21時過ぎ(日本標準時)に発生したアメリカ同時多発テロとそれに関連するアフガニスタン侵攻、米国での炭疽菌テロなどの報道にニュース番組は向こう3ヶ月間程度時間を費やされたため、狂牛病を巡る騒動についてはワイドショー生活情報番組を中心にしか報じられなかった。

これがいわゆる風評被害の発端となり、産地を問わず牛肉で調理される料理(焼肉ステーキすき焼きなど)を食す事を避ける動きが見られ、外食産業ではそれに起因して一時的な減収となった。一方、生産業者・業者といった供給者側も大きな売上減少を被った事から、日本政府・農林水産省は同年10月より「国産牛肉買取り事業」で損失補償を始めたが、これを悪用した牛肉偽装事件が2002年に明らかとなる。さらに、大手スーパーの西友は米国産・カナダ産牛肉を「和牛」に偽装して販売したことでお詫びとして購入者を募り返金者が殺到する「西友偽装肉返金事件」を起こした。

牛丼の販売休止[編集]

2003年末の米国産牛肉の輸入禁止により、同品を大量輸入していた大手牛丼チェーンは商品供給への影響を懸念する。一部は特盛の取り扱いを中止して消費量を抑制したが、2004年2月迄に既に輸入して冷凍貯蔵していた流通在庫が底を尽き、相次いで牛丼の提供が停止される事態となった。また、牛丼のレトルトパックも販売が停止され、ネットオークションで高値をつける事態となった。

牛丼の代わりに豚肉を用いた豚丼などを売り出すといった代替商品で対応する他、他国産の牛肉に切り替えて牛丼の提供を再開するチェーンもあり、「すき家ゼンショー)」はオージー・ビーフ、「松屋フーズ」は中国産(後にオージーに切り替え)を用いて再開した。その一方で当時の最大手である「吉野家ディー・アンド・シー」はレシピ上米国産牛肉の使用に固執した(同社は1980年代にレシピを変えた事により客足が遠のき、倒産した経験がある)ため、牛丼の販売が米国産牛肉の安定供給が為される2006年9月になるまで約2年半もの間、出店契約上「牛丼」しか提供出来ない極く僅かな店舗(和牛を使用)を除き中止されたままとなっていた。

一部の人の間では強い人気を誇る存在となった牛丼を販売する大手飲食店では、輸入再開にあたり、「吉野家」は米国産牛肉を使用した商品の提供を決定。2006年9月中旬より数量限定、メニュー限定(特盛り、牛皿を扱わない)店舗限定で販売を再開し、徐々に販売量を増やして行き、2008年には販売休止前の供給状態に戻った。「松屋」は検討中、「すき家」は安全性の懸念から、当面見送りを表明するなど、対応が分かれていた。「すき家」を経営する「ゼンショー」からは、米国産牛肉を使用する事に対して批判のコメントも出されている。

なお、牛丼の代替商品として発売した経緯がある豚丼については、レギュラーメニュー化して販売を継続する企業(吉野家・松屋フーズ)と、取扱いを休止する企業(ゼンショー)に分かれていたが、2011年から2012年にかけて、吉野家はいわゆる帯広系豚丼にメニューを変更し、松屋は取り扱いをやめた。

輸入再開[編集]

輸入再開の条件として、アメリカの生産団体の一部からも全頭検査をしたいと要望が出されたが、アメリカ政府は「全頭検査を必要とする科学的根拠がない」との主張の下にこれを拒否した。

日本での禁輸措置が解除されない事で、畜産業界選出の連邦議会議員たちは、2004年から2005年にかけて駐日大使館へ出向いて輸出再開を要請する書簡を手渡したり、米国通商代表部に対して日本輸出品の関税引き上げによる制裁を要請するなどの強い行使で構え、2005年11月に来日したジョージ・W・ブッシュ大統領と小泉純一郎首相の日米首脳会談などでの外交交渉の結果、日本政府は2005年12月の再開を決定した。条件として、生後20か月以下の危険部位の除去が為された牛肉を対象に輸入が限定的に再開されたウィキニュース。輸入再開(禁輸解除)については、外交政策通商政策をめぐる思惑から、政策決定までのプロセスが不透明であったこともあり、「米国産」のブランド価値の低下や、牛肉を含めた食の安全に対する信頼性の低下などが懸念された。

輸入再開から1ヶ月ほど経過した2006年1月20日成田国際空港の動物検疫所での、無作為に選定した輸入品の抜き打ち検査から、BSEの特定危険部位の一つとされ、輸入が禁止されている脊柱の混入が見つかる。これを受け、日本政府は再び輸入禁止を決めたウィキニュース。当該商品の検査を担当したアメリカの輸出牛肉検査官が、日本向けの商品から脊柱を取り除かなければならないことを承知しておらず(人為的ミス)、そのまま輸出されたと伝えられた。米国では輸出禁止措置が迅速に執られたため、アメリカ食肉協会は『日本に対し厳しすぎる』と声明を出した一方で、日本の当時の野党や消費者団体は「アメリカの生産者は日本国民の生命を蔑ろにしている」とアメリカ側を非難している。

その後、日本政府がアメリカの加工施設を査察し、2006年7月27日、安全性が確認された施設に限り輸入を再開することを正式決定した。その一方で、アメリカ側は既に、輸出可能な牛の条件を生後30か月以下に変更するように求めている。

西友では、日本の大手スーパーの先陣を切って2007年3月31日から一部店舗で販売を再開すると発表した[1]。読売新聞によれば、販売再開の背景には、現在の親会社であるウォルマートの意向の影響が指摘されている[2]

2007年4月6日、神戸港で衛生証明書に記載がない冷蔵タンが混入と発表された。2007年4月24日、現地査察で問題のない施設から輸入した牛肉の全箱検査を終えることで日米両政府が合意した。

厚生労働省と食品安全委員会による月齢などの見直し[編集]

2011年暮れに厚生労働省はこれまで適応されていた20か月齢を前提にした輸入管理、国産のBSE検査対象をSRM(特定危険部位)の見直しと合わせ食品安全委員会に諮問した。基本的諮問内容は、現在の月齢基準である20か月齢を30か月齢に変更し、特定危険部位から脊柱などを削除した場合、国産、米国産、カナダ産、フランス産、オランダ産のリスクに現行との差があるかの判定、またこの判定後に月齢基準を30か月齢超とした場合のリスクの現行との差の判定である。現在食品安全委員会による答申案についてのパブリックコメントを10月10日まで実施している。

残留ホルモン剤問題[編集]

アメリカでは、牛を短期間で肥育させる成長促進剤として、ホルモン剤の投与が行われている。アメリカ産の牛肉には、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが国産牛肉と比較して、約600倍残留している。なお、ホルモン剤の使用は、日本やヨーロッパでは禁止されている。

エストロゲンは女性の成長に必要なホルモンであるが、外部から摂取することは、がんの発症に関与していると考えられている。牛肉消費量の増加とともに、ホルモン依存性がんの患者数が約5倍に増加していることから、アメリカ産牛肉ががんの原因であると示唆されている[1][2]

その他[編集]

2006年12月に韓国に輸出された牛肉から同国の規制値を上まわるダイオキシンが検出され、検疫不合格となり廃棄された。

脚注・出典[編集]

  1. ^ 2012年11月22日 北海道大学半田康医師の報告に基づく。
  2. ^ 「牛肉および癌組織のエストロゲン濃度 : ホルモン剤使用牛肉の摂取とホルモン依存性癌発生増加との関連」(第62回日本産科婦人科学会学術講演会) 日本産科婦人科學會雜誌 62(2), 614, 2010-02-01

関連団体[編集]

  • 全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA):全米最大の生産者団体
  • アメリカ食肉協会(AMI):全米最大の食肉業界(加工業者・パッカー)団体

関連項目[編集]

外部リンク[編集]