第VIII因子

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F8
Fviii 2R7E.png
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1CFG, 1D7P, 1IQD, 2R7E, 3CDZ, 3HNB, 3HNY, 3HOB, 4BDV, 1FAC, 3J2Q, 3J2S, 4KI5, 4PT6, 4XZU

識別子
記号F8, AHF, DXS1253E, F8B, F8C, FVIII, HEMA, coagulation factor VIII, THPH13
外部IDOMIM: 300841 MGI: 88383 HomoloGene: 49153 GeneCards: F8
遺伝子の位置 (ヒト)
X染色体
染色体X染色体[1]
X染色体
F8遺伝子の位置
F8遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点154,835,788 bp[1]
終点155,026,940 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
X染色体 (マウス)
染色体X染色体 (マウス)[2]
X染色体 (マウス)
F8遺伝子の位置
F8遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点74,216,321 bp[2]
終点74,426,221 bp[2]
RNA発現パターン
PBB GE F8 205756 s at fs.png
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 金属イオン結合
血漿タンパク結合
酸化還元酵素活性
銅イオン結合
細胞の構成要素 endoplasmic reticulum lumen
細胞膜
細胞外領域
COPII-coated ER to Golgi transport vesicle
endoplasmic reticulum-Golgi intermediate compartment membrane
platelet alpha granule lumen
ゴルジ膜
細胞外空間
生物学的プロセス 止血
platelet degranulation
凝固・線溶系
endoplasmic reticulum to Golgi vesicle-mediated transport
COPII vesicle coating
acute-phase response
blood coagulation, intrinsic pathway
platelet activation
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000132
NM_019863

NM_001161373
NM_001161374
NM_007977

RefSeq
(タンパク質)

NP_000123
NP_063916

NP_001154845
NP_001154846
NP_032003

場所
(UCSC)
Chr X: 154.84 – 155.03 MbChr X: 74.22 – 74.43 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

第VIII因子(だい8いんし、Factor VIII、FVIII)とは、血液凝固に必須のタンパク質の1つである。血液凝固カスケードを構成するタンパク質の1つであり、健常なヒト血漿には必ず含まれており、常に全身の血管内を巡っている。第VIII因子をコードしている遺伝子に異常を持ち、これを上手く作れないと血液凝固が正常に行われず、血友病Aを発症する。なお、第VIII因子が活性化された状態(activation)は、第VIIIa因子と呼ばれる。

概要[編集]

ヒトの場合、第VIII因子は肝臓類洞内皮細胞と、肝臓以外の体中の内皮細胞で産生される。血管を損傷する傷害が起こるまで、第VIII因子はvon Willebrand因子と呼ばれる別の分子と結合した不活性状態で血流中を循環する[5]。傷害に反応して第VIII因子は活性化され、von Willebrand因子から分離される。第VIII因子の活性型タンパク質は第VIIIa因子と呼ばれ、これは第IX因子と呼ばれる別の凝固因子と相互作用する。この相互作用が、血栓を形成する別の化学反応の連鎖を開始させる[5]。第VIIIa因子は第IXa因子の補因子であり、カルシウムイオンリン脂質の存在下で複合体を形成し、この複合体は第X因子を活性型であるXa因子へと変換するのである。

ヒトの第VIII因子は、X染色体に内のF8遺伝子にコードされている[6][7]。第VIII因子の遺伝子は、選択的スプライシングによって2種類の転写産物を産生する。転写バリアント1は巨大な糖タンパク質であるアイソフォームaをコードし、von Willebrand因子と非共有結合によって複合体を形成した状態で血漿中に含まれ、全身の血管内を不活性な状態のままで循環する。その後、このタンパク質は、必要に応じて複数回の切断が行われる。転写バリアント2は小さなタンパク質であるアイソフォームbをコードしていると推定され、第VIIIc因子のリン脂質結合ドメインを構成する。この結合ドメインは血液凝固活性に必須である[8]。第VIII因子の遺伝子の欠陥は、X連鎖劣性遺伝血液凝固障害である血友病Aを引き起こす[9]。このため第VIII因子は、抗血友病因子A (anti-hemophilic factor A, AHFA) としても知られる[注釈 1]。血友病Aの対症療法として、第VIII因子製剤英語版が必要とされている。この第VIII因子製剤は、現代の医療を行う上で必要とされる基本的な薬のリストである、WHO必須医薬品モデル・リストに挙げられている[10]

ただし、血漿中における第VIII因子の濃度が高ければ高いほど良いというわけではない。第VIII因子の濃度が高いヒトは、深部静脈血栓症肺血栓塞栓症のリスクが高いことが知られている[11]

遺伝学[編集]

ヒトでは、F8遺伝子はX染色体のq28に位置している。

第VIII因子は、1984年にジェネンテックの科学者によって特徴が明らかにされた[12]。第VIII因子の遺伝子はX染色体 (Xq28) に位置している。第VIII因子の遺伝子は、イントロンの1つに別の遺伝子が埋め込まれているという、興味深い一次構造を持つ[13]

構造[編集]

第VIII因子は、A1-A2-B-A3-C1-C2という6つのドメインから構成され、第V因子相同である。

Aドメインは、銅結合タンパク質のセルロプラスミンのAドメインと相同である[14]。 Cドメインはリン脂質結合性のディスコイジンドメイン英語版ファミリーに属し、C2ドメインは膜への結合を担う[15]

第VIII因子からVIIIa因子への活性化は、Bドメインの切断と放出によって行われる。その結果、タンパク質はA1-A2ドメインからなる重鎖とA3-C1-C2ドメインからなる軽鎖に分割され、双方はカルシウム依存的に非共有結合性の複合体を形成する。この複合体が凝固促進因子VIIIaである[16]

生理学[編集]

第VIII因子は糖タンパク質であり、補因子前駆体である。ヒトにおける血流への放出の主要部位は正確には判っていないものの、血管糸球体尿細管の内皮細胞、肝臓の類洞細胞で合成され血流へ放出される[17]。遺伝子異常によって第VIII因子が作れないために起こる血友病Aは、肝移植によって回復することが知られている[18]肝細胞の移植は効果がないが、肝臓の内皮細胞の移植は効果がある[18]。このように肝臓が第VIII因子の産生に強く関与しているように見える。しかしながら、肝臓が機能低下すると、一般に肝臓で合成されるタンパク質も量が減ってくるのに対して、第VIII因子は肝臓病の影響を受けない。むしろ、肝臓が機能低下した状況下では、第VIII因子の血漿中の濃度は、多くの場合で上昇している[19][20]

第VIII因子は、血中で主にvon Willebrand因子と安定な非共有結合性の複合体を形成して循環する[5]トロンビン (第IIa因子) による活性化に伴い、第VIII因子は第VIIIa因子に変換されて、この複合体から解離し、第IXa因子と相互作用する。第VIIIa因子は第IXa因子の補因子として第X因子の活性化に関与する。第X因子が活性化された第Xa因子は、第Va因子の補因子としてより多くのトロンビンを活性化する。トロンビンはフィブリノゲンフィブリンへ切断し、フィブリンは多量体化し第XIII因子によって架橋されて、これが血球を絡め捕ることで血栓が形成される。

活性化されたVIII因子はvon Willebrand因子によって保護されていないので、主に活性化されたプロテインCと第IXa因子によるタンパク質分解によって不活性化され、血流中から素早く除去される。これによって血液凝固反応が異常に亢進することを防いでいる。

第VIII因子は銅結合タンパク質である一方、銅の欠乏は第VIII因子の活性の増大をもたらすことが報告されており、これはプロテインCの活性が相対的に低下するためと推測されている[21]

医療における利用[編集]

献血由来の血漿から濃縮することによって製造された第VIII因子製剤か、もしくは遺伝子組換え第VIII因子製剤が、血友病A患者の血液凝固能を保つため、対症療法として繰り返し静脈内投与される。つまり、第VIII因子が不足しているため、その補充療法を定期的に行っているのである。

しかしながら、献血由来の血漿から濃縮することによって製造された第VIII因子製剤の場合は、ヒト由来の血液製剤であるため、HIVウイルスなどが潜んでいる可能性があり、補充療法を受けた患者は、血液によって感染する様々な感染症にかかる危険性がある。例えば薬害エイズ事件がこれである。この点において、ヒトの血液に由来しない遺伝子組換え型第VII因子製剤は安全と言える。

ただし、いずれの第VIII因子製剤も血友病A患者にとっては異物であるため、投与された第VIII因子に対する抗体が形成されるという事態が起こり得る。この抗体形成が、第VIII因子補充療法を受けている患者にとって、主要な懸念事項となっている。抗体が形成されると、第VIII因子を補充しても次々と抗体によって不活化され、効かなくなってゆくからである。このような抗体の発生は、第VIII因子製剤自体を含むさまざまな因子が原因となって形成される[22]

なお、このようなこともあり、特に低いながらも第VIII因子産生能力を持った血友病Aの軽症患者の場合は、第VIII因子の放出を促進する作用を持ったデスモプレシンを投与することもある。


汚染スキャンダル[編集]

1980年代にバクスターバイエルといった一部の製薬企業が、新たな加熱製剤が利用可能になった後も、汚染された第VIII因子製剤の販売を継続したことに対して論争が起こった[23]アメリカ食品医薬品局 (FDA) の圧力のもと、非加熱製剤はアメリカの市場から引き揚げられたものの、アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッパの一部の国では販売が継続された。その製品は、バイエルとFDAとの議論で懸念されていた、ヒト免疫不全ウイルスによって汚染されていた[23]

1990年代初頭に製薬企業は遺伝子組換えによって合成された製品の生産を開始し、現在では第VIII因子補充療法による病気の感染は、ほぼ全ての形態で防止されている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ なお、血友病Bは第IX因子をコードする遺伝子に問題があるために発生する。ただし、第IX因子は抗血友病因子Bと呼ばれる以外にも、クリスマス因子などとも呼ばれる。

出典[編集]

  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000185010 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000031196 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ a b c Reference, Genetics Home. “F8 gene” (英語). Genetics Home Reference. 2019年3月10日閲覧。
  6. ^ Toole JJ, Knopf JL, Wozney JM, Sultzman LA, Buecker JL, Pittman DD, Kaufman RJ, Brown E, Shoemaker C, Orr EC (1984). “Molecular cloning of a cDNA encoding human antihaemophilic factor”. Nature 312 (5992): 342-7. doi:10.1038/312342a0. PMID 6438528. 
  7. ^ Truett MA, Blacher R, Burke RL, Caput D, Chu C, Dina D, Hartog K, Kuo CH, Masiarz FR, Merryweather JP (October 1985). “Characterization of the polypeptide composition of human factor VIII:C and the nucleotide sequence and expression of the human kidney cDNA”. Dna 4 (5): 333-49. doi:10.1089/dna.1985.4.333. PMID 3935400. 
  8. ^ F8 coagulation factor VIII [Homo sapiens (human) - Gene - NCBI]”. www.ncbi.nlm.nih.gov. 2019年3月10日閲覧。
  9. ^ Antonarakis SE (July 1995). “Molecular genetics of coagulation factor VIII gene and hemophilia A”. Thrombosis and Haemostasis 74 (1): 322-8. PMID 8578479. 
  10. ^ 19th WHO Model List of Essential Medicines (April 2015)”. WHO (2015年4月). 2015年5月10日閲覧。
  11. ^ Jenkins PV, Rawley O, Smith OP, O'Donnell JS (June 2012). “Elevated factor VIII levels and risk of venous thrombosis”. British Journal of Haematology 157 (6): 653-63. doi:10.1111/j.1365-2141.2012.09134.x. PMID 22530883. 
  12. ^ Gitschier J, Wood WI, Goralka TM, Wion KL, Chen EY, Eaton DH, Vehar GA, Capon DJ, Lawn RM (November 1984). “Characterization of the human factor VIII gene”. Nature 312 (5992): 326-30. PMID 6438525. 
  13. ^ Levinson B, Kenwrick S, Lakich D, Hammonds G, Gitschier J (May 1990). “A transcribed gene in an intron of the human factor VIII gene”. Genomics 7 (1): 1-11. doi:10.1016/0888-7543(90)90512-S. PMID 2110545. 
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  15. ^ Macedo-Ribeiro S, Bode W, Huber R, Quinn-Allen MA, Kim SW, Ortel TL, Bourenkov GP, Bartunik HD, Stubbs MT, Kane WH, Fuentes-Prior P (November 1999). “Crystal structures of the membrane-binding C2 domain of human coagulation factor V”. Nature 402 (6760): 434-439. doi:10.1038/46594. PMID 10586886. 
  16. ^ Thorelli E, Kaufman RJ, Dahlbäck B (June 1998). “The C-terminal region of the factor V B-domain is crucial for the anticoagulant activity of factor V”. The Journal of Biological Chemistry 273 (26): 16140-16145. doi:10.1074/jbc.273.26.16140. PMID 9632668. 
  17. ^ Kumar; Abbas; Fausto (2005). Robbins and Cotran Pathologic Basis of Disease. Pennsylvania: Elsevier. p. 655. ISBN 1-889325-04-X 
  18. ^ a b Kaushansky K, Lichtman M, Beutler E, Kipps T, Prchal J, Seligsohn U. (2010; edition 8) Williams Hematology. McGraw-Hill. ISBN 978-0-07-162151-9
  19. ^ Hollestelle MJ, Geertzen HG, Straatsburg IH, van Gulik TM, van Mourik JA (February 2004). “Factor VIII expression in liver disease”. Thrombosis and Haemostasis 91 (2): 267-75. doi:10.1160/th03-05-0310. PMID 14961153. 
  20. ^ R. Rubin; L. Leopold (1998). Hematologic Pathophysiology. Madison, Conn: Fence Creek Publishing. ISBN 1-889325-04-X 
  21. ^ Milne DB, Nielsen FH (March 1996). “Effects of a diet low in copper on copper-status indicators in postmenopausal women”. The American Journal of Clinical Nutrition 63 (3): 358-64. PMID 8602593. 
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  23. ^ a b Bogdanich W, Koli E (2003年5月22日). “2 Paths of Bayer Drug in 80's: Riskier One Steered Overseas”. The New York Times. 2009年1月7日閲覧。

関連文献[編集]

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  • White GC, Shoemaker CB (January 1989). “Factor VIII gene and hemophilia A”. Blood 73 (1): 1-12. PMID 2491949. 
  • Antonarakis SE, Kazazian HH, Tuddenham EG (1995). “Molecular etiology of factor VIII deficiency in hemophilia A”. Human Mutation 5 (1): 1-22. doi:10.1002/humu.1380050102. PMID 7728145. 
  • Lenting PJ, van Mourik JA, Mertens K (December 1998). “The life cycle of coagulation factor VIII in view of its structure and function”. Blood 92 (11): 3983-96. PMID 9834200. 
  • Saenko EL, Ananyeva N, Kouiavskaia D, Schwinn H, Josic D, Shima M, Hauser CA, Pipe S (August 2002). “Molecular defects in coagulation Factor VIII and their impact on Factor VIII function”. Vox Sanguinis 83 (2): 89-96. doi:10.1046/j.1423-0410.2002.00183.x. PMID 12201837. 
  • Lollar P (August 2002). “Molecular characterization of the immune response to factor VIII”. Vox Sanguinis. 83 83 Suppl 1: 403-8. doi:10.1111/j.1423-0410.2002.tb05342.x. PMID 12617176. 
  • Fay PJ (March 2004). “Activation of factor VIII and mechanisms of cofactor action”. Blood Reviews 18 (1): 1-15. doi:10.1016/S0268-960X(03)00025-0. PMID 14684146. 
  • Lavigne-Lissalde G, Schved JF, Granier C, Villard S (October 2005). “Anti-factor VIII antibodies: a 2005 update”. Thrombosis and Haemostasis 94 (4): 760-9. doi:10.1160/TH05-02-0118. PMID 16270627. 
  • Fang H, Wang L, Wang H (2007). “The protein structure and effect of factor VIII”. Thrombosis Research 119 (1): 1-13. doi:10.1016/j.thromres.2005.12.015. PMID 16487577. 

外部リンク[編集]