社会的責任投資

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社会的責任投資(しゃかいてきせきにんとうし)とは、市場メカニズムを通じ、株主がその立場・権利を行使して、経営陣に対し、CSRに配慮した持続可能な経営を求めていく投資のことを言う。

概要[編集]

一般には、社会的責任投資(SRI:Socially responsible investment)とは企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の状況を考慮して行う投資のことである。

広義には企業の経済状況以外の社会的価値観に基づいて投資先を選択して投資する手法もSRIと呼ぶ。このようなSRIの代表的な例としては、キリスト教やイスラム教などの宗教団体が投資を行う際に、各宗教の教義にそぐわない企業を投資先から排除したものが挙げられる。

研究者等の間では、企業・組織・人々等に社会的な存在としての責任を果たさせようとするために行う投資全般をさし、健全なお金の流れを造ることによって持続可能な社会を構築することを目的としたものと考えられている。

社会的責任の評価基準の例としては、法令順守、労働等組織内の問題だけでなく、環境、雇用、健康・安全、教育、福祉、人権、地域等さまざまな社会的問題への対応や積極的活動が挙げられている。

世界のSRI[編集]

日本国内のSRI資産残高は約5,787億円(2009年)で推移しており、アメリカでは2兆7,110億ドル(2007年)、ヨーロッパでは2兆6,654億ユーロ(2007年)。

日本のSRIの状況[編集]

2013年12月末時点で運用されている日本のSRI残高は8,577億円。(NPO社会的責任投資フォーラムの集計)
最新データはこちらを参照

SRI評価手法[編集]

ネガティブスクリーニング[編集]

SRI投資先の選択に際して、投資基準に見合わない企業を投資先リストから排除し、排除後のリストを用いて投資先の選定を行う手法。 欧米のSRIファンドの多くで採用されており、一般的な排除業種は、(1)軍需産業、(2)たばこ産業、(3)原子力産業(含む原子力発電設備)、(4)アルコール産業、(5)アダルト産業、である。欧米では、これらの排除基準が広く受け入れられているが、日本においては(3)原子力産業を排除してしまうと、電力会社のうち、沖縄電力と電源開発(J-POWER)以外のすべての電力会社が排除されてしまうなどの問題がある。また、アルコールについては、社会悪であるとの認識に比較的合意が得られているが、日本においては文化的にアルコールは悪であるという認識は少ないなど、欧米のネガティブスクリーニングをそのままの形で日本に適用することは困難である。

ポジティブスクリーニング[編集]

ネガティブスクリーニングでは、一定基準に満たない企業を投資先から排除してしまうのに対して、ポジティブスクリーニングは企業が行っているCSR経営を評価し、その評価の点数に基づいて投資を行うことである。 一般には、アンケート調査票を企業に送付し、調査機関がアンケート結果に基づいて企業の点数をつける。近年、欧米の調査機関から、日本の多くの企業にもこれらの調査票が送付され、内容を確認せずにアンケートに回答しなかったことから適正な評価が受けられず投資先から排除されてしまうなどの問題が起こった。

SRIの歴史[編集]

(出典:河口真理子,2002)

1920年代[編集]

米国のキリスト教教会が資産運用を行う際、たばこ・アルコール・ギャンブルなど教義に反する内容の業種を投資対象から排除したのがSRIの発端とされている。

1960年代-1970年代[編集]

大学の基金や労働組合、公務員年金基金などが、ベトナム戦争ナパーム弾を供給する軍需関連企業や、アパルトヘイトを継続する南アフリカ共和国に進出する企業の株式を売却した。この結果としてゼネラルモーターズは南アフリカから撤退している[1]

  • 1971年

社会的スクリーニング行ったミューチュアルファンドPAX World Fundが発売された。これによって、小口投資家にもSRIを行うことが可能となった。

1980年代[編集]

PAX World Fundのような、ミューチュアルファンドは数を増やし、環境問題、女性、マイノリティー、人権、雇用といった項目を考慮するようになっていった。また、米国で始まったこれらのファンドは、欧州にも拡大していった時期でもある。

  • 1984年

英国において、倫理ファンド(ethical fund)が発売された。

1990年代[編集]

1980年代後半から、1990年代の後半にかけて、地球規模の環境問題が顕在化し、オゾン層破壊防止条約が結ばれるなど地球環境への関心が高まった。そのため、地球環境問題に特化したSRIが拡大していった。

1990年代の後半になると、SustainAbility社のジョン・エルキントン(John Elkington)が1997年に著書の“Cannibals With Forks”の中で提案したトリプルボトムライン(Triple Bottom Line)の概念を提唱し、企業は環境・経済・社会の三つの側面を考慮した経営を行う必要があると述べた。このトリプルボトムラインの概念に基づいて、企業を評価し、その評価結果に基づいてすぐれたCSR経営を行っている企業に投資する形のSRIが始まった。

  • 1994年

スイスのプライベートバンクであるサラシン銀行(Sarasin)が企業の環境効率性を元に評価した、エコ・エフィシェンシー(Eco-Efficiency)ファンドを設定した。

  • 1996年

ノルウェー最大の保険会社である、ストアブランド(Storebrand )が資源生産性を評価軸に加えたStorebrand Environmental Value Fundを発売。

  • 1997年

スイスのUBSが株式投資エコパフォーマンスを発売。

  • 1999年

日本ではじめて、環境側面の評価を考慮したファンド、エコファンド日興證券から発売された。

2000年代[編集]

  • 2006年

責任投資原則ガイドラインが発表された。

受託者責任とSRI[編集]

年金運用をSRIによって行うことに関しては、受託者責任法、米国におけるエリサ法の観点から問題が呈せられることがある。米国におけるエリサ法では、年金基金の資産運用に際して、他の年金基金に比して明らかに運用利益が減少するような運用行うことを禁止している。SRIでは、企業の経済状況以外の社会性を根拠に、投資対象を狭めているとして、資産運用のリスクを高めているとの批判を受け、エリサ法に抵触するとの議論が行われている。しかし、このような状況は、2006年4月に世界最大の年金基金であるカルフォルニア州公務員退職年金基金(カルパースCalPERS:California Public Employees' Retirement System,運用資産約20兆円)が年金運用に環境及び持続可能性を考慮することを求めているUNEP Financial Initiative(UNEP・FI)責任投資原則に署名したことから、SRIは受託者責任、エリサ法には抵触しないという考え方が一般化しつつある。

SRIの種類[編集]

リターンを多様な形で捉えた広義のSRIを含めた具体的な例として、これまでに次の行動が挙げられている。

  • コミュニティー投資

限定された地域(コミュニティー)の抱える問題を改善、状況を向上させるための組織やプロジェクト等への投融資行動。

  • 環境配慮型投資

環境問題に特化したSRIであり、二酸化炭素の排出量や植林事業の状況など様々な企業の環境行動を評価し、行う投資。

  • CSR経営評価による投資

トリプルボトムラインに基づいた経営評価を行い、その結果に基づいて行う投資。

社会性や環境に配慮した企業や商品を選別して購入する行動。一般には、環境配慮型行動に分類され、投資には分類されないが、企業からものを購入することを投資であるとみなし、グリーン購入をSRIの一形態とすることがある。

土地を利用して収益をあげていたが、土壌汚染対策を行い健全な土壌・地下水環境を将来社会に引き継ぐ投資。企業が環境債務と計上することが多くなっている。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 河口真理子「企業の社会的責任 ~環境から持続可能性へ~」『大和レビュー』2002年秋季号 No.8(2002)
  • 谷本寛治「SRI 社会的責任投資入門―市場が企業に迫る新たな規律」日本経済新聞社(2003)

外部リンク[編集]

  1. ^ JSIF『SRIとESG投資の違いとは?』、2017年2月閲覧。