軌道角運動量

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軌道角運動量(きどうかくうんどうりょう、英語: orbital angular momentum)とは、特に量子力学において、位置とそれに共役な運動量の積で表される角運動量のことである。

例えば原子の中で電子は、原子核が周囲に作る軌道を運動する。電子の全角運動量のうち、電子がその性質として持つスピン角運動量を除く部分が軌道角運動量である。

概要[編集]

定義[編集]

位置 x にあり、運動量 p を持つ物体の古典的な角運動量 L

で表される。ここで クロス積である。ここでxp を位置を表す演算子の組

(「x」はxを乗じる事を意味する)と運動量演算子の組

に形式的に置き換える事で得られる演算子

を定義し[1]:p98の三成分をと書き表す。

をそれぞれ、(一粒子に対する)x方向、y方向、z方向の軌道角運動量演算子という。

より一般に、3次元空間の単位ベクトルn=(n1,n2,n3)に対し、内積

nを回転軸とする軌道角運動量演算子という。

さらに

と定義する。

交換関係[編集]

軌道角運動量は以下の交換関係を満たす:

ここでεijkエディントンのイプシロンである。特に最後の軌道角運動量同士の交換関係の形は角運動量代数と呼ばれている。さらに、

も成立する。

極座標表示[編集]

球面座標(r,θ,φ)を用いると、

と書ける[1]:p98。 さらに球面座標における曲線R(r)=(r,0,0)Θ(r)=(0,θ,0)Φ(φ)=(0,0,φ)の原点における接線方向の単位ベクトルをereθeφとするとき、ereθeφ方向の軌道角運動量演算子とすると、以下が成立する:

空間の回転対称性からみた軌道角運動量[編集]

軌道角運動量演算子は、空間の回転に対する対称性として導出される[2]

軌道角運動量演算子を回転対称性から導出するため、3次元空間R3における回転行列全体の集合を

を考える。ここで nn 列の実行列全体の集合であり、I単位行列であり、tRR転置行列である。 回転行列 R ∈ SO(3) により座標系を回転したとき、波動関数 ϕ(x)ϕ(R−1x) に移動する。すなわち、各回転行列 R ∈ SO(3) に対し、波動関数の全体の空間 上にユニタリ演算子

が定義される[3]。そこで単位ベクトルn=(x,y,z)に対Rn(s)nを軸として右手系にsラジアンだけ回転する行列とし、

と定義すると、このが軸 n の周りの軌道角運動量演算子と一致する。 例えば z 軸の周りの軌道角運動量球面座標系 (r, θ, φ) を用いて

と表記できる事を以下のように確認できる。R(t)z 軸の周りに右手系にラジアン角 t だけ回転する回転行列とするとき、ψを波動関数とすると、

回転対称性からみた交換関係[編集]

Rn(s)の微分を計算すると、

となる。 関数λ*を、

が任意の波動関数ψSO(3)に値を取る任意のR(θ)に対して成立するよう定義する(詳細は省くがこのような関数はwell-definedに定義可能である)と、

が成立する事が知られている[4]。よって

すなわち軌道角運動量の交換関係は、Fnの交換関係から導かれたものである。

Fnは以下を満たす事が知られている[5]:p36。ここで「×」はクロス積である:

よって軌道角運動量の交換関係は

である。これは前の節で述べた交換関係と一致する。他の軸に関する軌道角運動量の交換関係も同様にして求めることができる。

固有関数[編集]

角運動量演算子の交換関係は0ではないので、の全てを同時対角化ができない。しかし

は交換関係

を満たす。よってのどれか1つとが同時対角化可能である。固有関数を具体的に書き表すには、球面調和関数を用いる。そこで本説ではまず球面調和関数の定義を述べ、次に球面調和関数を使って

球面調和関数[編集]

定義[編集]

3次元空間R3の場合、R3球面座標(r,θ,φ)で表す。下記の関数球面調和関数という:

   …(B1)

ここで

mは整数で、   …(B2)

であり、ルジャンドルの陪多項式[6]

   …(B3)

である。すなわちルジャンドルの陪微分方程式

の解である。なお の定義における係数は、後述する内積から定義されるノルムが1になるよう選んだものである。

球面調和関数の性質[編集]

関数f

と定義すると、f(を直交座標で書いたもの)調和関数になる。これが「球面調和関数」という名称の由来である。

3次元空間R3の球面座標(r,θ,φ)に対し、

が成立する。そこで、R上の関数χξ3次元空間R3の単位球面

 

上の2つの可積分関数fgに対し、内積を以下のように定義する:

このとき次の定理が成立する(定理の導出の詳細は球面調和関数の項目を参照)。

定理1 ― 球面調和関数は以下の性質を満たす:

定理2 ―  R3上の任意の自乗可積分関数f(x,y,z)に対し、を満たすR上の可積分関数の族

となるものが一意に存在する。

固有関数展開[編集]

に球面調和関数 を作用させると

すなわち球面調和関数はの固有関数である。しかも定理1よりS2上の面積要素sin θ dθ dφに関して規格化されていることと、 が互いに直交いている事が分かる。さらに定理2よりの任意の自乗可積分関数は球面調和関数を用いて固有値展開可能である。なおのいずれの固有関数でもないことに注意されたい。

軌道角運動量量子数(方位量子数)、m は軌道磁気量子数という。前節で述べたように、

を満たす。

参考文献[編集]

  • [原1994] 原康夫 (1994/6/6). 5 量子力学. 岩波基礎物理シリーズ. 岩波書店. ISBN 978-4000079259. 
  • [ランダウ=リフシッツ小教程] L.D. ランダウE.M.リフシッツ著、好村滋洋、井上健男訳 (2008年6月10日). ランダウ=リフシッツ物理学小教程 量子力学. ちくま学芸文庫. 
  • [A07] Joṥe Alvarado (2007年12月4日). “Group Theoretical Aspects of Quantum Mechanics (pdf)”. 2016年12月1日閲覧。
  • [H13] Brian C.Hall (2013/7/1). Quantum Theory for Mathematicians. Graduate Texts in Mathematics 267. Springer. 
  • [日本測地学会]高知大学自然科学系 田部井隆雄、神奈川県温泉地学研究所 里村幹夫、京都大学大学院理学研究科 福田洋一 (2004年). “4-4. ルジャンドルの多項式, 陪多項式”. 日本測地学会. 2017年1月4日閲覧。

脚注[編集]

  1. ^ a b 原1994
  2. ^ ランダウ=リフシッツ小教程 p73
  3. ^ H13 p396 Def 17.1、A07 p37。
  4. ^ 理由:λは準同型であり、λがリー環so(3)に誘導するリー環準同型がλ*であるのでλ*はリー括弧を保存する。
  5. ^ A07
  6. ^ 日本測地学会 2004

関連項目[編集]