石原式色覚異常検査表

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石原式色覚異常検査表(いしはらしきしきかくいじょうけんさひょう、石原式色盲検査表)は、色覚異常の検査表。

一般に石原表と略称される。国際版として38表版、24表版、14表版が発行されている他、学校用として発行されたものもある。

歴史[編集]

石原表の初版は、1916年に「色神検査表」として半田屋より出版された。当時主に使われていた色盲検査表のスチルリング仮性同色表は、検出精度が低く、軽度の色覚異常を検出できなかったり、正常色覚を誤検出するなどの問題があった。軍隊では軽度の色覚異常であっても問題であると考えられていたため、大日本帝国陸軍軍医であった石原忍軍医監は、新たな色盲検査表を開発し、徴兵検査用に使用することになった[1]。これが石原表の起源であり、その後学校保健の場にも取り入れられた。

使用法[編集]

使用法は非常に平易である。本(学校用色覚異常検査表・国際版14表(コンサイス版と呼ばれる)・幼児用など)またはカード(国際版24表・国際版38表など)になっている表を、被験者の視線に対して垂直に、75cmほどの距離に示し、数字表の場合は書かれている数字を読み取らせる。曲線表の場合は、柔らかい筆などで曲線をたどらせる。すると、色覚のタイプによって、異なった応答が期待できる。表は厳密に色を管理した印刷で製造されており、印刷インクの微妙な差異や日光での劣化によっても応答が変わるため、常に変色・退色・汚れのない新しい表を使わないと、正しい判定はできない。当然、複製やモニター上の画像では、色覚検査に使えない。使用法が簡便であるが故に、コンピューター上で検査表を見て自己診断する人がいるが、そもそも色の知覚の原理が光源色と物体色では異なるため、検査の意義をなさない。表は回転したり順序を入れ替えたりして使うことが推奨されている。

技術[編集]

石原表の技術がそれ以前の仮性同色表と異なっていたのは、先天色覚異常にとっての混同色だけで表を構成するのではなく、無関係な色の斑点をちりばめることによって、先天色覚異常者にとってさらに読みにくく、かつ正常色覚者にははっきりと読める表を作ったことである。例えば、橙色と黄緑色は2型色覚の混同色であるが、これまでの仮性同色表では、単に黄緑色の斑点で作った地に、橙色の斑点で数字などを書いて読み取らせるタイプであった。

この場合、軽度の先天色覚異常では、微妙な色の違いを読み取ることで判読可能である。逆に軽度の先天色覚異常者にも読み取れないほど似た色にすると、今度は正常色覚者でも色彩感覚に無頓着な人や幼児などには読み取ることができなくなる。この問題に対し、石原は地色に青色の斑点をランダムに紛れ込ませることで対応した。

そうすることで、先天色覚異常者には「黄緑・橙」という「よく似た色」の中に青色の「ランダムな模様」が浮き出て見え、数字などが読めない一方、正常色覚者には「黄緑・青」という「よく似た色」の中に橙色の数字が浮き出て見える。逆に、正常色覚者には数字が読めない一方で、色覚異常者には数字が浮き出て見える検査表もある。

種類[編集]

石原表で最も枚数が多く、検出力も高いため、各種検査などで多用されている国際表38表版は、25枚の数字表と13枚の曲線表からなる。数字表は表に斑点で書かれている数字を読み取るタイプで、曲線表は曲線をたどるタイプである。それぞれに1類表(デモンストレーション)、2類表(変化型)、3類表(消失型)、4類表(隠蔽型)、5類表(分類型)がある。1類表はどのような種類の色覚を持つ人にも読めるため、視力障害知能などの別の理由で表を読み取れない人を色覚異常と区別するために存在する。2類表は色覚異常によって見える数字やたどる線が変化する表である。3類表は色覚異常のある人には読めず、色覚正常の人には容易に読める表である。4類表は逆に色覚異常のある人には読め、色覚正常の人には読めない表である。5類表は第1色覚異常(赤色を主に感知する細胞の変異)と第2色覚異常(緑色を主に感知する細胞の変異)を区別する表である。

問題点・批判[編集]

石原表の技術が優れており、色覚異常の検出という目的に非常に有効であることは誰もが認めており、異論はほとんどない状況だが、この表の運用に際し、様々な問題点があり、批判も多くなっている。例えば、

  • 本来色覚検査の結果と職業適性は別個にとらえられなくてはならないにも拘らず、この石原表の判定のみで就職に際し差別が存在した。
  • 学校での強制検査の結果、遺伝である色覚異常をみんなの前で非難され傷ついたり、プライバシーを侵害されたりした。

これらの問題は、この表が日常生活にほとんど支障のない程度の色覚異常まで検出した点からきている部分が大きい。

石原表のうち3類表は色覚異常者には読めないが正常色覚の者には難なく読めるため、色覚異常者があたかも白黒の世界に住んでいるのではないかといった推測をしてしまいがちであるが、それは誤りである。その推論を4類表に当てはめると、4類表は正常色覚者には読めず色覚異常者には難なく読めるため、正常色覚者が白黒の世界に住んでいることになってしまう。

批判の結果、小学校での検査は2003年より保護者の同意が必要な任意実施となった[2]。これには「色覚の変異を知る機会がなくなる」「学校現場で、色覚異常の子供への対応が十分なされない」といった反対意見も多く[2]、色覚異常を「本人の見え方の問題」としてとらえるか「社会の差別の問題」としてとらえるか、という根本的な問題を含んでいる[要出典]

学校内で必要に応じて色覚検査を行うことについて、平成26年、文部科学省は学校保健安全法施行規則を一部改正し、事前の同意を得たうえでの個別の検査・指導などの働きかけを適切に行い、保護者などに色覚に関する周知を積極的に行うように通知した[3]。この通知は「学校での色覚検査の取り組みを積極的に進めるように」との趣旨と解釈され、学校では平成28年度から児童生徒に「色覚希望調査票」を配布し、希望者に色覚検査を実施することになった[4]


網膜上の赤・緑・青の錐体細胞の正常な比率は6:3:1とされる。赤錐体と緑錐体の比率でいえば2:1である。しかし、この比率には個人差が大きく、比率が10:1であっても色覚検査で正常と判定される。先天性赤緑色覚異常の保因者では、網膜上のすべての錐体細胞が「正常」なわけではなく、X染色体の不活性化によってランダムに形質が発現するため、色覚特性の異なる細胞がモザイク状に混在することになる。しかし、モザイク状に「異常」な部分があっても、視線を細かく動かして多数の錐体細胞からの情報を総合すれば実質的には赤対緑の比率が偏っているに過ぎなくなるため、色覚検査ではほとんどの場合、正常と判定される[5]

検査表の例[編集]

脚注[編集]

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