石の花 (坂口尚の漫画)
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『石の花』(いしのはな)は、坂口尚による日本の漫画。第二次世界大戦時、ナチス・ドイツの侵攻を受けたユーゴスラビアを舞台にした「戦争大河」作品で[1]、極限状況にありながら理想を求める若者の生き様を描く。
『コミックトム』で1983年から1986年まで連載し、版元の潮出版社から単行本全6巻(希望コミックス)が刊行された。
その後、全体に大幅な加筆を加え、新潮社で『新版・石の花』(全5巻、1988年)として刊行された。この新版は、著者没後に講談社で、文庫版(全5巻、1996年)や愛蔵版(全4巻、2003年)でも刊行された。
あらすじ[編集]
スロベニア東北部のダーナスという小さな村に住む少年クリロと少女フィー。戦争の影を感じつつも平穏であった日々は、ドイツ軍の侵攻によって崩れる。フィーは強制収容所に連行され、労働と飢餓にさいなまれる。一方、クリロは大学生の兄イヴァンと落ち合うため、山中からザグレブへと向かい、イヴァンの関与していたゲリラ組織に身を投じる。やがてイヴァンとフィーの居所を掴んだクリロは、再びザグレブへと潜入するが、そこで明かされたのはイヴァンが実の兄でなくドイツ人との混血であり、さらにスパイとしてナチスに協力しているという事実であった。
クリロは怒りの中で、チトー率いるパルチザンへと合流するが、銃で平和を掴むことや兄の変心などをどうしても納得することができず、苦悩を抱きながら戦い続ける。フィーはドイツ軍中佐(途中より大佐)マイスナーの寵愛を受けるが心を開かず、再び強制収容所へ戻る道を選ぶ。さらに、イヴァンにはもうひとつ隠された真実があった。
登場人物[編集]
- クリロ
- 本編の主人公の1人。怒りから戦いに身を投じるが、やがて人を殺して平和を得ることへの疑問を抱くようになる。
- フィー
- 本編の主人公の1人。クリロの同級生。ナチスに捕らえられ、収容所の非人道的な環境のもとで労働を強制される。
- イヴァン
- クリロの義兄(実際は従兄)。ザグレブで反ナチスの地下組織に加入していたが、父がドイツ人であることからドイツ進駐後にはドイツ軍情報局に身を投じる。ヴィンター・タウゼントという変名でロンドンでの情報収集やユーゴスラビア王室の財宝に関する調査を主とするが、彼にはもうひとつ隠された目的がある。
- ブランコ
- イヴァンの友人で、ゲリラの隊長。第一次世界大戦でも従軍した歴戦の勇士。共産主義には与せずも、独立を回復するためパルチザンに合流する。また、次第に現実を受け入れてしまうことに悩むクリロに対して、たとえ世界中が敵になろうとも正しいと思うことを信じ続けろと諭すなど、物語全般にわたってクリロの精神的指導者となる。
- ミント
- ザグレブに住む男。イヴァンを探すクリロに協力する。
- マイスナー
- ドイツ軍中佐(のち大佐)。イヴァンの旧友。死別した妹マリーネと瓜二つのフィーを見つけ、収容所から保護するがフィーに拒絶される。品格のある者を丘の上に咲く(鋭い棘で我が身を守る)薔薇に例え、強靭な意志と力によって、品格に欠ける者の淘汰、および圧倒的な力で秩序を築き大勢の弱者に不安の払拭と安寧をもたらす思想の正当性を主張する。ドイツ敗戦後は生死不明となる。
- モルトヴィッチ
- ユーゴスラビア王党派とされていたが、実際にはその時々の状況に応じ主義思想を目まぐるしく変えていく、バルカン政治家気質の権化とも言える怪人物。王室が国内のいずこかに隠したと言われる財宝の行方を知るとされ、ドイツ軍・ゲリラ双方が接触を試みる。骨董商W.ギュームなる人物が正体であるかのような進行を見せるが、どちらがどちらを演じているのか明瞭ではなく、当の本人も取引相手を幻惑するのに有効活用したりと最後まで謎のままである。
- W.ギューム
- 物語中盤から登場する謎の骨董商。この世が汚れた暗黒の世界であり、ナチスはそこに輝く虹をかける存在であるとして、マイスナーと結託する。フンベルバルディンクと対を成すキャラクター。
- フンベルバルディンク
- 本編冒頭で、クリロの学校に赴任する教師。ポストイナ鍾乳洞の石筍が「石の花」に見えたことを「まなざし」と表現し、クリロ、フィーの心に強い印象を残す。ドイツ軍侵攻以降は行方不明となるが、その後もクリロの心の中に登場する。
このほか、端役ながらチトーやハインリヒ・ヒムラーなどの実在人物が登場する。
出典・脚注[編集]
- ^ “森重良太さん 今こそ漫画愛蔵版(メディアの顔)”. 朝日新聞・朝刊: p. 4. (1988年11月13日) - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
関連項目[編集]
- ユーゴスラビア人民解放戦争 - ユーゴのパルチザン
- 柴宜弘(バルカン近現代史専攻の歴史学者。作者の友人で本作品の考証にも協力)