真珠夫人

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真珠夫人』(しんじゅふじん)は、菊池寛小説1920年(大正9年)の6月9日から12月22日まで大阪毎日新聞東京日日新聞に連載された。小説発表当時から2000年代に至るまで、数回にわたり映画テレビドラマ化されている。

概要[編集]

菊池寛にとって初の本格的な通俗小説であり、その人気は新聞の読者層を変え、のちの婦人雑誌ブームに影響を与えたという。男をもてあそぶ妖婦でありながら、義理の娘を妹のように愛する優しさを持つ主人公・瑠璃子は読者の心を掴んだ[1]。瑠璃子は当時の道徳観に染まらない「新しい女」としては設定の不徹底や矛盾もあるが、作者である菊池の配慮が見られる[2]

あらすじ[編集]

渥美信一郎は療養中の妻の見舞いに訪れた湯河原で自動車事故に巻き込まれる。事故にあった青年青木淳は腕時計を「瑠璃子に返してくれ」と言い残しノートを託して絶命する。青木の葬儀で見聞きした情報を頼りに、信一郎は妖艶な美女で未亡人の壮田瑠璃子を訪ねる。瑠璃子は腕時計を見て動揺した様子を見せるが、それをごまかし腕時計を預かり、信一郎を音楽会に誘う。青木のノートには愛の印としてもらった腕時計が他の男にも送られているのを知って自殺を決意したことが書かれていた。

数年前。貿易商として財を成した壮田勝平は自宅で催した園遊会で、子爵の息子杉野直也男爵の娘唐沢瑠璃子から成金ぶりを侮辱され激怒、奸計を巡らす。貴族院議員の唐沢光徳男爵の債権を全て買い取りさらに弱みを握り、瑠璃子に結婚を迫る。自殺をはかった父親に瑠璃子は「ユージット(ユディト)になろうと思う」と押しとどめ、直也には復讐のため結婚しても貞操を守るという手紙を出す。壮田と結婚した瑠璃子は、父の見舞いを理由に実家にとどまったり、壮田には「お父様になって」とねだったりして体を許さない。壮田の息子勝彦も手なずけ、寝室の見張りをさせた。壮田は瑠璃子を葉山の別荘に連れ出し、嵐の夜に関係を結ぼうとするが、瑠璃子を追ってきた勝彦が窓から飛び込んできたのに驚いて卒倒、我が子の将来を瑠璃子に託し息をひきとる。壮田の急死の罪悪感と豪奢な生活は瑠璃子を妖婦へと変えていた。

信一郎は瑠璃子と音楽会に出席。帰りの自動車の中で瑠璃子はメリメの「カルメン」を引き合いに男性が浮気するのに比べて女性が心変わりするのを非難する風潮に対する憤りを語る。引き込まれた信一郎は誘われるがまま、次の日曜壮田邸を訪れる。そこは才気ある若い男性たちが居並ぶ瑠璃子のサロンだった。不愉快になった信一郎は退出するが庭園で青木の弟を見かけ瑠璃子への不信感をつのらせる。帰宅した信一郎の家には瑠璃子からの迎えの自動車が止まっていた。壮田邸に戻った信一郎は誘惑する瑠璃子に男性への態度を非難、さらに青木のノートを突き出すが、逆に瑠璃子は男性が女性を弄ぶことが許され、女性が同じことをすると非難されるのは男性のわがままだと激しく反発。信一郎は瑠璃子の言葉に心打たれながらも青木の弟だけは除外するよう頼むが瑠璃子は拒絶する。

壮田美奈子は、父親が亡くなったあと瑠璃子を姉のように慕い、瑠璃子も美奈子を可愛がっていた。瑠璃子は美奈子を娘らしく育てるためサロンには近づけず、自分の行いを見せないようにしていた。19歳になった美奈子は両親の墓参りで見かけた学生に心惹かれるが、彼が瑠璃子のサロンに通っていると知り動揺する。瑠璃子は美奈子を夏の箱根旅行に誘う。当日、2人の前に付き添いとして現れたのは美奈子が心惹かれた学生青木稔だった。3人は箱根に逗留するが、ある日の夕方美奈子は稔に誘われ二人きりで散歩に出かける。稔に結婚について訊かれた美奈子は嬉しい気持ちになるが、美奈子が結婚するまで瑠璃子は再婚しないという噂を気にしているとわかり落胆する。後日、美奈子は稔が瑠璃子に思いをぶつけ求婚しているところを見てしまう。瑠璃子は美奈子が結婚するまではとはぐらかし、明後日返事すると約束。

約束の日、ホテルを出た3人は丸縁眼鏡の男とすれ違う。瑠璃子は美奈子の前で稔の求婚を断る。稔は逆上して瑠璃子を罵りその場を去る。瑠璃子は自分の行いで美奈子の初恋を傷つけ、かつての自分と同じ思いをさせてしまったことを美奈子に謝り泣き出す。美奈子も瑠璃子の心遣いに感動し抱き合う。ホテルに戻った稔は眼鏡の男、信一郎に声をかけられ、兄のノートを見せられ瑠璃子に近づくなと忠告される。自分と兄が弄ばれたことを知った稔は、その夜瑠璃子の寝室に忍び込み彼女をナイフで刺し逃走、意識朦朧となった瑠璃子は直也の名を呼ぶ。帰国していた直也がホテルにかけつけると、瑠璃子は彼に美奈子を託し息を引き取る。その後美奈子は瑠璃子の肌襦袢に縫い付けられた直也の写真を発見。瑠璃子は男を弄びながらも初恋を真珠のように守り続けていたと知る。

「真珠夫人」と題された美しい肖像画が二科展で絶賛される。それは瑠璃子の兄の光一による妹への手向けの絵であった。

登場人物[編集]

壮田瑠璃子(旧姓・唐沢)
華族の唐沢男爵の娘。母を亡くし兄が家を出たので父と二人暮らし。杉野直也とは相思相愛の仲だったが、壮田の策略で引き裂かれる。壮田亡きあとは豊富な財力と美貌で男を弄ぶ妖婦として自宅をサロンにし、女王のようにふるまっている。しかし美奈子の初恋の相手が自分が弄んだ青木稔と気づいてからは自らの行いを激しく後悔する。
壮田勝平
身分はないが、貿易商として成功、上流階級ともつきあうようになったいわゆる成金。直也と瑠璃子を憎み、瑠璃子と結婚するが、思い通りにならない瑠璃子に振り回される。葉山の別荘で卒倒、我が子の行く末を瑠璃子に託して死去。
杉野直也
華族の杉野子爵の息子。壮田のような成金を軽蔑し、園遊会で口論となる。瑠璃子との仲を引き裂かれると壮田邸に乗り込み発砲事件をおこすが、父親の嘆願で告訴を免れ、ボルネオに渡った。
唐沢光徳
華族で貴族院議員を務め藩閥政治と戦っているが、このためあちこちに負債がある[注 1]。壮田の策略で金策に追われ、知人から預かった掛け軸を売り払ってしまうがこれも壮田の罠だったことを知り自殺をはかるが、瑠璃子に止められる。
唐沢光一
瑠璃子の兄。画家を目指していたが光徳に反対され勘当される。
壮田勝彦
壮田の長男。白痴であるが瑠璃子を「姉さん」と慕う。瑠璃子の頼みで毎夜寝室の前で番をする。父と瑠璃子が葉山へ行くと後を追い、夜中に別荘に侵入。勝平の死後は葉山に幽閉される。
壮田美奈子
壮田の娘で勝彦の妹。清純な少女で瑠璃子を姉のように慕う。瑠璃子の行いを知りショックを受けるが、自分への心遣いと父の罪を思い、瑠璃子をよりいっそう慕う。
青木淳
大学生。瑠璃子に弄ばれ、自殺しようとさまよっていたところ自動車事故で死ぬ。
青木稔
淳の弟。瑠璃子を恋い慕っていたが、求婚を断られ、さらに兄も同じ目にあっていたと知り激怒。瑠璃子をナイフで刺したあと芦ノ湖で自殺した。
渥美信一郎
この物語の狂言回し。偶然瑠璃子の存在を知りその行いを止めようとするが、男と同じことを女が許されないのはおかしいという彼女の主張に同調する。せめて青木稔だけでも助けようとした行動が悲劇を生む。


映画 (国活)[編集]

原作小説連載当時の1920年(大正9年)、いち早く国際活映が同社の「角筈撮影所」で撮影、同年11月28日浅草公園六区大勝館ほかで公開された。熊谷武雄の出演以外の詳細は不明。無声映画である。

映画 (松竹キネマ)[編集]

1927年松竹キネマ制作、無声映画である。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

映画 (日活)[編集]

1933年日活で製作された無声映画。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

映画 (大映)[編集]

1950年大映で『真珠夫人 処女の巻』、『真珠夫人 人妻の巻』として公開。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

テレビドラマ (TBS)[編集]

1974年9月2日から10月25日までTBS系列の「花王 愛の劇場」枠にて放映された昼ドラ。全40回放送。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

テレビドラマ (東海テレビ)[編集]

2002年4月1日から6月28日の毎月曜から金曜までフジテレビ系列で放送された昼ドラ。放送時間は昼1時30分から2時まで。全65回。

評価[編集]

  • 物語展開や役柄設定が原作とは違っており、特に後半は大幅な脚色がみられる。近年の昼ドラブームの牽引役として、その役目を果たした。
  • 登美子が出す「たわしコロッケ」シーンが当時話題になり、流行語になった(ヒロイン瑠璃子と夫・直也が会っていることを知った直也の妻・登美子が嫉妬に狂い、たわしと刻んだキャベツをお皿に載せて帰宅した夫に「おかず何もありません、冷めたコロッケで我慢してください」と出す)。
  • 小説の肝である高利貸しが登場しないことで、TV局がサラ金から巨額の広告料をもらっているための配慮ではないかと物議を醸した。[要出典]

スタッフ[編集]

  • 美術進行 - 平川恵子
  • 装飾 - 宮野雅人
  • 衣裳 - 高知尾博幸
  • 小道具 - 和田浩実
  • ヘア・メイク - 久池智子
  • 美術協力 - KHKアート
  • 技術 - 松岡良治
  • カメラ - 大森隆晴
  • 照明 - 石井美宏
  • 音声 - 中山大輔
  • VE - 酒井克巨
  • 編集 - 大塚民生
  • スタジオ - 国際放映
  • 技術協力 - 東通
  • 協力 - 織田デザイン専門学校、CEST LAVIE、のざわ石塚硝子
  • 制作 - 東海テレビ東宝

キャスト[編集]

荘田瑠璃子 - 横山めぐみ
主人公、元華族・唐澤徳光の娘。家を救う為荘田勝平に嫁ぐ。しかしその後も直也との約束を守り貞操を守り続ける。間もなく未亡人となる。生活のために荘田が残した娼館を切り盛りすることになる。誕生日は5月28日。
杉野直也 - 葛山信吾
主人公の恋人。父が経営する造船会社・東海船舶工業の資材部長。瑠璃子とは相思相愛だが、唐澤が国会で造船疑獄を追及したために、父から瑠璃子との結婚を反対される。
荘田勝平 - 大和田伸也
唐澤を詐欺にかける荘田総合商事の社長。唐澤の娘・瑠璃子に興味を持ち、直也との結婚が決まっていた瑠璃子と無理やり結婚する。結婚後間もなく、実息の種彦に殺害される。    
杉野登美子 - 森下涼子
直也の妻。直也の赴任先であるシンガポールで結婚。日本に戻ってから、直也と瑠璃子が再会したことを知り瑠璃子たちに復讐するため、瑠璃子の経営する娼館で素性を隠し働く。後に自殺。
荘田種彦 - 松尾敏伸
勝平の息子(母親不明)。知的障害があり、女言葉を話す。妹の美奈子とは異母兄弟。初めは瑠璃子と婚約することになっていた。瑠璃子が荘田家に嫁ぐと、瑠璃子を守る騎士となることを決意。勝平に無理やり体を奪われそうになっていた瑠璃子を救うため勝平を殺害し、服役。出所後は刑務所で学んだ家具作りをする。
荘田美奈子 - 増田未亜
勝平とむら枝の娘。偶然出会った直也に一目ぼれをし、勝平の死後、自動車事故を仕組んで瑠璃子が直也とシンガポールへ行くのを阻止する。母のむら枝とは仲が悪い。後に、女優になる。
唐澤徳光 - 浜田晃
貴族院議員で瑠璃子の父。瑠璃子が荘田に嫁ぐのを嘆く。直也と再会した瑠璃子に「愛に生きろ」と言い残して死ぬ。
杉野直輔‐河原さぶ
直也の父で造船会社・東海船舶工業の社長。唐澤が造船界と政界との癒着を暴かれ、直也と瑠璃子の結婚に反対を唱える。
唐沢光一‐宮内敦士
瑠璃子の兄。
はま子‐内田あかり
直也の母で直輔とは離婚して小料理屋を営んでいる。
山田むら枝 - 奈美悦子
勝平の元愛人。娼婦をしているときに美奈子を出産するが正妻になっていない。勝平に嫁いだ瑠璃子に度々意地の悪いことを仕掛ける。
夕子 - 日高真弓
瑠璃子の経営する娼館で働く。直也に水揚げしてもらう。後に直也の子を妊娠している事がわかり、瑠璃子の庇護の下、出産するが出産後に亡くなる。
宮畑 - 名高達男
会社社長。売春防止法が近づき、生活に困窮した瑠璃子を高額で水揚げすることに。しかし、実際は肉体関係は結ばなかった。その後は瑠璃子の良き相談役となる。
細川茂樹
完結版にて、瑠璃子に生き写しの女性(横山めぐみ)が待っていた男性役として出演。

ほか

主題歌[編集]

漫画[編集]

さちみりほによって漫画化され、『Eleganceイブ』(秋田書店)で連載された。また、ドラマ版を漫画化したものが白泉社の雑誌で連載された。

備考[編集]

  • 第19回 新語・流行語大賞 トップテン入賞。
  • 本放送終了後、2002年9月27日にフジテレビ系金曜エンタテイメントにて、スペシャル番組(実質、総集編)として『真珠夫人 完結版〜二年待って。きれいな体のままで〜』が放送された。
  • 同年10月20日には直也役の葛山信吾が、真珠が誕生石(6月生まれ)である女優・細川直美と結婚。同日行われた記者会見で結婚指輪(当時まだ買っていなかった)について聞かれたところ、細川は「真珠もいいかなと思ったんですけど、絶対『真珠夫人』と呼ばれるだろうなぁと思って(笑)…」と、ダイヤモンドの指輪にする予定だと答えた。
  • 2007年には本作が岩手県の、MIT岩手めんこいテレビでの再放送ではなく、TVIテレビ岩手日テレ系)での放送を行った。15時55分~16時25分まで放送した。その他にも、CS放送や系列を問わず各地で再放送が行われている。
  • 2008年3月から放送の「愛の劇場」『スイート10〜最後の恋人〜』(三浦理恵子主演)にて、本作の主役コンビが共演した。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ この当時の政治家は選挙や政治活動に私財をつぎ込むのが当たり前で家屋敷を売り払い井戸と塀しか残らない「井戸塀政治家」という言葉があるほどだった。

出典[編集]

  1. ^ パク・ジュヨン (2009年3月31日). “菊池寛の通俗小説における近代家庭の女性(第3回国際日本学コンソーシアム) (PDF)”. お茶の水女子大学 教育・成果コレクション. 2016年4月7日閲覧。
  2. ^ 菊池寛 『真珠夫人 解説(川端康成)』 文藝春秋〈文春文庫〉。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

TBS 花王 愛の劇場
前番組 番組名 次番組
母の鈴
(1974.7.9 - 1974.8.30)
真珠夫人
(1974.9.2 - 1974.10.25)
二十一歳の父
(1974.10.28 - 1974.12.27)
東海テレビ制作 昼ドラマ
母の告白
(2002.1.7 - 2002.3.29)
真珠夫人
(2002.4.1 - 2002.6.28)
新・愛の嵐
(2002.7.1 - 2002.9.28)