白日夢 (谷崎潤一郎)

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白日夢
著者 谷崎潤一郎
発行日 1926年9月
発行元 中央公論社(雑誌『中央公論』)
ジャンル 戯曲
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 雑誌掲載
コード NCID BN10169127
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白日夢』(はくじつむ)は、谷崎潤一郎戯曲。全4幕から成る。歯科の治療を受けに来た青年が同じ患者の美しい令嬢を見るうち、麻酔昏睡の中で白日夢を見る物語。1926年(大正15年)、雑誌『中央公論』9月号に掲載された[1]

1922年(大正11年)発表の戯曲『白孤の湯』と『白日夢』を元に書いたヌードショーのレヴュー『白日夢』は、1959年(昭和34年)2月から5月まで、谷崎のお気に入り女優・春川ますみ出演で日劇ミュージックホールで上演された[2]

『白日夢』の翻案作品はこれまで4度の映画化があり、最初の1964年(昭和39年)版は映画化の際に、監督・武智鉄二脚本が掲載された雑誌『シナリオ』に、谷崎が「『白日夢』の映画化に寄せて」という一文を贈っている。この映画は警視庁が映倫にカットを要請し、猥褻映画として有名になった。1981年(昭和56年)版は佐藤慶愛染恭子による本番が話題となった。

あらすじ[編集]

第1幕[編集]

夏の昼間、都会の或るビル6階にある歯科医院では、様々な患者が虫歯の治療を受けている。治療室には手術台が2台あり、待合室からは治療室の様子が見え、両室の間に受付の机と椅子があり、治療室の奥のドア付近に長椅子がある。

歯科ドクトルが2台の手術台の患者を交互に診て治療をこなしていく中、ある青年患者が待合室に入って来た。顔が青白く痩せている貧乏な洋画家風の青年は神経質そうに、他の患者がに真っ赤に染まったうがい水を吐き出す様子に怯え、目を覆ったりしていた。

そこへ1人の若く美しい令嬢が待合室にやって来た。色白でおとなしそうな令嬢は黒っぽい単衣を着ていて、胸や臀部の肉づきが着物の上からも窺われた。青年はすっかりその令嬢の方に目を奪われた。俯きながらも青年の凝視を感じる令嬢は、着物の襟などを気にしている。

「葉室さん」と呼ばれた令嬢が先に治療室に入り、次に青年が「倉橋さん」と呼ばれて手術台にかけた。不安そうな青年の横では、令嬢が上の前歯の裏側にを詰める治療をしていた。やがてドクトルが青年の方に来て、抜歯のためにノボカインを注射した。眼を閉じた青年は両手を上げ、物を探るように指をワナワナさせ、やがて眼を閉じたまま戦慄が止んだ。

治療音の響く中、令嬢の顔が蒼白になり、脳貧血で意識を失った。あわてたドクトルと看護婦2人が、急いで介抱している様子を、青年は眼を見開いてそっと見た後、また目を潰えた。令嬢は長椅子の方に運ばれて、や襟を緩められて寝かされた。青年はドクトルに虫歯を抜かれ、顔面蒼白になり気が遠くなった。

瞑目した青年が昏睡状態になったことを確認して怪しい笑みを一瞬浮かべたドクトルは、看護婦2人に外ドア付近に誰もいないこと見回らせた後、令嬢にマスクをかけクロロホルムを滴らせた。ドクトルから指示された看護婦2人は昏睡した令嬢を奥の部屋に運んでいった。

第2幕[編集]

の大百貨店屋上庭園らしき所で納涼展覧会が行なわれ、中央の噴水前の植木鉢が並ぶ所々のベンチの一つに、何かを待つように息を凝らして倉橋青年が座っている。やがて浴衣を着た葉室令嬢が両親と一緒に現われ、景色を展望しているが、時々周囲を気にしていた。そこへドクトルが夫人と10歳くらいの息子を連れてやって来て、令嬢と目配せしたのを青年は見ていた。

お互いの家族が展望に夢中になっている中、ドクトルと令嬢はその場を抜け出し、青年は2人の跡を追った。それぞれの家族が、行方不明になった娘や夫を捜して去っていくと、再びドクトルと令嬢がそこへ戻って来た。ドクトルはすでに自分のものになっている令嬢とどこかで密通するために予約の電話をかけに行った。

ベンチで1人待っている令嬢の前に青年が現われ、悪いドクトルから令嬢を救おうと、ベンチの前に跪き令嬢の手を取って説得した。青年は、「彼奴があなたを誘惑したんだ」と訴え、令嬢をにかけた悪魔のドクトルを殺すと宣言する。その言葉を物影で聞いていたドクトルは、気味の悪い嘲笑を浮べていた。

第3幕[編集]

日中の大阪心斎橋筋のような、静かで人通りの賑やかな街路の中央に、令嬢の屍骸が仰向けに横たわっている。令嬢は黒い単衣を着ていて、乱れた着衣の襟元と手首に血痕があるが、顔は安らかに眠っているかのようであった。しかし街路沿いの商店では日常と同じように通行人が品物を見たり、店の小僧自転車で出かけたりしている。

そこへ、刑事巡査が青年の腕を抱えながら、屍骸の前にやって来た。青年の髪や服装は滅茶苦茶になり、手には血のついた短刀があった。何故女を殺したのかと刑事が問いただすと、青年は、この女は僕を欺いたと叫び、妻子ある男と不義をした「淫婦」だと大声で連呼した。それに気づいた通行人たちは、いっせいに令嬢の屍骸と青年を取り巻き、「人殺し!」と口々に罵り、青年の「淫婦」の連呼と相重なる。

第4幕[編集]

第1幕と同じ歯科医院の治療室で、意識を回復した令嬢が身支度を整え、長椅子に座っている。青年は手術台の上で寝かされ、アンモニアによりドクトルと看護婦2人に介抱されていた。ドクトルは青年にブランデーを飲ませて、手術台を立て起した。

一方、完全に回復した令嬢は立ち上がってドクトルにお礼の挨拶をし、医院を後にした。青年の方は、少し休んでいくようにドクトルに促され、令嬢の去った後の長椅子によろよろと進んでいった。すでに待合室にいた新しい患者らが治療室に入り、ドクトルは治療のため手を洗い始めた。

登場人物[編集]

歯科ドクトル
35、6歳。面長の色白で背が高く、髪の毛が濃い。白衣の下にはリンネルのスッキリしたパンツを穿き、白い靴下で黒の短靴。無表情で終始冷静な態度。
看護婦AとB
20歳前後。2人とも美人ではないがクリクリとした丸顔で同じようなタイプ。化粧っ気がなく、赤茶けた髪をひっつめに結い、たくしあげた袖から肉感的な腕、裾の下からは逞しい脛と太い素足が見える。純白の衣と対照的な粘土色の肌が蠱惑的で、黒人奴隷女を思わせる。顔面の筋肉が動かず無愛想で機械的に人形のように働いている。
青年
26、7歳。貧乏な洋画家風の服装。痩せて青白く陰鬱な表情。名前は倉橋。
令嬢
18、9歳。端正な鼻と涼しい瞳。柔和で気品のある丸顔。慎ましやかで内気な態度。非常に色白で口紅が際立つ。髪は漆黒でツヤツヤしているが薄めで、濡れたのように頭に密着している。黒っぽい明石単衣着物。小さな白金ダイヤの指輪をしている。名前は葉室。
他の患者たち
治療を嫌がり泣きわめく6、7歳の男児とその祖母らしい婦人。和服の老紳士。34、5歳の会社員風の男(中村)。口の中ので右頬がひどく腫れた15、6歳のニキビだらけの少年丁稚(小池)。その他3名

【白日夢の中】

青年
歯科医院の時と同じ服装。令嬢をドクトルから救おうと意気込む。殺した後は令嬢に欺かれたと叫ぶ。
令嬢
名前は葉室千枝子。百貨店の屋上庭園の場面では浴衣姿。両親やドクトルの妻への後ろめたさや堕落を感じながらも、ドクトルを好きになっている。心斎橋筋の場面では、歯科医院の時の着物と同じ恰好で屍骸になっている。
歯科ドクトル
妻子持ち。すでに令嬢を犯している。お互いの家族を騙して令嬢との密通の機会を作る。正義漢の青年の様子を蔭で見て、薄気味悪い嘲笑を浮べる。
令嬢の両親
真ん中に娘を挟んでベンチに座る。
歯科ドクトルの妻子
妻は27、8歳。子供は10歳くらいの男の子。
その他の人々
屋上の納涼客。青年を逮捕して取り押さえている刑事巡査。街路や商店街の通行人たち。

レヴュー化[編集]

映画化[編集]

1964年版[編集]

白日夢
Daydream
監督 武智鉄二
脚本 武智鉄二
出演者 路加奈子石浜朗
音楽 芝祐久
配給 松竹
公開 日本の旗 1964年6月21日
上映時間 94分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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キャスト

ほか

スタッフ

1981年版[編集]

白日夢
監督 武智鉄二
脚本 武智鉄二
製作 池俊行前田有行
出演者 佐藤慶愛染恭子
音楽 芝祐久
撮影 高田昭
編集 佐藤浩
配給 松竹
公開 日本の旗 1981年9月12日
上映時間 110分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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キャスト

ほか

スタッフ

1987年版[編集]

白日夢2
監督 武智鉄二
脚本 武智鉄二
出演者 愛染恭子
撮影 杉村博章
配給 松竹
公開 日本の旗 1987年2月7日
上映時間 90分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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キャスト

スタッフ

  • 監督 - 武智鉄二
  • 脚本 - 武智鉄二
  • 撮影 - 杉村博章

2009年版[編集]

白日夢
監督 愛染恭子いまおかしんじ
脚本 井土紀州
出演者 西条美咲大坂俊介
音楽 碇英記
製作会社 アートポート、ベルヴィー
配給 アートポート
公開 日本の旗 2009年9月5日
上映時間 80分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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2010年(平成22年)春より新東宝配給にて、全国の成人映画館にてピンク映画と同時上映の形で拡大上映もされた。この2009年版は設定・ストーリーとも原作に大幅な変更が加えられている。

当作品は本番であるかどうかは謳っていないが、愛染監督により、大坂俊介・坂本真ら濡れ場を担当する男性俳優に前貼りを貼らずにセックスシーンを演じさせるという独自の演出手法で官能シーンを撮り上げた。

キャスト

スタッフ

  • 監督 - 愛染恭子いまおかしんじ
  • 製作 - 松下順一、窪田一貴
  • プロデューサー - 小貫英樹
  • 企画 - 加藤東司
  • 原作 - 谷崎潤一郎
  • 脚本 - 井土紀州
  • 撮影 - 田宮健彦
  • 美術 - 羽賀香織
  • 編集 - 目見田健
  • 音楽 - 碇英記
  • 照明 - 藤井勇
  • 録音 - 沼田一夫
  • 助監督 - 伊藤一平
  • 制作協力 - 円谷エンターテインメント
  • 制作 - 本田エンターテインメント

おもな収録本[編集]

  • 『赤い屋根』(改造社、1926年9月)
    • 収録作品:「蘿洞先生」「馬の糞」「赤い屋根」「友田と松永の話」「二月堂の夕」「港の人々」「金を借りに來た男」「マンドリンを彈く男」「白日夢」
  • 『谷崎潤一郎文庫第2巻――呪われた戯曲・病蓐の幻想・魔術師・恐怖時代・白日夢 他七篇』(六興出版、1973年)
  • 『谷崎潤一郎全集第11巻』(中央公論社、1982年3月)
    • 装幀:棟方志功。題字:谷崎潤一郎
    • 月報:今日出海「私の見た谷崎さん」。河野多恵子「谷崎文学の愉しみ(11)」
    • 収録作品:「白日夢」「日本に於けるクリツプン事件」「ドリス」「顕現」「黒白」「続蘿洞先生」「

脚注[編集]

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  1. ^ 「谷崎潤一郎年譜」(夢ムック 2015, pp. 262-271)
  2. ^ a b c 「老後の春――『白日夢』と春川ますみ」(太陽 2016, p. 128)

参考文献[編集]

外部リンク[編集]