コンテンツにスキップ

王道進行

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コード進行の一例 IVΔ7-V7-iii7-vi chord progression in C.ogg Play[ヘルプ/ファイル]

王道進行(おうどうしんこう)または小悪魔コード進行(こあくまコードしんこう)は、J-POPにおいて多用される「IV△7–V7–iii7–vi」で表されるコード進行である[1][2][3][4][5][6]七の和音下属音属音中音下中音を加えた構成で、例えば、ハ長調であれば「F△7–G7–Em7–Am」となる[7]。また、代理コードによるバリエーションとして、「iii7」を「III7」にしたもの、「IV△7」を「ii9」にしたものなども含まれる[1][2]

概要

[編集]

1990年代以降、J-POPの特にサビの部分において多用されるコード進行で、日本人が好む「抒情的」あるいは「せつない」雰囲気の曲調を生み出すことができるとされている[8]。「王道進行」という名称は、2008年ニコニコ動画に投稿された動画内で「音極道」を名乗る音楽家が命名したものである[1][2][3][8]

音極道は王道進行について、1980年代に流行したユーロビートにおいて多用されていたが、1990年代に流行が世界的に下火になった後も日本人の耳に残り、以降、J-POPにおいて乱用が続いていると批判的に指摘した[1][2]経済学者高増明は、ユーロビートにおいて多用されていたコード進行が日本でのみ再生産され続けている現状を「日本人全体が洗脳されている」という言葉で表現し、王道進行のほか、カノン進行やその変形である純情コード進行(後述)、小室哲哉が好んで用いた小室進行など、コード進行の定型化が進んでいると指摘している[8]。また、メロディーについても、日本人はわかりやすく繰り返しの多いものを好む傾向があり、日本の音楽業界はそのような「日本的な」特徴を備えた楽曲の量産によって一定の成功を見たが、次第に日本のアーティストの海外への進出意欲の低下、楽曲の質の低下、ひいてはガラパゴス化による日本のポピュラー音楽の国際競争力の低下を招いたと述べている[8]

一方、亀田誠治は王道進行について、2014年NHK教育テレビジョンの音楽教養番組亀田音楽専門学校』内で「小悪魔コード進行」という名称を与えた[4][5]。明るい和音(V7)から暗い和音(iii7)へ変移する瞬間を遊び人の失恋に擬えて表現したものである。明るい和音が続くと思わせて暗い和音に繋がる、「迫ってきたと思ったら突き離される、答えが出ない情景を作り出すコード」であると分析し、「末永くこの小悪魔ちゃんを可愛がってあげてください」とした[4][5]。また、『亀田音楽専門学校』にゲスト講師として出演したスキマスイッチ大橋卓弥は、「音楽を始めたころに一番初めに覚えたコード進行。これを知っておけば色々な楽曲を弾けるようになる」「このコードは色んな結末に行けるし、どのコードの間にも入れる」とJ-POPにおける王道進行の汎用性の高さを指摘している[4][5]。音楽理論系Youtuberの「だっとさん音楽理論チャンネル」は日本独自の音楽性の発展として評価している[9]

使用例

[編集]

以下では、音極道[1][2][10]、亀田、スキマスイッチ[4][5]、だっとさん音楽理論チャンネル[9]が動画や番組などで紹介した楽曲のみを挙げる。

ニューミュージック・J-POP

[編集]
発表年 楽曲 アーティスト
1975年 卒業写真 荒井由実
1978年 オリビアを聴きながら 杏里
1979年 いとしのエリー サザンオールスターズ
1980年 Yes-No オフコース
1982年 悲しい色やね 上田正樹
1986年 シーズン・イン・ザ・サン TUBE
1987年 世界でいちばん熱い夏 プリンセス・プリンセス
1988年 だいすき 岡村靖幸
1989年 大迷惑 UNICORN
1990年 サマータイム ブルース 渡辺美里
1992年 もう恋なんてしない 槇原敬之
1995年 ロビンソン スピッツ
1997年 White Love SPEED
1999年 LOVEマシーン モーニング娘。
2000年 Everything MISIA
2001年 fragile Every Little Thing
2002年 HERO Mr.Children
2004年 瞳をとじて 平井堅
2005年 さくら ケツメイシ
2005年 全力少年 スキマスイッチ
2006年 ガラナ スキマスイッチ
2006年 夢のうた 倖田來未
2008年 HANABI Mr.Children
2008年 偶然の確率 GIRL NEXT DOOR
2008年 Drive away GIRL NEXT DOOR

アニソン

[編集]
発表年 楽曲 アーティスト
1998年 運命のルーレット廻して ZARD
2003年 悲しみをやさしさに little by little
2006年 God knows... 涼宮ハルヒ平野綾
2007年 空色デイズ 中川翔子
2008年 儚くも永久のカナシ UVERworld
2009年 オレンジ 逢坂大河(釘宮理恵)、櫛枝実乃梨(堀江由衣)、川嶋亜美(喜多村英梨
2010年 GO! GO! MANIAC 平沢唯(豊崎愛生)、秋山澪(日笠陽子)、田井中律(佐藤聡美)、琴吹紬(寿美菜子)、中野梓(竹達彩奈
2011年 コネクト ClariS

ゲーム音楽

[編集]
発表年 楽曲 作品
1993年 メーベの村 ゼルダの伝説 夢をみる島
1996年 パックンフラワーの子守歌 スーパーマリオ64
1999年 波乗りのテーマ ポケットモンスター 金・銀
1999年 キキョウシティ ポケットモンスター 金・銀

洋楽

[編集]
発表年 楽曲 アーティスト
1982年 Can't Take My Eyes Off You Boys Town Gang
1986年 Give Me Up Michael Fortunati
1987年 I Should Be So Lucky Kylie Minogue
1988年 Together Forever Rick Astley

類似例

[編集]

王道進行と同様にJ-POPにおいて多用されるコード進行として、亀田は「純情コード進行」の存在を指摘、命名している[8][11][12]。純情コード進行はカノン進行の変形で、「C-G/B-Am-Em/G-F-C/E-Dm-G」で表されるコード進行である。純情コード進行の使用例として、「守ってあげたい」(松任谷由実)、「勇気100%」(光GENJI)、「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)などがある[11][12]

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e 音極道『JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた 前編』2008年10月16日https://www.nicovideo.jp/watch/sm49477522022年10月23日閲覧 
  2. ^ a b c d e 音極道『JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた 後編』2008年10月16日https://www.nicovideo.jp/watch/sm49478522022年10月23日閲覧 
  3. ^ a b 音極道 (2008年10月16日). “JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた、という話”. 音極道 Music Hacks. 2022年10月23日閲覧。
  4. ^ a b c d e "第6回「恋するコード学~小悪魔編~」". 亀田音楽専門学校. 6 November 2014. NHK教育テレビジョン。
  5. ^ a b c d e ミスチルや平井堅らのヒット曲に見られる「小悪魔コード進行」とは? 亀田誠治とスキマスイッチが解説”. リアルサウンド (2014年11月7日). 2022年10月23日閲覧。
  6. ^ 梅村祥之; 伊達彩斗 (2017). “地図標高データを用いたメロディ生成の試み”. 研究報告音楽情報科学 115 (39): 1-6. ISSN 21888752. http://id.nii.ac.jp/1001/00182153/ 2022年10月23日閲覧。. 
  7. ^ 大須賀淳『作りながらおぼえる作曲術入門』秀和システム、2014年、135頁。ISBN 978-4-7980-4107-0 
  8. ^ a b c d e 高増明 (2015). “日本のポピュラー音楽の危機と経済停滞”. 関西大学社会学部紀要 (関西大学社会学部) 47 (1): 1-20. ISSN 02876817. https://hdl.handle.net/10112/9455 2022年10月23日閲覧。. 
  9. ^ a b 世界から見た王道進行(4536進行)の魅力~Japanese Chord Progressionと喩される日本音楽に根付いた響き~ - YouTube
  10. ^ 音極道 (2008年10月15日). “YouTubeで見る “J-POP王道コード進行” の歴史”. 音極道 Music Hacks. 2022年10月23日閲覧。
  11. ^ a b "第5回「恋するコード学~純情編~」". 亀田音楽専門学校. 30 October 2014. NHK教育テレビジョン。
  12. ^ a b J-POPのヒット曲に多用される“純情コード進行”とは? 亀田誠治とスキマスイッチが仕掛けを分析”. リアルサウンド (2014年10月31日). 2022年10月23日閲覧。

関連項目

[編集]