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王子の狐

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王子の狐(おうじのきつね)は、古典落語の演目。初代三遊亭圓右上方落語の『高倉狐』(たかくらぎつね)を東京に移したとみられている[1]

人を化かすと言われる狐がかえって人に化かされる顛末を描く。

ベースとなる話は鳥翠北茎『北国奇談巡杖記』第5巻(文化4年・1807年)や松浦静山甲子夜話』第21巻の「人の狐を欺きし話」(文政4年・1821年)、『奇談新編』(天保13年・1842年、漢文体)などに見え、噺本にも『露休置土産』の「狐も化かさるる世の中」(宝永4年・1707年)をはじめ『御伽噺』の「狐の付いた和尚」(安永2年・1773年)に出ている[1]

あらすじ

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王子稲荷東京都北区王子)のは、昔から人を化かすことで有名だった。

ある男、王子稲荷に参詣した帰り道、一匹の狐が美女に化けるところを見かける。どうやらこれから人を化かそうという肚らしい。

そこで男、「ここはひとつ、化かされた振りをしてやれ」と、大胆にも狐に声をかけた。「お玉ちゃん、俺だよ、熊だ。よければ、そこの店で食事でも」と知り合いのふりをすると、「あら熊さん、お久しぶり」とカモを見付けたと思った狐も合わせてくる。

かくして近くの料理屋・扇屋に上がり込んだ二人、油揚げならぬ天ぷらやらお刺身などを注文し、差しつ差されつやっていると、狐のお玉ちゃんはすっかり酔いつぶれ、すやすやと眠ってしまった。そこで男、土産に卵焼きまで包ませ、「勘定は女が払う」と言い残すや、図々しい奴で狐を置いてさっさと帰ってしまう。

しばらくして、店の者に起こされたお玉ちゃん、男が帰ってしまったと聞いて驚いた。びっくりしたあまり、耳がピンと立ち、尻尾がにゅっと生える始末。正体露見に今度は店の者が驚いて狐を追いかけ回し、狐はほうほうの体で逃げ出した。

狐を化かした男、友人に吹聴するが「ひどいことをしたもんだ。狐は執念深いぞ」と脅かされ、青くなって翌日、王子まで詫びにやってくる。巣穴とおぼしきあたりで遊んでいた子狐に「昨日は悪いことをした。謝っといてくれ」と手土産を言付けた。

穴の中では痛い目にあった母狐がうんうん唸っている。子狐、「今、人間がきて、謝りながらこれを置いていった」と母狐に手土産を渡す。警戒しながら開けてみると、中身は美味そうなぼた餅

子狐「母ちゃん、美味しそうだよ。食べてもいいかい?」

母狐「いけないよ!人間は騙すからね、馬の糞かもしれない!」

題材について

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扇屋は現在、料理屋は経営していないが、今も1階で卵焼きを販売している[2]

脚注

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  1. ^ a b 武藤禎夫 2007, pp. 72–74.
  2. ^ 王子扇屋

参考文献

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  • 武藤禎夫『定本 落語三百題』岩波書店、2007年6月28日。ISBN 978-4-00-002423-5 

関連項目

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外部リンク

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