「45度線分析」の版間の差分

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この総需要曲線と45度線の交点で国民所得が決定されるのである。なお、このケインジアンモデルは短期のモデルであるため、'''物価は定数'''であるとされている。すなわち、企業は需給ギャップに対して価格調整でなく数量調整を行う。この前提のもとでは、45度線と総需要曲線の交点の左側では総需要が生産量を上回っているため、企業はより多くの財を生産する。45度線と総需要曲線の交点の右側では、生産量が総需要を上回っており、企業は財の生産を減らそうとする<ref name = "Andrew 2001" />。そのため、このグラフで表される経済は常に45度線と総需要曲線の交点に向かって動く<ref name = "Andrew 2001" />。
この総需要曲線と45度線の交点で国民所得が決定されるのである。なお、このケインジアンモデルは短期のモデルであ、'''利子率と物価は定数'''であるとされている。すなわち、企業は需給ギャップに対して価格調整でなく数量調整を行う。この前提のもとでは、45度線と総需要曲線の交点の左側では総需要が生産量を上回っているため、企業はより多くの財を生産する。45度線と総需要曲線の交点の右側では、生産量が総需要を上回っており、企業は財の生産を減らそうとする<ref name = "Andrew 2001" />。そのため、このグラフで表される経済は常に45度線と総需要曲線の交点に向かって動く<ref name = "Andrew 2001" />。


==有効需要の原理==
==有効需要の原理==

2016年12月31日 (土) 06:48時点における版

図 1:縦軸は総需要(AD)、横軸は生産量(output)。上図のように45度線を取る。青い線は総需要曲線である。45度線と総需要曲線の交点で経済は均衡する。交点の左側では総需要が生産量を上回っており、これをインフレギャップと言う。交点の右側では生産量が総需要を上回っており、これをデフレギャップと言う。インフレギャップやデフレギャップのようなギャップは需給ギャップと呼ばれる。

経済学において、45度線分析: 45-degree line diagram)、あるいはケインズの交差図: Keynesian cross diagram)とは45度線を用いて一国の経済を分析するものである。ケインズ経済学の基本的な考えを示す非常に単純なモデルであり、マクロ経済学において1930年代から40年代のケインズ以来長期間に渡って利用されてきた[1]。マクロ経済の短期調整プロセスの基礎的部分とおおまかな調整結果を知るのに有用なツールである[1]

概要

45度線分析では、まず45度の傾きを持つ直線を引く(図 1参照)。この直線を45度線と呼ぶが、45度線は、縦軸の総需要()、横軸の生産量(もしくは国民所得、)の2軸の値が等しくなるようなあらゆる点を示す直線である。すなわちとなるような組み合わせであり、総需要と生産量が等しくなるようなあらゆる点を示す直線である。この45度線は総需要と総供給が等しくなりうるあらゆる点を示す直線であるとも言える[2]。図 1の青い線は総需要曲線であり、次のように表される[2]

ただし、

  • :消費
  • :政府支出
  • :投資
  • :輸出
  • :輸入

この総需要曲線と45度線の交点で国民所得が決定されるのである。なお、このケインジアンモデルは短期のモデルであり、利子率と物価は定数であるとされている。すなわち、企業は需給ギャップに対して価格調整でなく数量調整を行う。この前提のもとでは、45度線と総需要曲線の交点の左側では総需要が生産量を上回っているため、企業はより多くの財を生産する。45度線と総需要曲線の交点の右側では、生産量が総需要を上回っており、企業は財の生産を減らそうとする[2]。そのため、このグラフで表される経済は常に45度線と総需要曲線の交点に向かって動く[2]

有効需要の原理

この45度線分析の背景にあるのは「総需要が総供給および国民所得を決定する」という有効需要の原理である。有効需要とは、図 1における45度線と総需要曲線の交点における総需要である。この45度線と総需要曲線の交点を均衡点とよぶが、均衡点において次のことが成り立つ[3]

ただし、Y*は均衡国民所得、D*は有効需要、Dは総需要。均衡国民所得と有効需要は均衡点において恒等的に等しく、これは総需要と等しい。

このようなケインズモデルの分析において、総需要(および総需要曲線)は事前の(ex ante)支出のみによって構成されている[4]。事前の(計画された)総需要は均衡達成後(あるいは事後の、ex post)の総需要とほぼ変わらない一方で、価格調整の働かない短期を前提にすれば、事前の総供給は実際に総需要と均衡するまでに数量の調整を行わなければならない[4][3]。例えば、企業家たちは総需要が大きくなるという予測がたてば(利益最大化のために)それに応じて生産および在庫を増やすだろうし、逆に総需要が小さくなるという予測がたてば(損失最小化のために)それに応じて生産および在庫を減らすだろう。生産を増やすのであれば、その分だけ雇用が増大し、景気は上昇するし、生産を減らすのであれば、その分だけ雇用が減少し、景気は悪化する。すなわち、事前の(計画された)総供給は必ずしも総需要とは一致せず、総供給は総需要に応じて(短期においては)数量調整により決定されるというのが有効需要の原理であり、45度線分析はそれを端的に表している。

参考文献

  1. ^ a b Rhona C. Free (2010), 21st Century Economics: A Reference Handbook, Volume 1, SAGE, p. 326 
  2. ^ a b c d Andrew Gillespie (2001), Advanced Economics Through Diagrams, Oxford University Press, p. 85 
  3. ^ a b Mark Hayes (2008). The Economics of Keynes: A New Guide to the General Theory. Edward Elgar Publishing. p. 74. https://books.google.com/books?id=rKauSD15RtYC&pg=PA74 
  4. ^ a b Nicoli Nattrass and G. Visakh Varma (2014). Macroeconomics Simplified: Understanding Keynesian and Neoclassical Macroeconomic Systems. SAGE Publications India. p. 49. https://books.google.com/books?id=EWmUBAAAQBAJ&pg=PA49 

関連項目