「呼吸困難」の版間の差分

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医学における'''呼吸困難'''(こきゅうこんなん, dyspnea)は、臨床[[症候学|症状]]のひとつ。呼吸するという生理的運動に際して、苦しさや努力感などの自覚症状を有する状態。'''息切れ'''(いきぎれ, breathlessness, shortness of breath, SOB)と同義。
 
[[呼吸]]は体に[[酸素]]を取り込み、[[二酸化炭素]]を排出するという血液中のガス交換を目的として行われる生理的運動であるが、医学的には呼吸困難という状態はあくまで自覚的な症状を指し、必ずしも呼吸機能に問題があるとは限らない。従って敢えて'''呼吸困難感'''(こきゅうこんなんかん)という用語を使う必要はないが、明確にするためにこのように使われることもある。
呼吸困難の程度を客観的に表現する試みとして最も利用されているものに、ヒュー・ジョーンズ分類(Hugh-Jones分類)がある。心不全からくる呼吸困難に対しては[[心不全#NYHA分類|NYHA分類]]が使われる。あくまでも慢性呼吸不全、呼吸困難の指標である。
 
;I度
;I度 :同年代の[[健常者]]と同様の生活・仕事ができ、階段も健常者なみにのぼれる
;II度 :歩行は同年代の[[健常者並に]]と同様の生活・仕事ができるが、階段の上り下りは健常者なみにできないのぼれる
;II度
;III度 :健常者なみに歩けないが、自分のペースで1km(または1マイル)程度の歩行が可能
:歩行は同年代の健常者並にできるが、階段の上り下りは健常者なみにできない
;IV度 :休みながらでなければ50m以上の歩行が不可能
;III度
;V度 :会話や着物の着脱で息がきれ、外出ができない
;III度 :健常者なみに歩けないが、自分のペースで1km(または1マイル)程度の歩行が可能
;IV度
;IV度 :休みながらでなければ50m以上の歩行が不可能
;V度
;V度 :会話や着物の着脱で息がきれ、外出ができない
 
==呼吸困難をきたす疾患==
== 呼吸困難のマネジメント ==
第一に気道確保と酸素投与を行う。[[意識障害]]など他の挿管の適応があれば、躊躇なく挿管をする。酸素投与でSpO2が90%台となるようにする。酸素投与、気道確保ができたら、呼吸困難の原因精査を行う。診断の目星があれば、それに対する治療を行う。これによって挿管を回避できることもある。特に重要なのは上気道閉塞を否定することである。治療への反応をみて、挿管を回避できるのか、できないのかを判定する。回避できなければこの時点で気管内挿管を行う。回避できるのであれば酸素マスク、あるいは[[BIPAP]]にて経過観察とする。挿管の目安としては、酸素マスクにてSpO2<90%(酸素解離曲線でSpO2 90%はPaO2 60mmHgに相当する)ならば挿管とするのが一般的である。これ以下では末梢細胞への酸素供給が不足し嫌気的代謝となる可能性がある。血液ガス分析で代謝性アシドーシスとなっていれば、すでに末梢の酸素不足が起こっている可能性がある。
 
===気管内挿管の適応===
;*換気不十分
;*酸素化不十分
;*過剰な呼吸労力
;*意識障害などで気道確保が必要な時
*:GCS8以下の持続的な意識障害で気道確保が必要と考えられるとき。口腔内出血や吐血などで閉塞のリスクがあるとき。
;*呼吸不全
*:PaCO2>60mmHg,PaO2<70mmHg,FiO2 50%にて呼吸数が30回/min以上のとき。
;*著名な[[肺水腫]]など胸部X線の異常が認められるとき。
;*多発外傷や多臓器不全など全身管理が必要とされるとき。
 
== 緊急挿管と人工呼吸器 ==
呼吸困難、呼吸不全による緊急挿管の場合、フルストマックでの挿管となることが多く、[[甲状軟骨圧迫法]]を用いることが多い。[[静脈麻酔薬]]、[[オピオイド]]といった薬物を用いて、鎮痛、鎮静、筋弛緩を得る。以下に代表的な処方、人工呼吸器の設定を示す。
 
===人工呼吸器の初期設定と挿管===
2008年現在、大抵の人工呼吸器にはSIMVモードがあり、プレッシャーサポートがついているためそれを前提とする。患者の体格や病態によって適切な人工呼吸器の設定というものが存在し、集中治療の分野では様々な研究がされている。しかし、気管内挿管が必要な場合、それらの評価を行う時間やデータが不足している場合も多々ある。適切な設定値を求めるあまり気管内挿管が遅れるようでは意味がないので無難な量を纏める。想定しているのは体重が60Kgの成人である。挿管前に準備するものとしては[[サクション]]キット、[[アンビューバッグ]]か[[ジャクソンリース]]、SpO2モニター、心電図モニター、呼吸器以外に扱える酸素配管などを確認しておく。
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その他設定が必要ならば、トリガー感度は-1~-2cnH2Oまたは2~3l/minとし、呼気・吸気比は1:1~3とする。アラームの設定は気道内圧上限が40cmH2O,気道内圧下限は10cmH2O,呼吸回数上限は30回/minであり換気量下限は設定換気量の60%とする。[[気管内挿管]]を行う際に必要なこととしては、[[全身麻酔]]である。[[意識障害]]があれば不要なこともあるが、鎮痛、鎮静、筋弛緩が必要であり、鎮痛は[[オピオイド]]で鎮静は[[静脈麻酔薬]]で筋弛緩は[[筋弛緩薬]]で行う(厳密な意味ではオピオイドには鎮静作用もあるのだが簡略化する)。
 
;鎮静
==== 鎮静 ====
プロポフォールやミダゾラム(ドルミカム)が好まれる。ミダゾラムは同じ[[ベンゾジアゼピン]]系の中でも副作用が[[ジアゼパム]](セルシン)よりも少なく、半減期が2~4時間と短いのが好まれる理由である。静注で行うのなら、初回投与はドルミカムならば5mg、セルシンならば10mg程度である。オピオイドを併用すると鎮痛、鎮咳作用によって挿管は容易になるが呼吸抑制が顕著にでるため注意が必要である。静注で併用するのならばフェンタニル0.05mg程度が無難である。
*ディプリパン原液を2ml/hより開始 。
*ドルミカム5A(50mg/10ml)+生食40mlを3ml/hで開始 。体動を認めたら3mlフラッシュする。
*ドルミカム8A(80mg/16ml)+ケタラール(筋注用)2000mg(2A)+生食14mlを2ml/hから開始 。体動を認めたら2mlフラッシュする。
;==== 鎮痛 ====
*[[レペタン]]2A(0.4mg/4ml)を生理食塩水で50mlとし2ml/hで開始。体動を認めたら2mlフラッシュする。
強オピオイドを利用した場合は弱オピオイドを併用すると効果が減少するため注意が必要である。但し、これはアゴニストとパーシャルアゴニストを併用した時の現象であるため鎮痛効果は同一レセプターに作用していれば弱オピオイドと強オピオイドの中間となる。体動の原因が鎮静不足か鎮痛不足かによってフラッシュする薬物は変わってくるため、他の処方との整合性を図るべきである。
;==== 筋弛緩 ====
ベクロニウム(マスキュラックス)を用いる場合が多い。マスキュラックス10mgを蒸留水10mlで溶解し1mg/mlとして使用する場合が多い。マスキュラックスは0.08mg/Kgが初回使用量となるため5mg程度から使用し、効果を見て8~10mg程度使用する場合もある。それ以外にはマスキュラックス2mgとサクシン(スキサメトニウム)50mgを併用し静注するという方法もある。
 
挿管を行い、人工呼吸器につなげば呼吸不全による死亡は防ぐことができるため、原因精査を行う時間が稼ぐことができる。
;鎮静の維持
:鎮静は血圧を下げない範囲で深めにかける。疼痛原因が特になければドルミカム5A+生食40mlで2ml/hr程度あれば十分である。
;血圧が低めになったら
:血圧が少しでも低めになったら[[昇圧剤]]、[[カテコラミン]]を開始する。ドパミンであるカタボンHi(600mg/200ml)は体重50Kgにて1ml/hrで1γ(1μg/Kg/min)となるように設定されているため7ml/hrあたりから開始する。
;輸液
:血圧が低めならばラクテックを100ml/hrで血圧が正常であればソルデム3Aで60ml/hrで維持をする。
;アシドーシスが存在すれば
:不足HCO<sub>3</sub><sup>-</sup>(mEq/l)=体重(Kg)×0.2×B.Eより計算し、半分量を投与しpHをみながら追加していく。7%メイロン20mlでは17mEq/lであり、8.4%メイロン20mlでは20mEq/lである。
;聴診で喘鳴が聴こえたら
:ソルコーテフ200mgの投与を行う。
;発熱が認められたら
:速やかに血液培養を行い、第三世代のセフェム系抗菌薬の投与を開始する。
 
ここまで行えば、重症患者に対して最低限の維持ができるので採血、[[X線写真]]、[[心臓超音波検査]]、[[腹部超音波検査]]を行い、治療に向けた計画を作成する。
=== 人工呼吸器の調節 ===
前項では患者情報が不十分でも人工呼吸器の導入が可能な無難な設定を示したが、このままでは長期管理が難しく、各種パラメータの調節が必要である。なお、患者情報が十分あれば、はじめから調整された値で人工呼吸器導入を行う方が安全である。設定が適切でない場合はファイティングやバッキングによって十分な換気が得られなくなる。
 
;吸気酸素濃度(FiO2)
:人工呼吸器導入直後は原則としてFiO2は1.0とする。これはリークをはじめとした回路のトラブルを防ぐ目的がある。呼吸器が正常に作動しており酸素濃度の低下も認められないようならば酸素飽和度をモニタリングしながらFiO2を下げていく。FiO2が1.0の場合は3時間もすると肺胞障害が始まるといわれている。FiO2が0.6となると3日ほどは肺障害を免れる。FiO2が0.4程度になれば、長期間理も可能になる。なおPaCO2の貯留は人工呼吸器で呼吸ができていれば神経質になる必要はない。明らかなバッキング、ファイティングが認められた場合は調節を行う。
;一回換気量と換気回数
:一回換気量は6~10ml/Kgであり、呼吸数は拘束性障害であれば14~25回/min,閉塞性障害であれば6~12回/minが良いと言われている{{誰2|date=2009年5月}}。病態が不明ならば1回換気量450mlで呼吸数が15回/minというのは無難な値である。SIMVで自発呼吸によって呼吸数が異常に多い場合は[[アシドーシス]]の代償や[[気胸]]、片肺挿管の可能性があるため、X線写真で評価を行う。このような原因が見当たらなければプレッシャーサポートの圧を上げたり、鎮静を深くするといった対応が考えられる。
;PEEP
:PEEPとは呼気終末陽圧のことである。人工呼吸依存患者ではPEEPがないと呼気終末の遠位気道の虚脱が起こると考えられている。原則としては肺障害がない場合は必要がないが、肺障害の程度によってPEEPが酸素化改善の目的で用いられる。PEEPに関しては血圧に余裕がない場合を除いて3~5cmH2Oが無難であると考えられている。この値が生理的なPEEPであるとかつては考えられていたためである。2008年現在、生理的なPEEPは存在せず、PEEPによる肺障害の可能性なども検討されているがコンセンサスが得られていない。最小限のPEEP、least PEEP,best PEEP,agressive PEEPという様々な考え方が存在する。ARDSなどではPEEPを20cmH2Oほどかけることもある。
 
;プレッシャーサポート圧
:プレッシャーサポート換気とは自発呼吸時に、患者が作り出す陰圧に反応して設定したプレッシャーサポート圧で吸入ガスを供給する換気法である。患者の吸気流量が最大吸気量の25%未満となった場合は圧の負荷が停止するというものである。患者の自発呼吸によって吸気時間と吸気量は決定される自発呼吸増強のための呼吸モードである。かつては血液ガスのデータをより改善すれば、状態は良くなると考えられていたためプレッシャーサポート換気は重要視されなかったものの[[ARDS]]や[[気管支喘息]]に対して肺愛護換気によって気胸などの合併症が激減したことからその他の疾患でも用いられるようになってきている。PSは10~15cmH2Oで至適横隔膜負荷と言われている{{誰2|date=2009年5月}}。30cmH2Oとなると横隔膜の仕事が0になるといわれPSの最大値と考えられている。
;ファイティングの対応
:ファイティングとは患者の呼吸リズムと人工呼吸の換気パターンが同調しない状態をいう。回路やチューブの閉塞、リーク、不適切な人工呼吸器の設定の他、気胸、喘息、肺塞栓、気道内分泌物、呼吸状態のさらなる悪化、不安など患者の因子によっても起こりえる。原因が同定できなければ、鎮静薬の増量を検討する。
 
=== 人工呼吸器のウィーニング ===
人工呼吸器のウィーニングの開始基準は急性呼吸不全と慢性呼吸不全では全く異なる。ウィーニングを開始し、呼吸器、循環器系のモニタリングを行い異常が認められれば直ちにウィーニングを中止し、もとの人工呼吸器の設定に戻す。ウィーニング開始基準を満たし、ウィーニングを開始したらSIMV、PSVが可能ならば、SIMVを4~6回/minでPSVを2~3cmH2O程度まで徐々に下げていく(殆ど自発呼吸でわずかにプレッシャーサポートで補助している状態にする)。その後SIMVをオフとしPSVを2~3cmH2OかつPEEP3cmH2Oとなったら人工呼吸器をオフとする。Tピースに変更し咳反射、意識レベル、呼吸循環モニターに問題がなければ抜管ができる。
 
==== 急性呼吸不全のウィーニングの開始基準 ====
心不全、不整脈は改善している条件で、
;換気予備力
:呼吸数<30回/min,肺活量>10ml/Kg,最大吸気圧<-25cmH2O.
;換気能
:PaCO2<45mmHg,VD/VT<0.58
;酸素化能
:PaO2(FiO2=0.4)>70mmHg,AaDO2(FiO2=1.0)<350mmHg,PaO2/FiO2>200
 
==== 慢性呼吸不全のウィーニングの開始基準 ====
心不全、不整脈は改善し、感染が鎮静化した条件で、
;換気予備力
:呼吸数<30回/min,肺活量>5~7ml/Kg.
;換気能
:PaCO2<平常値+10mmHg.
;酸素化能
:PaO2(FiO2=0.4)>60mmHg.
 
==== ウィーニングの中止基準 ====
;呼吸器系
:呼吸困難感の出現、努力呼吸の出現、10回/min以上の呼吸数の増加、PaCO2>55mgHg,PaO2<60mmHg,pH<7.30にてウィーニングは中止とする。
;循環器系
:20/min以上の心拍数の増加、30mmHg以上の血圧の上昇や下降、重篤な不整脈の出現を認めたらウィーニングを中止する。
;その他
:意識レベルの低下、不穏、発汗異常で中止することができる。
 
== 非侵襲的換気療法(NPPV) ==
NPPV([[非侵襲的換気療法]])とは気管内挿管や気管切開を行わず鼻マスクや口鼻マスク、フェイスマスクを用いて陽圧呼吸を行うことである。挿管を行わないため会話、食事が可能となるのがメリットであるが挿管しないために十分な気道内圧が得られず呼吸不全の改善に十分な効果が得られない場合もある。COPDの急性増悪時、心原性肺水腫、免疫抑制剤使用中の患者(感染のリスクを軽減するため)によく用いられる陽圧換気法である。よく用いられる機械にBiPAP Visionというものがある。NPPVでFiO2の設定ができる機種であるが、モードのBIPAPと紛らわしい。QOLを考えた場合は有効な選択であるが、効果不十分と判断したら速やかに人工呼吸器に移行する。
 
=== 換気モード ===
;S/Tモード
:SモードとはIPAP(吸気陽圧)とEPAP(呼気陽圧)を設定し、自発呼吸に合わせてIPAP/EPAPと圧が変化していくモードである。Tモードとはあらかじめ設定してある呼吸数に合わせて圧が変化していくモードである。S/TモードはSIMVのように自発呼吸を優先し通常はSモードであり、自発呼吸が停止するとTモードに切り替わるモードである。
;CPAP
:持続的気道内陽圧をかけるモードである。強制換気をせず常に陽圧をかけることである。[[心不全]]の治療や睡眠時無呼吸症候群でのnasal CPAPが有名である。
;BiPAP
:2種類の気道内陽圧をかけるモードである。
 
=== 初期設定 ===
{| class="wikitable"
== CO2ナルコーシスと低酸素血症 ==
COPDの患者の呼吸困難の場合、高濃度の酸素を投与するとCO2ナルコーシスとなり自発呼吸の停止、および意識障害にいたることが知られている。しかしCO2ナルコーシス自体は挿管すれば回復しえるので、低酸素血症にいたるのならば、躊躇なく高濃度酸素は使用するべきだと考えられている。PaO2<60mmHgでは生命に危険が生じる場合もあるがPaCO2は100mmHg程度まで上昇しても後遺症は殆ど存在しないと考えられている。ウィーニングの際はPSは徐々に下げていき、PS5cmH2O,PEEP5cmH2Oとなれば抜管可能といわれている。
 
== 関連項目 ==
*[[人工呼吸器]]
*[[呼吸不全]]
*[[心不全]]
*[[酸素欠乏症]]
 
== 参考文献 ==
* [http://medt00lz.s59.xrea.com/kyuuhensimu/kyuuhensimu.pdf レジデント初期研修資料「急変時の対応」]
* レジデントのための呼吸器診療マニュアル ISBN 9784260005630
 
== 関連項目 ==
*[[人工呼吸器]]
*[[呼吸不全]]
*[[心不全]]
*[[酸素欠乏症]]
 
{{呼吸器疾患}}
{{DEFAULTSORT:こきゆうこんなん}}
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