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2012年11月6日 (火) 03:18時点における版

整理解雇(せいりかいこ)とは、解雇の種類の中の「普通解雇」に属するもので、法律上の用語ではなく、裁判での判例により浮上してきた労働慣例での用語である。事業を継続することが困難な場合に行う人員整理としての使用者からの労働契約(雇用契約)の解除のことを指す。

整理解雇の意義

労働慣習で狭義の意味での「整理解雇」の目的は、事業の継続が思わしくないことを理由に再建策(リストラ)を行なわれなければならないのであるが、その中の人員整理について行うことで、事業の維持継続を図ることである。

この用語や定義ができたのは、過去の裁判の判例や実績から、最高裁判所が下した「整理解雇の四要件」によるものである。法律や規則の用語ではないのであるが、その後の実務に大きな影響を及ぼしており、使用者が仮に事業が思わしくないだけの理由で解雇をしてしまうと不当解雇となる可能性がある。

判例等の影響により、平成15年、労働基準法に第18条の2が追加されて「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合その権利を濫用したものとして、無効とする」と明記され、解雇の無効について定義された。なお当該条文は、平成20年3月1日に施行された労働契約法の第16条に移動し、労働基準法から削除されている。

整理解雇の四要件

整理解雇の要件について東洋酸素事件の判例(1979年、東京高等裁判所)で以下の四要件が示された[1]。整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされる。

  1. 人員整理の必要性
    余剰人員の整理解雇を行うには、削減をしなければ経営を維持できないという程度の必要性が認められなければならない。
    人員整理は基本的に、労働者に特別責められるべき理由がないのに、使用者の都合により一方的になされることから、必要性の判断には慎重を期すべきであるとする。
  2. 解雇回避努力義務の履行
    期間の定めのない雇用契約においては、人員整理(解雇)は最終選択手段であることを要求される。
    例えば、役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等により、整理解雇を回避するための経営努力がなされ、人員整理(解雇)に着手することがやむを得ないと判断される必要がある。
  3. 被解雇者選定の合理性
    解雇するための人選基準が合理的で、具体的人選も合理的かつ公平でなければならない。
  4. 手続の妥当性
    整理解雇については、手続の妥当性が非常に重視されている。例えば、説明・協議、納得を得るための手順を踏まない整理解雇は、他の要件を満たしても無効とされるケースも多い。

労働法学者の水町勇一郎によると、実際の裁判では整理解雇の四要件を厳格に運用することは少なく、人員整理の必要性のみで判断する場合や、それに加えて配置転換や手続の妥当性を考慮に入れて判断している場合が多く、解雇が認められている裁判も多い。反対に、人員整理の必要性に疑いがある、同じ職務で解雇された者とそうでない者がおり判断の理由が明らかでない、期間を定めた契約の途中解雇で理由が不当な場合など、解雇の合理性が疑われる場合は解雇が認められていない。経済学者やマスコミは整理解雇の四要件があるため日本では正規社員の解雇が極めて難しく、そのために正規社員の採用に慎重になり正規と非正規の格差を拡大していると主張しているが、裁判所はある程度現実的に判断している、とされている[2]

実施に当たっての注意事項

整理解雇を行うに当たっては整理解雇の四要件を満たす必要があることのほか、10人以上の労働者を使用する事業場については労働基準法第89条3号の定めにより、就業規則に「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」について作成しなければならないため、整理解雇に関する事項を就業規則に明記しなければならない。

事業廃止による全員解雇

三陸ハーネス事件[3](仙台地決・平成17年12月15日・労働経済判例速報1924号14頁、なお三陸ハーネス住友電装傘下の自動車部品会社)で示された判断によると、事業廃止により全従業員を解雇する場合には、上記の四事項を基礎として解雇の有効性を判断するのではなく;

  1. 使用者がその事業を廃止することが合理的でやむを得ない措置であったか
    • 使用者が倒産あるいは倒産の危機にある場合に比べて、単なる経営戦略上の事業廃止は必要性が低いと判断される。
  2. 労働組合又は労働者に対して解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等を行う努力を果たしたか
    • 解雇に当たって労働者に再就職等の準備を行うだけの時間的余裕を与えたか
    • 予想される労働者の収入減に対し経済的な手当を行うなどその生活維持に対して配慮する措置をとったか
    • 他社への就職を希望する労働者に対しその就職活動を援助する措置をとったか

等の諸点に照らして解雇の手続が妥当であったといえない場合には、当該解雇は解雇権の濫用として無効であるとされる。

脚注

  1. ^ 『日本をダメにした10の裁判』(チームJ、2008年日本経済新聞出版社)
  2. ^ 水町勇一郎『労働法入門』岩波書店、東京、2011年、57-58頁。ISBN 978-4-00-431329-8 
  3. ^ 第166回国会 厚生労働委員会 第14号(平成19年4月18日(水曜日))

関連項目