「おきのどくさまウィルス」の版間の差分

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=== 第二世代 ===
=== 第二世代 ===

初代「おきのどくさま」が[[人工生命]]アルゴリズム実験用コンピュータ“Y”にサンプルとして投入されたことで生み出された。もはや第一世代とは別物といえる凶悪な代物であり、感染したマシン上にある全データを消した上で起動不能にしてしまう。さらに[[コンピューターウイルス#ワーム|ワーム]]として自己感染活動をおこなう(感染直前に大規模な[[ポートスキャン]]をするのが特徴である。)ほか、感染先の[[OS]]に合わせて自己を改変する能力ももつ。このため世界中のあらゆるコンピュータへと無限に感染を拡大し、世界中のコンピュータを破壊する恐れもでてきた。唯一の解決策は「全てのコンピュータの電源をオフにすること」とまで言われ、これが小説のタイトルの由来でもある。結局、この第二世代の「おきのどくさま」をもう一台の人工生命アルゴリズム実験用コンピュータ“J”に投入することで駆除ソフトが開発され、事態は収束に向かった。
初代「おきのどくさま」が[[人工生命]]アルゴリズム実験用コンピュータ“Y”にサンプルとして投入されたことで生み出された改良版。なお第一世代のウイルス作者は第二世代以降の改良には基本的に関与していない。もはや第一世代とは別物といえる凶悪な代物であり、感染したマシン上にある全データを消した上で起動不能にしてしまう。さらに[[コンピューターウイルス#ワーム|ワーム]]として自己感染活動をおこなう(感染直前に大規模な[[ポートスキャン]]をするのが特徴である。)ほか、感染先の[[OS]]に合わせて自己を改変する能力ももつ。このため世界中のあらゆるコンピュータへと無限に感染を拡大し、世界中のコンピュータを破壊する恐れもでてきた。唯一の解決策は「全てのコンピュータの電源をオフにすること」とまで言われ、これが小説のタイトルの由来でもある。結局、この第二世代の「おきのどくさま」をもう一台の人工生命アルゴリズム実験用コンピュータ“J”に投入することで駆除ソフトが開発され、事態は収束に向かった。


=== 第三世代以降の亜種 ===
=== 第三世代以降の亜種 ===

2007年11月11日 (日) 19:01時点における版

おきのどくさまウィルスは、井上夢人小説パワー・オフ』に登場する架空のコンピュータウイルス暗号化されており、しかも感染・複製のたびに暗号化のパターンが変化するため検出が難しいとされる。

概要

第一世代

Windows3.1以前のもの)に感染する。コンピュータの操作中にある条件が重なると発動し、CPUを完全にのっとって「おきのどくさま。このコンピューターはウイルスに感染しました」というメッセージをしばらく表示する。もともと売れないソフトウエアメーカーが自作自演でもうけるために開発したウイルスであるため、それ以上は特に実害のないウイルスのはずだったが、工業高校の実習中に電動ドリルの制御コンピュータが感染していたため、故障と勘違いして調べようとした生徒の手にドリルが刺さるという事故を引き起こし有名になってしまった。騒ぎが大きくなる頃に「ウイルス・スローター」という名称でウイルス駆除キットが発売されている。さらに工業高校での事件にショックを受けたウイルス作者(自作自演をしたソフトウエアメーカーにつとめるプログラマー)によって無料の駆除ソフトが配布されたことで、騒ぎは沈静化した。オリジナルのウイルスはオンラインソフト(アーカイバやゲーム)を通じて配布され、工業高校の場合は生徒が勝手にダウンロードしたゲームが媒介となっていた。なお「おきのどくさまウィルス」の名は、表示されるメッセージにちなんで命名された。

第二世代

初代「おきのどくさま」が人工生命アルゴリズム実験用コンピュータ“Y”にサンプルとして投入されたことで生み出された改良版。なお第一世代のウイルス作者は第二世代以降の改良には基本的に関与していない。もはや第一世代とは別物といえる凶悪な代物であり、感染したマシン上にある全データを消した上で起動不能にしてしまう。さらにワームとして自己感染活動をおこなう(感染直前に大規模なポートスキャンをするのが特徴である。)ほか、感染先のOSに合わせて自己を改変する能力ももつ。このため世界中のあらゆるコンピュータへと無限に感染を拡大し、世界中のコンピュータを破壊する恐れもでてきた。唯一の解決策は「全てのコンピュータの電源をオフにすること」とまで言われ、これが小説のタイトルの由来でもある。結局、この第二世代の「おきのどくさま」をもう一台の人工生命アルゴリズム実験用コンピュータ“J”に投入することで駆除ソフトが開発され、事態は収束に向かった。

第三世代以降の亜種

駆除ソフトの登場を検知し、これを取り込むことで“Y”によって再度進化され生み出されたのが第三世代の「おきのどくさま」である。“J”もこれに対応して駆除ソフトを進化させ、以降は“Y”と“J”がいたちごっこのようにウイルスと駆除ソフトを進化させ続けている。その結果、「おきのどくさま」ウイルスは駆除されることを避け自らの子孫を残し続けるための戦略として「めだたない」ことを選択していった。このため、その後も「おきのどくさま」および駆除ソフトは高度に進化し亜種が生み出され、感染を広げ続けているものの、ユーザからは気にならない存在になっている(実害もなくなっている)。

画期的であった点

この小説が発表された1996年インターネットがようやく認知されてきた頃で、まだコンピュータウイルスやネット上のセキュリティに関する認識は一般的ではなかった。とくに、すでにPC/AT互換機が普及していた海外とは違い日本ではまだ独自アーキテクチャPC-9800シリーズやFM-TOWNSが主流であったため、特定の(同一種の)コンピュータウイルスが世界的に流行するという事態は想定されていなかった。さらに当時、ワームの存在は知られていてもまだほとんど現れておらず、コンピュータウイルスの感染経路といえばあいかわらずフロッピーディスクを経由するものだった。このため感染速度もおそく、作中のように「世界的に」「一昼夜で」「ウイルス(ワーム)自身の動作によって勝手に」感染が広がり通信網を麻痺させかねない事態におよぶことなどまだまだ当時は現実的ではなかったのである。

しかしこれらの事情は2000年前後を境に変化し、とくにMSブラストCodeRedNimdaなどによって現実のものとなった。おきのどくさまウイルス第三世代と同等のウイルスはまだ登場していないものの、以上のような意味でも、コンピュータのセキュリティやコンピュータウイルスについて知ろうと考える者にとってはこの小説『パワー・オフ』は今なお古びない内容をもっており、必読の書であるといえる。