「エゾモモンガ」の版間の差分

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|名称 = エゾモモンガ
|名称 = エゾモモンガ
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|画像キャプション = '''エゾモモンガ''' (''Pteromys volans orii'')<br />北海道[[東川町]] (2009年3月)
|画像キャプション = '''エゾモモンガ''' (''Pteromys volans orii'')<br />北海道[[上川郡]][[東川町]] (2009年3月)
|省略 = 哺乳綱
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<!-- 定義 -->
<!-- 定義 -->
'''エゾモモンガ'''(蝦夷小鼯鼠、''Pteromys volans orii'')は、[[ネズミ目]](齧歯目)[[リス|リス科]][[リス亜科]][[モモンガ|モモンガ族]][[モモンガ|モモンガ属]][[タイリクモモンガ|タイリクモモンガ種]]の[[亜種]]で、[[北海道]]に生息するモモンガである(→[[#maruyama photo|写真]])。
'''エゾモモンガ'''(蝦夷小鼯鼠、''Pteromys volans orii'')は、[[ネズミ目]](齧歯目)[[リス|リス科]][[リス亜科]][[モモンガ|モモンガ族]][[モモンガ|モモンガ属]][[タイリクモモンガ|タイリクモモンガ種]]の[[亜種]]で、日本の[[北海道]]に生息するモモンガである(→[[#maruyama photo|写真]])。


== 名称 ==
和名「蝦夷小鼯鼠」の命名者は[[岸田久吉]]<ref>理学博士農学博士 --『[[#門崎 (2009)|野生動物調査痕跡学図鑑]]』(p397)より。</ref>。[[種 (分類学)|種]]の学名''Pteromys volans''の意味は「飛ぶ翼のある鼠」で、''Pteromys''が「翼のあるネズミ」、''volans''が「飛ぶ」。[[1940年代]]晩鳥(バンドリ)という俗名で[[狩猟|猟師]]や[[山子]](やまご)<ref>[[樵|木樵]]など、山仕事をする人のこと --『[[#広辞苑 第5版|広辞苑]]』より。</ref>の間で呼ばれていた<ref name="門崎 (2009) p345">『[[#門崎 (2009)|野生動物調査痕跡学図鑑]]』(p345)より。</ref>。亜種名の''orii''は[[折居彪二郎]]への[[献名]]。
和名「蝦夷小鼯鼠」の命名者は[[岸田久吉]]{{Refnest|group="注"|理学博士農学博士<ref>{{Harvnb|門崎|2009|p=397}}</ref>。}}で、[[種 (分類学)|種]]の学名''Pteromys volans''の意味は「飛ぶ翼のある鼠」で、''Pteromys''が[[ギリシャ語]]で「翼のあるネズミ」、''volans''が[[ラテン語]]で「飛ぶ」をそれぞれ意味する<ref name="門崎2009 p.345">{{Harvnb|門崎|2009|p=345}}</ref>。亜種名の''orii''は[[折居彪二郎]]への[[献名]]。

[[アイヌ語]]では「アツ・カムイ」(アツ=「群棲」・カムイ=「神」の意味、すなわち「群棲する神」の意味)<ref name="富士元2001 p.3">{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=3}}</ref>もしくは「アッ・カムイ」(「子供の守り神」の意味、「アッカムイ」とも)と呼ばれたほか<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=3}}</ref>、[[1940年代]]までは[[狩猟|猟師]]・[[山子]](やまご){{Refnest|group="注"|「山子」とは[[樵|木樵]]など山仕事をする人のこと<ref>『[[#広辞苑 第5版|広辞苑]]』</ref>。}}の間で「晩鳥」(バンドリ)という俗名で呼ばれていた<ref name="門崎2009 p.345"/>。


== 分布 ==
== 分布 ==
本種を含むタイリクモモンガ種は[[ユーラシア大陸]]北部に分布し<ref name="石井2008 p.124"/>、その範囲は西端は[[フィンランド]]・[[リトアニア]]、さらに[[モンゴル]]を経て[[中華人民共和国]](中国)の[[渭水]]・[[朝鮮半島]]北部・極北を除く[[ロシア連邦]][[沿海地方]]以北<ref name="門崎2009 p.347"/>、[[樺太]](サハリン島)<ref name="石井2008 p.124"/>・東端は[[アナディリ]]までと広範囲の森林地帯に分布するが、[[カムチャツカ半島]]には分布していない<ref name="門崎2009 p.347"/>。
[[北海道]]の[[平野]]部から[[亜高山帯針葉樹林|亜高山帯]]にかけての[[森林]]や[[林]]<ref name="門崎 (2009) p348">『[[#門崎 (2009)|野生動物調査痕跡学図鑑]]』(p348)より。</ref>。[[札幌市]]内の[[森林公園]]や[[札幌市円山動物園|円山動物園]]付近にも生息している<ref name="円山 (2008) website" />。

北海道の平野部 - [[亜高山帯針葉樹林|亜高山帯]]にかけて分布し<ref name="門崎2009 p.347">{{Harvnb|門崎|2009|p=348}}</ref>、森林([[常緑針葉樹林]]・[[落葉広葉樹林]])に生息する<ref name="石井2008 p.124"/>{{Refnest|group="注"|エゾ松・トドマツなど常緑針葉樹林では冬季でも葉を落とさないため、空中の天敵から身を隠すことができる<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=16}}</ref>。}}。[[札幌市]]内の[[野幌森林公園|森林公園]]・[[札幌市円山動物園|円山動物園]]付近にも生息しているが<ref name="円山 (2008) website" />、北海道島嶼部・[[千島列島]]には生息していない<ref name="門崎2009 p.347"/>。

ある程度の面積・巣穴にできる太さの樹木がある森林ならば鉄道の線路沿いにある[[防風林]]・住宅地近くの[[雑木林]]などにも生息するが、夜行性で警戒心が強いことに加え一生のほとんどを樹上で過ごすため継続して観察することは難しく、詳しい生態はあまり知られていない<ref name="富士元2001 p.3"/>。


== 特徴 ==
== 特徴 ==
[[成獣]]の大きさには[[雄|オス]][[雌|メス]]で違いがあり、[[体長]]はオスの方が長く16 - 18cm、メスは約15cm。[[尾長]]はオス・メスともほぼ同じで約10cm。[[体重]]はオスが約120g<ref name="門崎 (2009) p345" />、オスとメスを区別していないデータでは、体重は80 - 120g。[[耳長]]は18 - 22mm。[[後足長]]は32 - 35mm<ref name="石井 (2008) p124">『[[#石井 (2008)|日本の哺乳類 改訂2版]]』(p124)より。</ref><!-- 体毛 -->体毛の[[毛先]]の色は1年を通して[[頬]]から[[胸|胸部]][[下腹部]]にかけて白色それ以外の部位は白色または褐色毛の下部は黒色。[[]]は体格に比して大きく、直径7 - 9mmあり、目の周囲の毛色は黒色。[[陰茎骨]]は細長い。<!-- 歯 -->[[歯]]数は[[切歯]]が上2本下2本、[[犬歯]]はし、[[小臼歯|前臼歯]]は上4本下2本、[[後臼歯]]は上6本下6本合計22本。[[乳首|乳頭]]数は[[胸|胸部]]2対[[腹|腹部]]1対[[鼠蹊部|鼠径部]]1対合計8個。[[指趾]]数([[]]の数)は[[前肢]]が4本[[親指|第1指]]がい)[[後肢]]が5本合計18本<ref name="門崎 (2009) p345" />。
成獣の大きさには[[雄|オス]][[雌|メス]]で違いがあり、[[体長]](頭胴長)はオスの方が長く16 - 18cm(センチメートル)、メスは約15cm<ref name="門崎2009 p.345"/>。[[体重]]はオスが約120g(グラム)<ref name="門崎2009 p.345"/>、オスとメスを区別していないデータでは81 - 120g<ref name="石井2008 p.124"/>。耳長は18 - 22mm(ミリメートル)・[[後足長]]は32 - 35mm<ref name="石井2008 p.124">{{Harvnb|石井|2008|p=124}}</ref><!-- 体毛 -->体毛の[[毛先]]の色は1年を通して[[頬]] - [[胸|胸部]][[下腹部]]にかけて白色だが、それ以外の部位は白色または褐色毛の下部は黒色である<ref name="門崎2009 p.345"/>。目は直径7 - 9mmと体格に比して大きく{{Refnest|group="注"|目が大きいのは夜行性のためで<ref name="太田2017 p.67"/>、その視力は真っ暗な夜の森林の中でも枝に接触することなく飛行できるほど高い<ref>{{Harvnb|目黒誠一|田中美奈子|2002|p=5}}</ref>。}}、目の周囲の毛色は黒い毛足が裸出しているため黒色<ref name="門崎2009 p.345"/>。[[陰茎骨]]は細長く二又になってる<ref name="門崎2009 p.345"/>{{Refnest|group="注"|ニホンモモンガの陰茎骨は極めて短くて幅広く、ねじれている<ref name="門崎2009 p.345"/>。}}。<!-- 歯 -->[[歯]]数は[[切歯]]が上2本下2本、[[犬歯]]はし、[[小臼歯|前臼歯]]は上4本下2本、後臼歯は上6本下6本合計22本(上12本・下10本)<ref name="門崎2009 p.345"/>。[[乳首|乳頭]]数は[[胸|胸部]]2対[[腹|腹部]]1対[[鼠蹊部|鼠径部]]1対合計8個(4対)<ref name="門崎2009 p.345"/>{{Refnest|group="注"|ニホンモモンガの乳頭数は5対(10個)なのでその点で区別できる<ref name="京都府">{{Cite web|url=http://www.pref.kyoto.jp/gairai/data/d01_14.html|title=京都府外来生物データ(タイリクモモンガ)|accessdate=2019-09-15|publisher=[[京都府]]|website=京都府 外来生物情報|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915123131/http://www.pref.kyoto.jp/gairai/data/d01_14.html|archivedate=2019-09-15}}</ref>。}}。[[指趾]]数(指の数)は[[前肢]]が4本(×2=8本[[親指|第1指]]がい)[[後肢]]が5本(×2=10本)の合計18本<ref name="門崎2009 p.345"/>。手の指は長くて物を握り掴むことに適しており<ref name="門崎2009 p.345"/>、樹木を登るため鋭い鉤爪を持つ一方<ref name="太田2017 p.67"/>、足の平は無毛で細い枝などを掴みやすい体つきになっている<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=48}}</ref>。


[[新生子]]の大きさ、[[体長]]は5.0 - 5.6cm。[[尾長]]は2.2 - 2.5cm[[体毛]]はほとんど生えておらず、[[視力]][[聴力]]はまだない<ref name="門崎 (2009) p345" />。
[[新生子]]は体長5.0 - 5.6cm尾長は2.2 - 2.5cm[[体毛]]はほとんど生えておらず、[[視力]][[聴力]]はまだない<ref name="門崎2009 p.345"/>。


=== 飛膜尾 ===
=== 飛膜尾 ===
本種は[[滑空]]するための[[飛膜]]を持っている。飛膜は[[]]後部から[[前肢]]まで、前肢から[[体側]]って[[後肢]]まで、後肢から[[尾]]の付け根まである。前肢の[[手関節|手首]]の先には硬い[[軟骨]]が伸びており、飛膜もこの軟骨にって広がっている。[[尾]]の断面は扁平で<ref name="門崎 (2009) p345" />、滑空時は[[方向舵]]の役目を果す<ref name="清水 vol.9">「[[#清水 vol.9|エゾモモンガと清水飼育員]]」(Maruyama Zoo Channel)より。</ref>。
本種は[[滑空]]するための飛膜を持っており<ref name="門崎2009 p.345"/>、飛膜は頬後部 - 前肢まで、前肢から体側に沿って[[後肢]]まで、後肢から[[尾]]の付け根まである<ref name="門崎2009 p.345"/><ref name="門崎2009 p.94">{{Harvnb|門崎|2009|p=94}}</ref>。前肢の[[手関節|手首]]の先には飛膜を支える硬い[[軟骨]](長さ約4cm)が伸びており、飛膜もこの軟骨に沿って広がっている<ref name="門崎2009 p.345"/>。

尾長はオス・メスともほぼ同じで約10cm(尾率=体長に対する尾の比率:52.3% - 72%)<ref name="門崎2009 p.345"/>。尾の断面は扁平で<ref name="門崎2009 p.345"/>、滑空時は[[方向舵]]の役目を果たす<ref name="清水 vol.9">「[[#清水 vol.9|エゾモモンガと清水飼育員]]」(Maruyama Zoo Channel)より。</ref>。


== 生態 ==
== 生態 ==
本種は[[夜行性]]だが[[昼|日中]]も活動することがある。活動範囲は巣を中心とした領域で<ref name="門崎 (2009) p346">『[[#門崎 (2009)|野生動物調査痕跡学図鑑]]』(p346)より。</ref>、その広さはオス2ha、メスは約1haメス同士の活動範囲は個体間で重ならないが、オス同士では重なる<ref name="石井 (2008) p124" />。本種はほとんど樹上生活かそれに類する生活を送っており、地面に降りることはほとんどない。[[爪]]が鋭いため垂直の[[樹木]]建造物の[[モルタル]]壁の表面を自由に移動できる<ref name="門崎 (2009) p347" />。行動単位は子育て中のメス以外は基本的には1匹であるが、1つの巣に複数の個体が同居していることも少なくな<ref name="門崎 (2009) p346" />。
本種は主に[[夜行性]]だが[[昼|日中]]も活動することがある<ref name="門崎2009 p.346"/>。活動範囲は巣を中心とした領域で<ref name="門崎2009 p.346">{{Harvnb|門崎|2009|p=346}}</ref>、その広さはオス2ha(ヘクタール)・メスは約1haであり、メス同士の活動範囲は個体間で重ならないが、オス同士では重なる<ref name="石井2008 p.124" />。本種はほとんど樹上生活かそれに類する生活を送っており<ref name="太田2017 p.67"/>、地面に降りることはほとんどなく<ref name="門崎2009 p.347"/>、雪面・地面で足跡を見ることはほとんどないが、地面を跳躍歩調する際にも飛膜を広げるため揚力が働き着地圧が軽減され、手足の着地痕が不鮮明になりやすい一方で新雪上では雪面に飛膜痕が残ることが多い<ref name="門崎2009 p.94"/>また[[爪]]が鋭いため垂直の[[樹木]]建造物などの[[モルタル]]壁の表面を垂直・上下左右へ自由に移動できる<ref name="門崎2009 p.347"/>。行動単位は子育て中のメス以外は基本的には1匹であるが、1つの巣に複数の個体が同居していることも少なくな<ref name="門崎2009 p.346"/>、特に冬季には後述のように複数個体で1つの巣に集まって越冬する場合がある<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=54}}</ref>。


本種は様々な物を[[]]として利用し、[[キツツキ]]の古巣([[樹洞]])人為的に[[木|樹木]]に架けた[[鳥類|鳥]]用の[[巣箱]][[住宅|人家]]などの[[屋根裏]][[エゾリス]]の古巣などが巣とる<ref>『[[#門崎 (2009)|野生動物調査痕跡学図鑑]]』(p346, p347)より。</ref>。本種自身も[[小枝]][[樹皮]]を利用して巣をる<ref name="石井 (2008) p124" />。また本種は巣内に乾燥した柔らかい[[植物性]]の[[巣材]]を運び入れ、その中で眠る<ref name="門崎 (2009) p347">『[[#門崎 (2009)|野生動物調査痕跡学図鑑]]』(p347)より。</ref>。
本種は[[キツツキ]]の一種である[[アカゲラ]]の古巣([[樹洞]])<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2004|p=39}}</ref>・自然にできた樹洞・人為的に[[木|樹木]]に架けた[[鳥類|鳥]]用の[[巣箱]][[住宅|人家]]などの[[屋根裏]][[エゾリス]]の古巣などが様々なものを[[]]して利用する<ref name="門崎2009 p.346-347">{{Harvnb|門崎|2009|pp=346-347}}</ref>。樹洞は入り口がほぼ円形 - 卵形で直径4 - 6cm程度の物を好むが、出入口を歯で齧って形状を改善する場合ある<ref name="門崎2009 p.347"/>。また巣穴は入り口が広いと[[クロテン]][[エゾクロテン]])など天敵に襲われる危険性が高いため狭い好み<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=23}}</ref>、500円硬貨程度の大きさがあれば入ることができる<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=6}}</ref>。また本種は巣内に乾燥した柔らかい[[植物性]]の[[巣材]](枯れ木の乾燥した内皮をほぐしたもの、乾燥したコケ類・[[サルオガセ]]・枯れ草など)を運び入れ、その中で眠る<ref name="門崎2009 p.347"/>。このほか、樹木の枝上に小枝・樹皮を利用して巣を作る場合や<ref name="石井2008 p.124" />、凍結してできた樹木の割れ目を利用する場合もある<ref name="太田2017 p.69">{{Harvnb|太田達也|2017|p=69}}</ref>。


本種は夕方に目覚めて巣穴を出るとまず糞尿を排泄するが、周囲に危険を感じない場合は低い場所で、危険を感じた場合は高い場所で用を足す<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=33}}</ref>。糞は長さ7 - 15mm・直径3 - 5mmほどの米粒状糞、および柔らかい米粒状糞が集着した糞、不定形な軟便と3大別されるが、多くの場合は長さ約10mm・直径約4mmである<ref name="門崎2009 p.238">{{Harvnb|門崎|2009|p=238}}</ref>。糞の色は黄褐色 - 緑褐色、もしくは暗緑色・赤銅色と多様で<ref name="門崎2009 p.238"/>、糞は食痕がある場所・巣穴がある樹木(巣木)・移動経路上の休憩場所となっている樹下によく散乱している<ref name="門崎2009 p.238"/>。食巣穴近くの樹木で糞をする習性があり<ref name="太田2017 p.69"/>、巣木の巣穴付近の樹面に止まりながら排泄することも普通で、巣穴下の樹面・根元の雪面は糞尿で汚れていることがある<ref name="門崎2009 p.239">{{Harvnb|門崎|2009|p=239}}</ref>。1回の排糞量は多い時で40粒ほどで、同じ巣に複数個体が同居している場合は巣樹の下に2,000 - 3,000粒も糞が溜まっている場合がある<ref name="門崎2009 p.239"/>。このことからエゾモモンガの巣木を見つける目安としては「樹洞からエゾモモンガが出入りしたことを確認」する以外に「樹皮面がエゾモモンガの糞尿で汚れているか、樹木の根本付近に総量50cc以上の多量の糞(複数回の脱糞)が散在している」点が挙げられる<ref name="門崎2009 p.54">{{Harvnb|門崎|2009|p=54}}</ref>。
[[食性]]は[[雑食|雑食性]]で、基本的には[[植物性]]のものを食べているが、[[昆虫]]なども食べる。植物では[[木|樹木]]の[[芽]]や[[花]]、[[葉]]、[[樹皮]]、[[種子]]、[[ドングリ]]などである。昆虫は[[成虫]]も[[幼虫]]も[[蛹]]も食べる。本種は手の指が長いので食物を手で持って食べることができる<ref name="門崎 (2009) p347" />。


体毛の色は保護色になっており<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=53}}</ref>、夏毛は茶褐色で冬毛は白っぽい<ref name="富士元2001 p.54"/>。冬季が近づくと冬毛に生え変わり、体を寄せ合い保温効果を高める目的で1つの巣穴に複数個体(通常は2 - 5匹、多い場合で10匹程度)が集まり集団で[[越冬]]する<ref name="富士元2001 p.54">{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=54}}</ref>。本種は[[冬眠]]せず<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=34}}</ref><ref name="富士元2001 p.66"/>、氷点下25℃以下にまで気温が低下して髭が白く凍り付き<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=67}}</ref>、小さな体を吹き飛ばされるほど激しい猛吹雪が吹き荒れる厳冬期でも餌を食べに巣穴の外へ出て活動するほか<ref name="富士元2001 p.66">{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=66}}</ref>、厳冬期には夜間だけでなく日中にも活動する<ref name="太田2017 p.71">{{Harvnb|太田達也|2017|p=71}}</ref>。また本種は無駄な争いを好まず、冬季に自分の巣穴へ同種他個体が来ても拒絶することなく互いに厳しい冬を乗り切る<ref name="太田2017 p.69"/>。
本種が[[天敵]]に気づいたときの対処方法は、天敵が本種から離れて行くまで身動きせず、天敵に気づかれないようにすることである。その時間は1 - 2時間におよぶこともある<ref name="門崎 (2009) p347" />。


=== 食性 ===
[[寿命]]は[[飼育]]個体では4 - 5年だが[[野生]]個体では3年未満が多い<ref name="石井 (2008) p124" />。
[[食性]]は[[雑食|雑食性]]で基本的には[[植物性]]のものを食べているが、[[昆虫]]など動物性の食物も食べる<ref name="門崎2009 p.347"/>。植物では木の[[芽]]・[[花]]・[[葉]]・[[樹皮]]の甘皮・[[種子]]などで、[[マツ]]類の球果([[松ぼっくり]])の種子・[[ドングリ]]、[[ヤマグワ]]・[[イチイ]]・[[サクラ]]の実も食べるが[[クルミ]]は食べない<ref name="門崎2009 p.347"/>。冬季は主に[[トドマツ]]の葉や[[カラマツ]]・[[シラカバ]]の冬芽や小枝の皮などを食べ、3月ごろには[[ハンノキ]]の雄花の花穂を食べるほか<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=27}}</ref>、3月下旬には[[イタヤカエデ]]の甘い樹液を好んで食べる<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=47}}</ref>。昆虫は[[成虫]]・[[幼虫]]・[[蛹]]を食べる<ref name="門崎2009 p.347"/>。本種は手の指が長いので食物を手で持って食べることができる<ref name="門崎2009 p.347"/>。地上には天敵の肉食動物が多いため地上に下りて川・湖の水を飲むことはなく樹上で水分補給をし、夏は樹木の葉に付いた水滴・冬は枝に積もった雪を飲み食いして水分を補給する<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=32}}</ref>。

なお本種は基本的に目標の樹木を発見すると食事が終わるまであまり動かず、1か所の樹木で食事をすることで体力を温存し、余分なエネルギー消費を抑えるため冬眠せず越冬することができる<ref name="太田2017 p.69"/>。しかし一方で食事を終えて巣に帰る途中で巣穴とは別の樹洞を探す場合があり、この行動により天敵接近時の避難場所や冬の共同生活・子育てに適した場所を調査する<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=56}}</ref>。

=== 天敵・寿命 ===
[[天敵]]はクロテン・[[フクロウ|エゾフクロウ]]<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=21}}</ref>・[[タカ]]などである<ref name="富士元2001 p.66"/>。本種は天敵が多い一方で攻撃力を有さず<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=30}}</ref>、天敵に見つからないよう常に周囲を警戒し、樹上では自分の体が天敵に見つからないよう注意している<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=62}}</ref>。本種は天敵に気づくとそれが立ち去るまで気づかれないようにじっとして動かないが、時にはその時間が1 - 2時間におよぶ場合もある<ref name="門崎2009 p.347" />。

[[寿命]]は[[飼育]]個体では4 - 5年だが[[野生]]個体では3年未満が多い<ref name="石井2008 p.124" />。


=== 滑空 ===
=== 滑空 ===
本種は飛膜を開いて高所から低所へ滑空して移動し、最長で約50m(メートル)にわたり滑空することができるほか<ref name="門崎2009 p.347"/>、尾を[[方向舵]]として使用することにより滑空中の旋回を可能としており<ref name="清水 vol.9" /><ref name="太田2017 p.67"/>、きりもみ・上昇もできる<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|pp=18-19}}</ref>。本種はまず垂直な樹幹を鋭い鉤爪で駆け登り、樹上近くに到達すると周囲の様子を窺いながら目標の樹木を目指してジャンプし、両手足をいっぱいに伸ばして飛膜を広げ滑空する<ref name="太田2017 p.67"/>。そして四肢を微妙に動かし、飛膜を使って揚力を調整しながら下降気味に飛翔し、目的の樹木手前でわずかに上昇して樹面にしがみつく<ref name="門崎2009 p.54"/>。無風の時は高木から飛び降りて滑空する一方、追い風がある場合は追い風に乗り、向かい風の場合はゆっくりと飛行する<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=46}}</ref>。離木位置と着木位置の高低差が大きければ滑空可能距離が長くなり、着地した樹木からはさらに次の樹木へと移動することができる<ref name="太田2017 p.67">{{Harvnb|太田達也|2017|p=67}}</ref>。本種は滅多に地上に下りず積雪期に足跡を残さないほか、滑空することで樹木間の移動時間を短縮することで食事に費やす時間を多く取ることができる<ref name="太田2017 p.67"/>。その姿は白い布が飛んでいくように見えることから「空飛ぶハンカチ」と喩えられる<ref name="太田2017 p.67"/>。
本種は[[尾]]を[[方向舵]]として使用することにより[[滑空]]中の[[旋回]]を可能としている<ref name="清水 vol.9" />。滑空できる距離は約50mであるが、高所から低所へ滑空するので、離木位置と着木位置の高低差が大きければ滑空可能距離が長くなり、高低差が小さければ滑空可能距離が短くなる<ref name="門崎 (2009) p347" />。


=== 繁殖と子モモンガの独立 ===
=== 繁殖と子モモンガの独立 ===
[[繁殖]]期は[[春|初春]]から[[夏]]にかけての期間で、2月下旬から3月下旬に[[性的興奮|発情]]し、4月中旬から8月に[[出産]]する。出産回数はその年の繁殖期に1,2回で、通常は1回。1回の出産の新生子数は2 - 5匹。妊娠期間不明。子育てはメスだけで行うムササビと違い他のオスに対しての攻撃性が殆どない。[[幼獣]]は生後約10週目に親離れし、翌年には繁殖が可能となる<ref>『[[#門崎 (2009)|野生動物調査痕跡学図鑑]]』(p345, p346)より。</ref>。
[[繁殖]]期は[[春|初春]] - [[夏]]で、2月下旬 - 3月下旬に1回目の[[性的興奮|発情]]を迎えて4月中旬 - 8月に[[出産]]するが、時には夏に発情する個体もいる<ref name="門崎2009 p.345"/>。出産回数はその年の繁殖期に1, 2回で、通常は1回<ref name="門崎2009 p.345"/>妊娠期間は不明で1回の出産の新生子数は2 - 5匹<ref name="門崎2009 p.345"/>、もしく2 - 6匹で多くの場合は3匹である<ref name="石井2008 p.124"/>。子育てはメスだけで行うが、母子と成体オスが同居する場合もあり<ref>{{Harvnb|門崎|2009|pp=345-346}}</ref>、[[ムササビ]]などと違い他のオスに対しての攻撃性はほとんどない。[[幼獣]]は生後約10週目に親離れし、翌年には繁殖が可能となる<ref name="門崎2009 p.345"/>。


=== 鳴き声 ===
=== 鳴き声 ===
本種は「ジィージィー」と鳴く<ref name="門崎 (2009) p347" />。
本種は「ジィージィー」と鳴く<ref name="門崎2009 p.347" />。


== テレビ番組 ==
== 人間との関係 ==
1957年に合田昌義の文献『エゾモモンガによる材木害』にて「北海道中標津営林署養老牛国有林(北海道[[標津郡]][[中標津町]])でカラマツ120本の樹枝先端を食害した」例が報告されているが<ref name="哺乳動物学雑誌1967">[[#哺乳動物学雑誌1967]]</ref>、[[害獣]]として駆除されるほどの実害は発生していないとされる<ref>{{Cite report|title=北海道の樹木の獣害|url=https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/fukyu/jumoku/doubutu/gaiju.htm|publisher=[[地方独立行政法人]]:[[北海道立総合研究機構]](略称:「道総研」)|languageja|accessdate=2018-12-19|archivedate=2018年12月19日|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181221095758/https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/fukyu/jumoku/doubutu/gaiju.htm}}</ref>。
* 『モモンガ驚きエコ生活』 [[ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜|ダーウィンが来た]]、[[NHK総合テレビジョン]]、2006年6月4日放送<ref>[http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/broadcasting/detail.cgi?sp=p009 ダーウィンが来た(第9回・モモンガ驚きエコ生活)] [[日本放送協会|NHK]]、2011年2月11日閲覧</ref>

* 『はろ~!あにまる「エゾモモンガ」(1)』 [[ダーウィンの動物大図鑑 はろ〜!あにまる|はろ〜!あにまる]]、[[NHKデジタル衛星ハイビジョン]]、2008年10月23日放送<ref>[http://www.nhk.or.jp/animal/zukan/zukane060.html 動物大図鑑・エゾモモンガ(はろ〜!あにまる)] NHK、2011年2月11閲覧</ref>
森林伐採・孤立化や食物の不足などにより生息数は減少傾向にある<ref name="円山 (2013) website">「[[#円山 (2013)|エゾモモンガ]]」(札幌市円山動物園)より。</ref>。[[札幌市円山動物園]]では1967年から本種の飼育・繁殖に取り組んでいるほか<ref name="円山 (2013) website"/>、[[釧路市動物園]]<ref>[[#釧路市動物園]]</ref>・[[おびひろ動物園]]<ref>[[#おびひろ動物園]]</ref>・[[旭川市旭山動物園]]<ref>[[#旭川市旭山動物園]]</ref>でも本種が飼育されている。
* 『北海道 十勝平野 冬』 [[さわやか自然百景]]、[[NHK総合テレビジョン]]、2011年2月6日放送<ref>[http://www.nhk.or.jp/sawayaka/contents/program/2011/02/2011_0206_tokachi.html さわやか自然百景のバックナンバー] NHK、2011年2月11日閲覧</ref>

なお本種を除くタイリクモモンガ種はかつて[[フクロモモンガ]]([[有袋類]])・[[アメリカモモンガ]](モモンガ属)とともに日本国内へペット(愛玩動物)として輸入されていたが<ref name="侵入生物DB">{{Cite web|url=https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10400.html|title=タイリクモモンガ|accessdate=2019-09-15|publisher=[[国立環境研究所]]|website=侵入生物DB|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915123224/https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10400.html|archivedate=2019-09-15}}</ref>、個人による飼育下での繁殖は難しい<ref name="環境省"/>。またタイリクモモンガ種は野生化した個体が本種と亜種間交雑したり<ref name="環境省">{{Cite web|url=https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-ho-08.html|title=タイリクモモンガ [外来生物法]|accessdate=2019-09-15|publisher=[[環境省]]|website=特定外来生物の解説|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915122920/https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-ho-08.html|archivedate=2019-09-15}}</ref>{{Refnest|group="注"|自然界での亜種間交雑については確認されていないが、仮に逸脱すれば再捕獲することは非常に困難となる<ref name="北海道ブルーリスト">{{Cite web|url=http://bluelist.pref.hokkaido.lg.jp/db/detail_nomap.php?k=01&cd=4|title=タイリクモモンガ|accessdate=2019-09-15|publisher=北海道|website=北海道ブルーリスト|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915122916/http://bluelist.pref.hokkaido.lg.jp/db/detail_nomap.php?k=01&cd=4|archivedate=2019-09-15}}</ref>。日本国内における定着状況は不明だが、1999年に高知県[[高知市]]内で1頭が捕獲された記録がある<ref>{{Cite web|url=http://www.lutra.jp/tairikumomonga.htm|title=タイリクモモンガ|accessdate=2019-09-15|publisher=四国自然史科学研究センター|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915122959/http://www.lutra.jp/tairikumomonga.htm|archivedate=2019-09-15}}</ref>。}}、本種や[[ニホンモモンガ]](ホンドモモンガ、[[本州]]・[[四国]]・[[九州]]に生息)と競合することが懸念されたため<ref name="侵入生物DB"/>、[[2005年]](平成17年)12月14日から[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律]]により「特定外来生物」に第二次指定種として追加指定され、翌2006年(平成18年)2月1日以降は輸入・飼育などが原則として禁止されている<ref>{{Cite web|url=https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/siteisyu_list2.pdf|title=特定外来生物一覧|format=PDF|accessdate=2019-09-15|publisher=[[環境省]]|website=|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915144324/https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/siteisyu_list2.pdf|archivedate=2019-09-15}}</ref>。
<!--== テレビ番組 ==
* 『モモンガ驚きエコ生活』 [[ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜|ダーウィンが来た]]、[[NHK総合テレビジョン]]、2006年6月4日放送<ref>{{Cite web|title=ダーウィンが来た(第9回・モモンガ驚きエコ生活)|url=http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/broadcasting/detail.cgi?sp=p009|date=2006-06-04|publisher=[[日本放送協会]](NHK)|accessdate=2018-12-03|archivedate=2018-12-03|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181203121008/http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/articles/detail.cgi?p=p009}}</ref>
* 『はろ~!あにまる「エゾモモンガ」(1)』 [[ダーウィンの動物大図鑑 はろ〜!あにまる|はろ〜!あにまる]]、[[NHKデジタル衛星ハイビジョン]]、2008年10月23日放送<ref>{{Cite web|title=ダーウィンの動物大図鑑 エゾモモンガ|url=http://www.nhk.or.jp/animal/zukan/zukane060.html|date=2008-10-23|publisher=本放送協会(NHK)|accessdate=2018-12-03|archivedate=2009-05-26|archiveurl=http://web.archive.org/web/20090526001206/http://www.nhk.or.jp/animal/zukan/zukane060.html}}</ref>
* 『北海道 十勝平野 冬』 [[さわやか自然百景]]、[[NHK総合テレビジョン]]、2011年2月6日放送<ref>{{Cite web|title=さわやか自然百景のバックナンバー|url=http://www.nhk.or.jp/sawayaka/contents/program/2011/02/2011_0206_tokachi.html|date=2011-02-06|publisher=日本放送協会(NHK)|accessdate=2018-12-03|archivedate=2018-12-03|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181203120702/http://www.nhk.or.jp/sawayaka/contents/program/2011/02/2011_0206_tokachi.html}}</ref>
* 『北海道 サロベツ原野 エゾモモンガ 凍てつく森を生きる』 [[ワイルドライフ (ドキュメンタリー番組)|ワイルドライフ]]、[[NHK BSプレミアム]]、2018年12月3日放送<ref>{{Cite web|title=ワイルドライフ選▽北海道 サロベツ原野 エゾモモンガ 凍(い)てつく森を生きる
|url=http://www4.nhk.or.jp/wildlife/x/2018-12-03/10/9792/2527201/|date=2018-12-03|publisher=日本放送協会(NHK)|accessdate=2018-12-03|archivedate=2018-12-03|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181203120213/http://www4.nhk.or.jp/wildlife/x/2018-12-03/10/9792/2527201/}}</ref>-->


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
{{reflist}}
{{Reflist|group="注"}}


== 参考文献 ==
=== 出典 ===
{{Reflist|30em}}
'''[[ウェブサイト]]'''


== 参考文献 ==
;ウェブサイト
* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = こども動物園 | publisher = [[札幌市円山動物園]] | date = 2008年5月4日 | url = http://www.city.sapporo.jp/zoo/b_f/b_06/db619.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = 円山 (2008)}}
* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = こども動物園 | publisher = [[札幌市円山動物園]] | date = 2008年5月4日 | url = http://www.city.sapporo.jp/zoo/b_f/b_06/db619.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = 円山 (2008)}}
* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = 円山動物園レッドデータブック > 哺乳類 | publisher = 札幌市円山動物園 | date = 2013-02-09 | url = http://www.city.sapporo.jp/zoo/red_data_book/mammalia_41.html | accessdate = 2018-12-21 | ref = 円山 (2013)}}
* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = 釧路市動物園 | publisher = [[釧路市動物園]] | date = | url = https://www.city.kushiro.lg.jp/zoo/shoukai/0014.html | accessdate = 2018-12-21 | ref = 釧路市動物園}}
* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = [[おびひろ動物園]] | publisher = [[帯広市]] | date = | url = https://www.city.obihiro.hokkaido.jp/zoo/animal/mammal/momonga.html | accessdate = 2018-12-21 | ref = おびひろ動物園}}
* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = [[旭川市旭山動物園]] | publisher = [[旭川市]] | date = | url = https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/facilityinformation/d066628.html | accessdate = 2019-09-21 | ref = 旭川市旭山動物園}}
* {{cite journal | 和書 | author = 清水飼育員 | title = エゾモモンガと清水飼育員 | journal = 動物たちと飼育員 | volume = Vol.9 | publisher = [http://www.maruyama-zoo.jp/index.shtml Maruyama Zoo Channel](札幌市円山動物園 応援ウェブサイト)| url = http://www.maruyama-zoo.jp/animaltalk/12_index_msg.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = 清水 vol.9}}- 飼育員による本種の説明(動画)
* {{cite journal | 和書 | author = 清水飼育員 | title = エゾモモンガと清水飼育員 | journal = 動物たちと飼育員 | volume = Vol.9 | publisher = [http://www.maruyama-zoo.jp/index.shtml Maruyama Zoo Channel](札幌市円山動物園 応援ウェブサイト)| url = http://www.maruyama-zoo.jp/animaltalk/12_index_msg.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = 清水 vol.9}}- 飼育員による本種の説明(動画)


* {{cite journal | 和書 | author1 = [[阿部永]] | title = エゾリスの生態についての二,三の知見 | journal = 哺乳動物学雑誌 | volume = 3 |issue = 5 | publisher = 日本哺乳動物学会 | date = 1967-08 | url = https://doi.org/10.11238/jmammsocjapan1952.3.118 | accessdate = 2018-12-19 | ref = 哺乳動物学雑誌1967}}
'''出版物'''
* {{cite journal | 和書 | author1 = 浅利裕伸 | author2 = 柳川久 | author3 = 安藤元一 | title = 日本産樹上性リス類による森林被害 | journal = 森林野生動物研究会誌 | volume = 39 | publisher = 森林野生動物研究会 | year=2014 | url = https://doi.org/10.18987/jjwrs.39.0_11|doi=10.18987/jjwrs.39.0_11 | accessdate = 2018-12-19 | ref = 森林野生動物研究会誌2014}}


; 出版物
* {{cite book | 和書 | author = [[門崎允昭]] | title = 野生動物調査痕跡学図鑑 | publisher = [[北海道出版企画センター]] | date = 20091020 | isbn = 978-4832809147 | ref = 門崎 (2009)}}
* {{cite book | 和書 | author = [[石井信夫]] | editor = [[阿部永]] 監修、[[自然環境研究センター]] 編集 | chapter = タイリクモモンガ | pages = p124 | title = 日本の哺乳類 | edition = 改訂2版 | date = 2008年7月5日 第1刷発行 | publisher = [[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] | isbn = 978-4486018025 | ref = 石井 (2008)}}
* {{cite book | 和書 | author = [[石井信夫]] | editor = 阿部永 監修、[[自然環境研究センター]] 編集 | chapter = タイリクモモンガ | page = 124 | title = 日本の哺乳類 | edition = 改訂2版 | date = 2008年7月5日 第1刷発行 |origdate=1994年12月20日・初版第1刷発行 / 2005年7月20日・改訂版第1刷発行 | publisher = [[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] | isbn = 978-4486018025 | ref = {{SfnRef|石井|2008}}}}
* {{cite book | 和書 | author = [[門崎允昭]] | title = 野生動物調査痕跡学図鑑 | publisher = [[北海道出版企画センター]] | date = 2009-10-20 | isbn = 978-4832809147 |pages=38-39,54,64,94-97,169-171,173-174,176,183,223-224,238-240,321,345-347 |ref={{SfnRef|門崎|2009}}}}

* {{Cite book|和書|title=エゾモモンガ 目黒誠一写真集 -アッカムイの森に生きる-|author=目黒誠一|publisher=[[講談社]]|date=1997-10-13|edition=第5刷|origdate=1994-03-15|isbn=978-4062068833|ref={{SfnRef|目黒誠一|1994}}}}
'''辞典'''
* {{Cite book|和書|title=エゾモモンガ|author=富士元寿彦|publisher=[[北海道新聞社]]|date=2001-04-10|edition=第2刷|origdate=2001-01-31|isbn=978-4894531338|ref={{SfnRef|富士元寿彦|2001}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガの森へ|author1=目黒誠一|author2=[[田中美奈子]]|publisher=講談社|date=2002-05-20|edition=第1刷|isbn=978-4062663724|ref={{SfnRef|目黒誠一|田中美奈子|2002}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガにあいたい|series=seiseisha mini book series|author=富士元寿彦|publisher=青菁社|date=2004-12-24|edition=初版第1刷|isbn=978-4883502035|ref={{SfnRef|富士元寿彦|2004}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガだモン! 北の森からのメッセージ|author=太田達也|publisher=天夢人|date=2017-12-11|isbn=978-4635820257|ref={{SfnRef|太田達也|2017}}}}


; 辞典
* {{cite book | 和書 | title = [[広辞苑]] | edition = 第5版 | publisher = [[岩波書店]] | series = シャープ電子辞書 PW-9600 収録 | date = 1998年 - 2001年 | ref = 広辞苑 第5版}}
* {{cite book | 和書 | title = [[広辞苑]] | edition = 第5版 | publisher = [[岩波書店]] | series = シャープ電子辞書 PW-9600 収録 | date = 1998年 - 2001年 | ref = 広辞苑 第5版}}


==関連項目==
== 写真集・関連書籍 ==
* {{Cite book|和書|title=子ども科学図書館 飛べ!エゾモモンガ|author=富士元寿彦|publisher=大日本図書|date=1998-01|isbn=978-4477008820}}
*[[エゾモモンガ (Kitacaキャラクター)]] - 同種をモデルにした[[北海道旅客鉄道|JR北海道]]のicカード[[Kitaca]]のキャラクター。
* {{Cite book|和書|title=風の友だちモモンガ Little Friends|author=福田幸広|publisher=リベラル社|date=2007-10-01|isbn=978-4434110856}}
*[[タイリクモモンガ]]
* {{Cite book|和書|title=えぞももんがのきもち|author=西尾博之|publisher=北海道新聞社|date=2016-04-20|isbn=978-4894538245}}
*[[エモンガ]] - 同種をモデルにしたポケモン。
* {{Cite book|和書|title=世界一かわいいエゾモモンガ|author=進啓士郎|publisher=パイインターナショナル|date=2019-10-10|ISBN=978-4756252678}}

== 関連項目 ==
{{Commonscat|Pteromys volans|タイリクモモンガ(エゾモモンガ)}}
{{Wikispecies|Pteromys volans|タイリクモモンガ(エゾモモンガ)}}
* [[エゾモモンガ (Kitacaキャラクター)]] - 同種をモデルにした[[北海道旅客鉄道|JR北海道]]のicカード[[Kitaca]]のキャラクター。
* [[タイリクモモンガ]] - 基亜種。
* [[エモンガ]] - 同種をモデルにしたポケモン。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2019年9月21日 (土) 05:34時点における版

エゾモモンガ
エゾモモンガ
エゾモモンガ (Pteromys volans orii)
北海道上川郡東川町 (2009年3月)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネズミ目(齧歯目) Rodentia
: リス科 Sciuridae
亜科 : リス亜科 Sciurinae
: モモンガ族 Pteromyini
: モモンガ属 Pteromys
: タイリクモモンガ Pteromys volans
亜種 : エゾモモンガ Pteromys volans orii
学名
Pteromys volans orii
和名
エゾモモンガ
英名
Russian flying squirrel[1]
エゾモモンガの生息図

エゾモモンガ(蝦夷小鼯鼠、Pteromys volans orii)は、ネズミ目(齧歯目)リス科リス亜科モモンガ族モモンガ属タイリクモモンガ種亜種で、日本の北海道に生息するモモンガである(→写真)。

名称

和名「蝦夷小鼯鼠」の命名者は岸田久吉[注 1]で、の学名Pteromys volansの意味は「飛ぶ翼のある鼠」で、Pteromysギリシャ語で「翼のあるネズミ」、volansラテン語で「飛ぶ」をそれぞれ意味する[3]。亜種名のorii折居彪二郎への献名

アイヌ語では「アツ・カムイ」(アツ=「群棲」・カムイ=「神」の意味、すなわち「群棲する神」の意味)[4]もしくは「アッ・カムイ」(「子供の守り神」の意味、「アッカムイ」とも)と呼ばれたほか[5]1940年代までは猟師山子(やまご)[注 2]の間で「晩鳥」(バンドリ)という俗名で呼ばれていた[3]

分布

本種を含むタイリクモモンガ種はユーラシア大陸北部に分布し[7]、その範囲は西端はフィンランドリトアニア、さらにモンゴルを経て中華人民共和国(中国)の渭水朝鮮半島北部・極北を除くロシア連邦沿海地方以北[8]樺太(サハリン島)[7]・東端はアナディリまでと広範囲の森林地帯に分布するが、カムチャツカ半島には分布していない[8]

北海道の平野部 - 亜高山帯にかけて分布し[8]、森林(常緑針葉樹林落葉広葉樹林)に生息する[7][注 3]札幌市内の森林公園円山動物園付近にも生息しているが[1]、北海道島嶼部・千島列島には生息していない[8]

ある程度の面積・巣穴にできる太さの樹木がある森林ならば鉄道の線路沿いにある防風林・住宅地近くの雑木林などにも生息するが、夜行性で警戒心が強いことに加え一生のほとんどを樹上で過ごすため継続して観察することは難しく、詳しい生態はあまり知られていない[4]

特徴

成獣の大きさにはオスメスで違いがあり、体長(頭胴長)はオスの方が長く16 - 18cm(センチメートル)、メスは約15cm[3]体重はオスが約120g(グラム)[3]、オスとメスを区別していないデータでは81 - 120g[7]。耳長は18 - 22mm(ミリメートル)・後足長は32 - 35mmで[7]、体毛の毛先の色は1年を通して - 胸部下腹部にかけて白色だが、それ以外の部位は白色または褐色で毛の下部は黒色である[3]。目は直径7 - 9mmと体格に比して大きく[注 4]、目の周囲の毛色は黒い毛足が裸出しているため黒色[3]陰茎骨は細長く二又になっている[3][注 5]数は切歯が上2本・下2本、犬歯はなし、前臼歯は上4本・下2本、後臼歯は上6本・下6本の合計22本(上12本・下10本)[3]乳頭数は胸部2対・腹部1対・鼠径部1対の合計8個(4対)[3][注 6]指趾数(指の数)は前肢が4本(×2=8本第1指がない)・後肢が5本(×2=10本)の合計18本[3]。手の指は長くて物を握り掴むことに適しており[3]、樹木を登るため鋭い鉤爪を持つ一方[10]、足の平は無毛で細い枝などを掴みやすい体つきになっている[13]

新生子は体長5.0 - 5.6cm、尾長は2.2 - 2.5cmで体毛はほとんど生えておらず、視力聴力はまだない[3]

飛膜・尾

本種は滑空するための飛膜を持っており[3]、飛膜は頬後部 - 前肢まで、前肢から体側に沿って後肢まで、後肢からの付け根まである[3][14]。前肢の手首の先には飛膜を支える硬い軟骨(長さ約4cm)が伸びており、飛膜もこの軟骨に沿って広がっている[3]

尾長はオス・メスともほぼ同じで約10cm(尾率=体長に対する尾の比率:52.3% - 72%)[3]。尾の断面は扁平で[3]、滑空時は方向舵の役目を果たす[15]

生態

本種は主に夜行性だが日中も活動することがある[16]。活動範囲は巣を中心とした領域で[16]、その広さはオスで約2ha(ヘクタール)・メスでは約1haであり、メス同士の活動範囲は個体間で重ならないが、オス同士では重なる[7]。本種はほとんど樹上生活かそれに類する生活を送っており[10]、地面に降りることはほとんどなく[8]、雪面・地面で足跡を見ることはほとんどないが、地面を跳躍歩調する際にも飛膜を広げるため揚力が働き着地圧が軽減され、手足の着地痕が不鮮明になりやすい一方で新雪上では雪面に飛膜痕が残ることが多い[14]。またが鋭いため垂直の樹木・建造物などのモルタル壁の表面を垂直・上下左右へ自由に移動できる[8]。行動単位は子育て中のメス以外は基本的には1匹であるが、1つの巣に複数の個体が同居していることも少なくなく[16]、特に冬季には後述のように複数個体で1つの巣に集まって越冬する場合がある[17]

本種はキツツキの一種であるアカゲラの古巣(樹洞[18]・自然にできた樹洞・人為的に樹木に架けた用の巣箱人家などの屋根裏エゾリスの古巣などが様々なものをとして利用する[19]。樹洞は入り口がほぼ円形 - 卵形で直径4 - 6cm程度の物を好むが、出入口を歯で齧って形状を改善する場合もある[8]。また巣穴は入り口が広いとクロテンエゾクロテン)など天敵に襲われる危険性が高いため狭い巣穴を好み[20]、500円硬貨程度の大きさがあれば入ることができる[21]。また本種は巣内に乾燥した柔らかい植物性巣材(枯れ木の乾燥した内皮をほぐしたもの、乾燥したコケ類・サルオガセ・枯れ草など)を運び入れ、その中で眠る[8]。このほか、樹木の枝上に小枝・樹皮を利用して巣を作る場合や[7]、凍結してできた樹木の割れ目を利用する場合もある[22]

本種は夕方に目覚めて巣穴を出るとまず糞尿を排泄するが、周囲に危険を感じない場合は低い場所で、危険を感じた場合は高い場所で用を足す[23]。糞は長さ7 - 15mm・直径3 - 5mmほどの米粒状糞、および柔らかい米粒状糞が集着した糞、不定形な軟便と3大別されるが、多くの場合は長さ約10mm・直径約4mmである[24]。糞の色は黄褐色 - 緑褐色、もしくは暗緑色・赤銅色と多様で[24]、糞は食痕がある場所・巣穴がある樹木(巣木)・移動経路上の休憩場所となっている樹下によく散乱している[24]。食巣穴近くの樹木で糞をする習性があり[22]、巣木の巣穴付近の樹面に止まりながら排泄することも普通で、巣穴下の樹面・根元の雪面は糞尿で汚れていることがある[25]。1回の排糞量は多い時で40粒ほどで、同じ巣に複数個体が同居している場合は巣樹の下に2,000 - 3,000粒も糞が溜まっている場合がある[25]。このことからエゾモモンガの巣木を見つける目安としては「樹洞からエゾモモンガが出入りしたことを確認」する以外に「樹皮面がエゾモモンガの糞尿で汚れているか、樹木の根本付近に総量50cc以上の多量の糞(複数回の脱糞)が散在している」点が挙げられる[26]

体毛の色は保護色になっており[27]、夏毛は茶褐色で冬毛は白っぽい[28]。冬季が近づくと冬毛に生え変わり、体を寄せ合い保温効果を高める目的で1つの巣穴に複数個体(通常は2 - 5匹、多い場合で10匹程度)が集まり集団で越冬する[28]。本種は冬眠せず[29][30]、氷点下25℃以下にまで気温が低下して髭が白く凍り付き[31]、小さな体を吹き飛ばされるほど激しい猛吹雪が吹き荒れる厳冬期でも餌を食べに巣穴の外へ出て活動するほか[30]、厳冬期には夜間だけでなく日中にも活動する[32]。また本種は無駄な争いを好まず、冬季に自分の巣穴へ同種他個体が来ても拒絶することなく互いに厳しい冬を乗り切る[22]

食性

食性雑食性で基本的には植物性のものを食べているが、昆虫など動物性の食物も食べる[8]。植物では木の樹皮の甘皮・種子などで、マツ類の球果(松ぼっくり)の種子・ドングリヤマグワイチイサクラの実も食べるがクルミは食べない[8]。冬季は主にトドマツの葉やカラマツシラカバの冬芽や小枝の皮などを食べ、3月ごろにはハンノキの雄花の花穂を食べるほか[33]、3月下旬にはイタヤカエデの甘い樹液を好んで食べる[34]。昆虫は成虫幼虫を食べる[8]。本種は手の指が長いので食物を手で持って食べることができる[8]。地上には天敵の肉食動物が多いため地上に下りて川・湖の水を飲むことはなく樹上で水分補給をし、夏は樹木の葉に付いた水滴・冬は枝に積もった雪を飲み食いして水分を補給する[35]

なお本種は基本的に目標の樹木を発見すると食事が終わるまであまり動かず、1か所の樹木で食事をすることで体力を温存し、余分なエネルギー消費を抑えるため冬眠せず越冬することができる[22]。しかし一方で食事を終えて巣に帰る途中で巣穴とは別の樹洞を探す場合があり、この行動により天敵接近時の避難場所や冬の共同生活・子育てに適した場所を調査する[36]

天敵・寿命

天敵はクロテン・エゾフクロウ[37]タカなどである[30]。本種は天敵が多い一方で攻撃力を有さず[38]、天敵に見つからないよう常に周囲を警戒し、樹上では自分の体が天敵に見つからないよう注意している[39]。本種は天敵に気づくとそれが立ち去るまで気づかれないようにじっとして動かないが、時にはその時間が1 - 2時間におよぶ場合もある[8]

寿命飼育個体では4 - 5年だが野生個体では3年未満が多い[7]

滑空

本種は飛膜を開いて高所から低所へ滑空して移動し、最長で約50m(メートル)にわたり滑空することができるほか[8]、尾を方向舵として使用することにより滑空中の旋回を可能としており[15][10]、きりもみ・上昇もできる[40]。本種はまず垂直な樹幹を鋭い鉤爪で駆け登り、樹上近くに到達すると周囲の様子を窺いながら目標の樹木を目指してジャンプし、両手足をいっぱいに伸ばして飛膜を広げ滑空する[10]。そして四肢を微妙に動かし、飛膜を使って揚力を調整しながら下降気味に飛翔し、目的の樹木手前でわずかに上昇して樹面にしがみつく[26]。無風の時は高木から飛び降りて滑空する一方、追い風がある場合は追い風に乗り、向かい風の場合はゆっくりと飛行する[41]。離木位置と着木位置の高低差が大きければ滑空可能距離が長くなり、着地した樹木からはさらに次の樹木へと移動することができる[10]。本種は滅多に地上に下りず積雪期に足跡を残さないほか、滑空することで樹木間の移動時間を短縮することで食事に費やす時間を多く取ることができる[10]。その姿は白い布が飛んでいくように見えることから「空飛ぶハンカチ」と喩えられる[10]

繁殖と子モモンガの独立

繁殖期は初春 - で、2月下旬 - 3月下旬に1回目の発情を迎えて4月中旬 - 8月に出産するが、時には夏に発情する個体もいる[3]。出産回数はその年の繁殖期に1, 2回で、通常は1回[3]。妊娠期間は不明で1回の出産の新生子数は2 - 5匹[3]、もしくは2 - 6匹で多くの場合は3匹である[7]。子育てはメスだけで行うが、母子と成体オスが同居する場合もあり[42]ムササビなどと違い他のオスに対しての攻撃性はほとんどない。幼獣は生後約10週目に親離れし、翌年には繁殖が可能となる[3]

鳴き声

本種は「ジィージィー」と鳴く[8]

人間との関係

1957年に合田昌義の文献『エゾモモンガによる材木害』にて「北海道中標津営林署養老牛国有林(北海道標津郡中標津町)でカラマツ120本の樹枝先端を食害した」例が報告されているが[43]害獣として駆除されるほどの実害は発生していないとされる[44]

森林伐採・孤立化や食物の不足などにより生息数は減少傾向にある[45]札幌市円山動物園では1967年から本種の飼育・繁殖に取り組んでいるほか[45]釧路市動物園[46]おびひろ動物園[47]旭川市旭山動物園[48]でも本種が飼育されている。

なお本種を除くタイリクモモンガ種はかつてフクロモモンガ有袋類)・アメリカモモンガ(モモンガ属)とともに日本国内へペット(愛玩動物)として輸入されていたが[49]、個人による飼育下での繁殖は難しい[50]。またタイリクモモンガ種は野生化した個体が本種と亜種間交雑したり[50][注 7]、本種やニホンモモンガ(ホンドモモンガ、本州四国九州に生息)と競合することが懸念されたため[49]2005年(平成17年)12月14日から特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律により「特定外来生物」に第二次指定種として追加指定され、翌2006年(平成18年)2月1日以降は輸入・飼育などが原則として禁止されている[53]

脚注

注釈

  1. ^ 理学博士・農学博士[2]
  2. ^ 「山子」とは木樵など山仕事をする人のこと[6]
  3. ^ エゾ松・トドマツなど常緑針葉樹林では冬季でも葉を落とさないため、空中の天敵から身を隠すことができる[9]
  4. ^ 目が大きいのは夜行性のためで[10]、その視力は真っ暗な夜の森林の中でも枝に接触することなく飛行できるほど高い[11]
  5. ^ ニホンモモンガの陰茎骨は極めて短くて幅広く、ねじれている[3]
  6. ^ ニホンモモンガの乳頭数は5対(10個)なのでその点で区別できる[12]
  7. ^ 自然界での亜種間交雑については確認されていないが、仮に逸脱すれば再捕獲することは非常に困難となる[51]。日本国内における定着状況は不明だが、1999年に高知県高知市内で1頭が捕獲された記録がある[52]

出典

  1. ^ a b エゾモモンガ」(札幌市円山動物園)より。
  2. ^ 門崎 2009, p. 397
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 門崎 2009, p. 345
  4. ^ a b 富士元寿彦 2001, p. 3
  5. ^ 目黒誠一 1994, p. 3
  6. ^ 広辞苑
  7. ^ a b c d e f g h i 石井 2008, p. 124
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 門崎 2009, p. 348
  9. ^ 目黒誠一 1994, p. 16
  10. ^ a b c d e f g h 太田達也 2017, p. 67
  11. ^ 目黒誠一 & 田中美奈子 2002, p. 5
  12. ^ 京都府外来生物データ(タイリクモモンガ)”. 京都府 外来生物情報. 京都府. 2019年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月15日閲覧。
  13. ^ 目黒誠一 1994, p. 48
  14. ^ a b 門崎 2009, p. 94
  15. ^ a b エゾモモンガと清水飼育員」(Maruyama Zoo Channel)より。
  16. ^ a b c 門崎 2009, p. 346
  17. ^ 富士元寿彦 2001, p. 54
  18. ^ 富士元寿彦 2004, p. 39
  19. ^ 門崎 2009, pp. 346–347
  20. ^ 富士元寿彦 2001, p. 23
  21. ^ 富士元寿彦 2001, p. 6
  22. ^ a b c d 太田達也 2017, p. 69
  23. ^ 目黒誠一 1994, p. 33
  24. ^ a b c 門崎 2009, p. 238
  25. ^ a b 門崎 2009, p. 239
  26. ^ a b 門崎 2009, p. 54
  27. ^ 目黒誠一 1994, p. 53
  28. ^ a b 富士元寿彦 2001, p. 54
  29. ^ 目黒誠一 1994, p. 34
  30. ^ a b c 富士元寿彦 2001, p. 66
  31. ^ 目黒誠一 1994, p. 67
  32. ^ 太田達也 2017, p. 71
  33. ^ 富士元寿彦 2001, p. 27
  34. ^ 目黒誠一 1994, p. 47
  35. ^ 目黒誠一 1994, p. 32
  36. ^ 目黒誠一 1994, p. 56
  37. ^ 富士元寿彦 2001, p. 21
  38. ^ 目黒誠一 1994, p. 30
  39. ^ 目黒誠一 1994, p. 62
  40. ^ 目黒誠一 1994, pp. 18–19
  41. ^ 目黒誠一 1994, p. 46
  42. ^ 門崎 2009, pp. 345–346
  43. ^ #哺乳動物学雑誌1967
  44. ^ 北海道の樹木の獣害 (Report). 地方独立行政法人北海道立総合研究機構(略称:「道総研」). 2018年12月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月19日閲覧 {{cite report}}: 名無し引数「languageja」は無視されます。 (説明)
  45. ^ a b エゾモモンガ」(札幌市円山動物園)より。
  46. ^ #釧路市動物園
  47. ^ #おびひろ動物園
  48. ^ #旭川市旭山動物園
  49. ^ a b タイリクモモンガ”. 侵入生物DB. 国立環境研究所. 2019年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月15日閲覧。
  50. ^ a b タイリクモモンガ [外来生物法]”. 特定外来生物の解説. 環境省. 2019年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月15日閲覧。
  51. ^ タイリクモモンガ”. 北海道ブルーリスト. 北海道. 2019年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月15日閲覧。
  52. ^ タイリクモモンガ”. 四国自然史科学研究センター. 2019年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月15日閲覧。
  53. ^ 特定外来生物一覧” (PDF). 環境省. 2019年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月15日閲覧。

参考文献

ウェブサイト
出版物
辞典
  • 広辞苑』(第5版)岩波書店〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉、1998年 - 2001年。 

写真集・関連書籍

  • 富士元寿彦『子ども科学図書館 飛べ!エゾモモンガ』大日本図書、1998年1月。ISBN 978-4477008820 
  • 福田幸広『風の友だちモモンガ Little Friends』リベラル社、2007年10月1日。ISBN 978-4434110856 
  • 西尾博之『えぞももんがのきもち』北海道新聞社、2016年4月20日。ISBN 978-4894538245 
  • 進啓士郎『世界一かわいいエゾモモンガ』パイインターナショナル、2019年10月10日。ISBN 978-4756252678 

関連項目

外部リンク