無権代理

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無権代理(むけんだいり)とは、本人を代理する権限(代理権)がないにもかかわらず、ある者が勝手に本人の代理人として振る舞うことをいう(広義の無権代理)。対義語は有権代理。広義の無権代理には代理権の外観について一定の要件を満たす場合に有権代理と同様の効果を認める表見代理が含まれるが、狭義の無権代理はこの表見代理が成立しない場合のみをいう。以下、本項目では狭義の無権代理について述べる(表見代理については表見代理を参照)。

  • 民法は、以下で条数のみ記載する。

総説[編集]

「無権代理」は広義には表見代理と狭義の無権代理の双方を含み、狭義の無権代理は広義の無権代理のうち表見代理が成立しない場合のみを指すと解するのが通説である[1]。この点については表見代理は本質的に無権代理とは異なるとする少数説もある。

日本では無権代理は民法113条以下において規定されている。無権代理は本人から代理権を与えられていない者が代理人として振る舞う形態がその典型例であるが、代理人と称する者が自己の代理権を証明できなかった場合も同様に扱われる。

本人への効果不帰属と追認権[編集]

無権代理人に本人からの代理権がない以上、法律効果は本人には帰属しない。これは無効と表現されることもあるが効果不帰属と説明したほうが正確である。例えば、代理権のない者が勝手に契約を結んできたからといって、本人はその契約内容に従った債権債務を得ることはない。これによって本人の権利や財産があずかり知らぬ所で害されることを防ぐことができる。

しかし、本人が無権代理行為を追認の意思表示をすれば、一転して有効な代理行為となり効果が契約の時にさかのぼり本人に帰属する(116条)。これを本人の追認権という。たとえ代理権がない者による代理行為であっても本人がそれを拒まないのであれば効果を否定する理由はないからである。つまり、代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない(113条1項)。

これとは反対に本人は追認拒絶の意思表示をすることにより無権代理行為の効果が自らに帰属しないことを確定させることもできる。

これら追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない(113条2項)。

無権代理の相手方保護[編集]

民法は無権代理の相手方保護のために、催告権(114条)、取消権(115条)、無権代理人の責任(117条)の規定を設けている。相手方は表見代理が成立している場合には表見代理による救済を求める途もある(なお、後述のように表見代理は相手方保護のための制度であり、無権代理人が表見代理が成立することを抗弁として117条の無権代理人の責任を免れることはできないとするのが判例の立場である[2])。

相手方の催告権[編集]

無権代理行為の相手方は、無権代理行為を追認するのかしないのか本人に返答を求める催告権をもつ(114条)。もしも本人が催告に応じない場合、追認拒絶とみなされる。

本人による追認あるいは追認拒絶の意思表示があるまで、相手方は不安定な法律的な地位に立たされることから、民法は相手方に本人に対する催告権を認めたのである。

相手方の取消権[編集]

相手方が善意であり本人が追認をしない間は取消権(115条)を有しており、契約時に善意であった場合は、無権代理行為による契約関係等を解消することができる。相手方が代理権の存在について善意でなかったとき(契約時に代理権を有しないことを相手方が知っていたとき)は取消権を行使できない。ただし、相手方による取消権の行使の場合、相手方は善意であれば足り無過失までは要求されない。

また、相手方が取消権を行使すると、契約は最初から存在しなかったものとなるから、117条の無権代理人の責任を追及できない(相手方が117条の無権代理人の責任を追及する場合には、その要件として115条の取消権を行使していないことが必要である)。

相手方に対する無権代理人の責任[編集]

無権代理行為の相手方は、以下の要件を満たせば無権代理人に対して117条に定められている無権代理人の責任を追及できる。この制度は相手方保護という点のほか、代理制度に対する信用維持という制度趣旨を併せ持っている。

  • 無権代理人の責任の要件
  1. 無権代理人とされる者が本人からの代理権の存在を証明できず、また、本人の追認など本人に対する効果帰属事由が存在しないこと。
  2. 相手方自ら取消権を行使していないこと。
  3. 相手方が無権代理人に代理権がないことについて善意無過失であること(通説・判例[3])。
  4. 無権代理人が行為能力者であること(117条2項)。
  • 無権代理人の責任の効果
無権代理人は、相手方の選択に従い、履行又は損害賠償をなす責任を負う(117条1項)。無権代理人の過失を要しない無過失責任であるが、損害賠償は履行利益の限度である。ただ、無権代理人が無資力(損害賠償などの引き当てになるような見るべき財産がない状態)である場合、相手方は十分な救済を得ることはできない。
本人Aと代理人(とされる)Bとの間に代理権授与があったかどうかがあやしい場合に相手方Cが訴訟を提起する場合、Cには前訴で代理人(として)Bに訴訟告知をすることができる。Bは有権代理のとき責任を負わず無権代理のときCに責任を負うので、補助参加をしてCに(代理権の存在、Aの追認の主張等をして)味方することになる。Cが前訴で無権代理であるとしてAに敗訴して後訴でBに無権代理の責任追及をすると、前訴で補助参加したBは参加的効力により有権代理の主張ができない(民事訴訟法第46条)。
なお、有権代理か無権代理かは法律上併存しないので、相手方は二つの請求について同時審判の申出をすることができる(民事訴訟法第41条)。
  • 表見代理制度との関係
無権代理と表見代理との関係については古くから議論がある。まず、表見代理は本質的に無権代理ではないとみる説からは、表見代理が成立する場合には無権代理は成立しないので117条の無権代理人の責任を追及できないということになる。また、表見代理を無権代理の一種とみる説においても、表見代理が優先的に適用されるとみる説と、相手方は表見代理の効果と無権代理人の責任を選択的に行使しうるとする説(判例)がある。なお、判例は表見代理制度が本来は相手方保護のための制度であることから、相手方が表見代理の成立を主張することは自由であるが、その一方で、無権代理人(本人からの代理権がないにもかかわらず勝手に本人の代理人として振る舞う者)が表見代理の成立を主張・立証して自己の責任を免れることは表見代理制度の趣旨に反するとして、無権代理人側から表見代理が成立することを主張して民法117条の無権代理人の責任を免れることはできないとしている点に注意を要する[4]
判例の見解による限り、無権代理か表見代理かは法律上併存するので、相手方は同時審判の申出をすることができないようである。

単独行為の無権代理[編集]

単独行為の無権代理は絶対的に無効である。ただ、単独行為については、その行為の時において、相手方が代理人と称する者が代理権を有しないで行為をすることに同意し又はその代理権を争わなかったとき、及び、代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときに限り、113条から117条までの規定が準用される(118条)。

無権代理人の地位と本人の地位の混同[編集]

相続により無権代理人の地位と本人の地位が同一人物へ帰属することがある(無権代理人が死亡し本人がその地位を相続した場合、本人が死亡し無権代理人がその地位を相続した場合など)。このような場合、相手方との関係で問題となる。また類似する論点として他人物売買の問題がある。

相続の場合[編集]

  • 無権代理人が本人を相続した場合
    • 無権代理人が単独相続した場合
    判例は「本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当」(最判昭和40・6・18民集19巻4号986頁)として当然に有効なものとしている。
    • 無権代理人が他の相続人とともに共同相続した場合
    判例は本人の追認権は全ての共同相続人に不可分的に帰属するとして、「他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない」(最判平成5・1・21民集47巻1号265頁)とする。
    • 本人による追認拒絶後に無権代理人が本人を相続した場合
    判例は「本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない」とし、その理由として「本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効果が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができ(ないこと)」をあげている(最判平成10・7・17民集52巻5号1296頁)。
  • 本人が無権代理人を相続した場合
判例は相続人である本人が無権代理行為について追認を拒絶しても信義則には反しないとして、「被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではない」(最判昭和37・4・20民集16巻4号955頁)とする。ただし、判例は本人が無権代理人を相続する場合にも相続の対象には民法第117条による無権代理人の債務が含まれるので、この債務については「本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあつたからといつて右債務を免れることはできない」とする(最判昭和48・7・3民集27巻7号751頁)。

他人物売買の場合[編集]

  • 売主が権利者を相続した場合
相続により他人物売主が所有権を取得するため、買い主は当然に当該物の所有権を取得することとなる。
  • 権利者が売主を相続した場合
判例は「他人の権利の売主をその権利者が相続し売主としての履行義務を承継した場合でも、権利者は、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右履行義務を拒否することができる」としている(最大判昭和49・9・4民集28巻6号169頁)。

脚注[編集]

  1. ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』363頁、岩波書店、1965年
  2. ^ 最判昭62・7・7民集41巻5号1133頁
  3. ^ 最判昭62・7・7民集41巻5号1133頁
  4. ^ 最判昭和62年7月7日民集41巻5号1133頁

関連項目[編集]