炎症

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炎症(えんしょう、: Inflammation)とは、生体の恒常性を構成する解剖生理学的反応の一つである。炎症は組織損傷などの異常が生体に生じた際、当該組織と生体全体の相互応答により生じる。生体における他の様々な反応と同じく、多重応答の秩序、つまりマルチフィードバックの仕組みに従っている。(参考文献1、9章12章13章15章17章20章21章22章及び参考文献2)


概要[編集]

炎症を引き起こす状況の中には擦過傷などの外傷打撲、病原体侵入、化学物質刺激、新陳代謝異常による組織細胞の異常変化、極端な温度環境などがある。生体に、これらの異常が生じると発赤 (redness)、熱感 (heat)、腫脹 (swelling)、疼痛 (pain) を特徴とする徴候が生じる。これを炎症の4徴候(ケルススの4徴候)と呼ぶ。さらに組織異常の発生部位によるが、機能障害をもたらし、これをあわせて、炎症の5徴候(ガレノスの5徴候)と呼ぶ。(参考文献1,p777およびp502~504)(参考文献2,P354)。この徴候の詳細を以下にまとめる。

  • 赤発 毛細血管透過性、細動脈の拡張により血流の増加が起きることで出現する。
  • 疼痛 痛み感覚は体中に分布する自由神経終末への入力、中枢の応答によっている。炎症の場合、当該部位に遊走した食細胞などが、キニン、プロスタグランジンなどの化学物質を放出し、痛み感覚の受容器を刺激することで生じる。これにより、運動の制限が生じる。(以上参考文献1p777、15章20章21章22章)
  • 発熱 炎症反応の発熱は、当該組織に湧出したマクロファージ、白血球が発熱物質を産生することで引き起こされる。(参考文献2p354)
  • 腫脹 ヒスタミン、キニン、ロイコトリエンなどの働きで毛細血管透過性が増すため、当該部位に血流が増大し、通常血管内にとどまる物質も組織液に流出し、腫脹が生じる。(参考文献1の22章)

これらの解剖生理学的反応は、すべてマルチフィードバックの仕組みの中で、つまりは、器官組織間細胞間の応答により生起する。先述のように多くの場合、炎症は赤発をもたらす。これは例えば、蚊などの虫に刺されたとき、蚊の体液(化学物質)による侵害が起きる。すると、その部位の細胞は破壊あるいは変成のような異常が起きるが、それに対して当該部位の結合組織マスト細胞、血中好塩基球、血小板からヒスタミンが遊離され、これらが血管拡張をもたらす。同時に血中でキニノーゲンの増加とキニンの生成が行われ、キニンもまた細動脈拡張を導く。損傷など異常をこうむった細胞はプロスタグランジンを遊離させる。この物質はヒスタミンやキニンの効果を高める働きをする。血液中には平常時に不活性なタンパク質群、補体系があり、反応してヒスタミンの遊離を促進し、好中球を走化により当該部位に集める。補体タンパクの中には細菌を殺す能力を持つものもあり、感染の場合、これが賦活される。 以上の炎症にかかわる物質や仕組み(炎症メディエーター)は、その組織異常の症候に応じて、様々な組み合わせて生じるので、例えば、血管拡張が、わずかなため一見、赤くない、あるいは発熱を生じるほどでないため、熱を、それほど持たない炎症部位という場合もある。これらの反応が起きると、血管系は血液循環を制御して、異常部位へのエネルギー供給を増やす。(参考文献1の2章3章20章21章22章) 外傷や内傷の場合、周辺組織に攣縮が起きる場合もある。このように症候に応じて、反応が起きるが、異常のレベルが高ければ、より複雑かつ、多重的になる。(参考文献1の10,11,12章)。

歴史[編集]

ローマ時代医学者であるセルサスによれば、上記の4徴候は太古の昔より知られていたという。機能障害は1858年病理学者のルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョーによって炎症の定義に加えられた。その弟子、ユリウス・コーンヘイムは「炎症は血管にまつわる反応である」として白血球が血管から遊離し、局所循環障害を引き起こすことを提唱した。ヘルマン・ブルーハーフェは炎症巣には過剰の血液があるとし、ジョン・ハンターは動物実験を用い、炎症は圧力、摩擦、熱、寒冷などの原因に対する生体反応であり、病気ではなく障害を受けた局所の機能回復としての有益な反応であることに気づいて炎症の発赤部では、血管が拡張し、血流が早くなったり、化膿は小血球が血管外に出ることや炎症では血漿の滲出が起こる事なども発見した。イリヤ・メチニコフは、「マクロファージの貪食能が防衛反応に重要」であるとし、異物の排除機構を提唱した。ヴェーリー・メンキンは身体細胞を侵す刺激に対して、高等動物が現す防衛反応の一つとした。これは炎症時にリウコタキシン(血管透過因子)、LPF(白血球増多因子)、ネクロシン(炎症部の組織障害因子)、パイレキシン(発熱因子)等の化学的因子が発生することで、局所を犠牲にして全身を守るという免疫学的なシステムである。ロベルト・ルスルは、非経口的消化を提唱する。フレデリック・フォーリーは、血管にカテーテルを炭素静注し炎症・血管透過性を上昇させサイトカイン・接着分子の関与を証明した。林秀雄は刺激物質に対して末梢血管が一度収縮してから拡張することを観察し、充血後に血管透過性が亢進し白血球浸潤が起こることを観察した。

経過[編集]

炎症の第1期
刺激を受けることにより、まずその付近の血管が一時的に収縮する。その後血管が拡張し血管透過性が亢進する。直後には血漿等、血液の液体成分が漿液として滲出し、浮腫となる。
炎症の第2期
ついで、白血球が血管内皮に接着し、血管外へと滲出し、病巣へ移動する。この移動を血管外遊走 (extravasation) という。初期に滲出するのは好中球であり、ついで単球リンパ球である。これらが感染を防ごうとする。
炎症の第3期
急性炎症では刺激が無くなると回復する。損傷した部位は肉芽組織の形成や血管の新生により回復する。炎症が長期に渡ったり、慢性化したりすると好中球の核の左方移動が起こる。

急性炎症[編集]

急性炎症きゅうせいえんしょう)は炎症のうち、細菌に感染してすぐの状態。微小循環系の反応である。臨床的には7日程度以内の炎症である。

血漿成分と好中球が炎症部に送られ、血管反応により毛細血管などが拡張し充血が起こって、3~4時間以上の経過で血管の透過性が亢進し循環障害と滲出現象が強く出る。この時点で炎症性浮腫という炎症時の局所の浮腫が起こる。血管内の好中球は、血管外へ遊出すると、アメーバ運動をしながら炎症部へ進んで防衛反応を起こす。病理像として、好中球を多く認め、その他に食細胞が出現し血管反応や滲出が起こる。

ここで滲出物中に腐敗菌の混合感染がおこると悪臭のある膿汁がつくられて、壊疸性炎症が起きる。

転帰としては

  • 完全治癒:滲出液の吸収により、不溶性フィブリンや破壊された細胞が酵素による消化やマクロファージの貪食作用によって取り除かれ、浸潤した好中球の多くはアポトーシスによって死滅
  • 瘢痕治癒:欠損組織が多い場合、線維芽細胞、マクロファージ、新生血管が肉芽組織を形成して瘢痕組織となって、欠損部を補う
  • 膿瘍治癒:化膿 (pyogenic) 菌感染が炎症部位に起こった場合に起こる
  • 慢性炎症 (後述)

がある。

東洋医学では「五臓の風寒」(五臓の急性炎症等)と呼ばれるものに含まれる。

慢性炎症[編集]

慢性炎症まんせいえんしょう)は、炎症のうち、進行が緩やかに持続するもの。臨床的には1週間以上の炎症である。炎症は組織異常に対する生体の反応であるため、組織異常が治癒しないために炎症が起き続けるという場合、厳密に言って慢性炎症ではない。これは正常な炎症反応である。通常は組織異常が、治癒してゆくに従い、炎症は反応レベルが下がり、異常組織の細胞断片、異常の原因物質などが除去されると消失する。慢性炎症とは、組織異常が解消されているのにもかかわらず炎症物質、細胞などの活動が収束しないものを指す、と言うべきである。例を挙げると化学物質により皮膚の異常が生じたのち、その原因物質が除去され異常が修復されている状況で赤発、かゆみ、疼痛などがおさまらない場合である。


機序[編集]

生体が何らかの傷害を受けた場合、通常は体内に存在しない特徴的な物質が放出される。これらの物質をダメージ関連分子パターン英語版と呼ぶ。この分子群には、体外から侵入した微生物に由来する病原体関連分子パターン英語版と、損傷を受けた自己組織に由来するアラーミン (alarmin) が含まれる[1]。 このような傷害に特徴的な物質群が、自然免疫系に属する細胞に多く発現するパターン認識受容体英語版により認識されることにより、炎症を惹起するサイトカインなどが放出される。

このサイトカインなどの作用により、周辺の血管の直径は増し、血管壁の浸透性が高まる。この結果、血液供給量の増加に伴う発赤や熱感、浸透性の増加から来る体液の浸潤に伴う腫脹や疼痛が引き起こされる[2]

これら、炎症の誘導に関わる分子は炎症メディエーターといい、これらの作用が合わさって炎症反応を引き起こす。

白血球は、ロイコトリエンヒスタミンなどの炎症メディエーターにさらされた血管内皮細胞に発現されるセレクチンと結合すると、血管内面を転がる (ローリング) ようになる。さらに内皮細胞とインテグリンαLβ1 (LFA-1) を介して強く接着することにより、基底膜へと押し出される (漏出 (diapedesis))。続いて、プロテアーゼにより基底膜を分解すると、ケモカインCXCL8 の濃度勾配にしたがって炎症部位へと遊走する。

下記のように、非常に多くの症候が慣例的に炎症という名称で呼ばれているが、炎症反応自体は非特異的な防御機構の一員なので、これは当該部位に何らかの損傷や組織変成など異常が起きて、それに対して生体の、恒常性を維持するための反応として炎症反応が生じているとみてよいだろう。例えば腱鞘炎、潰瘍性大腸炎、肺炎なども、その例である。

分類[編集]

形態学的分類
変質性炎症浸出性炎症増殖性炎症
経過による分類
急性炎症、亜急性炎症、慢性炎症

種類[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Bianchi, Marco E. (2007), “DAMPs, PAMPs and alarmins: all we need to know about danger”, Journal of Leukocyte Biology 81: 1--5, doi:10.1189/jlb.0306164 
  2. ^ Parham, Peter 『エッセンシャル免疫学』、笹月健彦 メディカル・サイエンス・インターナショナル、2007年 

  

参考文献[編集]

  1. トートラ 人体の構造と機能 – 2004/3 トートラ (著), Sandra Reynolds Grabowski(著), 大野 忠雄 他(翻訳),ISBN-10: 4621073745
  2. 人体の構造と機能  エレイン N.マリーブ (著), 林正 健二 他(翻訳),    医学書院; 第2版 (2005/03)ISBN-10: 4260333933

関連項目[編集]