湿り空気線図

湿り空気線図(しめりくうきせんず、Psychrometric Chart)とは線図上に、乾球/湿球温度/露点温度、絶対/相対湿度、エンタルピーなどを記入し、その中から2つの値を求めることにより、湿り空気の状態が分かるようにした線図のことである。 空気線図、湿度線図とも言う。
不飽和空気ではつかみにくい乾球温度や相対湿度、絶対湿度、 比エンタルピーなどの相互関係を比較対照して線図にしたものをいう[1]。湿り空気線図といえば、主に「湿り空気h -x 線図」の事を指すのが一般的になっている。主に空気の状態や熱的変化を知るために用いられる。
湿り空気の状態は、全圧が一定の下では以下に挙げる状態量のうちいずれか2つを定めれば決まる[2]ことから、状態量の関係を平面上に表すことができる。全圧には通常標準大気圧(=101.325 kPa)が用いられる。線図の形式として以下がある[3]:
- モリエ線図
- 比エンタルピーと絶対湿度を斜交座標にとって描いたもの
- キャリア線図
- 絶対湿度と乾球温度を直交座標にとって描いたもの
- t - i 線図
- 乾球温度と比エンタルピーを直交座標にとって描いたもの。
さらにモリエ線図はその絶対湿度 x と乾球温度 t の範囲によって以下の種類がある[3]:
- NC線図: x = 0 – 0.04 kg/kg(DA), t = −20 – 50 C°
- HC線図: x = 0 – 0.20 kg/kg(DA), t = 0 – 120 C°
- LC線図: x = 0 – 0.007 kg/kg(DA), t = −40 – 10 C°
温度の単位をファラドとしたNF, HF, LF線図も存在する。
湿り空気h -x 線図[編集]
比エンタルピーh と絶対湿度x を座標軸にとって斜交座標系としたもの。乾球温度と絶対湿度を直交座標系としたようにも見えるが、乾球温度一定の線は場所によって角度が異なるため、これは正しくない。
右に示した線図の構成要素は以下の通りである(括弧内は線の色)。
- 乾球温度
- 垂直に伸びた直線(緑)。一般的な温度計が示す空気の温度。
- 湿球温度
- 斜め(右下がり)に伸びた直線(青)。湿球温度計が示す空気の温度。
- 相対湿度
- 放射状(右上がり)に伸びた曲線(赤)。水蒸気分圧÷飽和水蒸気圧で表され、単位は %RH。
- 絶対湿度
- 水平に伸びた直線(濃紺)。乾き空気1 kgに含まれる水蒸気量の重量で、単位は kg/kg(DA)。DAは dry air の意。
- 比エンタルピー
- 斜めに伸びた直線(黒)。乾き空気1 kgあたりのエンタルピーを表したもので、単位は kJ/kg(DA)。
- 比体積
- 斜めに伸びた直線(緑)。空気 1kgの体積で、単位は m3。
気温、湿度が高ければ比エンタルピーは高い。例えば、
- 気温25℃、湿度50 %の比エンタルピーは約50 J/g DA
- 気温35℃、湿度50 %の比エンタルピーは約80 J/g DA
- 気温35℃、湿度70 %の比エンタルピーは約100 J/g DA
と読み取ることができる。(気温、湿度) = (35℃, 50 %)から温度だけを下げ(25℃, 50 %)に冷却するために必要なエネルギーはこれら空気の比エンタルピーの差であり約30 J/g DAである。一方、気温(35℃, 70 %)から温度と湿度を両方下げ同じ(25℃, 50 %)にするときの比エンタルピーの差は約50 J/g DAとなり、湿度を下げながら温度を下げる方がより大きなエネルギーが必要なことがわかる[4]。
脚注[編集]
- ^ エンタルピーと空気線図について アピステテクニカルノート
- ^ ギブスの相律によれば、成分数 C = 2、層の数 P = 1 であることから自由度 F = 3。全圧を固定することより自由度が1つ減り残り2つとなる。
- ^ a b 内田秀雄「新しく作った湿り空気線図とその使い方」『衛生工業協会誌』第25巻第8号、1951年8月、191-227頁。
- ^ 空調プロセスと空気線図 アピステテクニカルノート