音楽隊 (海上自衛隊)

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音楽隊(おんがくたい)は、諸外国の軍楽隊に相当する海上自衛隊の部隊である。海上自衛隊の職種[1]の一つである「音楽員」の隊員で編成され、音楽演奏を主な任務とする。同様に陸上自衛隊航空自衛隊にも、それぞれ音楽隊が編成されている。

任務[編集]

横浜港大さん橋護衛艦の入港演奏を行う東京音楽隊(2017年6月)

海上自衛隊音楽隊の任務は、大きく次の三つに分類される[2]

隊員の士気の高揚
艦艇が出入港する際の岸壁での演奏や、自衛隊病院への慰問演奏[3]などを行う。
式典
自衛隊の内部(部内)と外部(部外)の各種式典で演奏を行う。部外の式典は国民体育大会などの、国民的行事を中心に行われる官公庁以外のものを指す。
広報
自衛隊の広報活動の一環として、定期演奏会や地域のイベント等で演奏を行う。

編成[編集]

海上自衛隊には、防衛大臣直轄部隊である東京音楽隊があるほか、各地域を管轄する五つの地方隊にもそれぞれ音楽隊がある。

東京音楽隊[編集]

東京音楽隊 庁舎(2012年5月)

東京音楽隊(JMSDF Band, Tokyo)は東京都世田谷区の海上自衛隊上用賀基地(JMSDF Kami-Youga Base)[3]に置かれ、海上自衛隊のセントラルバンドとして年間120回程度[4]の演奏活動を行っている。また、術科学校に相当する部隊として音楽隊員への教育も行っているため、総務科・音楽科に加えて教育科の3科で編成されている[5]。隊長は2等海佐をもって充てられ、防衛大臣の指揮監督を受け音楽隊の隊務を統括する[5]

演奏以外の業務に従事する防衛事務官も含め、75名の人員で編成されている[4]。2017年現在、60名弱の演奏者のうち三分の一が女性である[4]

2009年には、自衛隊の全音楽隊で初めて声楽枠で採用された隊員(三宅由佳莉)が配属された。

旧庁舎の一部の外観は、昭和時代の刑事ドラマ「太陽にほえろ!」の撮影時に七曲署庁舎として使用されていたが、1995年に現庁舎に建て替えられて外観は変わった。

沿革[編集]

歴代の東京音楽隊長(特記ない限り2等海佐
氏名 在任期間 出身校・期 前職 後職
1 高山 實 1956.6.1 - 1962.7.25 横須賀補充部
→1959.2.1 1等海佐昇任
退職
2 片山正見 1962.7.26 - 1967.3.31 広島逓信局下関通信講習所・
東京音楽学校(旧制)
(現・東京芸術大学
東京音楽隊副長
→1964.6.1 1等海佐昇任
退職
3 石崎善治 1967.4.1 - 1969.2.25 東京音楽隊副長 退職
4 堀籠次男 1969.2.26 - 1972.6.30 東京音楽隊副長 東京業務隊
5 服部省二 1972.7.1 - 1976.10.19 東京音楽隊副長 東京業務隊付
6 山羽三郎 1976.10.20 - 1981.3.24 東京音楽隊副長 東京業務隊付
7 行方三博 1981.3.25 - 1984.7.1  明治大学 舞鶴教育隊 東京業務隊付
8 山田哲朗 1984.7.2 - 1986.11.3 横須賀音楽隊長 東京業務隊付
9 早田 透 1986.11.4 - 1989.5.19 大湊音楽隊長 東京音楽隊付
10 竹村純一 1989.5.20 - 1991.12.1 東京音楽隊副長 東京音楽隊付
11 谷村政次郎 1991.12.2 - 1994.7.31 東京音楽隊副長 東京音楽隊付
12 上井 章 1994.8.1 - 1998.8.19 国士舘大学 海上自衛隊幹部学校研究部員 海上幕僚監部監理部総務課
13 青木凱征 1998.8.20 - 2003.6.1 大湊音楽隊長 東京音楽隊付
14 渡仲郁夫 2003.6.2 - 2007.3.25 桐朋学園大学 東京音楽隊 防衛大学校音楽顧問
15 熊崎博幸 2007.3.26 - 2010.2.28 同志社大学 東京音楽隊副長 東京音楽隊付
16 河邊一彦 2010.3.1 - 2014.3.23 武蔵野音楽大学 横須賀音楽隊長 東京音楽隊付
17 手塚裕之 2014.3.24 - 2016.8.28 関東学院大学 舞鶴音楽隊長 東京音楽隊付
18 樋口好雄 2016.8.29 - 駒澤大学 横須賀音楽隊長

地方隊の音楽隊[編集]

横須賀音楽隊、音楽隊、佐世保音楽隊、舞鶴音楽隊及び大湊音楽隊がそれぞれの地方総監の直轄部隊として置かれている。隊長は3等海佐又は1等海尉をもって充てられ、地方総監の指揮監督を受け、音楽隊の隊務を統括する[5]。各隊は総務科・音楽科の2科で編成されており[5]、人員は約40名である[10]。東京音楽隊とは異なり、防衛事務官は置かれていない[10]

横須賀音楽隊は2014年、米国J.P.スーザ財団から世界の優れた軍楽隊に贈られる「ジョージハワード大佐顕彰」を受賞した[11]。日本からは航空自衛隊航空中央音楽隊、陸上自衛隊中央音楽隊に次いで3隊目。

非常設の音楽隊[編集]

毎年、海上自衛隊幹部候補生学校一般幹部候補生課程を卒業した初任幹部自衛官の実習を行う遠洋練習航海のために「練習艦隊司令部音楽隊」が編成(幹部2名・各音楽隊から演奏者3名の計20名を選抜)され、各国の寄港地で式典や親善のために演奏を行う[12]

制服[編集]

演奏中の1等海士。
海曹の常装冬服に飾緒と1士の階級章を付けている

演奏時の音楽隊員は演奏用の制服を着用するほか、通常の制服に飾緒などを付けて演奏することもある[13]。服装の斉一のために海士であっても海曹と同様の制服・正帽等が用いられるため、本来の海士の制服であるセーラー等は音楽隊に配属された時点で返納する。ただし、音楽隊所属であっても、経理・車両・給養など演奏業務に従事しない自衛官は他の海上自衛官と同様の制服を着用する。この場合、海士長以下の自衛官の帽章に表示する文字には、概ね部隊名が表示されているが、音楽隊の場合は「海上自衛隊」の文字となる。

音楽隊員徽章

隊員の処遇[編集]

採用[編集]

音楽隊員になるためには自衛官採用試験に合格するだけでなく、各音楽隊で実施される職種説明会で実技を行う必要がある[14][15]。また自衛隊入隊後、配属前に受検する音楽要員適性検査にも合格する必要がある[16]。隊員に音楽大学出身者が多いことから高い水準の演奏技術が求められ、高校の部活動吹奏楽を経験したという程度のレベルでは採用は難しい[17]が不可能ではない[18]

音楽隊員として採用された後も技量の維持が求められるため、限界を感じ海上自衛隊内の他の職種に転換する者もいる[18]

音楽隊には毎年決まった募集枠はなく、退職や異動などで欠員が出たパートごとに約10~20倍の競争倍率になる[19]。吹奏楽の各パートの他に、ピアノ[20]や声楽[21]、ハープ[22]等の採用例もある。

音楽隊員になることができる自衛官採用試験の区分は、自衛官候補生および一般曹候補生の採用試験である。また、年度によっては技術海曹の採用区分でも音楽隊員を募集することがある[20]

教育[編集]

採用された者は、採用区分別に海上自衛官としての基本教育を一般隊員とともに教育隊で受ける[16][20]。音楽隊に配属後、2年程度の勤務を経てから海士音楽課程(16週間、東京音楽隊で実施)の教育を、3等海曹への昇任後には初任海曹課程(一般隊員とともに各教育隊で実施)および海曹音楽課程(16週間、東京音楽隊で実施)の教育を受ける[1]。なお、平成26年度から各音楽隊の演奏業務への影響を考慮し教育期間の短縮が試行されており、制度化されれば教育期間は10週間程度に短縮される予定である。

音楽隊の業務で車両を運転することがあるため、中型自動車運転免許を取得する機会がある[1]

なお、現在は幹部自衛官(管理職としての業務の他、演奏では指揮者を務める)の外部募集は行っておらず、音楽隊内の有資格者(3等海曹昇任後4年経過し、かつ7月1日の時点で35歳以下の者)のうち志願した者が部内幹部候補生試験を受験する。合格後、海上自衛隊幹部候補生学校で約8ヶ月の訓練を受け、さらに初任幹部として音楽隊に1年~2年間勤務したのちに東京芸術大学で1年間指揮法の研修を受け、音楽幹部となる。なお、近年ではさらに研鑽を積むため、一部の幹部に対して桐朋学園大学で2年間の研修が実施されている。

日常の業務[編集]

舞鶴音楽隊の楽器運搬車

担当する楽器は貸与され、演奏に必要な消耗品は支給される[1]

通常の楽団では裏方に相当する業務、すなわち演奏会の企画などの事務作業から、楽器運搬車の運転やステージの設営に至るまで、演奏者である音楽隊員が分担して行う[23][24]。また、他の職種の自衛官と同様に、射撃などの訓練もある[17]

定年[編集]

自衛隊の多くの職種では、1佐以下の階級の者の定年は60歳未満(2曹・3曹の53歳から1佐の56歳まで4段階)であるが、音楽の職務にたずさわる自衛官の定年は、階級にかかわらず60歳と定められている[25]

注釈[編集]

  1. ^ 1951年(昭和26年)に発足した旧「海上保安庁音楽隊」は海上自衛隊東京音楽隊の前身であって、現在の「海上保安庁音楽隊」は、これとは別個に新たに創設されたものである(詳細は海上保安庁音楽隊を参照)。

出典[編集]

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  1. ^ a b c d 職種ガイダンス 第2章 第2節 職種の紹介(その他)”. 海上自衛隊. 2015年6月19日閲覧。
  2. ^ コラム『楽隊よもやま話』第三話 ~音楽隊のお仕事 その1~”. 大湊音楽隊. 2014年10月12日閲覧。
  3. ^ a b 横須賀音楽隊慰問コンサート(21.12.15)”. 自衛隊横須賀病院. 2014年10月12日閲覧。
  4. ^ a b c 小池直也 (2017年10月25日). “心の平和の為に音楽届ける、三宅由佳莉 吹奏楽と歌は相反しない”. ミュージックヴォイス. 2017年10月29日閲覧。
  5. ^ a b c d 音楽隊の編制に関する訓令
  6. ^ 海上保安庁音楽隊の歴史”. 海上保安庁音楽隊. 2015年7月26日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g プロフィール・沿革”. 東京音楽隊. 2015年6月19日閲覧。
  8. ^ スイス・バーゼルタトゥー2016”. 東京音楽隊. 2017年11月28日閲覧。
  9. ^ 「ニコニコ超会議2017」に出演”. 東京音楽隊. 2017年11月28日閲覧。
  10. ^ a b 菊池雅之、2017、「知られざる重要部隊の全貌 第10回 海上自衛隊の音楽隊」、『隔月刊JShips 2017年12月号』(77)、イカロス出版 pp. 53-59
  11. ^ 第49回定期演奏会(H27.2.27)”. 横須賀地方隊. 2015年9月23日閲覧。
  12. ^ 『楽隊よもやま話』第八話 練習艦隊司令部音楽隊”. 大湊音楽隊. 2015年2月8日閲覧。
  13. ^ ユニホーム”. 東京音楽隊. 2014年10月21日閲覧。
  14. ^ 平成29年度 海上自衛隊音楽隊音楽職種説明会実施要領 (PDF)”. 東京音楽隊. 2017年6月15日閲覧。
  15. ^ 平成29年度 音楽職種説明会指定曲 (PDF)”. 東京音楽隊. 2017年6月15日閲覧。
  16. ^ a b 日辻彩 「三宅由佳莉3等海曹インタビュー」『突撃!自衛官妻5』 ぶんか社2015年、73-78頁。ISBN 978-4-8211-7754-7
  17. ^ a b 海上自衛隊音楽隊採用説明会”. 大阪芸術大学公式ブログ (2008年5月21日). 2015年6月19日閲覧。
  18. ^ a b 海上自衛隊 第23航空隊 Interview No.11 - 音楽隊員から写真員へ転換した例
  19. ^ 月刊Jウイング2012年1月号 横須賀音楽隊員へのインタビュー記事。
  20. ^ a b c 太田紗和子. “(VOICE)音楽による絆 -海上自衛隊のピアニスト-”. 防衛省. 2012年2月17日閲覧。
  21. ^ 海上自衛隊横須賀音楽隊ミニコンサート 中川麻梨子1等海士 プロフィール”. 日本咽頭科学会. 2015年7月6日閲覧。
  22. ^ 海上自衛隊公式Twitter”. Twitter (2013年9月20日). 2015年6月19日閲覧。
  23. ^ コラム『楽隊よもやま話』第一話 ~音楽隊の「ウラ?」のお仕事~”. 大湊音楽隊. 2014年10月12日閲覧。
  24. ^ 【楽隊こぼれ話】 その1 ~広報係の憂鬱~”. 東京音楽隊. 2014年10月12日閲覧。
  25. ^ 自衛官の階級 (注)2”. 防衛省. 2014年10月12日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]