池内恵

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池内恵
Ikeuchi Satoshi
人物情報
生誕 1973年(44–45歳)
日本の旗 日本東京都
国籍 日本の旗 日本
出身校 東京大学
東京大学大学院総合文化研究科
学問
研究分野 イスラム政治思想
(Islamic Political Thought)
研究機関 東京大学先端科学技術研究センター (RCAST)
称号 准教授 (Associate Professor)
主な受賞歴 大佛次郎論壇賞
毎日書評賞
サントリー学芸賞
毎日出版文化賞
中曽根康弘賞
公式サイト
中東・イスラーム学の風姿花伝
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池内 恵(いけうち さとし、1973年9月24日 - )は、日本のイスラム研究者東京大学先端科学技術研究センター准教授。専門は、イスラム政治思想。 東京都出身。父は独文学者池内紀、叔父は天文学者池内了

学歴[編集]

職歴[編集]

主張[編集]

イスラム思想[編集]

ズィンミー制度に関して:イスラームの暴力的な側面に関して極めて批判的である。従来親イスラーム的学者たちによって擁護・賞賛されることの多かった[1]ズィンミー制度の本質を「異教徒に対する苛烈な差別、蔑視」とであるとし、現代においてはその有効性はすでに失われていると主張している[2][3]。また、日本の研究者の多くは鈴木董のオスマン帝国におけるズィンミー制度の研究成果と見解を引用し、ズィンミー制度に高すぎる評価を下しているとしている[4]。イスラーム教徒の一部に今なお残存するズィンミー制度適用への願望と、その優越性を主張する論理に対しては、「前近代の極端に宗教的に不寛容な時代、その中でも中世キリスト教世界との比較を中心としてイスラーム的寛容の優越性を主張しており、近現代の政教分離思想との比較に関しては政教分離すなわち反宗教主義と決め付け、文化多元主義宗教間対話宗教多元主義などは考慮に入れていない」と批判している[5]

日本のイスラーム研究に関して:日本のイスラーム研究は「イスラーム思想やイスラーム世界を過度に理想化」[6]しており、「イスラーム的共存や寛容の存在とその優越性は、具体的事例が示されないまま、ほとんど自明のものとされている」[7]として批判を行っている。以下に、オリエンタリズムを巡る2研究者について、引用を持って例をあげたい。

小さな本にこめられた、現代のイスラム談義への大きな批判『CUT』2006 年 5 月 山形浩生より

「サイードがイメージほどはアラブ世界ともパレスチナとも関係なく、アラビア語も大してできず、アラブ世界ではまったく相手にされておらず、アラブ中東をネタに欧米で英語でしか書かない人物だと指摘したうえで、サイードの議論の問題点を挙げ、むしろルイスのほうがきちんとした学問的な基盤に基づいて発言をしていることを明確に示してくれる。そして、日本にも多いサイード信者、さらには中東に反近代的な幻想を投影してしまう傾向について、穏やかな口調ながらもきわめて手厳しい批判を展開している。アラブ世界は近代化しないという批判に対し、近代化のかわりにイスラーム化という変ななんでもありの概念が持ち出されている、と(あ、ちなみにこの「イスラーム」という書き方も、その過程で生じた言葉狩りの結果だそうな。知らなかった。ぼくは確か板垣雄三に影響されような記憶がある)」

井筒俊彦のイスラーム解釈に関して:公表された論考・記事は次の通り。鼎談「我々にとっての井筒俊彦はこれから始まる 生誕一〇〇年 イスラーム、禅、東洋哲学・・・・・・」『中央公論』2014年4月号。なお、以下の2論文は増補新板「イスラーム世界の論じ方」に収録されている。「井筒俊彦の主要著作に見る日本的イスラーム理解」『井筒俊彦』(KAWADE 道の手帖)2014年6月(初出は『日本研究』第36集、2007年9月)。「言語的現象としての宗教」『月報 井筒俊彦全集 第12巻 アラビア語入門』慶應義塾大学出版会、2016年3月。

ジハードに関して:更にイスラーム共同体による過去の征服の過程の殺戮を「正しい宗教の拡大のためにおこなった正しい行い」として全面的に正当化し、他の宗教・思想のそれは批判するという一部のムスリムの思想に対しても批判を加えている[8]

中東政治全般[編集]

『外交』掲載論文「『ポストISIL』に潜む新たな混迷」Vol. 46, 2017年11月。「中東に見る『国民国家』再編の射程」 Vol.37, 2016年5月。「中東の地政学的変容とグローバル・ジハード論」Vol.28, 2016年11月。 「アル・カーイダの夢ー2020年世界カリフ国家構想」Vol.23, 2014年1月。

「イスラム成立とオスマン帝国崩壊 影響与え続ける「初期イスラム」現代を決定づけたオスマン崩壊」『週刊エコノミスト』2014年11月11日号

《アラブの春5年 独裁崩壊の代償》「アラブの混乱 地域分裂、危機は深まる 」『毎日新聞』2016年1月15日朝刊

サイクス=ピコ協定に関して[編集]

サイクス=ピコ協定は、第一次世界大戦後の中東に秩序を与え、それをもとに政治が行われたり、国民社会が形成され、国際関係が取り結ばれたと主張し、サイクス=ピコ協定という外交文書やイギリス、フランスの帝国主義・植民地支配だけに、現在の中東諸問題の責任を帰する立場を批判している[9]。以下に寄稿「中東にみる「国民国家」再編の射程—サイクス・ピコ協定から100年の歴史的位相」『外交』Vol.37、2016年5月号

ISISに関して[編集]

この時期に公開された論考を以下に挙げる。「復活するアルカイダ ~テロへ向かう世界の若者たち~」クローズアップ現代+、2014年4月24日。「いま何が... "イスラム国"勢力拡大のワケ」NHK週刊ニュース深読み、2014年09月20日。イスラム国躍進の構造と力 『公研』2014年10月号 山形浩生との対話。「イスラーム国」に共感する「大人」たち」『公研』2014年11月号。「若者はなぜイスラム国を目指すのか」『文藝春秋』2014年12月号。「勢力拡大する『イスラム国』~日本へのテロの脅威は?」出演、BSジャパン『ニュース日経プラス10』2015年3月12日 。「イスラム国とは何か 判断材料にしてほしい」『読売プレミアム』2015年3月27日。「分散化して生き延びるIS 世界にジハードが広がる恐れも」e-World Premium, Vol. 28 (2016年5月号), 時事通信社。テロ“拡散”時代 世界はどう向き合うか - NHKクローズアップ現代 No.3783 2016年3月16日。「イスラム国」の実態は 中東の構造変化が背景 松尾博文 日本経済新聞(2016年12月5日)

ISILによる日本人拘束事件に関して[編集]

2015年1月20日、ISILのメンバーが湯川氏と後藤氏を殺害すると述べている動画が公開された。同日、池内はブログ記事を公開。「単に首相が訪問して注目を集めたタイミングを狙って、従来から拘束されていた人質の殺害が予告されたという事実関係を、疎かにして議論してはならない」「イスラーム国」側の宣伝に無意識に乗り、「安倍政権批判」という政治目的のために、あたかも日本が政策変更を行っているかのように論じ、それが故にテロを誘発したと主張して、結果的にテロを正当化する議論が日本側に出てくるならば、少なくともそれがテロの暴力を政治目的に利用した議論だということは周知されなければならない」と述べた。2月3日「イスラム国」は日本の支援が「非軍事的」であることを明確に認識しているとのブログ記事を公開。3月12日、本件検証委員会へ外部有識者として参画、守秘義務のかかる非常勤の国家公務員として菅官房長官より発令された。これに対する本人見解

バルド国立博物館での銃乱射事件[編集]

2015年3月18日チュニジアの首都・チュニスバルド国立博物館で、外国人観光客が武装した男2人組に襲われた。これを受けて、3月22日「週刊BS-TBS報道部」に出演し、チュニジア分析を行う。

シリアのアサド政権による化学兵器使用[編集]

2017年4月4日にシリア北西部イドリブ県内、反政府派支配地域ハンシャイフンへ化学兵器攻撃が行われた。これへの報復措置として、米軍はシリアのシャイラト空軍基地を標的に59発の巡航ミサイルを発射した。この事件を受け4月18日「米国のシリア攻撃展望は 米政策の不可測性に長短」と題する記事を日本経済新聞に寄稿した。同年10月26日、国連とOPCW(化学兵器禁止機関)の合同調査団が、サリンを使用したのはシリアのアサド政権であると結論づけた。

ダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件[編集]

2016年7月1日、バングラデシュの首都ダッカにあるレストランを、武装した7人が襲撃した。犯人たちは「アッラーフ・アクバル」と叫びながら襲撃を行なったと報じられ、犠牲者には、国際協力機構 (JICA) 関係者の日本人7人が含まれていた。2017年7月、国際開発ジャーナルの事件後1年特集号に、「中東と動揺する世界」と題する記事を寄稿し、グローバル・ジハードの周辺への拡散とまだら状の秩序の出現による予測不可能性について述べている。

トランプ大統領のエルサレム認識について[編集]

2017年12月7日、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めて大使館を移転すると発表した。これを受けて世界に与える印象と、アメリカがとる具体策とのギャップを指摘する一連の論考を新潮社の会員制情報サイトのフォーサイトに公開した(エルサレム問題は何が「問題」なのか)。本件に関し、12月10日放送のBS-TBSの「週刊報道LIFE」に出演して解説を行う。12月13日、ニッポン放送「ザ・ボイス そこまで言うか!」に出演し、周辺事情を解説した。

米トランプ大統領のエルサレム首都認定宣言」「中東協力センターニュース」2018年1月号

エルサレムの地位に関する見解を以下の媒体に寄稿しており、これも増補新板「イスラーム世界の論じ方」に収録されている。「エルサレム「神殿の丘」の宗教と権力」『熱風』2015年3月号 スタジオジブリ出版部

西洋とイスラム[編集]

宇野重規との対談「宗教と普遍主義の衝突」(中央公論 2016年9月号)において、移民問題が焦点となったイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票を入り口に、SNS時代の直接民主制の機能と限界、西洋近代が培ってきた普遍があまりに強固である場合、起源も歴史的な発展経路も異なるイスラムが有する別種の「普遍」を認識し、適切に対応するのが遅れることを指摘しつつ、対西欧で独自発展した日本の言論界がこの構造を明確に自覚できていないが故に内包する危うさについて述べた。これは2016年12月19日の読売新聞朝刊文化欄「回顧2016 論壇」の「今年の論考ベスト3」で、久米郁男(早稲田大学教授・政治学)と坂元一哉(大阪大学教授・国際政治学)によりベスト3に選ばれた。

国末憲人は、『ポピュリズムと欧州動乱 フランスはEU崩壊の引き金を引くのか』(2017年4月)において、ムスリム同胞団の創設者ハサン・バンナーの孫でイスラーム思想家・活動家のタリク・ラマダンとの議論を、池内との議論と合わせて深め、ムスリムの権利擁護を主張する議論が西欧の社会規範の前提となる自由を掘り崩すことになる危険性を問うた。ここに、『朝日新聞』2016年10月21日付朝刊のインタビュー「奉じる「自由」の不自由さ」の要旨が再掲された。

パリ同時テロ事件に関して[編集]

2015年11月13日、パリのバタクラン劇場と周辺のレストラン・カフェ数カ所、及びスタジアムにおいて130名が犠牲となるテロ事件が発生した。特別編集版「パリ同時テロ事件を考える」が白水社より出版され、ここに『「イスラーム国」の2つの顔』を寄稿した。これも「増補新版イスラーム世界の論じ方」に収録されている。また、”パリ同時テロ事件“世界はどう向き合うのか” と題するNHK日曜討論に出演している。ここで、イスラム教の教義とイスラム教徒を分けて考える必要性に言及した。クローズアップ現代にも出演、解説。「緊急報告 パリ“同時テロ”の衝撃」No.3733 2015年11月16日。【地図】パリ同時多発テロ事件の発生地点詳細。

シャルリ・エブド事件に関して[編集]

2015年1月7日、イスラム教の預言者ムハンマドの戯画を掲載したシャルリ・エブド紙社屋と編集記者を標的としたテロ事件が発生した。1月8日付毎日新聞に「緊張高まるだろう」とコメントを掲載し、「西洋社会に拒絶感、移民抑制も」とのコメントを『産経新聞』に掲載した。 この事件を受け、月刊誌「ふらんす」特別編集による「シャルリ・エブド事件を考える」が白水社より出版され、ここに「自由をめぐる2つの公準」を寄稿した。同論文は「増補新版イスラーム世界の論じ方」に収録された。

「欧米リベラル」特有のイスラーム理解[編集]

イスラーム教に対する理解に関して、日本特有の偏向が存在する事を度々指摘しているが、「欧米リベラル」にも特有の偏向が存在すると指摘している。 池内が翻訳を行い日本では2008年に出版されたブルース・ローレンス英語版「コーラン」の中での塩野七生との対談で、本書の中で「欧米のキリスト教徒に対して宥和的に議論した」[10]論者であるワリス・ディーン・ムハンマド英語版が重点的に取り上げられていることに疑問を呈しているが、コーランイスラーム教徒だけでなくキリスト教徒の観点を知る本として評価している。[11]

イギリスの作家でキリスト教徒カレン・アームストロング英語版と、日本では2017年に出版された彼女の著書『イスラームの歴史 —1400年の軌跡』について、「読んでいると現実が分からなくなる」[12]と厳しく批判していたが、同時に「米国のリベラル派の宗教者がイスラーム教を無理やり自分の信仰と近いものとして理解し、であるがゆえに米国で広く受け入れられた、米国思想だと知っておけば、絶好のサンプルにはなります。」[13][注釈 1]として米国特有のイスラーム教理解を日本人が理解する参考としての一定の評価をしている。

政治思想・国際政治[編集]

ウォルター・ラッセル・ミード著「神と黄金」書評を、「二十一世紀の『大きな話』、あるいは歴史を動かす蛮勇」としてアステイオン86「権力としての民意」特集巻(2017年5月)に寄稿した。

「グローバル・リスク分析」 PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクト 2018年版 2017年版 2016年版 2015年版 2014年版 2013年版

文藝春秋オピニオン論点100 2018年版「『イスラーム国』後の中東で表面化する競合と対立」、2017年版「テロの世界的拡散 その先には何があるのか」、2016年版「『アラブの春』から『新しい中世』でせめぎ合う新冷戦へ」、2015年版「『イスラーム国』とグローバル・ジハード

「独裁国家の仕組み」『公研』2016年10月号 武内宏樹との対談

各国語による著作・論文[編集]

Ikeuchi Laboratory ”Individual and collective actions spontaneously motivated by the Islamic religio-political normati ve systems

PHP Global Risk Analysis 2018

그들은 왜 오렌지색 옷을 입힐까

評価[編集]

池内の主張に対しては、イスラム教徒全てが前時代的考えを持っていないにもかかわらず、イスラムをステレオタイプ化して批判しているという評価や、日本のイスラーム研究は決して池内が言うように親イスラームに偏ってはいないという批判がある。

塩尻和子は、池内のイスラーム批判は、クルアーンの中の一部の暴力的な文言だけを取り出し、イスラーム世界の現実において展開された諸宗教の共存や、聖書の中の暴力的文言を無視した不当なものであると批判している[14]

臼杵陽は、池内はイスラーム原理主義はその隘路を「終末論」や「陰謀史観」で覆い隠そうとしていると主張しているが、実際にはアラブ世界の陰謀論を声高に宣伝する中東研究者はアメリカでもイスラエルでさえも少数派であり、それは日本研究者が日本における「トンデモ本」を日本の世論一般を代表するものとして取り上げて、それが日本の世論だと主張するような歪曲と大して変わらないと批判している。さらに、中東地域研究に携わる研究者であれば、池内の議論は池内がかなり恣意的にアラビア語の文献や資料を集めてきて陰謀論を軸に展開していると考えるだろうと主張している。また、池内の主張はネオコンであるダニエル・パイプスのような研究者の陰謀説と一致しており、池内は自らの「客観性」を標榜しながらもイスラーム世界全体が「陰謀史観とオカルト思想」で覆われているかのごとく描くことで、アメリカ政府の「対テロ戦争」遂行とそれを支持する日本政府に益する政策志向的な議論を展開する偏向した政治的立場を取っていると述べている[15]

受賞歴[編集]

著書[編集]

翻訳[編集]

その他[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 『アラブ政治の今を読む』p.214、池内によればこのような風潮は日本のイスラーム研究の多数派であるとしている
  2. ^ 『アラブ政治の今を読む』pp.213-215、pp.225-227
  3. ^ 塩尻和子「イスラームの教義は暴力を容認するのか(1)」『中東協力センターニュース』30巻1号(2005年・PDFファイル)、池内の著書からの引用を参照
  4. ^ 『アラブ政治の今を読む』p.210、p.214
  5. ^ 『アラブ政治の今を読む』p.226
  6. ^ 『アラブ政治の今を読む』p.198
  7. ^ 『アラブ政治の今を読む』p.198
  8. ^ 『アラブ政治の今を読む』pp.226-227
  9. ^ 『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』pp.13-16
  10. ^ ブルース・ローレンス『 「コーラン」—名著誕生5』ポプラ社、2008年、p237
  11. ^ ブルース・ローレンス『 「コーラン」—名著誕生5』ポプラ社、2008年、p247
  12. ^ Twitter @chutoislam 2018/03/03閲覧。
  13. ^ Twitter @chutoislam 2018/03/03閲覧。
  14. ^ 塩尻和子「イスラームの教義は暴力を容認するのか(2)」『中東協力センターニュース』30巻2号(2005年・PDFファイル)。 ここで塩尻は池内の意見はイスラームの暴力的側面を過度に強調していると主張している。
  15. ^ 臼杵陽「日米における中東イスラーム研究の「危機」」『地域研究』7巻1号、2005年 (PDF)

注釈[編集]

  1. ^ TEDで受賞し、The battle for God英語版が米国で出版されベストセラーとなるなど、米国で広く活動したことは事実であるが、アームストロングは英国人である。

外部リンク[編集]