比較方法 (言語学)

比較方法(ひかくほうほう、英語: Comparative method)または比較法(ひかくほう)とは、言語学において共通の祖先(祖語)を持つ同系関係にある2つ以上の言語を体系的に比較し、その祖語の形式を再構(reconstruction)することによって、言語の変化や発達を研究する手法である。単一の言語内部の特徴を分析することによってその言語の歴史的変化を推定する内的再構の手法と対照される[1]。通常、これら両方の手法は、言語の有史以前の段階を再構するため、言語の歴史記録の欠落を埋めるため、音韻論的・形態論的その他の言語体系の発達を発見するため、そして仮説立てられた言語間の関係を裏付けるあるいは反証するために、併用される。比較方法は現代においても歴史言語学の中心的手法の一つであり、印欧語族をはじめとする多くの語族の研究に適用され、言語の系統関係の解明に大きく貢献してきた。
比較方法は19世紀初頭に印欧語学の誕生とともに現れ、19世紀末から20世紀初頭にかけて青年文法学派の研究によって体系化された[2]。この手法は、規則的な音韻対応と体系的な比較に基づくため、言語の系統関係を科学的に実証する強力な手段となっている。一方で、言語接触、借用、方言の多様性など、実際の言語変化の複雑さを完全には捉えきれない側面もあり、これらの限界を認識した上で適用することが重要である。
比較方法の確立には、多くの学者が段階的に貢献してきた。19世紀前半には、デンマークのラスムス・ラスク (1787–1832) とドイツのヤーコプ・グリム (1785–1863) が規則的な音変化の原理を発展させた。その後、19世紀後半には、デンマークのカール・ヴェルナー (1846–1896) が条件付き音変化の重要性を明らかにし、比較方法の精緻化に貢献した。祖語から再構された形を提示した最初の言語学者はアウグスト・シュライヒャー (1821–1868) であり、1861年に出版された『インド・ゲルマン語比較文法概説』(ドイツ語: Compendium der vergleichenden Grammatik der indogermanischen Sprachen) において行われた[3][4]。
定義
[編集]原理
[編集]比較方法の目的は、実際の用例が確認された(資料のある)2つ以上の言語間の体系的な音韻論的および意味論的な対応関係を明らかにし、解釈することである。例えば、英語の father、ドイツ語の Vater、ラテン語の pater、サンスクリット語の pitṛ などは、いずれも「父」を意味し、音韻的にも規則的な対応関係を示している。このような対応関係を多数分析することで、これらの言語が共通の祖先である印欧祖語から派生したことが実証される。
それらの対応関係が十分に数多く、規則的で、体系的である場合を考える。そして、それらが言語普遍性や言語接触(借用語、地域的影響など)の結果として合理的に説明できず、かつ見かけ上の同根語(偶然の一致)として退けることができない場合、それらは「祖語」と呼ばれる単一の親言語に由来すると仮定されなければならない[5][6]。
そして、実証されている語形の間の対応関係を説明するために、一連の規則的な音変化(およびその根底にある音法則)を措定することができる。これにより最終的には、対応関係の一般化された体系内での「言語的事実」の整然とした比較によって、祖語の再構が可能になる[7]。
あらゆる言語的事実は、相互につながった全体の一部である。ある細部を他の細部と結びつけるのではなく、ある言語体系を他の言語体系と結びつけなければならない。—アントワーヌ・メイエ、La méthode comparative en linguistique historique、1966 [1925], pp. 12–13.
共通の祖先の再構が可能であれば、その関係は「合理的な疑いの余地なく確立された」と見なされる[8]。
系統関係の究極の証明は、また多くの言語学者の考えでは唯一の真の証明は、意味的に対応する同源語を派生させることができる祖形を再構することに成功することにある。—ハンス・ヘンリッヒ・ホック、Principles of Historical Linguistics、1991, p. 567.
場合によっては、比較される言語の資料が非常に乏しかったり、それらと祖語との時間的隔たりが大きかったり、あるいは内部的な変化によって音法則の多くが研究者にとって不明瞭になっていたりするため、この再構が部分的にならざるを得ないこともある。そのような場合、関係はもっともらしいが不確実であると見なされる[9]。
基本概念
[編集]比較方法において前提となる概念について述べる。
- 系統と継承
- 系統 (Descent) とは、世代を超えた言語の伝達を指す。話者は親の世代から言語を学び、それを次の世代へと伝えるという連鎖が繰り返されることで、言語は継承される。例えば、数世紀にわたる話者の連続的な連鎖が、俗ラテン語とその現代の娘言語(ロマンス諸語)を結びつけている。
- 同根語
- 同根語(cognates)とは、共通の祖先の語から派生した、異なる言語における語のことである。2つの言語が同じ祖語から派生した場合、それらは系統的に関連している(同系である)という[10]。例えば、イタリア語とフランス語はどちらもラテン語に由来するため、同じ語族であるロマンス諸語に属する[11]。具体的には、イタリア語の notte(夜)とフランス語の nuit(夜)は、どちらもラテン語の nox(夜)から派生した同根語である。このような語の対応関係を多数見出すことが、比較方法の出発点となる。
- 特定の起源からの借用語が語彙の大きな割合を占めることだけでは、系統的関連性を確立するには不十分である。例えば、アラビア語からペルシア語への多大な借用により、現代ペルシア語の語彙の多くはペルシア語の直接の祖先であるインド・イラン祖語よりもアラビア語に由来しているが、ペルシア語は依然としてインド・イラン語派の一員であり、アラビア語と「同系」であるとは見なされない[12]。
- 下位分類(サブグループ)
- 言語間の関連性の度合いが異なることはあり得る。例えば、英語はドイツ語とロシア語の両方に関連しているが、ロシア語よりもドイツ語により密接に関連している。3つの言語はすべて共通の祖先である印欧祖語を共有しているが、英語とドイツ語はより最近の共通祖先であるゲルマン祖語も共有しているのに対し、ロシア語はそうではない。したがって、英語とドイツ語は、ロシア語が属さない印欧語族のサブグループ、すなわちゲルマン語派に属すると見なされる[13]。
- 関連言語をサブグループに区分することは、それらを親言語から区別する共有革新 (shared innovation)を見つけることによって達成される。例えば、英語とドイツ語はどちらもグリムの法則として知られる一連の音変化の影響を示しているが、ロシア語は影響を受けていない。英語とドイツ語がこの革新を共有しているという事実は、英語とドイツ語がより最近の共通祖先を持っていたことの証拠と見なされる。一方、親言語からの共有保持 (shared retention)は、サブグループの十分な証拠とはならない。例えば、ドイツ語とロシア語はどちらも印欧祖語から与格と対格の区別を保持しているが、英語はこれを失っている。しかし、ドイツ語とロシア語の間のその類似性は、ドイツ語が英語よりもロシア語に密接に関連しているという証拠ではなく、問題の「革新」である対格/与格の区別の喪失が、英語とドイツ語の分岐よりも最近になって英語において起こったことを意味するに過ぎない。
起源と発展
[編集]古代において、ローマ人はギリシア語とラテン語の類似性に気づいていたが、体系的に研究することはなかった。彼らは時にそれを神話的に説明し、ローマは堕落した方言を話すギリシアの植民地であった結果であるとした[14]。
古代の文法学者は、彼らの周囲にある他の言語(オスク語、ウンブリア語、エトルリア語、ガリア語、エジプト語、パルティア語など)に接することができたにもかかわらず、それらを比較、研究、あるいは単に記録することにほとんど関心を示さなかった。言語間の比較が本格的に始まったのは、中世後期から近世にかけてのことである。
初期の研究
[編集]古代より、言語間の類似性は気付かれていたが、体系的な比較研究が行われるようになったのは比較的遅い時期である。 9世紀または10世紀、イェフダ・イブン・クライシュはヘブライ語、アラム語、アラビア語の音韻と形態を比較したが、その類似性を聖書のバベルの塔の物語に帰し、アブラハム、イサク、ヨセフはアダムの言語を保持したが、他の言語は様々な隔たりを持って元のヘブライ語から変化していったとした[15]。

1647年と1654年の出版物で、マルクス・ズエリス・ファン・ボックスホルンは初めて歴史言語学的比較のための厳密な方法論を記述し[16]、彼が「スキタイ語」と呼んだ、ヘブライ語とは無関係だがゲルマン語、ギリシア語、ロマンス語、ペルシア語、サンスクリット語、スラブ語、ケルト語、バルト語の祖先となる印欧祖語の存在を提唱した。スキタイ語説はさらにアンドレアス・イェーガー (1686) とウィリアム・ウォットン (1713) によって発展させられ、彼らは原始共通語を再構する初期の試みを行った。1710年と1723年に、ランベルト・テン・カテは初めて音法則の規則性を定式化し、とりわけ語根母音という用語を導入した[16]。
文法と語彙の類似性に基づいて2つの言語の関係を証明しようとする別の初期の体系的な試みは、1770年にハンガリーのシャイノヴィチ・ヤーノシュによってなされ、彼はサーミ語とハンガリー語の関係を実証しようとした。この研究は後に1799年に同国人のサミュエル・ギャルマティによってすべてのフィン・ウゴル語派に拡張された[17]。しかし、現代の歴史言語学の起源は、しばしばインドに住んでいたイギリスの文献学者、サー・ウィリアム・ジョーンズに遡るとされる。1786年、彼はサンスクリット、ギリシア語、ラテン語の類似性を指摘し、これらが共通の起源を持つ可能性について以下のような有名な観察を述べた[18]。
サンスクリット語は、その古さがどうであれ、驚くべき構造を持っている。ギリシア語よりも完璧で、ラテン語よりも豊富で、そのどちらよりも精巧に洗練されている。しかし、動詞の語根においても文法の形式においても、偶然に生じたとは考えられないほど強い親和性を両者に対して持っている。実際あまりに強いので、いかなる文献学者も、これら3つすべてを調べれば、もはや存在しないかもしれないある共通の源から派生したと信じざるを得ないだろう。同様だがやや弱い根拠により、ゴート語とケルト語も、非常に異なる言語的特徴が混ざり合ってはいるが、サンスクリット語と同じ起源を持っていたと推測される。また古代ペルシア語も同じ語族に加えられるかもしれない。
比較言語学
[編集]比較方法は、ジョーンズが言及した祖語(彼は名前を挙げなかったが、後の言語学者は印欧祖語 (PIE) と呼んだ)を再構しようとする試みから発展した。当時知られていた印欧語族間の最初の専門的な比較は、1816年にドイツの言語学者フランツ・ボップによって行われた。彼は再構は試みなかったが、ギリシア語、ラテン語、サンスクリット語が共通の構造と共通の語彙を共有していることを実証した[19]。1808年、フリードリヒ・シュレーゲルは、言語の関係を証明しようとする際には可能な限り古い形式を使用することの重要性を初めて述べた[20]。1818年、ラスムス・ラスクは、ゲルマン語派の個々の単語とギリシア語やラテン語の同源語との間の類似性の観察結果を説明するために、規則的な音変化の原理を発展させた[21]。『グリム童話』でよく知られるヤーコプ・グリムは、『ドイツ語文法』(ドイツ語: Deutsche Grammatik 、1819年-1837年に4巻で出版)において比較方法を用い、共通の起源からのゲルマン語派の発達を示そうと試みた。これは通時的な言語変化に関する最初の体系的な研究であった[22]。
ラスクとグリムは、彼らが発見した音法則における明白な例外を説明することができなかった。ヘルマン・グラスマンが1862年にグラスマンの法則を発表して、これらの例外の一つを説明したが[23]、カール・ヴェルナーは1875年に方法論的な突破口を開いた。彼は現在ヴェルナーの法則として知られるパターンを特定した。これは、ある音素における音韻論的変化が同じ単語内の他の要因(隣接する音素やアクセントの位置など)に依存しうることを示す、比較証拠に基づく最初の音法則であり[24]、現在これらは「条件付け環境」と呼ばれている。
青年文法学派のアプローチ
[編集]19世紀後半にライプツィヒ大学の「青年文法学派」(Junggrammatiker)によってなされた同様の発見は、すべての音変化は例外なく規則的であるという結論に彼らを導き、1878年のカール・ブルークマンとヘルマン・オストホフによる「音法則に例外なし」という有名な声明につながった[2]。この考えは現代の比較方法の基礎となっている。なぜなら、これは関連する言語の音の間に規則的な対応関係があり、したがって祖語からの規則的な音変化があることを必然的に仮定するからである。「青年文法学派の仮説」は、印欧祖語を再構するための比較方法の適用へとつながった。当時、印欧語族は圧倒的に最もよく研究された語族であったからである。他の語族を研究する言語学者もすぐに後に続き、比較方法は言語関係を明らかにするための確立された手法となった[17]。
適用
[編集]比較方法の適用において従うべき厳密に決まったステップは存在しないが、歴史言語学の入門テキストの著者であるライル・キャンベル[25]とテリー・クロウリー[26]によって、体系的な手順が提案されている。以下に説明する方法は、この枠組みに基づいている。
比較方法の基本的な流れは次のようになる。まず、比較対象の言語間で同根語の候補を収集し(ステップ1)、それらの間に見られる規則的な音対応を特定する(ステップ2)。次に、複数の対応セットが相補的な分布を示す場合、それらを単一の祖形から派生したものと見なす(ステップ3)。これらの対応関係に基づいて祖語の音韻体系を再構し(ステップ4)、最後に再構された体系が言語学的に妥当なものかを検証する(ステップ5)。以下、各ステップについて詳しく説明する。
ステップ1:同根語の可能性があるリストの組み立て
[編集]このステップの目的は、比較対象の言語間で系統的な関係を示す可能性のある語彙を収集することである。 このステップでは、比較対象の言語間で同根語として認識される可能性のある単語のリストを作成する。基礎語彙とは、数詞、親族名称、身体部位、基本的な動詞(「食べる」「飲む」「見る」など)といった、どの言語でも通常存在し、借用されにくい語彙のことである。同様の意味を持つ基礎語彙の音声構造の間に、規則的な対応がある場合、遺伝的関係が確立される可能性が出てくる[27]。たとえば、ポリネシア諸語を研究する言語学者は、次のようなリストを作成するだろう(実際のリストはさらに長くなる)[28]。
| 語義 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 人 | 海 | タブー | タコ | カヌー | 入る |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| トンガ語 | [taha] | [ua] | [tolu] | [fā] | [nima] | [taŋata] | [tahi] | [tapu] | [feke] | [vaka] | [hū] |
| サモア語 | [tasi] | [lua] | [tolu] | [fā] | [lima] | [taŋata] | [tai] | [tapu] | [feʔe] | [vaʔa] | [ulu] |
| マオリ語 | [tahi] | [rua] | [toru] | [ɸā] | [rima] | [taŋata] | [tai] | [tapu] | [ɸeke] | [waka] | [uru] |
| ラパ・ヌイ語 | [-tahi] | [-rua] | [-toru] | [-ha] | [-rima] | [taŋata] | [tai] | [tapu] | [heke] | [vaka] | [uru] |
| ラロトンガ語 | [taʔi] | [rua] | [toru] | [ʔā] | [rima] | [taŋata] | [tai] | [tapu] | [ʔeke] | [vaka] | [uru] |
| ハワイ語 | [kahi] | [lua] | [kolu] | [hā] | [lima] | [kanaka] | [kai] | [kapu] | [heʔe] | [waʔa] | [ulu] |
借用語や欺瞞的同根語(偶然の一致)は、正しいデータを歪めたり、覆い隠したりする可能性がある[29]。たとえば、英語の「taboo」(タブー)([tæbu])は、表の6つのポリネシア語の語形と似ているが、これは遺伝的な類似性ではなく、トンガ語から英語に借用されたことによる類似性である[30]。この問題は、親族関係の用語、数字、体の部分、代名詞などの基礎語彙を使用することで、通常は克服することができる[31]。それでも、基礎語彙でさえも借用される場合がある。フィンランド語は、たとえば、äiti「母」という語を、ゲルマン祖語の *aiþį̄ (ゴート語 aiþeiを参照) から借用している[32]。 英語は、「they」、「them」、「their(s)」という代名詞を北欧語から借用した[33]。タイ語やその他の東アジアのさまざまな言語は、中国語から数詞を借用した。極端な例としては、南米のムーラ語であるピダハン語があり、議論はあるものの[34]、ニェエンガトゥ語からすべての代名詞を借用したと主張されている[35][36]。
ステップ2:音対応するセットの確立
[編集]このステップの目的は、収集された同根語候補の間に、偶然ではない体系的な音の対応関係を見出すことである。規則的な音対応が多数確認されれば、それらの言語が共通の祖先から派生したことの強力な証拠となる。
たとえば、上記のポリネシア諸語のデータでは、リスト対象のほとんどの言語で「t」を含む単語が、ハワイ語で「k」を同じ位置に持つ語と同根語であることが明らかである。これは、複数の同根語のセットで確認できる。「one」、「three」、「man」、「taboo」の単語はすべて、この関係を示している。この状況は、ハワイ語の「k」と他のポリネシア諸語の「t」の間の「規則的な音対応」と呼ばれる。同様に、ハワイ語とラパヌイ語の「h」、トンガ語とサモア語の「f」、マオリ語の「ɸ」、およびラロトンガ語の「ʔ」の間にも規則的な音対応が見られる。
英語の day(日)とラテン語の dies(日)のように、意味も発音も似ているというだけでは、音対応があるとは言えない[37]。英語の頭文字 d- は「規則的に」ラテン語の d-[38]に対応するわけではないからである。
英語とラテン語の間で、借用語ではない同根語を大規模に比較しても、英語の d とラテン語の d が語頭で一致する体系的な組み合わせは見出せない。散発的な一致は、例示したような偶然の一致か、あるいは借用語(たとえば、ラテン語の diabolus と英語の devil は、どちらも最終的にはギリシャ語起源)が原因である[39]。
本来語において、英語とラテン語は、次の例のように「t-」:「d-」という規則的な対応を示す[38](コロンは音の対応関係を表す)[40]。
| 英語 | ten (10) |
two (2) |
tow (引く) |
tongue (舌) |
tooth (歯) |
| ラテン語 | decem | duo | dūco | dingua | dent- |
この種の規則的な音対応のセットが多数ある場合(多いほど良い)、特に音対応の一部が重要であったり、通常はあまり見られないようなものの場合、両語が共通の起源を持つことが、事実上確実になる[27]。
ステップ3:相補的分布を成すセットの探索
[編集]このステップの目的は、複数の音対応セットが実は単一の祖音素から条件付きで派生したものであることを特定することである。18世紀後半から19世紀後半にかけて、音変化が特定の環境に依存して起こることが発見され、比較方法の精度が大きく向上した。
まず、多くの音変化が特定の「環境」によって条件付けられていることが判明した。たとえば、ギリシャ語とサンスクリットの両方で、有気破裂音は無気音に変化したが、これは同じ語内の後続する音節に別の有気音があるときにのみ起こる[41]。これはグラスマンの法則であり、サンスクリット文法学者パーニニによってサンスクリットで最初に記述され[42]、1863年にヘルマン・グラスマンによって広められた。
第二に、後で失われた環境で、たまに音の変化が起こったことがわかった。たとえば、サンスクリットでは、軟口蓋音( k のような音)は、後ろの音が *i または *e の時は例外なく硬口蓋音( ch のような音)に置き換えられた[43]。この変化の後、すべての *e は a に置き換えられた[44]。状況を再構築できるのは、「e」と「a」の元々の分布が、他のインドヨーロッパ語族の証拠から復元できたからである[45]。たとえば、ラテン語の接尾辞 que 、"and"は、サンスクリットで子音シフトの原因となった元の *e 母音を保持している。
| 1. | *ke | サンスクリット祖語で「そして」の意 |
| 2. | *ce | *i と *e の前で軟口蓋音が硬口蓋音に変化 |
| 3. | ca | 実証されているサンスクリットの形。 *e が a に変化した |
| 4. | ca | čaと発音される。アヴェスター語で「そして」の意 |
カール・ヴェルナーによって1875年頃に発見されたヴェルナーの法則は、同じ意味合いを持つ。ゲルマン語での子音の濁りは、古い印欧語のアクセントの位置によって決定される変化である。 変化と同時に、アクセントは語の始めの位置に移動した[46]。 ヴェルナーは、ゲルマン語の発声パターンをギリシャ語とサンスクリット語のアクセントパターンと比較することで謎を解いた。
したがって、比較方法のこの段階では、ステップ2で検出された対応セットを調べ、特定の条件環境でのみ適用される対応セットを確認する。 2 つ (またはそれ以上) のセットが相補分布として適用されるとき、それらは単一の元の音素を反映していると見なすことができる。「いくつかの音変化、特に条件付けされた音変化は、祖形の音が複数の対応セットに関連付けられる結果となる可能性がある。」[47]
たとえば、ラテン語から派生したロマンス諸語について、次の同根語(の可能性がある)リストを確立できる。
| イタリア語 | スペイン語 | ポルトガル語 | フランス語 | 語義 |
|---|---|---|---|---|
| corpo | cuerpo | corpo | corps | 体 |
| crudo | crudo | cru | cru | 生の |
| catena | cadena | cadeia | chaîne | 鎖 |
| cacciare | cazar | caçar | chasser | 狩る |
ここから、 k : k および k : ʃ の2セットの音の対応関係が示される。(※上表は音声記号による表記でないことに注意)
| イタリア語 | スペイン語 | ポルトガル語 | フランス語 | |
|---|---|---|---|---|
| 1. | k | k | k | k |
| 2. | k | k | k | ʃ |
フランス語の ʃ は他の言語にも a がある位置(a の前)にのみ発生するのに対し、フランス語 k はその他の環境に現れる。この違いは異なる環境(変化が起こる前の条件)によって引き起こされたものであり、このセットは相補的である。したがって、これらは単一の原音素(この場合は *k、ラテン語で⟨c⟩と綴られる)を反映していると見なすことができる[48]。 元のラテン語は、 corpus、crudus、catena、captiareのすべてで、頭文字が k である。これらの変化の道筋についてより多くの証拠が与えられた場合、元の k の変更が、異なる環境のために起こったと結論付けることができる。
より複雑なケースとして、アルゴンキン祖語の子音群がある。アルゴンキン語学者のレナード・ブルームフィールドは、4つの娘言語における反映形(reflex)を用いて、次の対応セットを再構した[49]。
| オジブウェー語 | フォクス語 | 平原クリー語 | メノミネー語 | |
|---|---|---|---|---|
| 1. | kk | hk | hk | hk |
| 2. | kk | hk | sk | hk |
| 3. | sk | hk | sk | t͡ʃk |
| 4. | ʃk | ʃk | sk | sk |
| 5. | sk | ʃk | hk | hk |
全ての対応セットが至る所で互いに重なり合っているが、ブームフィールドは、これは相補的分布ではなく、異なる子音群がそれぞれのセットについて再構されると認識した。彼の再構は、それぞれ、 *hk, *xk, *čk (=[t͡ʃk]), *šk (=[ʃk]), çk である。('x' と 'ç' は、素音素の音価を推定したものというよりは、任意の記号である。)[50]
ステップ4:祖音素の再構
[編集]このステップの目的は、特定された音対応に基づいて、祖語に存在したと推定される音素を再構することである。再構に際しては、言語類型論の知見が、どの再構案が最も妥当かを判断する助けとなる。たとえば、母音間において、無声破裂音の有音化は一般的であるが、有声破裂音の無声化は稀である。母音間の対応 -t-: -d-が2つの言語で見つかった場合、祖音素は *-t-であり、子言語で有声音に変化した可能性が高い。逆の再構は、稀なタイプの変化が起こったことを推定することになる。
しかしながら、普通ではない音変化も生じることがある。印欧祖語の「2」にあたる語は、例えば、*dwō のように再構されるが、これは古典アルメニア語における erku に対応する。アルメニア語では、他のいくつかの同根語は*dw- → erk-という規則的な音変化を示す[51]。同様に、アサバスカ諸語のスレイビー語のBearlake方言では、アサバスカ祖語 *ts → Bearlake方言 kʷ という変化が起こっている[52]。 *dw- が erk- に変化したり、 *ts が kʷ に変化したりするのは、起こりにくい変化であるが、おそらく、現在の状態に至るまでの間にいくつかの中間段階を経ている。比較方法において重要なのは、表面的な音声的類似ではなく、規則的な音対応なのである[37]。
オッカムの剃刀(節約の原理)により、祖音素の再構は、現在の娘言語の状態までの間でできるだけ少ない音変化で済むような形にする必要がある。例えば、アルゴンキン諸語においては、次のような対応セットを示す[53][54]。
| オジブウェー語 | ミクマク語 | クリー語 | ムンセー語 | ブラックフット語 | アラパホー語 |
|---|---|---|---|---|---|
| m | m | m | m | m | b |
これについて最少の音変化で済む再構の候補は *m または *bである。 *m → b の変化も *b → m の変化も頻繁に起こるものである。ここで、 m は5つの言語で見られ、 b は1つの言語でしか見られない。もし *b が再構されれば、 *b → m という変化が5回別々に(独立して)起こったと仮定する必要があるが、もし *m が再構されれば、 *m → b という変化が(アラパホー語において)1回起こったと仮定するだけで済む。よって、最大節約法(オッカムの剃刀)の観点からは、再構音として *m を採用するのが最も節約的である。
この議論は、アラパホー語以外の5言語が、少なくとも部分的に、互いに独立していることを前提としている。逆に、もしこれらの5言語がすべて共通の下位グループに属す場合には、 *b → m の変化もたった1回だけで済むことになる。
ステップ5:再構体系の類型的な検証
[編集]このステップの目的は、再構された祖語の音韻体系が、実在する言語に見られる一般的なパターンに照らして妥当であるかを検証することである。再構された音韻体系が既知の類型的制約に著しく反する場合、再構の見直しが必要となる可能性がある。例えば、仮説的な子音体系
| p | t | k |
|---|---|---|
| b | ||
| n | ŋ | |
| l |
は、有声破裂音が *bしか存在しないにもかかわらず、歯茎鼻音と軟口蓋鼻音 *n and *ŋ が存在し、両唇鼻音との対応はない。
ただ、この"対称的"な体系でさえ、類型論的に疑わしい場合がある。たとえば、次の表は従来の印欧祖語の破裂音である。
| 両唇音 | 歯茎音 | 軟口蓋音 | 両唇化音 | 軟口蓋化音 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 無声音 | p | t | k | kʷ | kʲ |
| 有声音 | (b) | d | g | ɡʷ | ɡʲ |
| 有声 有気音 | bʱ | dʱ | ɡʱ | ɡʷʱ | ɡʲʱ |
以前再構されていた無声有気音系列は、証拠が不十分であるという理由で削除された。20世紀半ば以降、多くの言語学者は、この音韻論は類型論的にありそうもない[55]とし、対応する無声有気音系列なしに、有声有気音(息もれ声)系列を持つ体系は、非常に可能性が低いと主張してきた。
タマズ・V・ガムクレリゼとヴャチェスラフ・イヴァーノフは、この問題を解決する可能性がある方法を提示し、伝統的に有声音として再構されてきたた系列は、声門音(入破音 (ɓ, ɗ, ɠ) または放出音 (pʼ, tʼ, kʼ))として再構されるべきと主張した。したがって、無声音と有声有気音の系列は、無声有気音と有声有気音の系列に置き換えられた[56]。言語類型論を言語の再構に適用したその例は、グロッタリック理論として知られるようになった。(この理論には多くの支持者がいるが、一般的には受け入れられていないとされる[57]。)
原音の再構は、文法的な形態素(造語接辞と語尾変化)、曲用、活用などパターンなどの再構に、論理的に先行するものである。 記録が無い祖語の完全な再構は、終わりの無い道のりである。
複雑な問題
[編集]比較方法の限界と課題
[編集]比較法には様々な限界があることが、それを開発した言語学者自身によっても認識されていた[58]。これらの限界を理解した上で、比較方法は言語の系統関係を研究する基本的な手法の一つとして用いられている。印欧語の場合、この手法は、数世紀にわたる祖語の探索の少なくとも部分的な検証であると思われた。他の言語は、青年文法学派の系統樹モデルである家系図に順序付けられていると推定された。
考古学者もこれに続き、祖語を話していたと推定される文化または文化群の考古学的証拠を見つけようと試みた。例えば、ヴィア・ゴードン・チャイルドの『アーリア人:印欧語族の起源の研究』(The Aryans: a study of Indo-European origins、1926年)などである。チャイルドは文献学者から考古学者に転身した人物だった。これらの見解は、グスタフ・コシナの ドイツ語: Siedlungsarchaologie(定住考古学)で頂点に達し、「コシナの法則」として知られるようになった。コシナは、文化は言語を含む民族グループを表すと主張したが、彼の法則は第二次世界大戦後に否定された。コシナの法則の失墜は、以前多くの祖語に適用されていた時間的および空間的枠組みを取り除いた。フォックスは次のように結論付けている[59]。
比較法は『それ自体』としては、実際には歴史的ではない。それは言語的関係の証拠を提供するものであり、我々はそれに歴史的解釈を与えることができるのである... [関連する歴史的プロセスに関する我々の知識の増大は] おそらく、歴史言語学者をして、この手法が必要とする理想化を歴史的現実と同一視する傾向を少なくさせたであろう... [結果の解釈と手法自体を] 区別しておく限り、比較法は初期の言語段階の再構において引き続き使用することができる。
祖語は、ラテン語のような多くの歴史的な事例において検証することができる[60][61]。もはや法則ではないが、定住考古学は、ケルト鉄器時代(主にケルト人)やミケーネ文明(主にギリシア人)など、歴史と先史時代にまたがるいくつかの文化については本質的に有効であることが知られている。これらのモデルはいずれも完全に拒否することはできないし、拒否されてもいないが、単独で十分なものはない。
青年文法学派の原理
[編集]比較法の、そして比較言語学全般の基礎は、「音法則に例外なし」という青年文法学派の基本的な仮定である。これが最初に提案されたとき、青年文法学派の批判者たちは「各単語にはそれぞれの歴史がある」という格言に要約される代替的な立場を提案した[62]。実際にいくつかのタイプの変化は、不規則な方法で単語を変化させる。これらの現象が適切に識別され説明されなければ、規則的な音法則を隠したり歪めたりし、言語間の関係について誤った結論を導く可能性がある。以下では、比較方法の適用を複雑にする主な要因について説明する。
借用
[編集]すべての言語は、様々な文脈で他の言語から単語を借用する。借用語は、ゲルマン祖語の *kuningaz(「王」)からのフィン語の kuningas のように提供言語の形式を模倣するが、英語の soccer からの日本語の「サッカー」のように、現地の音韻論への適応の可能性もある。一見すると、借用語は調査者を誤解させ、遺伝的関係があるように見せかけるかもしれないが、提供言語と受容言語の両方の歴史的段階に関する情報があれば、より簡単に特定することができる。本質的に、共通のソースから借用された単語(英語の coffee とバスク語の kafe、どちらも究極的にはアラビア語の qahwah から)は、この単語の歴史に限れば遺伝的関係を共有している。
地域的拡散
[編集]より大規模な借用は、特徴が地理的領域にわたって隣接する言語に採用される地域的拡散において起こる。借用は音韻論的、形態論的、または語彙的であり得る。それらの言語に対して、その地域に偽の祖語が再構されたり、拡散した特徴の源として機能する第三の言語が存在すると見なされたりすることがある[63]。
いくつかの地域的特徴やその他の影響が収束して、言語連合、つまり関連しているように見えるが拡散による特徴を共有するより広い地域を形成することがある。例えば、東南アジア大陸部言語連合は、認識される以前は、中国語、タイ語、ベトナム語などの言語のいくつかの誤った分類を示唆していた。
ランダムな変異
[編集]不規則な屈折、複合、短縮などの散発的な変化は、いかなる法則にも従わない。例えば、スペイン語の単語 palabra(「言葉」)、peligro(「危険」)、milagro(「奇跡」)は、ラテン語の parabŏla、perīcŭlum、mīrācŭlum からの規則的な音変化では parabla、periglo、miraglo となるはずであるが、散発的な音位転換によって r と l が入れ替わった[64]。
類推
[編集]類推は、ある特徴が同じ言語または異なる言語の別の特徴に似るように変化する散発的な変化である。それは単一の単語に影響を与えることもあれば、動詞のパラダイムなどの特徴のクラス全体に一般化されることもある。例として、ロシア語の『9』という単語がある。この単語は、スラヴ祖語からの規則的な音変化によれば /nʲevʲatʲ/ となるはずであるが、実際には /dʲevʲatʲ/ である。これは、語頭の [nʲ-] がロシア語の「10」という単語 /dʲesʲatʲ/ の影響を受けて [dʲ-] に変化したと考えられている[65]。
漸進的適用
[編集]ウィリアム・ラボフのような現代の言語変化を研究する人々は、体系的な音変化でさえ最初は一貫性なく適用され、個人の発話におけるその発生率は様々な社会的要因に依存することを認めている[66]。音変化は語彙拡散として知られるプロセスを通じて徐々に広がるように見える。「音法則に例外なし」という青年文法学派の公理を無効にするものではないが、まさにその音法則の漸進的な適用は、それらが常にすべての語彙項目に同時に適用されるわけではないことを示している。ホックは次のように述べている[67]。「長い目で見ればすべての単語にはそれぞれの歴史があるというのはおそらく真実であるが、一部の言語学者が結論付けたように、したがって言語変化の性質に関する青年文法学派の立場が偽であると結論付けることは正当化されない。」
非継承的特徴
[編集]比較法は、娘言語に継承されなかった言語の側面を回復することはできない。例えば、ラテン語の格変化パターンはロマンス諸語で失われ、その結果、体系的な比較を通じてそのような特徴を完全に再構することは不可能になった[68]。
系統樹モデルの問題点
[編集]比較法は、言語進化の系統樹モデル(ドイツ語: Stammbaum)を構築するために使用される[69]。このモデルでは、娘言語は祖語から分岐し、蓄積された音韻論的、形態統語論的、および語彙的変化を通じて徐々に祖語から遠ざかっていくと見なされる。

明確に定義された分岐点の仮定
[編集]
系統樹モデルは、明確な歴史的時期に明確な地域で独立して存在していた明確な祖語であると推定される分岐点(ノード)を特徴としている。証明されていない祖語の再構はそのような幻想を抱かせやすい。なぜならそれらは検証できず、言語学者は最も良いと思われる明確な時期と場所を自由に選択できるからである。しかし、印欧語研究の当初から、トマス・ヤングは次のように述べていた[72]。
何をもって別の言語を構成すると定義すべきかを言うことはそれほど容易ではないが、一方を話す習慣のある一般人が他方を理解できない言語を別個の言語と呼ぶのが最も自然であるように思われる... しかし、それでも、デンマーク人とスウェーデン人が一般にお互いをかなりよく理解できるのではないかという疑いは残るかもしれない... また、ある漢字に対する20通りの発音方法を、それだけの数の言語あるいは方言と見なすべきか否かを言うことも不可能である... しかし、... 非常に近縁な言語は、体系的な順序で隣り合っていなければならない...
比較法に暗黙的に含まれる祖語の均一性の仮定は問題がある。小さな言語共同体でさえ、地域、性別、階級、その他の要因に基づく方言の違いが常に存在する。ブラジルのピダハン語は数百人によって話されているだけだが、男性と女性で話される少なくとも2つの異なる方言がある[73]。キャンベルは次のように指摘している[74]。
比較法が変異を「想定していない」というわけではなく、むしろ、比較法には変異を直接扱うことができるようなものが組み込まれていないというだけのことである... この均一性の仮定は合理的な理想化である。それは、例えば、言語の一般的な構造に集中し、典型的には地域的または社会的変異の考察を省く現代の参照文法書がそうであるように、言語の理解に損害を与えるものではない。
異なる方言は、別々の言語へと進化する際にも、互いに接触し影響を与え続ける。区別されると見なされた後でも、互いに近い言語は互いに影響を与え続け、しばしば文法的、音韻論的、および語彙的な革新を共有する。ある語族の言語における変化は隣接する言語に広がる可能性があり、複数の変化の波は、それぞれがランダムに区切られた範囲を持って、言語や方言の境界を越えて波のように伝達される[75]。言語が特徴の目録に分割され、それぞれが独自の時期と範囲(等語線)を持っている場合、それらはすべて一致するわけではない。歴史と先史時代は、イタリック祖語のように(この祖語は概念に過ぎないが)、明確な一致のための時間と場所を提供しないかもしれない。しかし、ホック[76]は次のように述べている。
19世紀後半に、等語線が確立された言語境界を横切る可能性があることが発見されたとき、当初はかなりの注目と論争を引き起こした。そして、系統樹説に対して波紋説を対置することが流行となった... しかし今日では、これら2つの用語によって言及される現象が、言語変化の相補的な側面であることは極めて明らかである...
再構の主観性
[編集]未知の祖語の再構は本質的に主観的である。上記のアルゴンキン祖語の例では、親音素としての *m の選択は「ありそう」なだけであり、「確実」ではない。それらの位置に *b を持つアルゴンキン祖語が2つの枝に分かれ、一方が *b を保存し、他方が代わりに *m に変化させ、最初の枝がアラパホ語にのみ発展したのに対し、2番目の枝はより広く広がり、他のすべてのアルゴンキン語派の部族に発展したということは考えられることである。また、アルゴンキン諸語の最も近い共通祖先が、代わりに *p のような他の音を使用しており、それが最終的にある枝では *b に、他の枝では *m に変異した可能性もある。
驚くほど複雑で、さらには循環的とも言える発達が実際に起こったことが知られている例もある(例えば、印欧祖語 *t > ゲルマン祖語以前の *þ > ゲルマン祖語 *ð > 西ゲルマン祖語 *d > 古高ドイツ語 t:fater > 現代ドイツ語 Vater)。しかし、より複雑な発達を仮定する証拠やその他の理由がない場合、より単純な説明を優先することは、オッカムの剃刀としても知られる節約の原理によって正当化される。
祖語の存在と比較法の妥当性は、再構が既知の言語と一致する場合に検証可能である。その既知の言語は、別の言語の借用語の中に影としてのみ知られている場合もある。例えば、フィンランド語などのバルト・フィン諸語は、初期の段階のゲルマン語派から多くの単語を借用しており、借用の形はゲルマン祖語のために再構された形式と一致する。フィンランド語の kuningas「王」と kaunis「美しい」は、ゲルマン語の再構形 *kuningaz と *skauniz (> ドイツ語 König「王」、schön「美しい」) と一致する[77]。
その他のモデルとアプローチ
[編集]波紋モデル(前述)は、言語の多様化の歴史的パターンを表すために系統樹モデルの代替案として1870年代に開発された。系統樹ベースの表現と波紋ベースの表現はどちらも比較法と互換性がある[78]。
対照的に、一部のアプローチは比較法と互換性がない、あるいは対立するものがある。これには、議論のある言語年代学や、さらに論争の的となっており多くの歴史言語学者によって信頼できないと考えられている大量比較(ジョーゼフ・グリーンバーグらが提唱)などが含まれる[79]。
脚注
[編集]- ↑ Lehmann 1993, pp. 31 ff
- 1 2 Szemerényi 1996, p. 21
- ↑ Lehmann 1993, p. 26
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- ↑ Szemerényi 1996, p. 19
- ↑ Szemerényi 1996, p. 20
- ↑ Campbell 2004, pp. 126–147
- ↑ Crowley 1992, pp. 108–109
- 1 2 Lyovin 1997, pp. 2–3.
- ↑ 下の表は、Campbell 2004, pp. 168–169と Crowley 1992, pp. 88–89(トンガ語のデータはChurchward 1959、ハワイ語のデータはPukui 1986に基づく)を改変したもの。
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- 1 2 Lyovin 1997, p. 2。
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- ↑ Beekes 1995, p. 128。
- ↑ Sag 1974, p. 591; Janda 1989。
- ↑ アスタリスク(*)は、音の存在が歴史的に記録されたり証明されているのではなく、推測/再構築されることを示す
- ↑ より正確には、かつての *e、*o、*a は、 a に統合された。
- ↑ Beekes 1995, pp. 60–61。
- ↑ Beekes 1995, pp. 130–131.
- ↑ Campbell 2004, p. 136.
- ↑ Campbell 2004, p. 26.
- ↑ 次表はCampbell 2004, p. 141から改変
- ↑ Bloomfield 1925.
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