死体遺棄
死体遺棄(したいいき)とは、死体を遺棄すること、特に、人間の遺体を葬儀に絡む社会通念や法規に沿わない状態で放置することをいう[1][2][3]。
概要
[編集]死体は化学的には有機物であるため放置すればいずれ腐敗によって異臭を発したり、病害虫(ハエなど)の発生源となるなど、不快感を催させるのみならず感染症などの原因ともなりうる[4][5][6]。それら公衆衛生上の問題以前に、多くの社会では人間の遺体は生きている人同様の尊厳をもって扱われるべきだと考えられており、人間の遺体を不適切に放置することはタブーの範疇にある[2][7][8][9]。それゆえ、遺体に対して正当な敬意をもった扱いが成されない場合は一つの事件と見なされ、他人に不快感を催させる行為を敢えて行う人には罰則を持ってあたられる[1][2][3]。
習俗と葬制
[編集]特に人間の遺体の扱いに際しては、それぞれの社会で細かく定義されている。通常は故人の崇拝していた宗教によってもやり方は違うが、火葬もしくは土葬など、様々な葬儀の様式が存在する。しかし特に宗教的な理由があっても、該当地域における遺体の扱いが異なる場合には、地域の法律や風習に則った埋葬方法が求められる事もある。
宗教
[編集]神道における罪の観念である、『天つ罪・国つ罪』には、傷害罪に相当する『生膚断』の他、死体を損壊する罪として『死膚断』の考えが存在する。
法律
[編集]その地域の習俗に沿わないときには法令で処罰される場合もある。日本の刑法では死体損壊・遺棄罪が定められており、特に殺人事件で死体を隠蔽目的で損壊・遺棄していた場合、容疑者をまず死体損壊・遺棄容疑で逮捕し、取調べで殺人容疑が固まったところで改めて殺人や強盗殺人容疑で再逮捕する事が多い[10][11][12][13][14][15][16][17][18][19]。
メキシコでは麻薬抗争などの組織間抗争によるものとされる集団死体遺棄事件が幾度も発生しており、2011年4月には北東部タマウリパス州サンフェルナンド近郊で126体の遺体が収容された[20]。また、2015年2月にはメキシコ南部ゲレロ州のアカプルコで麻薬抗争に巻き込まれた犠牲者とみられる遺体60体が見つかり、死体の冒涜、埋葬及び死体発掘規定違反の罪で捜査が行われた[21]。
旅行者等が旅先で死亡(客死)した場合などに於いて、旅行者の遺族と遺体を収容した側の価値観の違いから、国際問題に発展するケースも見られ、適正な遺体の取り扱いに関して難しい側面が存在する[22][23]。なおそれぞれの社会・宗教にて求められる取り扱いの様式に関しては、葬儀の項を参照。
動物の死体と遺棄
[編集]動物の死骸を放置する事は、冒頭で述べたとおり衛生の観点から勧められない。このため動物の死骸を放置する行為は環境の汚損の範疇で扱われるが、その死骸は見る者に不快感や恐怖心を与えかねない[24]。
廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)上の「廃棄物」には「動物の死体」が含まれており[25]、動物の死体は同法により適正に処理されることを要する[24]。
嫌がらせ目的の故意による動物の遺体の遺棄は、その態様によっては刑法上の威力業務妨害罪(刑法234条)や傷害罪(刑法204条)を構成する。また、動物の死体等の送付はストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)上に定義される「つきまとい等」に含まれ[26]、公安委員会による禁止命令あるいは罰則の対象となる[27]。このほか公共の利益に反するような形で、鳥獣の死体を棄てた場合は、軽犯罪法違反に問われる(軽犯罪法1条27号)。
近年では動物虐待に絡んで動物の死骸が放置されるケースも見られ、他人の飼育していた動物の場合には器物損壊罪(刑法261条)、動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)で定められた愛護動物の場合には動物愛護法違反[28]の疑いで捜査が進められる[29][24][30]。
脚注
[編集]- ^ a b 「夫婦逮捕:6歳男児が行方不明 死体遺棄容疑で逮捕 兵庫県警」『毎日新聞』毎日新聞社、2000年9月21日。オリジナルの2002年2月18日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ a b c 「冷蔵庫詰め遺体事件、男2人を死体遺棄容疑で逮捕」『読売新聞』読売新聞社、2004年6月17日。オリジナルの2004年6月17日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ a b 「庭に白骨遺体、妻と長男を遺棄容疑で逮捕 高松」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年2月5日。オリジナルの2006年2月7日時点におけるアーカイブ。2025年9月13日閲覧。
- ^ 「次の脅威は感染症 犠牲者倍増の恐れ」『中日新聞』中日新聞社、2004年12月30日。オリジナルの2005年1月15日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ 「地震・津波で最大500万人に伝染病の危険…WHO」『読売新聞』読売新聞社、2004年12月31日。オリジナルの2005年1月3日時点におけるアーカイブ。2025年4月4日閲覧。
- ^ 「DNA鑑定4900人必要 遺体の身元確認難航」『中日新聞』中日新聞社、2005年1月6日。オリジナルの2005年1月11日時点におけるアーカイブ。2025年5月11日閲覧。
- ^ 「母親の遺体切断し庭に放置、容疑で37歳長男逮捕 大阪」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年4月23日。オリジナルの2006年4月24日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 「シートに包まれ遺体、死体遺棄事件で捜査 岐阜・恵那市」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年4月24日。オリジナルの2006年4月24日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 「東京湾に乳児の遺体 ごみ回収船にかかる」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年6月20日。オリジナルの2006年6月21日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 「女性を殺害、浴槽に遺棄した同居男を逮捕…横浜」『読売新聞』読売新聞社、2004年6月21日。オリジナルの2004年6月21日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 「愛知の強盗殺人、2人再逮捕・フィリピン人指名手配」『読売新聞』読売新聞社、2004年7月15日。オリジナルの2004年7月16日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 「「遺体山に捨てた」男供述で捜索 姫路2女性不明」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年4月11日。オリジナルの2005年4月12日時点におけるアーカイブ。2025年7月30日閲覧。
- ^ 「女性2人不明、死体遺棄容疑で男逮捕 兵庫県警」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年5月10日。オリジナルの2005年5月10日時点におけるアーカイブ。2025年7月30日閲覧。
- ^ 「2女性殺害で相生の男再逮捕へ 県警」『神戸新聞』神戸新聞社、2005年5月20日。オリジナルの2005年5月24日時点におけるアーカイブ。2025年7月30日閲覧。
- ^ 「交際相手の男を殺人容疑で再逮捕 神奈川・妊婦殺害事件」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年1月5日。オリジナルの2006年1月10日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 「祖母の義理の弟を逮捕 香川・坂出3人不明事件」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年11月28日。オリジナルの2007年11月29日時点におけるアーカイブ。2025年7月16日閲覧。
- ^ 「祖母と孫殺害で再逮捕/「遺産取られる」と義弟」『四国新聞』四国新聞社、2007年12月18日。オリジナルの2007年12月22日時点におけるアーカイブ。2011年1月14日閲覧。
- ^ 「同居の次男を死体遺棄容疑で逮捕 鹿児島・夫婦不明事件」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年12月3日。オリジナルの2007年12月3日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 「死体遺棄の次男、殺人容疑で再逮捕 鹿児島夫婦殺害事件」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年12月9日。オリジナルの2007年12月10日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ “メキシコ北部の集団死体遺棄、計126遺体に”. AFP. AFPBB News. (2011年4月14日) 2018年5月18日閲覧。
- ^ “閉鎖された火葬場から60人の遺体、当局が捜査 メキシコ”. AFP. AFPBB News. (2015年2月7日) 2018年5月18日閲覧。
- ^ 「タイ政府、遺体の身元確認前に火葬へ 外務省に連絡」『朝日新聞』朝日新聞社、2004年12月29日。オリジナルの2004年12月30日時点におけるアーカイブ。2025年4月4日閲覧。
- ^ 「アチェで遺体の身元確認断念、死者7万8千人続々埋葬」『読売新聞』読売新聞社、2005年1月13日。オリジナルの2005年1月14日時点におけるアーカイブ。2025年4月4日閲覧。
- ^ a b c 「排泄物を放置、猫13匹を虐待容疑 25歳女を逮捕」『朝日新聞』朝日新聞社、2017年6月5日。オリジナルの2017年6月6日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律第2条第1項
- ^ ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項6号
- ^ ストーカー行為等の規制等に関する法律5条、同法14条
- ^ 動物の愛護及び管理に関する法律44条
- ^ 「犬大量遺棄事件、夫婦を動物愛護法違反容疑で書類送検」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年6月13日。オリジナルの2006年6月15日時点におけるアーカイブ。2025年9月14日閲覧。
- ^ “Ⅱ 新聞報道された動物の虐待等の事例” (PDF). 環境省. 2025年9月14日閲覧。