橈骨

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橈側から転送)
骨: 橈骨
上橈骨の位置。"Radius" と書かれているのが橈骨。
番号1が橈骨
名称
日本語 橈骨
英語 Radius
ラテン語 Radius
画像
アナトモグラフィー 三次元CG
関連情報
MeSH Radius
グレイ解剖学 書籍中の説明(英語)
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前面から見た橈骨

橈骨(𣓤骨、とうこつ、英名 radial bone、羅名 radius pl, radii)とは、四肢動物の前肢を構成する骨であり、前腕の二本の長い骨のうちの一つである。

断面は角柱状の形状を取り、尺骨と平行に並んで存在している。橈骨と尺骨の大きさや長さを比較すると、橈骨の方がやや小さく短い。解剖学的正位(腕を体の脇に下げ、掌の表側を前に向けた位置)において、体から離れた外側(がいそく)側に位置し、親指の側にあるのが橈骨である。

前腕および手の橈骨側を橈側(𣓤側、とうそく)という。同部位に対しては医学用語の外側(がいそく)が日常語の内側(うちがわ)に当たり、紛らわしい。橈側の反対側を尺側(しゃくそく)と呼ぶ。

構造[編集]

ヒトの橈骨は、左右の前腕に1本ずつ存在しており、尺骨とともに前腕構造を支持し、髄腔の存在する管状骨、すなわち長骨[1]に分類される。

近位端は馬蹄のような細長い構造をしており橈骨頭(𣓤骨頭、とうこつとう)と言い、遠位端に移行するに従って広く太くなる。

橈骨と関節する骨[編集]

近位端は上腕骨腕撓関節を形成し、尺骨と上橈尺関節(肘関節の一部)を形成する[2]。遠位端も尺骨と下橈尺関節を形成し[3]舟状骨および月状骨三角骨と橈骨手根関節(手関節の一部)を形成する[4]

橈骨に接着する筋肉[編集]

橈骨の筋肉接着面 (前面)
橈骨の筋肉接着面 (背面)
筋肉 方向性 接着面
円回内筋[5] 停止 回内筋粗面
回外筋[6] 停止 橈骨下端の前面
上腕二頭筋[7] 停止
方形回内筋[8] 停止
腕橈骨筋[9] 停止
浅指屈筋(橈骨頭)[10] 起始
短母指伸筋[6] 起始
長母指外転筋[6] 起始
長母指屈筋[8] 起始

語源[編集]

解体新書巻之一に記載された「橈臂骨」及び「直臂骨」の説明

英語など欧州諸語で使用されている radius は、もともとラテン語で「光線の放射」「棒、杖」「車輪の(スポーク)」という意味である。

古い中国医学では、清代の『医宗金鑑』に(現在で言う)尺骨とまとめて「臂骨」と言われ、狭義では尺骨を「臂骨」(つまり総称と区別しない)と、橈骨を「輔骨」(俗に纏骨)と呼んだ[11]

橈骨は「撓(たわ)んだ」形の骨の意で、杉田玄白が『解体新書』で橈骨を「橈臂骨」と、尺骨を「直臂骨」と訳したのが始まりである [12]。ただし、『解体新書』の原文では「橈臂骨、其上端有二起処。其一者、挟臑内筋之処也。其微陥者、受直臂骨櫛之処也」とあり、橈臂骨の上端には臑内筋(上腕筋?)を挟む部分と、もう一方の骨の櫛(関節環状面)を受けるくぼみ(橈骨切痕?)があるので、橈臂骨=尺骨、直臂骨=橈骨であるようにも考えられる[11]。いずれにせよ、鈴木文太郎が1905年に著した『解剖学名彙』でradius = 橈骨の用語が統一された[13]

なお、大槻玄沢は『重訂解体新書』で、ラテン語を直訳して「梃骨(ていこつ)」(梃=棒)と訳した[12]

脚注[編集]

  1. ^ 森ら, p.130
  2. ^ 森ら, pp.206-207
  3. ^ 森ら, pp.213-214
  4. ^ 森ら, p.215
  5. ^ 森ら, p.347
  6. ^ a b c 森ら, p.359
  7. ^ 森ら, p.347
  8. ^ a b 森ら, p.351
  9. ^ 森ら, p.354
  10. ^ 森ら, p.348
  11. ^ a b 李強「解剖学骨名「尺骨」の由来を巡って医学文化史の世界を瞥見する」『大阪物療大学紀要』第2巻第0号、学校法人物療学園 大阪物療大学、2014年、53-61頁、doi:10.24588/bcokiyo.2.0_53ISSN 2187-6517NAID 110009771617 
  12. ^ a b 国分正一. “骨の逸話”. 東北大学整形外科学教室. 2018年8月17日閲覧。
  13. ^ 澤井直、2010、「昭和初期解剖学用語の改良と国語運動 (PDF) 」 、『日本医史学雑誌』56巻1号 pp. 39-52

参考文献[編集]

  • 原著 森於菟 改訂 森富「骨学」『分担 解剖学1』(第11版第20刷)金原出版、東京都文京区、2000年11月20日、19-172頁。ISBN 978-4-307-00341-4 
    • 原著 森於菟 改訂 森富「骨学」『分担解剖学1』、19-172頁。 
    • 原著 森於菟 改訂 森富「靭帯学」『分担解剖学1』、173-248頁。 
    • 原著 森於菟 改訂 大内弘「筋学」『分担解剖学1』、249-437頁。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]